天平の甍
天平の甍 (新潮文庫) | |
井上靖 | |
新潮社 |
井上靖は好きな作家で、特に中国を舞台にしたものは全部面白い。
中でも「天平の甍」は最高傑作だと思う。20代前半に読んで、大変感動した記憶がある。
再読して再び深い感動を味わうことができた。
今から1300年ぐらい前、遣唐使として、唐に渡った四人の僧を中心に、それに関わるいろんな人の生き様を書いた歴史小説。
唐に渡った人は皆、命がけですごい経験をしているのに、それを遠くから見るように淡々と書いているので、読む方はその分想像力が膨らみ、歴史のロマンを強く感じることができる。
四人の僧の中の一人、戒融が言った言葉が印象に残っている。
「この国では雲が流れるように、黄河の水が流れるように難民が流れている。まるで自然現象の一つのようじゃないか。経典の語義の一つ一つに引懸っている日本の坊主たちが、俺には莫迦に見えてきた。きっと仏陀の教えていうものは、もっと悠々とした大きいものだと思うな。黄河の流れにも、雲の流れにも、あの難民の流れにも、結びついたものだと思うな。」
井上靖が言いたかったことはこれだと思った。
読めば読むほど味が出る。
枯れた文章の中に深い情感があるスルメのような味わいの小説。
日本人必読図書だと思います。