観測にまつわる問題

政治ブログです。「保険」「相続」「国民年金」「AIロボット」「運輸エンタメ長時間労働」「GX」を考察予定。

事故の被害についての簡単な補論

2011-08-13 16:43:05 | 政策関連メモ
先の記事に続いて、「放射能と理性」から、事故の被害について参考になる部分を(要約しながら)引用、考察していく。

今話題のセシウムだが・・・

>チェルノブイリでセシウム由来の死者は無い(ヨウ素による甲状腺ガンの死者は出た)※261p

万一の事故の時の被害のスケール感だが・・・

>核実験由来の死の灰がピークだった1963年でイギリスにおいて0,15ミリシーベルト(毎年)、チェルノブイリ由来の被爆量は更にその10分の1※214p

100ミリシーベルトまでは、(具体的な数値を見る限り)まず安全ということは、これまでも書いてきたが、この本でも、おそらく閾値はあるのではないかということが論証されている(ただし、科学者全体の同意はない)。ストレスは身体に悪い(ガンになるらしい)し、タバコも身体に悪い(いいと言う人はまず見ない)。今回の事故を収束させるために最大限努力しなければならないし、安全には気を使うべきだが、世間で一般に言われるほどの心配(健康への影響)はないと言っていい。原発はリスクが大きすぎると言われるが、そうでもないということだ(どう見ても津波の方が圧倒的に巨大な被害が出ている)。

健康・人命の観点は勿論、コスト面からも放射線の大きなメリット(放射線治療は直接的に人命を救っている)からも、放射線の健康への影響は理性的に議論されるべきだ。この本には各所で放射線に関する規制が過剰でないかとの指摘がなされており(安全のために余裕を持つのは当然だが、それでもなお、なのである)、同意できる。一方、事故がおこった以上、全所停電の問題に関する検討が薄かったのは否定できないだろう。ケースバイケースでノウハウを蓄積していくという結論・政策を求めたい。

廃棄物をめぐる問題

2011-08-13 14:55:50 | 政策関連メモ
「放射能と理性」の「廃棄物をめぐる問題」(199p~206p)のパートが面白い。原発反対派の主要な根拠は核廃棄物への懸念であるが、そうした懸念が原発が批判のターゲットになり反論が難しい状況の上に成り立っていることであろうことが分る。201pの表に検索で出てきたデータをあわせて火力(石炭)と原子力の廃棄物を比較する(石炭より石油、石油より天然ガスがよりクリーンだがその点についても触れられている)(以下※>部の引用は筆者が要約・付け加え)と・・・

>1ギガワット級発電所の年間廃棄物量は、火力で二酸化炭素650万トン・亜酸化窒素2万2000トン(ウィキペディア参照で、温室効果は二酸化炭素の300倍で京都議定書で規制がかけられており、オゾン層をもっとも破壊する物質であることをアメリカ大気圏研究チームが突き止め科学誌「サイエンス」で発表されている)・灰32万トン(ヒ素400トンと有毒な重金属含む)、原子力で高レベル核廃棄物27トン(燃料再処理とガラス固化を行えば5トン)・中レベル核廃棄物310トン・低レベル核廃棄物460トン。二酸化炭素と亜酸化窒素は大気中に即時放出され、灰と重金属は大地浅部へ順次埋め立てしているが、高レベル核廃棄物は即時放出は無く、技術的に安全に処分することができる(燃料再処理後とガラス固化後の深部埋め立て)。環境にもし放出された場合の影響持続期間は、二酸化炭素は約100年(※海洋酸性化の問題は恐らく考慮されていない)、亜酸化窒素は約100年、重金属は無限、ヨウ素とキセノンは数週間、ストロンチウムとセシウムは約100年、アクチノイドは無限。

どうだろうか、廃棄物の問題は(火力と比較し)原子力にとって弱点ではなく、寧ろクリーンだから、最近の原発復権の動きに繋がったという事実が確認できる。環境を理由に脱原発を決めたドイツは(自国内に豊富な)石炭火力への依存が深まった場合、より環境汚染してしまうという皮肉な結果に終わるだろう。再生可能エネルギーが現在効率が悪いのも明らかで、将来にわたっても、発電の安定性の問題は解決困難はこれまで指摘してきた通りだ。

>大規模なエネルギー生産の手法として、化石燃料による燃焼と核分裂を比較すると、両者はともに連鎖反応プロセスを利用するため、注意深い制御が必要となり、化石燃料の燃焼で得られるエネルギーは、核分裂のエネルギーで得られるエネルギーの約500万分の1。※88p

これが廃棄物の量の差となって数字に跳ね返ってくるのである。

事故を起こしたからといって、原子力の廃棄物だけをクローズアップするというのは理性的ではない。火力に代替するなら、火力の廃棄物を比較考量しないと意味がないということになるに違いない。脱原発派(「原発のウソ」など)が文明放棄論を含んでいるのには理由があったのである。実のところ、火力に代替すればより汚染されかねないというのは、少なくとも学者は何となくでも気付いているのだろう。菅首相が今興味があるらしいバイオマスだって、燃やしてしまうと、きっといろいろ廃棄物は出るのではないか。カーボンニュートラルは分る(農産物生産の時のCO2排出も分る)が、この点キチンと検証されなければならない。文明は放棄できないという立場に立つ(自分はそうだし、概ねみんなそうだと思う)なら、脱原発の言論には要注意なのである。

放射能と理性

2011-08-13 14:01:36 | 注目情報
「放射能と理性」(ウェード・アリソン著 徳間書店)が面白い。2つ前の「原爆投下と放射能の影響」でも少し紹介したが、この本はかなりいい。著者はオックスフォード大学名誉教授で物理学博士。2009年初版で日本語版を出すに当たってフクシマに関するエピローグも追加されている(ただし、若干の疑問点はある)。今度の事故を考えるに当たって外せない一冊になるのではないだろうか。時々イギリス人学者の科学読み物はとても面白い時があるように思う。勿論、自分の意見と筆者の意見は同一のものではなく、先にも書いたように高速増殖炉計画には自分は賛成だ(著者は反対の立場)と明言しておく。以下興味深い話題ごとに、引用・考察して記事を作成していきたい。