トラウマとフルインクル(その85)
《「同調」といくつか「新しい能力」について(W)》
「ふつう学級の良さは、学校を終えてからの方がよく分かる」という言葉がある。
この言葉の意味を、自分の年齢を重ねるにつれ少しずつ理解できるようにはなったが、今まで説明することができなかった。
そのための言葉を知らなかった。
この「身体はトラウマを記憶する」という本には、それを説明する言葉がたくさんある。
「新たな行動パターンを培う能力」と、その能力を「自覚する能力」。
どちらの能力も、自分の体と心で体験し、体験することができることを学ぶ必要がある、ということ。
《一人の子どもとして認められ、受け入れられている感覚》
「一人の子どもとして認められ、受け入れられている感覚」を体験し、それを「自覚する能力」を養うことが、その子の人生の一生に渡って影響を与える。
それがある、人生と。
それがない、人生と。
自立のため、自分の人生の主人公であるために必要なのはそのことであり、しゃべれるかどうか、字が読めるかどうか、それ以前のことだ。
「一人の子どもとして認められ、受け入れられている感覚」が分からなければ、社会に出ていくのはとても大変なことだろう。
それは障害があってもなくても変わらない。
障害とは別の、「子ども体験」の話だから。
人は自分の体験から、自分の身体の感覚を知っていく。
喉が渇いたら、水を飲みにいく。
お腹がすいたら、ごはんを食べにいく。
それができなければ、自分の体の面倒をみることができない。
喉が渇いたと自分で感じなければ、自分に水を飲ませてあげられない。
不安と、のどの渇きを間違えたら、水を飲み続けてしまうかもしれない。
だから、初めての教室で、不安を感じること、落ち着かなくて歩き回ることも、貴重な体験になるのだ。
教室を歩きまわすことも、逃げ出すことも、ブランコで自分を落ち着かせることも、そこに、自分がいること、自分が受け入られていること、につながる体験として感じるか、否定的な体験として感じるか。
それは、子どもの障害ではなく、大人の態度で決まる。
ふつう学級で、いろんなことをやらかしながらも、「一人の子どもとして認められ、受け入れられている感覚」を体験する子どもたちを、私たちは見てきた。
そこでの「対応」によって、子どもは、学ぶのだ。
自分の不安を、誰が、どう助けてくれるか。
不安を和らげてくれるか。
それを繰り返す中で、「教室にいられるようになる」のに、何の不思議もない。
それは、「障害」が治ったのでもない、「授業中は教室にいなければならない」という決まりを理解したのでもない。
ただ、その教室を、「一人の子どもとして認められ、受け入れられている感覚」として受け入れられるようになったということだ。
そして、学年が変わり、教室が変わり、クラスメートが変わる。
それでも変わらない、自分の安心感、それが、他人、社会への信頼につながる。
「一人の子どもとして認められ、受け入れられている感覚」を「自覚する能力」を養うことが、社会的自立のためにも、もっとも重要な体験なのだ。
だからこそ、同じ学校の中で、みんなと一緒に過ごすことが、(時に脱走しても、廊下で寝転んでいても、段ボールに隠れても)、自分が生き生きとそこにいる感覚、いていい感覚、「一人の子どもとして認められ、受け入れられている感覚」を体験することが大切なのだ。
《新たな行動パターンを培う能力》
そして、「一人の子どもとして認められ、受け入れられている感覚」を体験し、それを「自覚する能力」が、新たな能力につながる。
それが、「新たな行動パターンを培う能力」であり、年月を経て、その能力を「自覚する能力」として定着していく。
一年生が二年生になるとき、小学生から中学生になるとき。
そして、高校にいくと言い出す時。
高校生として通う日々。
その変化を、私たちは「ふつう学級」の子どもたちには、「当たり前」のように感じてきたが、実際は、子どもたちが「新たな行動パターンを培う能力」をフルに発揮してきたのだ。
それが、ふつう学級からふつう高校の流れのなかで、子どもたちが学んでいることなのだ。
その全体を知るには、まだまだ時間がかかる。
私たちは、まだまだ言葉も知恵も、共に生きる経験も、遅れているから。
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