守田です。(20160831 23:30)
福島県内の除染などによって生じた8000Bq/kg以下の放射能汚染土を公共事業で使ってしまえというとんでもない悪政に関する考察の続きを書きたいと思います。
すでに論じてきたように、この問題は2011年9月に制定され一部の施行が始まった「放射性物質汚染対処特措法」を前提としています。
もともと2011年の事故後の大混乱の中で作られたこの法律によって、8000Bq/kg以下の焼却灰を、一般の焼却灰と同じように処理してかまわないことが決められ、今回の処置もまたこの延長線上に考えられていると思われるからです。
再度、同法律をここに貼り付けておきます。(「放射性物質汚染対処特措法」という名は略称で、正式名称は以下のように長い)
「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」
http://www.env.go.jp/jishin/rmp/attach/law_h23-110a.pdf
この法律は政府や関係省庁の側からいっても急ごしらえで作ったものであり、もともと3年経ったのちに振り返りを行うことが書きこまれていました。
このため施行から3年経って「放射性物質汚染対処特措法施行状況検討会」が始められました。第一回の会合は2015年3月31日に開かれ、9月24日に行われた第5回検討会で「放射性物質汚染対処特措法の施行状況に関する取りまとめ(案)」が承認されました。
なされたことは端的に言って同法律に孕まれた矛盾の是正ではなく拡大です。今回の再利用問題につながる布石もここで打たれました。
放射性物質汚染対処特措法の施行状況に関する取りまとめ
2015年9月
http://www.env.go.jp/press/files/jp/28225.pdf
今回はこの文章を分析したいと思いますが、冒頭にこの法律の、というより日本の原子力行政の根本問題がさらりと書かれています。以下、引用します。
「事故発生当時、我が国では、原子力発電所から広範囲に放出された放射性物質による環境汚染への対処に関する法制度が存在しなかった。すなわち、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号)では、原子力発電所を含む施設における原子力災害の防止は目的としていたものの実際に事故が発生して施設外に放射性物質が放出された場合の環境回復措置については規定しておらず、また環境基本法(平成5年法律第91号)を始めとする環境関連法では、放射性物質は規制の適用除外となっていた。」
引用はここまで
このため放射能による環境汚染に対する基本的な考え方や政府内の役割すら決まっておらず、それまで経験も権限も有してなかった環境省が取り組まなくてはならなかった・・・と続いていくのですが、ここに根本問題があることを何度も指摘しておきます。
そもそもこの国の政府も原子力村も、原発の敷地外を越える深刻な放射能汚染は絶対に起きないと豪語してきたのです。豪語するどころかそのために法律も政府内での役割分担も決めていなかった。そしてここが国民、住民との約束の線だったのです。
絶対に深刻な放射能漏れ事故は起こらないから、原発の運転を認めよという形でです。
ところが「絶対にない」と言っていた大事故が起き、政府や原子力村の政治的な威信も、科学的な信用性も完全に吹き飛んだのでした。この一点だけでもはや日本の原子力行政は閉じなければならないのです。
にもかかわらず政府は言うに事欠いて「絶対に起きないと言っていざという時の法律を作ってこなかったのが間違っていた」と言い出し、新たに法律を作ったというわけです。
こんなものは完全な居直りであり許されるものではありませんが、さらに許しがたいことは開き直りの上に作られた法律が、それまでの「原子炉の規制に関する法律」の無視の上に作られたことです。
例えばこの従来の法律の中で、100Bq/kg以上のものを放射性廃棄物として厳重管理することが決められていたのであり、本来、原発の外に漏れ出た放射能に対応するならば原発サイト内で適用されてきたこの法律を原発の外にまで拡大適用すべきでした。
ところがこれまでの規制値のもとではとても処理できないほどの膨大な放射能汚染物が出てしまったがゆえに、その事実を国民・住民に知らしめることなく、規制値を極端に下げて新たな法律を作ったのです。
ここまでがこの問題の前提にある根本矛盾ですが、私たちが踏まえるべきなのはこの悪法の3年後の見直しで矛盾のさらなる拡大がなされたことです。
とくに重要なことは先に6400Bq/kg以下の放射性廃棄物の処理が法的対処から除外されてしまったことです。
同時にこの矛盾を推し進めるために、放射能に対する人々の危機意識を解体すること、安全論を振りまくことがセットで強調されていることです。
というのは特措法の制定時、福島の除染について「3年程度の間に一通りの対応を行う」とされていたのですが、「当初の想定よりも大幅に遅れた」ことが反省点だとされています。その理由に以下の点があげられているからです。
「放射性物質に関する正しい情報が広くは知られていない中で、放射性物質に対する不安感や政府の説明・対応に対する信用の欠如といった面で、国が関係自治体や地域住民との間の信頼関係の構築に時間を要した」
さてこの捉え返しでは除染、中間貯蔵、汚染廃棄物の処理、横断的事項についての分析が行われていますが、問題の8000Bq/kgの汚染物については、3番目の「汚染廃棄物の処理」の中で扱われています。
より詳しくみると「汚染廃棄物」は、8000Bq/kg以上の「指定廃棄物」、原発周辺で指定された11市町村の「対策地域内廃棄物」、8000Bq/kg以下の「特定一般廃棄物・特定産業廃棄物」と分類されています。
その上で次のような記述が見られます。引用します。
「8000Bq/kg以下の廃棄物については、通常行われいてる処理方法(破砕・分別、焼却処理、埋立処分、再生利用)で、周辺住民及び作業者のいずれにとっても安全に処理可能であることが、処理プロセス全体についての放射性物質による影響評価を通じて確認されている。
その上で、特措法では、このような特定廃棄物以外の廃棄物であって、事故由来放射性物質により汚染され、又はそのおそれがある廃棄物のうち一定の要件に該当するものを「特定一般廃棄物・特定産業廃棄物」と位置づけ、当分の間の措置として、入念的に上乗せ基準及び当該廃棄物の処理施設における維持管理基準を規定し、安全側に立って、当該規制が広めに適用されてきた。
(これについて)平成24年8月に有識者による検討会(災害廃棄物安全評価検討会)が行われ、実態を踏まえ、対象範囲を縮小する形で要件の見直しを行い、同年12月から新たな要件が適用されている」
引用はここまで
言わんとしていることは、「本来、8000Bq/kg以下のものは、通常行われいてる処理をしても大丈夫なのだが、これまで安全側にたって規制してきた。しかし対象範囲の見直しを行ってきた」ということです。
では「災害廃棄物安全評価検討会」でいかなる討議されたのか、議事録を見てみると、かなり重大なことがことが書かれていることが分かりました。
なんと8000Bq/kg以下といっても福島県以外では6400Bq/kgを越えることはあまりなくなったのでそれ以下を規制の対象からはずすというのです。以下の文章に書かれています。当該箇所を抜粋します。
特定一般廃棄物及び特定産業廃棄物の要件の見直しについて
平成24年8月20日 第14回 災害廃棄物安全評価検討会 資料6
http://www.env.go.jp/jishin/attach/haikihyouka_kentokai/14-mat_3.pdf
「事故由来放射性物質の放射能濃度が6400Bq/kgを超える廃棄物が排出されておらず、事故由来放射性物質により一定程度に汚染された廃棄物の多量排出が今後見込まれないと考えられる都道府県については、特定一般廃棄物・特定産業廃棄物の対象地域から外すことを基本として要件の見直しを行う」
引用はここまで
なんと2012年12月から、すでに6400Bq/kg以下の放射性廃棄物が「特定一般廃棄物・特定産業廃棄物」の中から除外されてしまっていたのです。6400Bq/kg以下の放射性廃棄物には何の法的規制もなくなってしまったことになります。
ここまで調べてくると私たちは「8000Bq/kg以下」という数値だけをみていてはならないこと、それでは騙されてしまうことが分かります。
現在の「8000Bq/kg以下の汚染土を公共事業で使っても良いことにする」という論議も、実はすでに6400~8000Bq/kgの汚染土の問題とされているのであって、先に6400Bq/kg以下のものの規制の排除が組み込まれているのです。
なんという狡猾さでしょうか。8000Bq/kgという数値に人々を引き付けておいて、6400Bq/k以下は法的規制から外してしまったのです。本当に卑劣です。
私たちは8000Bq/kg以下の汚染土を公共事業で使うな」だけでなく「6400Bq/kg以下の放射性廃棄物を法的規制から切り捨てるな」「100Bq/kg以上のものを放射性廃棄物として厳重管理してきた『原子炉等の規制に関する法律』を守れ」と言わねばなりません。
その上で「100Bq/kg」という規制基準のより厳しい見直しも含めた「放射能汚染防止法」の制定にこそ向かわなければならないのです。
続く