(2010.5.14)
この子は私にとってかけがえのない大切な子ども
私には十分すぎる幸せをいつも感じさせてくれた
十分に息をして
いっしょにご飯を食べ
いっしょに空を見上げ
すずめや鳩を目で追いかけたりした
公園で同じ年ごろの子どもを見つけては嬉しそうに笑い
私をふりむいてはまた笑い
いつも十分な毎日を過ごしてきた
目の前にその時々の写真がある
生まれた日、初めて出会ったときの顔
小さな手のひらをひらひらさせて笑っている顔
浮き輪につかまり、輝いている顔
幼稚園の運動会で
私と手をつないで飛び跳ねている笑顔のこの子がいる
足りないところなど 私にはひとつもなかった
この子より早く歩き出した子どもを私も見てきた
一歩、歩いては転び、嬉しそうに親の方をふりむくその姿を
私もいとおしく思う
でも、その子どもたちへのいとおしさは
私のなかで、この子ができないことを責めたりしない
この子は歩けない昨日も、歩き出す日にも、
いつだって私の子どもであることに変わりはない
この子は誰かと比べられるために生まれてきたんじゃない
人と競いあったり、一等賞を取るために生きているのでもない
この子はこの子のありのままで、
人と出会い、人と競わず、人を傷つけず、
大好きな人たちと過ごす時を重ねていく
この子が大きくなって私を振り返らなくなっても
私はこの子を見守っていたい
できることなら、この子にはいつも笑っていてほしい
でもそれは私の思いであって、この子の思いではない
夢をみるのはこの子
何かがほしいと願うのはこの子
自分の夢に向かってまっすぐに手を伸ばすのは
この子の心であって 私ではない
この子が悲しい思いをしているときには
この子のそばにいて、いっしょに泣いていることしか
できないかもしれない
できることなら小さいころのように手を握っていてあげたい
肩に、背中に、手を添わせていたい
私はいつだってあなたの味方だと
この子の耳にいつまでも
聞えない声を残してあげたい
わたしの声
それは、いまのこの毎日のありふれた日々のなかで
この子が感じるわたしという人間の気配
自然の中で、川の流れや水の気配、
風や空の気配を感じるように、
人の気配も心に残るもの
その気配に含まれる、声のいろや、声のぬくもりや匂い、
声の揺れ、そうしたものを通じて、気配の感覚がこの子に残る
繰り返す日々に、この子に伝わることばとこえ
いつか私のいない日常のなかで、
ふとした気配のなかに、私の声を感じてくれるかしら
この子といっしょに暮らす中で、
わたしは、記憶にはない幼いころを感じたことがある
あの気配の感覚は、きっと私が
子どものころに呼吸していたもの
あなたは、うれしそうに笑いながら、
そのことをわたしにおしえてくれる
わたしのなかの子どもは、うれしくて、
うん、うん、と
この子といっしょにうなずきながら、笑っている
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