守田です。(20110624 10:00)
内部被曝に関する考察を深めています・・・。
とくにこの間、考えているのは、外部被曝と内部被曝を足し合わせる被曝量の
計算方式の問題です。
ある人が被曝をした。外部被曝は××シーベルトで、内部被曝は××だった。
足し合わせてこの人は××シーベルトの被曝をした・・・という計算がよく行われ
いますが、ここには外部被曝と内部被曝の差異の無視がある。
この点で、最近、ますます肥田先生が積み上げてきた蓄積の妥当性、あるいは
凄さを感じます。肥田先生は著書『内部被曝の脅威』の中で、次のように問題を
整理されています。「人体の細胞修復機能」というタイトルがついた一文です。
「ここで二つの問題提起ができる。一つ目は、体外被爆であればそれはガンマ線
であり、強い貫通力で身体を突き抜ける一回だけの被ばくと考えられる。それで
あれば傷ついたDNAが修復する可能性は十分にある。しかし体内に取り込まれた
放射性物質から放射線が放射される場合はどうなのだろうか。
二つ目は、人間の細胞が場所によって分裂の速度が違うことである。生殖腺や
造血組織(骨髄)、それに胎児は細胞分裂の速度が速い。これら、細胞が若返りを
必要とする器官では非常に早いサイクルで細胞分裂を繰り返す。すると、被ばくした
細胞の微小な傷の修復が追いつかないまま、細胞が複製され、細胞分裂のたびに
自然拡大する可能性がある。これが突然変異の原因となる。これもまた体外被爆
と内部被曝では違うのではないか。」(p89)
ちなみに、肥田先生は、体外被ばくを「体外被爆」、体内被ばくを「体内被曝」と
漢字を使い分けておられますが、これに続けて「内部被曝の危険について」という
タイトルで、「ペトカウの実験」を紹介しています。再び引用します。
「ペトカウ(医師)は牛の脳から抽出した燐脂肪でつくった細胞膜モデルに放射線を
照射して、どのくらいの線量で膜を破壊できるかの実験をしていた。エックス線の
大装置から15.6シーベルト/分【許容線量は1ミリシーベルト/年】の放射線を58時間、
全量35シーベルトを照射してようやく細胞膜を破壊することができた。
ところが実験を繰り返すうち、誤って試験材料を少量の放射性ナトリウム22が
混じった水の中に落としてしまった。燐脂肪の膜は0.007シーベルトを12分間被ばく
して破壊されてしまった。彼は何度も同じ実験を繰り返してその都度、同じ結果を
得た。そして、放射時間を長く延ばせば延ばすほど、細胞膜破壊に必要な放射
線量が少なくて済むことを確かめた。こうして、「長時間、低線量放射線を照射する
方が、高線量放射線を瞬間放射するよりたやすく細胞膜を破壊する」ことが、
確かな根拠を持って証明されたのである。これが「ペトカウ効果」と呼ばれる
学説である。」(p90,91)
これは放射線に対する従来の見解、今も、アメリカ政府や日本政府によって、強固
に支持されている見解を覆す内容を持っています。なぜなら、従来の見解は、放射
線は絶対量を浴びれば浴びるほど危険であり、反対に言えば、低線量であれば
被曝は危険ではないというものだからです。このもとで、100ミリシーベルトまでは
安全だとか、子どもの許容量を、年間20ミリシーベルトまでにするなどという暴論
が飛び出してきています。
しかしペトカウが発見したのは、一瞬のうちに高線量の放射線が通過する被曝
よりも、むしろ低線量を長時間(といっても12分間)浴びる被曝の方が細胞に大きな
ダメージをもたらすということでした。その意味で、体内から長い間被曝をうける
内部被曝の方がより深刻なダメージがもたらされることが証明されたのです。
さらに肥田先生は、ペトカウ理論をさらに深めていったスターングラス教授の見解を
紹介しています。再び引用します。
「ピッツバーグ大学医学部放射線科のスターングラス教授は、ペトカウ説を基礎と
して研究をさらに深め、次のような結論に辿りついたという。
1 放射線の線量が非常に低い低線量域では生物への影響はかえって大きくなる。
2 低線量放射線の健康への危険度はICRPが主張する値より大きく、乳児死亡の
倍になる線量は四・五ミリシーベルトである。
3 アメリカや中国の核爆発実験の放射性降下物によって乳幼児の死亡率が増加
した。
4 放射性下降物に胎児期被ばくした子供に知能低下が生じた。
5 スリーマイル島原発事故によって放出された放射能によって胎児死亡率が増加
した。」(p97,98)
このスターングラス教授の見解に対して、アメリカ政府とその周りの科学者は
これまで大量の批判を行ってきているそうです。しかし肥田先生が強調するのは
6000人の被ばく者を臨床治療し、多数の「原爆ぶらぶら病」と向き合ってきた
経験から、ペトカウ理論に基づいたスターングラス教授の見解は、もっとも臨床的
知見に合致するということです。
それ以外の放射線に関する公式見解では、そもそも「原爆ぶらぶら病」など、
ないことになってしまう。低線量被曝と内部被曝の危険性を捉えない限り、この
症状は説明がつかないのです。
これらから次のようにまとめることができます。
1 外部被曝と内部被曝を同じシーベルトに換算して足し合わせる計算式は
間違っている。外部被曝と内部被曝の差異を無視している。
2 現在の福島原発事故の現状では、人々の内部被曝による低線量被曝の
危険性こそが問題であり、これから身を守るための措置こそ、進める必要がある。
なお「しんぶん赤旗」に、肥田先生のインタビュー記事が載りました。論点が
端的にまとめられていますので、紹介しておきます。
この中で肥田先生は、次のように書かれています。
「私から見ると、政府が内部被ばくの問題を軽視していることと、安全神話を振り
まいて原発をつくり続けたことは同じ根っこから出ていると思えてならないのです。」
まさにその通りだと思います。
・・・内部被曝の危険性についての考察をさらに深めていきます。
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<3・11から日本を問う>内部被ばくに向き合え
医師・被爆者 肥田 舜太郎さん
「しんぶん赤旗」 2011年6月22日付 9面 「文化・学問」欄
福島第1原発の事故は、「原発は安全だ」という神話を振りまいてきた歴代の日本
政府と電力会社の責任をあらためて問うています。放射能被害の恐ろしさに目を
向けず、まともな対策をとってこなかった罪は重い。
被爆者と共に/66年間生きて
私自身被爆者であり、医師でもあります。この66年間、被爆者とともに生きてきま
した。広島に原爆が投下された時は、軍医でした。あの朝、たまたま往診に出ていた
広島市郊外の村で強烈な閃光と、それに続くきのこ雲を目の当たりにしました。
大勢の人を治療するなかで不思議なことに気付きました。原爆の閃光も爆風も
浴びていないのに、下痢や鼻血が出て、高熱に苦しんだあげく亡くなる人が次々と
現れたのです。原爆投下の後、救援や家族捜しのため広島市内に入った人たち
でした。
その症状は内部被ばくによるものだということが30年後にわかりました。放射線を
体外から浴びるのが外部被ばくで、空中や水中に放出された放射性物質を口や
鼻、皮膚から体内に取り入れた場合が内部被ばくです。
内部被ばくは、どんなに微量でも体内に入った放射性物質が長時間、放射線を
出し続け、外部被ばくと全く違うやり方で細胞を傷つけ、がん、白血病などを引き
起こします。生殖細胞が傷つくと遺伝障害が起きます。
占領直後、アメリカは「内部被ばくは放射線が微量だから人体には無害」と根拠
ない主張を押しつけました。「原爆の被害も軍事機密だから」と被爆者に沈黙を
命じ、医師が症状を聞いても患者が口をきかなかったという笑えない話が残って
います。家族や住む家を失い、自身も傷ついた被爆者は、原因不明の病気に
苦しみ、就職、結婚で差別され、人生は地獄でした。
日本政府が長い間、被爆者の支援に背を向けてきたことが、被爆者をいっそう
苦しませます。アメリカに追随した政府は、内部被ばくの実態を見ようとさえしま
せん。2003年から大勢の被爆者は、原爆による被ばくが自分の病気の原因だと
政府に認めさせようと裁判に立ちあがりました。そして各地で勝利判決を勝ち
取っています。ところが、政府は今も大勢の被爆者の病気を原爆症と認めず、
切り捨てています。
核兵器の恐ろしさは、戦争が終わっても簡単には消えない放射線によって人間
を殺し続けることです。製造の段階でも放射能被害が続出しているのが実態です。
人工的放射線/人類には未知
今、その放射線が福島第1原発の事故によって放出され続けています。自然界
にも放射線はありますが、これには長い年月をかけて、人類は適応することができ
ました。しかし、原発や核兵器から人工的につくりだされる放射線は、人類にとって
未知のものです。体内に取り込まれた放射性物質は濃縮され、細胞の新陳代謝を
混乱させます。そのエネルギーは、酸素や水素分子などによる化学反応と比べ、
100万倍以上もあるとされます。長い時間をかけて人体にどんな影響をもたらす
のか。広範に広がる放射能被害を、これから注視していかなければなりません。
私から見ると、政府が内部被ばくの問題を軽視していることと、安全神話を振り
まいて原発をつくり続けたことは同じ根っこから出ていると思えてならないのです。
核エネルギーは今回の事故のようにいったん暴れ出すと制御できないことが
明らかになりました。地震国でもある日本から原発をなくしていかなければなりま
せん。核兵器廃絶の運動と同じくらいの熱意が必要になっていると思います。
(聞き手 隅田哲)
http://www.asyura2.com/11/senkyo115/msg/495.html