「アキレスと(うさぎと)亀 異聞⑤」

2017-11-12 05:05:09 | 短編


        「アキレスと(うさぎと)亀 異聞⑤」


 アキレスは亀が来るのを待っていた。待っている間にこんな馬鹿げた

競争を引き受けたことを後悔していた。

「どう考えて見ても亀を追い越せないなんてことはあり得ないじゃない

か。亀が来たら競争を断ってすぐに帰ろう」

と思っているところへ、亀がうさぎを連れて現れた。亀は、

「遅くなって申し訳ない。実は、うさぎさんが俺と駆け比べがしたいと

言うので、それじゃあみんなで一緒にやろうってことになって連れて来

たんだが、いいかな?」

アキレスは、

「ええ、いいですよ」

と、考えとは裏腹に快く引き受けてしまった。実はアキレスはうさぎが

大好物だったのだ。

 競争は亀とうさぎが一緒にスタートして、後からアキレスが追い駆け

ることになった。うさぎはスタートするとすぐに亀を引き離して山の頂

上を目指して駆けて行った。亀が見えなくなるとアキレスは駈け出した

。しばらく走ると木の陰でうさぎが寝ていた。アキレスはこの時とばか

りにうさぎを捕まえようとしてゆっくり近付いた。すると、うさぎが気

付いてすぐに逃げ出した。アキレスは競争のことなど忘れてうさぎを追

いかけた。

 亀が山の頂上に到着してもアキレスとうさぎはやってこなかった。つ

まり、アキレスは亀を追い越せなかった。

 それを見ていたイソップはしばらく考え込んでから、

「そうか!」

と言って手を打った。

                         (おわり)


「アキレスと亀 異聞④」

2017-11-08 23:17:02 | 短編

           「アキレスと亀 異聞④」

 

 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスは

すぐに亀に追い付いて追い越そうとしたとき、亀が振り返って話しかけ

た。

「よ若いの、もう追い付いたのか。さすが速いね」

アキレスは、

「悪いけど先に行くよ」

すると亀は、

「まあ、そんなにあわてるなって。おれだって始めからおまえに勝てる

なんて思っちゃいないんだから」

その言葉を聞いてアキレスは立ち止まった。すると亀は、

「ところでおまえ、ゼノンのパラドックスって話知ってるか?」

「さあ、知らない」

「なんじゃ、主役のおまえが知らなけりゃあ話しになんねえだろうが」

「えっ、どんな話?」

「まさにこの状況がそうなんだけれど、おまえがおれに追い付くまでに

おれもそれなりに進んだだろう」

「いやあ、亀ってもっとのろいもんだと思ってましたよ」

「お世辞はいいから。つまり、おまえがおれに追い付くまでの間におれ

も更に前に進む」

「ええ」

「よく考えてみろよ、それを繰り返している限りお前はおれを絶対に追

い越せないってことにならないか?」

「そうかっ!」

アキレスは亀の話を聴くと忽ちパラドックスの呪縛に囚われて足が強張

って走れなくなり、亀の後をトボトボとついて行くしかなかった。つま

り、アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。


                           (おわり)


「アキレスと亀 異聞③」

2017-11-08 00:25:07 | 短編


         「アキレスと亀 異聞③」

 


 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスは

すぐに亀に追い付いたが、亀を追い越そうとしてはたと立ち止まった。

目の前の道がふたつに分かれていたからだ。

「えっ!どっち?」

アキレスは亀の足跡をたよりに駆けて来たが、ふたつに分れた道のどち

らがゴールへ続く道なのかわからなかった。そこで、

「もしもし亀さん・・・」

後ろから声をかけられた亀は驚いて振り返った。そして、

「なんだ、ウサギじゃないのか」

「ウサギって何っ?」

「いや何でもない、勘違いした」

「・・・」

「ところで、いったい用は何だ?」

「あっ、そうだ。先に道がふたつに分かれているけど、コースはどっ

ちでしたっけ?」

「何を言ってるんだ、始めにちゃんと説明を聞いたじゃないか」

「そうでしたっけ?」

老いた亀は、

「右だよ、右側」

「ああ、思い出した!そうでしたよね」

アキレスは老獪な亀の言葉をそのまま信じていいものかどうか疑った

「そもそも競争している相手が本当のことを教えるはずがない」

そして、左の道を駆けて行った。

 しばらくして亀がゴールしてもいつまで経ってもアキレスは現れな

かった。つまり、アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。

                         (おわり)

 

 

 

 

 


「アキレスと亀 異聞②」

2017-11-07 06:03:22 | 短編


       「アキレスと亀 異聞②」


 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスは

すぐに亀に追い付いたが、亀を追い越そうとしたときに足元の亀を見失

って踏んづけてしまった。アキレスは亀の甲羅で足を滑らせ体勢を失っ

て翻筋斗(もんどり)打って倒れ込んだ。そして、

「あっ!痛ったー!」

不死の体を持つアキレスは踵(かかと)を押さえて転げ回った。

 アキレスは生れた時、母が彼を不死の体にするために冥府を流れる川

に息子を浸したが、母はアキレスのかかとを掴んでいたためにそこだけ

は水に浸からず、かかとだけ不死とならなかった。

 すると老いた亀は後ろを振り返って、

「よ若いの、前ばかり見てないで足元を見なきゃあ」

つまり、アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。

それを遠くから見ていた敵軍の王子はしばらく考え込んだ後、

「そうか!アキレスは踵が弱いのか」

と言って手を打った。

 後に、不死の体をもつアキレスはその弓の名手である王子に、あのト

ロイア戦争で唯一の弱点である踵を射られて命を落とした。

                          (おわり)

 


「アキレスと亀 異聞」

2017-11-05 16:48:07 | 短編

 

         「アキレスと亀 異聞」


 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスは

すぐに亀に追い付いたが、亀を追い越そうとしてはたと立ち止まった。

「えっ!どこ?」

アキレスは亀の足跡をたよりに駆けて来たが、亀に追い付いた途端に広

い荒野の何処を目指して駆ければいいのか分らなかった。アキレスは仕

方なくのろい亀の後をトボトボとついて行くしかなかった。つまり、ア

キレスは亀を追い越すことが出来なかった。それを遠くから見ていたゼ

ノンはしばらく考え込んだ後、

「そうか!」

と言って手を打った。           

                          (おわり)