「アキレスと(うさぎと)亀 異聞⑤」
アキレスは亀が来るのを待っていた。待っている間にこんな馬鹿げた
競争を引き受けたことを後悔していた。
「どう考えて見ても亀を追い越せないなんてことはあり得ないじゃない
か。亀が来たら競争を断ってすぐに帰ろう」
と思っているところへ、亀がうさぎを連れて現れた。亀は、
「遅くなって申し訳ない。実は、うさぎさんが俺と駆け比べがしたいと
言うので、それじゃあみんなで一緒にやろうってことになって連れて来
たんだが、いいかな?」
アキレスは、
「ええ、いいですよ」
と、考えとは裏腹に快く引き受けてしまった。実はアキレスはうさぎが
大好物だったのだ。
競争は亀とうさぎが一緒にスタートして、後からアキレスが追い駆け
ることになった。うさぎはスタートするとすぐに亀を引き離して山の頂
上を目指して駆けて行った。亀が見えなくなるとアキレスは駈け出した
。しばらく走ると木の陰でうさぎが寝ていた。アキレスはこの時とばか
りにうさぎを捕まえようとしてゆっくり近付いた。すると、うさぎが気
付いてすぐに逃げ出した。アキレスは競争のことなど忘れてうさぎを追
いかけた。
亀が山の頂上に到着してもアキレスとうさぎはやってこなかった。つ
まり、アキレスは亀を追い越せなかった。
それを見ていたイソップはしばらく考え込んでから、
「そうか!」
と言って手を打った。
(おわり)