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「品位ある資本主義」-EU経済の研究者が日本の現状を諭す

2007-04-18 00:37:31 | お薦めの本
 のっけからケチをつけるのは気がひけるが、敢えていうと、「品位ある資本主義」というタイトルは、自分には一見形容矛盾に聞こえる。品位と資本主義とはそもそも相容れないものだと。

 だから、買って読むのに多少躊躇したが、本文を読み進めていくとその気持ちは霧散した。
 現代日本の問題点がくまなく的確に分析されて、多くの点で納得出来るし全くその通りだと思う。

 第一章はお見事だ。品位を失った日本経済の醜態が簡潔にかつ具体的に描かれている。思わず拍手!

 第一章で語られている内容は、少ない紙面の中にもかかわらず、日本経済の病巣の全般にメスを入れ、問題点をわかりやすく詳細に指摘する。納得と同感の連発。

 JR西日本の脱線事故から始まり、耐震強度偽装事件、アメリカ産牛肉の輸入再開とその直後の顛末、官僚の天下り問題とそれに関連した防衛施設庁の元職員の談合事件、等々。

「・・・立て続けにおこった経済事件の背景には、経済改革の名のもとに、金儲け一辺倒のアメリカ型市場原理主義が導入されるとともに、徹底的な金融自由化や規制緩和・撤廃が進められたことにあります。」
全くその通り! 同感です。

 「ものづくりからサービス経済へ」の節では、

「公共投資という利権を独り占めしてきた最大派閥と犬猿の仲にある派閥から首相が出たので、最大派閥の利権を取り上げて、力をそぐためだったからです。」

と、からくりを示しその結果地方経済も切り捨てられたと断罪している。昨年の郵政民営化法案可決もその延長線にあると、私も納得。
 2005年9月の総選挙での自民党の圧勝に関連して、「庶民に増税・企業に法人税減税等、庶民の犠牲のうえに企業と金持ちの金儲けに公然と政府が手をかす」のに、「でも、国民の多くは、それを支持しました。・・・」「それをてこにして、、自民党は、『小さな政府』の名のもとに、企業に儲けさせ、マネーゲームを推奨し、ほんの一握りの『勝ち組』と圧倒的多数の『負け組』を生み出す経済システムに変えていく」動きを強めていると警告する。

 
 「『小さな政府』の欺瞞」の節では

 小泉首相は「民のできること民に」と叫んでいるが、耐震強度事件を例にとり、「民間企業は金儲けのために仕事をしているので」検査・確認業務に手抜きをしたり仕事をもらうため手心を加える可能性の高いことを指摘し、「経済構造改革や『小さな政府』という美名のもとに、政府は、民間企業にどんどん金儲けの機会を与えている」と。その結果、しわ寄せを受けるのはマンション住民であったり、一般庶民であるのだ。


 近年、自分らの周りでも、介護等の福祉事業や公共サービスまでが自由競争の名のもとに民間に開放され、効率化の嵐にさらされ、職場環境が悪化している。迷惑するのは利用者だ。


 以下問題は多岐にわたり、どれも深刻だ。


 第二章では、悪の政策の手本であるアメリカの金儲け万能主義がが分析させている。この章もなかなか面白く参考になった。

 第三章は、資本主義と職業倫理との関連を歴史的にひもといたもので、本題の「品位ある資本主義」の根拠を得ようという章だ。なるほどこういう見方もあるのかとそれなりに納得する。

 第四章は、ドイツを中心としたヨーロッパの参考とすべき先進例を紹介している。以前読んだ「豊かさとは何か」と共通するフィールドだ。

 第5章が面白い。突飛とも思える提案もあるが、こんなのが出来たらいいだろうなという具体的政策がいっぱい!


 「一生懸命にがんばったひとが、『生まれてきてよかった』と満足して人生の最期を迎えられるような日本にしたい。」

 という台詞は、「この人が、ぬけぬけと、よくもこんなことを言うか!」と腹立たしい思いとともに、他の場面でも耳にするが、

 著者がこの本の冒頭の「はしがき」で述べている、

「・・・という願いをこめて、この本を書きました。」

 という言葉が、真剣で率直に、嘘のない本当の、筆者の気持ちであることを、読み終えた後、しみじみと感じさせてくれる、いい本でした。
 

  「品位ある資本主義」(相沢幸悦著、平凡社新書 2006年8月刊)

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