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【 2017年2月27日 】 京都シネマ
朝鮮の南北境界線を意図せず越えてしまった一漁師の苦難の物語である。北朝鮮と南の韓国-国家体制から生活様式、人々の考え方や価値観がまるで違う2つの体制から、苦渋の選択・決断を迫られる何の力も持たない一個人。「金正男」が暗殺された直後のこともあり、北朝鮮の非道ぶりだけがあぶり出され取りざたされる昨今だが、”南”にも問題がないわけではない。いろいろな問題を考えさせられる。
【ストーリ】はこうだ。
北朝鮮の寒村で、妻子と共に貧しくも平穏な日々を送る漁師ナム・チョル。その朝も、唯一の財産である小さなモーターボートで
漁に出るが、魚網がエンジンに絡まりボートが故障。チョルは意に反して、韓国側に流されてしまう。韓国の警察に拘束された彼は、
身に覚えのないスパイ容疑で、執拗で残忍な尋問を受けることに。一方、チョルの監視役に就いた青年警護官オ・ジヌは、家族の元
に帰りたいというチョルの切実な思いを知り、次第にその潔白を信じるようになる。そんな時、やはりスパイ容疑で捕えられた男が、
チョルにソウルにいる娘への伝言を託して、自ら舌を噛み切り息絶える。やがて、チョルを泳がせようという方針から、物質文明を
極め人々が自由に闊歩する、ソウルの繁華街に放置される。街を彷徨う彼は、家族を養い弟を大学に入れるために身を売る若い女性
と出会い、経済的繁栄の陰に隠されたダークサイドに気付く。何とか探し出したかの男の娘に伝言を告げ、ジヌが待つ場所に戻る
チョル。ところが、街中のチョルの姿を映した映像が北に流れ、南北関係の悪化を懸念した韓国当局は、チョルを北朝鮮に送還する。
資本主義の誘惑を退け、晴れて祖国に帰って来たチョル。だが、彼を待ち受けていたのはいっそう苛酷な運命だった。
-『公式サイト』より抜粋
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国境線(南北境界線)近くでいつものように漁をしていた男の船がエンジントラブルで潮に流され境界線を越えようとする。
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【 北朝鮮国境警備隊 】
それを見つけた北の警備兵が狙撃しようとするが、それを咎める兵士の制止ですんでところで発砲を免れる。
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そのまま潮に流られた漁師ナム・チョルは南の警備兵につかまる。北朝鮮からやってきた得体のしれない者は、《南》の公安当局からすれば当然《疑わしき人物》である。単なる《脱北者》なのか、あるいは《北》が送り込んだ《スパイ》ではないかと疑いの目をかけられ、拷問にかけられる。
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【 取り調べ 】
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その当人が、「意に反して南に来てしまったから帰してくれ。」と言っても簡単には受け入れられない。
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しかしこちら側でも、その軌道を逸したやり方に異議を唱える者がいる。若い警護官のオ・ジヌである。《北》が非道の独裁国家で《南》は民主的で自由な国という平板な対立構図でなく、実際は微妙なバランスの上に緊張関係が乗っているということが、この後にも描かれている。
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ナム・チョルは故国に帰りたいと必死に訴えるのだが聞き入れられない。逆に、《独裁国家に送還することはできない》という一面的価値観からくる勝手な判断を押し付ける。それでもナム・チョルは故郷に帰りたいというので、《繫栄した街》を見せて何とか《心変わり》をさせようと企む。
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押し寄せてくる情報を何とか払いのけようと、頑なに眼を閉じようとするが、押し通すことはできない。
しかし、そこで彼が見た物は《資本主義で繁栄した豊かな国》ではなく《見せかけの自由の下であえぐ人々の姿》であった。
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【 救った女性と 】
共産主義体制が世界的に崩壊した現在にあって自分たちは今、資本主義世界が唯一の勝者のように振舞っている社会を見ているが、それは表だけの見せかけの世界のようにも思える。
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テレビに映る「金正恩」の姿を見ては直立不動に姿勢を正し、最敬礼する様子を見ていると、自分らには想像を超える北朝鮮人民の理解しがたい精神構造の壁を感じるが、一方では独裁政治の影響も恩恵もあまり届かない秘かな寒村で、親子仲睦まじく慎ましやかに暮らす《幸せ》はどこの国にもあるのだろうなと感じる。
崩壊してしまった「フセイン政権」下の人民にも、シリアの「アサド政権」も下でも、報道される《めちゃくちゃな政治》の外に、今では押しつぶされてしまった《小さな幸せ》があったのではないか。今の日本にはない《人民の生活を支える制度的なよい面》もあったのではないか。それを、帝国主義の一方的価値判断で、《大きな悪》も《小さな幸せ》も一緒くたに【爆撃】で潰してしまうのは、取り返しのつかない【最大の犯罪】であるように思う。
〇 〇 〇
キム・ギドク監督の映画は以前に『プンサンケ』や『嘆きのピエタ』を見ているが、今回の映画が自然な展開で分かりやすく説得力があり一番良かった。
それにしても北朝鮮は不可解な国である。『家族の国』、『レッド・ファミリー』、最近では『将軍様 あなたのために映画を撮ります』を見たが、最近のミサイル実験や核開発問題を考え合わせてみても、本当に《めちゃくちゃなこと》をやってくれる国で、許しがたいが、【悪の枢軸】だけを強調する《報道の一面性》も考慮に入れなければならない。
いずれにしても、一方的な価値観を力づくで=暴力で押し付けても何も解決しないことは肝に銘じるべきである。
自国の将来はその国の人民が自分らの手で変えないことには、何も変わらない。
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