安部公房は好きな作家で、文庫になっているものは全て読んだ。代表作「砂の女」を読むのは3回目。
砂の女 (新潮文庫) | |
安部公房 | |
新潮社 |
昆虫採集好きの教師が、砂の中に住むハンミョウを探しに、ある海辺の近くの砂丘に来る。
そこには奇妙ながあり、どの家も深い穴の中、砂に埋まった状態で建っている。
日が暮れて帰途につけなくなった教師は、そのに一晩お世話になろうとする。
の老人から案内されたのは、ある女性が一人で住む穴の底の一軒家。
縄ばしごを使って20mほど砂の壁に伝わって降り、家に入る。
砂が家の中に入り込んできて、食事も睡眠もままならない状態の中、翌朝を迎える。
すると、あったはずの縄ばしごが取り去られており、男はその場に取り残される。
の者たちによって、男は女と共に暮らし、家が砂で埋まらないように砂掻きをすることが期待されていたのだ。
女は砂を掻き出すのを日課として、文句も言わず働く。
男はあらゆる方法を使って逃げ出そうとするが、砂の壁を登るのは困難でなかなか逃げられない。
そして・・・・。
側から見れば理不尽で不自由な生活でも、その中に暮らすものはそれが普通になり、そんな生活の中から希望を見出そうとする。
何かを目的とした労働ではなく、労働そのものが目的であった女もやがて希望を見つけていく。
砂はどうにもならない無機的なもの、じっと止まっているわけではなく、流動しているものとして書かれているが、砂は実は時間なのかもしれない。
比喩や観念的な表現が多いが、物語の筋そのものは分かりやすい。
作家阿刀田高氏が「小説の一番の面白さは、謎が提示され、それが深まり、最終的にそれが解けてゆくことだが、この作品はその構造を持っている。砂がもう一つの主人公になっていて、砂は日ごとに変わり、独特の模様を描き、無機的である。生きているような様相を持っているし、何もないように見えながら、生命体を隠していたりして、非常に不思議な存在の砂に目をつけたいうところが、この小説の面白さじゃないかと思う。人間の自由とは何なのか? 自分たちが接している日常とは何なのか? と、根本から問いかけるような側面があって、男と女の根源にも問いかけるようなことも持っている。これだけ小説の望ましい姿が詰め込まれている作品は、なかなか見当たらない。このぐらいの小説を生涯に一つ書けたら、死んでもいいぐらいに惚れている」と評している。
20数カ国に訳された名作、夏の1冊にオススメです。