以下の文章は、「三島由紀夫について思うこと」(6) に挿入します。
余談ではあるが、三島由紀夫は超感性、所謂スピリチュアルな世界に
も強い関心があった。彼は自分が生れて来た時のことを覚えていると
自著「仮面の告白」に書いているし、霊能力者としての美輪明宏とは
政治理念がまったく違うのに終生親しくした。さらに、彼の最後の作
品「豊饒の海」は主人公の輪廻転生を軸にして物語が綴られる。それ
はまさに彼が愛読したニーチェが説いた永劫回帰説へのオマージュと
言えなくもない。ニーチェによると、永遠の時間の中で世界が有限で
あるなら、世界は同じことを永遠に何度も繰り返すと説き(永劫回帰説
)、回帰は何もかもが寸分の違いなくまったく同じように起こるという
のだが(同じものの永遠なる回帰)、それは「再生までにはまだゆっく
りできる、と汝らは思っている、――だが間違えてはいけない。意識
の最後の瞬間と新生の明け始めとの間には、〈少しの暇もない〉のだ。
――それは電光石火のように過ぎてしまう。たとえ生物たちはそれを
幾兆年単位で測り、あるいはそれでも測りきれないかも知れないが。
知性が不在になれば、無時間性と継起とは両立しうるのだ。」(ニーチ
ェ「手記資料」122番(第12章66頁) つまり、回帰(転生)は死ん
だ後〈少しの暇もな〉く起こると言うのだ。すでに三島由紀夫の霊は
再び未来の日本に転生して小説を書いているかもしれない。