「硫黄島からの手紙」

２００６年１２月２５日　（京都ＭＯＶＩＸ）

　悪くはないが、やはり外国人が日本を描くと演出等に違和感を感じる。「ラスト・サムライ」の時は、違和感を通り越してあまりにめちゃくちゃな描写に吐き気をもよおすほど腹が立ったが、それほどでないにしても「ちょっと違うんじゃない」と思える場面が見受けられたのが気になった。

　栗林中将の着任したときに乗ってきた軍用機の迷彩色の柄がアメリカ的だったりとか、食器がみな新しく、型がいびつになっていないのとかはこの際、置いておくとしても、新入りの一兵卒が司令官にあんなに気軽に話しかけられるのか疑問だ。
　
これは単に物語だからと済ませられる問題でなく、戦前の天皇制軍隊の本質にかかわる問題だから、簡単に無視できない。西中佐もきれいに描かれすぎているような気がする。


　映画「戦争と人間」（山本薩夫監督）や「人間の条件」（小林正樹監督）、「ひめゆりの塔」（今井正監督）と見比べるとやはり物足りない。天皇の軍隊の非人間性、戦争の残虐さ、ましてや全員玉砕したと伝えられた硫黄島決戦での悲惨さが充分描かれているとは思えない。どこか民主的で人間的に味付けされているような。

　反面、今までアメリカをはじめとした連合国は自由と正義の味方、野蛮な日本を救う解放軍であって、捕虜を虐待するなど有り得ない・「捕まると虐殺される」というのは日本側の単なる思いこみだ、という従来の『常識』を破って、アメリカだって捕虜を虐殺することもあるということを、映画の中で描いて見せたのはさすがイーストウッド監督だと思った。


　反戦映画というと、いつも思い出すのは「西部戦線異状なし」（ルイス・マイルストン監督。１９３０年）である。やはり名作だ。

　それには及ばないにしても、いい映画だった。