日常

傳田光洋「皮膚感覚と人間のこころ」

2015-01-15 15:12:15 | 
傳田光洋先生の「皮膚感覚と人間のこころ」新潮社(2013/01)を読みました。

傳田先生は教養も深いし発想も自由だし素晴らしいなぁ。


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<Amazonより>
内容紹介
意識を作り出すのは脳だけではない――。皮膚を通して、こころの本質に迫る!
外界と直接触れ合う皮膚は、環境の変化から生体を守るだけでなく、自己と他者を区別する重要な役割を担っている。
人間のこころと身体に大きな影響を及ぼす皮膚は、その状態を自らモニターしながら独自の情報処理を行う。
その精妙なシステムや、触覚・温度感覚のみならず、光や音にも反応している可能性など、皮膚をめぐる最新研究!
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傳田光洋「第三の脳 -皮膚から考える命、こころ、世界」(2013-04-30)
こちらの本の感想にも書きましたが、傳田先生の発想はとても自由でユニーク。
色々な不思議な現象も、「皮膚」という誰もが持っている細胞の働きとして見ていくと、特に不思議ではなくなる。

たしかに、皮膚は内側と外側とを分けている境界であり、内側と外側のコミュニケーションの最前線にたっている存在なので、そこには分かっていない無限の働きがあるようです。




触れられてあやつられる心、として紹介されている研究に、
・「本の返却時に、定員さんが0.5秒触れると店員の高感度があがる」という実験が紹介されていました。

人は、触れられることで気分も気前もよくなるようです。

・温かい皮膚感覚は、その人の心も温かくする。
・怒りの表情を作ると、怒りの感情が誘導される。
という実験も面白い。
感情は、自分がそういう顔の形をつくるだけで、自動的に誘発されるみたい。
だから、常に難しい顔をしているとすべては難しく感じるし、
ひょひょうとしていれば、すべてはひょうひょうと展開していくのかも。


・拒食症患者は、触覚での図形把握がうまくない。
・合成ゴムでできたダイビングスーツを着用すると、右半球の脳波の活動が盛んになった。
という実験もあり、
つまり、 皮膚感覚が低下することで「身体イメージ」に異常が出ているようです。

皮膚は、そうして常に「健康な身体の形」のメッセージを送っているようです。



・ショウジョウバエに2代続けてストレスを与えると、3世代以降に遺伝していく。DNAの情報からタンパク質が作られる過程に変化が起きる。
・出生後の母親の手厚い世話が、特に女性の脳機能の発育(海馬の成長)に影響を与える。

というのも驚きました。
ストレスは、世代を超えて伝わってしまうし、出生後の影響は後々にも長く影響を与えると言う事。驚きです。


村上春樹さんが翻訳されている、マイケル ギルモアの「心臓を貫かれて」という本があります。
ここには、ギルモア一族のトラウマのクロニクル(日本的には一族の呪い)、とでもいうような、モルモン教の厳格で恐ろしい「血の掟」をベースにした恐ろしい一族の歴史が載っている。自分は途中で読むことができなかったが、この本が書くように、ストレスのようなものはその人個人だけではなく、一族へと伝播していくらしいので、注意が必要だと思った。
その歴史を続けるか、自分の代で終止符をうつかも、その人にゆだねられているのだから、




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安部公房「第4間氷期」
『人間の情緒が、多分に皮膚や粘膜の感覚に依存していることは了解していただけるでしょうな? 
たとえば、「ぞっとする」「ざらざら」「ねばつく」「むずむずする」・・・
こう、ざっと並べただけでも、いわゆる体表面感覚が、いかにわれわれの気分や雰囲気の形容になっているかが分かります。
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三島由紀夫「鍵のかかる部屋」
『皮膚のよみがえりとその清さは、その円滑で光沢ある不可侵性によって保障されているのだ。
それがなければ、私たちは一つの悪い夢から醒めることもならず、汚濁も疲労も癒されず、すべてはたちまち累積して、私たちを泥土に帰せしめてしまうであろう。
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・若い女性が、男性の皮膚温の変化に敏感で、男性の情緒を皮膚温で察知できる。
という実験もあるようだ。

皮膚表面の電位は精神的な状態で大きく変動するらしい。


皮膚表皮のバリア回復は、表皮のCaの分布、表皮の電気的状態による。
そのバリア機能と電位は日内変動をする。 
皮膚に常在するT細胞、作動させるランゲルハンス細胞などが皮膚には存在している。

劇的な湿度低下に表皮はついていけない。
皮脂(皮膚の脂肪)は皮膚の保温にも役立っている。

乾燥環境下ではアレルギー反応も起きやすい。
皮膚表面の電気状態をマイナスにしておくことが大事。

赤い光、高い周波数の音もバリア修復を早くするらしい。
皮膚は音も光も振動数も感知している。





感覚と知覚は別のもの

感覚は単細胞生物でも存在する。
知覚するには中枢神経(たとえば脳)は必要になる。

一時応答をするのが「感覚」
感覚から得た情報の中枢神経系による解釈が「知覚」

感覚は受動的で知覚は能動的。
こういう違いがある。




触覚には4つの要素がある。
・マイスナー小体:速度
・メルケル盤:圧
・パチニ小体:振動
・ルフィニ小体:圧

ガムランのライブは10万Hz以上の音の振動数を発している。

体表の皮膚細胞が、そういう高周波音を受信している。

進化の過程で、耳は主として人間の声を聞くような構造になったらしい。
というのも、人間の声は60-4000Hzで、蝸牛の性能と同じになっている。


5000Hzの音の振動数では皮膚のバリア回復に影響を与えなかったが、1-3万Hzではバリア回復を促進した。
という傳田先生の報告もあり面白い!

Pubmedより。
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Br J Dermatol. 2010 Mar;162(3):503-7.
Acceleration of permeability barrier recovery by exposure of skin to 10-30 kHz sound.
Denda M1, Nakatani M.

Abstract
BACKGROUND:
Previous reports show that ultrasound can influence human brain electrical activity and systemic hormone levels in various parts of the body, other than the ear, so there may be an unknown ultrasound-responsive system in humans.
OBJECTIVES:
In the present study, we examined the effects of sound on skin permeability barrier homeostasis.
METHODS:
We broke the skin barrier of hairless mice by tape stripping, and then exposed the skin to sound for 1 h to evaluate the effect on barrier recovery rate.
RESULTS:
Exposure of skin to sound at frequencies of 10, 20 and 30 kHz for 1 h accelerated barrier recovery, and 20 kHz sound induced the fastest recovery. Application of 5 kHz sound had no effect on barrier recovery rate. Significant acceleration was observed even when the sound source was located 3 cm away from the skin surface. The recovery rate depended on the sound pressure. An electron-microscopic study indicated that lamellar body secretion between stratum corneum and stratum granulosum was increased by exposure to sound at 20 kHz.
CONCLUSIONS:
These results suggest that epidermal keratinocytes might be influenced by ultrasound in a manner that results in modulation of epidermal permeability barrier homeostasis.

要約
<背景>
過去の研究では、超音波(ultrasound)が人間の脳の電気活動や全身のホルモンレベルに対して、耳だけではなく様々な体の部位への影響を与えることが示されている。しかし、人体での超音波に対する反応のことはよく分かっていない。
<対象>
本研究では、皮膚バリア機能のホメオスタシスに対する音の影響を調べた。
<方法>
毛のないマウスに対して、テープをはぎとり法で皮膚のバリア機能を障害させ、皮膚に音を一時間聞かせて、バリア機能の回復速度を見た。
<結果>
10, 20 and 30 kHzの音を1時間聞かせたマウスは、バリア回復を促進させた。20 kHzの音がも最も皮膚回復を促進させた。5 kHzは皮膚バリア回復への影響はなかった。皮膚から3cm離れたところに置いた時が回復が早かった。回復速度は音圧の影響もあった。電子顕微鏡的研究では、20 kHzの音を浴びている時、角質層(stratum corneum)と顆粒層(stratum granulosum)の間に層状体(lamellar body)分泌が認められた。
<結論>
表皮角化細胞は、超音波の影響を受け、表皮のバリア透過性などの調節をしている可能性が示された。
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表皮も視覚を持つ。
電磁波や光のエネルギーを、電気的信号に変換するシステムを、広義の視覚とする。
時差ぼけの治療で、強い光を照射することがある。
それは、視覚障害者にも効果がある


人間の網膜にある光受容器は400-700nmの電磁波だけを受容できる。

皮膚には明暗を受容するロドプシンが存在する。
赤や緑の波長の長い光を受容するオプシンは表皮の最深部にある。
青の波長の短い光を受容するオプシンは最深部にはなく全層に存在している。


長い波長は物質透過性が高い。
光を電気信号に変換するシステムが表皮にも存在し、皮膚バリア機能に関係している。


ミミズや二枚貝の表皮には、レンズを持たない光受容体細胞が散在している。

色彩心理学で、ゲーテによると赤はあたたかく活動的。
同じ距離でも赤は手前に、青は奥に認識される。
このことは、おそらく皮膚細胞と色(視覚)との関係があるのではなかろうか。





皮膚と電場の関係。
カモノハシのくちばしは電位変化を感知できる。

空気が電気を通しにくいので、皮膚表面から離れた電位変化が皮膚に影響する可能性はすくない。

金属に触れてもバリア回復が促進される。
それは、金属の自由電子が皮膚に移動して、皮膚表面が負の電位に帯電したため。

金は錆びない(酸化被膜)。
肌に触れる装飾品である金が古代から使われたのは、生理学的な効用があったのかもしれない。




皮膚と磁場の関係。

バクテリア、鳥類は体内に磁器鉄の粒があり、それが磁針となり方角を認識している。

人間の脳にも微小な磁鉄鉱の結晶がある。
そのおかげで、地磁気を感じる。


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磁石を後頭部につけられた学生は、真鍮群より正しい方向を向けなくなった。

Science. 1980 Oct 31;210(4469):555-7.
Goal orientation by blindfolded humans after long-distance displacement: possible involvement of a magnetic sense.
Baker RR.

Abstract
A wide range of animals are able to orient toward home when subjected to displacement-release experiments. When comparable experiments are performed on blindfolded humans, a similar ability emerges. Such goal-orientation does not result from following the complete journey on a mental map, nor is it influenced by cloud cover. Bar magnets worn on the head do seem to exert an influence.
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放牧されている牛、ノロジカ、アカシカが休んでいる時、南北方向に体を向けている傾向にある?!

Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Sep 9;105(36):13451-5.
Magnetic alignment in grazing and resting cattle and deer.
Begall S1, Cerveny J, Neef J, Vojtech O, Burda H.

Abstract
We demonstrate by means of simple, noninvasive methods (analysis of satellite images, field observations, and measuring "deer beds" in snow) that domestic cattle (n = 8,510 in 308 pastures) across the globe, and grazing and resting red and roe deer (n = 2,974 at 241 localities), align their body axes in roughly a north-south direction. Direct observations of roe deer revealed that animals orient their heads northward when grazing or resting. Amazingly, this ubiquitous phenomenon does not seem to have been noticed by herdsmen, ranchers, or hunters. Because wind and light conditions could be excluded as a common denominator determining the body axis orientation, magnetic alignment is the most parsimonious explanation. To test the hypothesis that cattle orient their body axes along the field lines of the Earth's magnetic field, we analyzed the body orientation of cattle from localities with high magnetic declination. Here, magnetic north was a better predictor than geographic north. This study reveals the magnetic alignment in large mammals based on statistically sufficient sample sizes. Our findings open horizons for the study of magnetoreception in general and are of potential significance for applied ethology (husbandry, animal welfare). They challenge neuroscientists and biophysics to explain the proximate mechanisms.
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チェコの狐は北東方向に飛びあがる傾向にあるらしい。これは、地磁気を距離計として使っているから?



磁気感知のタンパク質の候補。
クリプトクロム(CRY : Cryptochrome):網膜、表皮ケラチノサイトに存在している。
ショウジョウバエのクリプトクロム(CRY)は、紫外線からの青い光で活性化される。
光で駆動する磁気センサーとして働く。

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Science. 2012 May 25;336(6084):1054-7.
Neural correlates of a magnetic sense.
Wu LQ1, Dickman JD.

Abstract
Many animals rely on Earth's magnetic field for spatial orientation and navigation. However, how the brain receives and interprets magnetic field information is unknown. Support for the existence of magnetic receptors in the vertebrate retina, beak, nose, and inner ear has been proposed, and immediate gene expression markers have identified several brain regions activated by magnetic stimulation, but the central neural mechanisms underlying magnetoreception remain unknown. Here we describe neuronal responses in the pigeon's brainstem that show how single cells encode magnetic field direction, intensity, and polarity; qualities that are necessary to derive an internal model representing directional heading and geosurface location. Our findings demonstrate that there is a neural substrate for a vertebrate magnetic sense.
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日本の地磁気は0.03ミリテスラ。
ネオジム磁石は直径1㎜で200ミリテスラの磁束密度を持つ。

日本の地磁気は0.0005ミリテスラ程度の変動をしている。
磁気嵐(太陽での爆発)では、うつ病の頻度が増えるという報告は有名。


地磁気の数十倍、1ミリテスラの磁束が1秒に50回変動する場合には、皮膚の傷を癒す効果があるらしい。

皮膚のケラチノサイトには、地磁気の数倍程度の変動磁場を感知するシステムがある 
クリプトクロム(CRY : Cryptochrome)が磁場感受の候補とされている。

変動磁場でNO(一酸化窒素)が増加する。
マッサージをすると、HIVのNK細胞増加、自閉症や多動症への改善、思春期の攻撃的行動の抑制、うつ、アルツハイマーの改善などが示されている。



表皮は圧や温度だけではなく、光や音にも反応している。

マッサージで表皮がNOを合成し、血管やリンパの流れを促進する。
(Ikeyama K. 2010. J Invest Dermatol 130: 1158-66)
こういう研究はほんとうにおもしろくて役に立つと思う。

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J Invest Dermatol. 2010 Apr;130(4):1158-66.
Neuronal nitric oxide synthase in epidermis is involved in cutaneous circulatory response to mechanical stimulation.
Ikeyama K1, Denda S, Tsutsumi M, Denda M.

Abstract
The source of nitric oxide (NO) in the cutaneous circulation remains controversial. We hypothesized that epidermis might generate NO in response to mechanical stimulation. In hairless mouse (HR-1) skin organ culture, mechanical stimulation resulted in NO release, which declined within 30 minutes after cessation. A similar NO release occurred in a reconstructed skin model containing only keratinocytes and fibroblasts and was suppressed after detachment of the epidermal layer. Moreover, the stimulation-induced NO release was significantly lower in skin organ culture from neuronal NO synthase knockout (nNOS-KO) mice, compared with wild-type (WT) mice. Mechanical stimulation of skin organ cultures from HR-1, nNOS-KO, endothelial NOS-KO (eNOS-KO), and WT mice caused an enlargement of cutaneous lymphatic vessels. The enlargement was significantly lower after detachment of the epidermal layer than in normal skin samples and was significantly lower for nNOS-KO than for WT mice. Skin blood flow in nNOS-KO mice after stimulation was significantly lower than in WT mice. eNOS-KO mice also showed lower responses than WT mice, and the difference was similar to that in the case of nNOS-KO mice. These results are consistent with the idea that NO generated by epidermal nNOS has a significant role in the cutaneous circulatory response to mechanical stimulation.
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表皮が酸素濃度を感知し、赤血球の数を調整している。
(Boutin AT. 2008. Cell 133: 223-34)


ケラチノサイトにはHIF-1、EPO、HIF-1を分解するVHLもある。
*HIF=低酸素誘導因子(Hypoxia Inducible Factor):細胞に対する酸素供給が不足状態に陥った際に誘導されてくるタンパク質のこと。


皮膚表面電位は、心理的な変化だけではなく、日内変動、性周期でも変化する。

トランプゲームの規則に気付く前に、すでに皮膚の電気状態が変わっている!という報告がある。
皮膚はすでに知っている!
(Bechara A 1997 Science 275: 1293-5)

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Science. 1997 Feb 28;275(5304):1293-5.
Deciding advantageously before knowing the advantageous strategy.
Bechara A1, Damasio H, Tranel D, Damasio AR.

Abstract
Deciding advantageously in a complex situation is thought to require overt reasoning on declarative knowledge, namely, on facts pertaining to premises, options for action, and outcomes of actions that embody the pertinent previous experience. An alternative possibility was investigated: that overt reasoning is preceded by a nonconscious biasing step that uses neural systems other than those that support declarative knowledge. Normal participants and patients with prefrontal damage and decision-making defects performed a gambling task in which behavioral, psychophysiological, and self-account measures were obtained in parallel. Normals began to choose advantageously before they realized which strategy worked best, whereas prefrontal patients continued to choose disadvantageously even after they knew the correct strategy. Moreover, normals began to generate anticipatory skin conductance responses (SCRs) whenever they pondered a choice that turned out to be risky, before they knew explicitly that it was a risky choice, whereas patients never developed anticipatory SCRs, although some eventually realized which choices were risky. The results suggest that, in normal individuals, nonconscious biases guide behavior before conscious knowledge does. Without the help of such biases, overt knowledge may be insufficient to ensure advantageous behavior.
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意識以前の潜在的な情動が皮膚にあらわれる。
皮膚に触れればその人がやがて下す判断を予知できる可能性がある。

ストレスに伴う血中コルチゾールの影響が海馬組織にダメージを与え、うつ病やPTSDを引き起こす。
(Science 1996: 273: 749-750, Neuron 2009; 64: 33-9)


皮膚が損傷を受けるとIL-1βを介して表皮ケラチノサイトからコルチジールが合成される。
心が傷ついても皮膚が傷ついても同じストレス応答が観察される。


アトピー性皮膚炎では不安症やうつ病が多い。
表皮からのコルチゾールが脳に影響している可能性もある

皮膚のケアは、身体的な健康ではなく、精神や心の健康にも影響を与えている!

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サイトカインと神経疾患
乾癬の患者にTNF-αブロックの薬で、12週で皮膚の改善と疲労感や抑うつの状態も軽くなった。
(Lancet 2006; 367, 29-35)

Lancet. 2006 Jan 7;367(9504):29-35.
Etanercept and clinical outcomes, fatigue, and depression in psoriasis: double-blind placebo-controlled randomised phase III trial.
Tyring S1, Gottlieb A, Papp K, Gordon K, Leonardi C, Wang A, Lalla D, Woolley M, Jahreis A, Zitnik R, Cella D, Krishnan R.

Abstract
BACKGROUND:
Psoriasis has substantial psychological and emotional effects. We assessed the effect of etanercept, an effective treatment for the clinical symptoms of psoriasis, on fatigue and symptoms of depression associated with the condition.
METHODS:
618 patients with moderate to severe psoriasis received double-blind treatment with placebo or 50 mg twice-weekly etanercept. The primary efficacy endpoint was a 75% or greater improvement from baseline in psoriasis area and severity index score (PASI 75) at week 12. Secondary and other endpoints included the functional assessment of chronic illness therapy fatigue (FACIT-F) scale, the Hamilton rating scale for depression (Ham-D), the Beck depression inventory (BDI), and adverse events. Efficacy analyses were based on the allocated treatment. Analyses and summaries of safety data were based on the actual treatment received. This study is registered with with the identifier NCT00111449.
FINDINGS:
47% (147 of 311) of patients achieved PASI 75 at week 12, compared with 5% (15 of 306) of those receiving placebo (p<0.0001; difference 42%, 95% CI 36-48). Greater proportions of patients receiving etanercept had at least a 50% improvement in Ham-D or BDI at week 12 compared with the placebo group; patients treated with etanercept also had significant and clinically meaningful improvements in fatigue (mean FACIT-F improvement 5.0 vs 1.9; p<0.0001, difference 3.0, 95% CI 1.6-4.5). Improvements in fatigue were correlated with decreasing joint pain, whereas improvements in symptoms of depression were less correlated with objective measures of skin clearance or joint pain.
INTERPRETATION:
Etanercept treatment might relieve fatigue and symptoms of depression associated with this chronic disease.
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スイスのチューリヒ大学の報告。

オキシトシンを鼻に噴霧するだけで、他人に対する信頼度が有意に増えた
(Kosfeld M. Nature 2005, 435:673-6)

東北大の報告。
オキシトシンを破壊されたマウスは攻撃性を増し、育児をしなくなった。
他人との信頼関係、相互関係の維持に重要であると言う事。
(Takayanagi Proc Nat Acad Sci USA 2005, 102: 16096-101)


オキシトシンの投与が自閉症やアスペルガー症候群の症状を改善した
(Neuropsychopharmacology 2003; 28: 193-8)


オキシトシンも、脳以外に表皮ケラチノサイトでも合成されている


情報処理システムとしての表皮の役割がある。
というのも、表皮と神経系が同じ外胚葉由来で、発生での出自が同じである。

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トーマス・マン「魔の山」
(結核療養所のベーレンス医師)
「ところで皮膚についてですか。
さて、あなたの知覚葉についていったいどういうことをお話すればいいかな。
皮膚というものはつまり、あたなの外脳です、よろしいかな ‐個体発生的には、あなたのその頭蓋骨の中にあるいわゆる高等機関の装置とまったく同じ起源を持つものなのです。

中枢神経組織は表皮層が少し変形したものにすぎません。
そして下等動物にあっては、中枢と抹消との間に総じてまだ区別がないので、連中は皮膚で嗅いだり、味わったりするのです。
感覚と言ったら、皮膚感覚しかないのです‐考えてみただけでも、快適ですなぁ。
これに反して、あなたとか私とかのような、非常に高度に分化した生物にあっては、皮膚の功名心はくすぐったがることぐらいのところで抑えられていて、保護と伝達の器官というにすぎませんが、しかし肉体に近づこうとするあらゆるものに対してはおそろしく警戒厳重です。」
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神経系は興奮と抑制の反応からなる。

通常の細胞膜の内側はマイナスに帯電している。

興奮→細胞外からCa, Naなど正の電荷を持つイオンが細胞内に入り、細胞内と外の電位差がなくなること。細胞内のCa貯蔵庫の小胞体からCaが放出されることもある。
興奮が続くと細胞は死んでしまう。

負の電荷を持つ塩素イオンが細胞外から内にはいったり、正のKが細胞外に放出されて内側がマイナスに帯電する。これが抑制。


中枢神経
興奮性受容体を作動させる物質にはNMDA受容体を作動させるグルタミン酸、Ach受容体を作動させるAch,ニコチン、P2受容体のATP、アドレナリン受容体のアドレナリン(エピネフリン)
抑制を誘導するのはグリシン受容体を作動させるグリシン、アラニン、セリンというアミノ酸、GABA受容体を作動させるGABA(γアミノ酪酸)
心機伝達物質にはセロトニン、メラトニン、ドーパミンなど。


皮膚では細胞を興奮させるとバリアの回復が遅れ、抑制に導くと回復が早くなる。
(Denda M. J invest Dermatol 2002, 119: 1041)



脳にある受容体は皮膚にも見つかった。
生体のエネルギー源としか見なされなかったATPは、重要な情報伝達物質でもある。





自己意識は糖をなめるだけでも変わる
→ブドウ糖入りのレモネードは、人工甘味料よりも同性愛者に対する偏見が低下した
(J Exp Soc Psycol 2009, 45: 288)

ホルモンの量でも自己意識は変わる
→排卵期の女性は肌を露出させる服を選ぶ。


ニコラス・ハンスリーによると、
進化の過程で自己意識が形成された。
感覚と知覚を区別。
感覚は単細胞生物でも持っている。
脳がなければ知覚はない。

進化に伴って複雑になった知覚を統御するために自己意識が必要になった。
同一の意識を持つことで、過去の経験から未来を選択できる。
生物学的合目的性から脳が作り出した一種の調整システム。


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レヴィナス『存在の彼方へ』
「時間とは自同性が分裂するという驚くべき事態であり、想起とは分裂した自同性を取り戻すことである。
想起という自同性の再発見によって、存在することは、存在すること「固有の時間を構成する」のだが、それにもかかわらず、時間と想起は、存在することならびに真理の彼方にある。」
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中垣俊之博士 粘菌の研究
(Nakagaki T. Nature 2000. 407: 470)
(Tero A. Science 2010. 327. 439-442)


粘菌の知性と人間の自己意識は同じようなもの
全体を俯瞰したのではなく、迷路の行き止まりを出たり入ったりしながら、次第に短い形を選択した。



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松本元『愛は脳を活性化する』
「新しい情報が脳に入力されると、それまでの経験での「表引きテーブル」から、入力情報と関連性が高いものを選択し、出力する。
その出力で新たなアルゴリズムが獲得され、新たな入力のため保存される。これが学習である。」
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人間の意識は、「自己」(指揮者)を仮定することで、より高度な生存戦略を構築できるようになった。
実験科学は観察する主体を強固に設定しないと成立しない


分離脳。ガザニガ博士
左脳が自己意識。


分離脳では右脳の情報は言語化されず、言語的な意識につながらない
言語による説明は左脳でしかできない。
左脳が、様々な情報からつじつまのあう関連性を構築する役割を担っている。
(Gazzaniga MS. Brain 2000,;123: 1293-326)


変化しつつも時間を越えて継続して存在する自己意識が心。
その存在をつくり出しているのは左脳。
左脳が言語処理、右脳が空間処理。
この非対称性は、言語処理を担う領域の拡大に伴い、空間情報を処理するものを右に押しやった。
(LeDoux JE. Brain behav Evol 1982; 20:196)


人間は進化の過程で、出来事の原因を探索する性質を獲得した。
錯覚も起こすが予測もできる。

左脳は宗教をつくり、自然科学をつくり、強固な時期意識も確立してきた。


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ヴァレリー『固定観念 あるいは海辺の二人』
「われわれは自分を掘り下げようとしていろいろな試みをしているが、そこにはとんでもない幻想があるんじゃないか、
すべては皮膚の発明物なり! いくら掘り下げてみたって仕方がない、われわれは・・・・外胚葉なんですから。
人間においてもっとも深いもの、それは皮膚だ、
----その人間が自己を知っているかぎりは。」
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聴覚は自分の行為の認識で自と他を区別する。
自分の声を聴くのは意識の混乱?
自他の区別をするものではない。

味覚も区別できない。
聴覚は自と他の区別がある。

触覚、
皮膚感覚は身体感覚と共同して自と他を区別する。
皮膚感覚は意識と関連がある。

アイソレーションタンク
自己の空間的位置が自己の身体から離脱する。


自分の身体が現在ある位置に存在すると正しく認識するには、右脳の側頭‐頭頂接合部が重要な役割を果たす。
(Blanke Nature 2002; 419: 269)


視覚や聴覚の情報伝達が、触覚、味覚、嗅覚より発展したのは、光と音が物理的に波動であり、電気信号に変換しやすかったのも原因。

皮膚感覚が怪と不快をもたらす
システムの中で生きる人間を、皮膚感覚は突然個人に戻す。


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リルケ『ドゥノイの悲歌』
「おんみらが肌と肌とを触れ合って至高の幸をかちうるのは、愛撫が時を停めるからだ。
愛におぼれるおんみらを結んだ場所が消えぬからだ。
おんみらがそこに純粋な持続を感ずるからだ。」
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視覚障害では、点字。

ヘレンケラーは水の触覚と言語が結びついた。

視覚はすぐには役に立たない。
皮膚感覚と映像を結びつける学習が必要。

大森荘厳
『目に見えるものが実在するとは限らず、
触れることができるものだけが実在する』




5200年前のミイラ
チロルのアイスマン
刺青の文様は、9つの文様がツボ経穴と同じ、あるいは6㎜以内の場所にある
二つ以上の文様が経穴を結ぶ線にある
(Dorfer L, Lancet 1999; 354: 1023)

受精卵から発生に至る過程の境界の名残が経絡。
(Lee TN. Med hypotheses 2002; 59: 504)

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フランスの精神分析 D.アンジュー博士『皮膚‐自我』
「皮膚感覚は人間の子供を出生以前から限りなく豊かで複雑な世界へといざなう。
この世界はまだとりとめがないが、知覚‐意識系を目覚めさせ、
全体的また付随的な存在感覚の基礎を形作り、最初の心的空間形成の可能性をもたらすものなのである。」
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子供で、粘着性の紙を目以外のすべての場所にはらせると、身体的自我を取り戻すことができた。

体毛を失ったヒトは、世界との境界である皮膚に不安を感じた。
衣服で皮膚の装飾の意味が失われている。


ユングは『脳の中に全宇宙が存在する』と言った。

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ユング
「自然を理解するという過程は‐理解したとき、つまり新しい知識を得たと自覚したときに感ずる幸福感もそうであるが‐
結局人間の精神(プシュケ)に前もって内在する内的イメージが外的な対象とその振る舞いとに対応する、
言い換えれば「うまく合致する」というところに根差すのではないかと思われる」
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・・・・・
最先端の学術的な内容も多く、知的刺激としても大いに勉強になる本でした。
傳田光洋先生はすごい!!

3 コメント

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Unknown (二宮)
2015-01-18 07:17:49
おはようございます。
投稿したら低体温になってしまい、真から体が冷えるから、霊視してるかなと思いました。冠婚葬祭の仕事です。祖父が神主。、いろいろあり生霊が一番大変かなと思います。投稿はこれにて。いつか矢作先生にあってヒーリングについて話してみたいです。日本一番と言われて、まだまだ疑問がいっぱいあります。先生も無理せずに頑張ってください。
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Unknown (安藤)
2015-01-18 20:52:50
私もこの本、ざっくりとですが読みました。皮膚疾患や皮膚構造も本当に奥が深くて面白いです。ご存知のように皮膚には感覚器官があり、意識と近しいところにある臓器の1つではないかと思います。

皮膚科のいいところは、例えば「皮膚が赤くみえるとき」 実際に組織をとって、それを顕微鏡(肉眼)で確認できるということです。もちろんサイトカインなどは、特殊な免疫染色や生化学的な検討が必要にはなるのですけれど、目で見えるってすごいですよね! 

電子顕微鏡の世界も、マニアックですが、面白いですよ。たった1つの細胞においても、まだまだ役割のわかっていないものがたくさんあります。

いつも示唆に富む記事ありがとうございます!
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Unknown (いなば)
2015-01-24 00:06:53
>二宮さま
ヒーリングに関しては、歴史もありますし深いですよね。
新約聖書を読んでても、延々とイエスが手で癒した、という話が多く出ていて感動します。
コメントありがとうございました。またお越しくださいませ。

>安藤さん
皮膚はすでに情報のやり取りしていますからね。
外と内の調整をしているという意味で大変に高機能な臓器だな、としみじみ思います。

そうですね。皮膚科の先生は「見ればわかる」というのがすごいと思います。
電子顕微鏡の世界も面白そうですね。
人体だけでも60,000,000,000,000(60兆)の細胞ありますし、僕らがわかったような気になっているだけで、まだまだ未知の可能性ある細胞がたくさんありそうです!
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