浄水セット,逆浸透2型(じょうすいセット,ぎゃくしんとう2がた)は、陸上自衛隊の後方支援部隊に配備されている水道施設の無い場所での飲料水の造水を行う需品科装備である。
従来の浄水セット,逆浸透型では淡水しか処理できず、災害時に土砂の流入で淡水が使用できない場合や島嶼部など淡水が不足する場合には海水も浄化する装置が必要とされた。そのため、2010年度の開発機、2013年度の量産機ともNECファシリティーズが落札し、2014年度に装備化された。本セットでは淡水だけでなく海水、ヘドロの堆積した沼地、汚染水を含めたあらゆる水をろ過して飲料水にできるようになった。また、-30℃から+60℃までの外気温で運用可能。
3 1/2tトラックの荷台に発電機と浄化装置、ポンプやホースなどの必要機材が固定されていて、水源さえあれば電源がなくても浄化できる。なお、トラックで行けないところには大型輸送機やヘリコプターで輸送して運用できる。国際平和協力活動や災害派遣で活用される。野外炊具や野外入浴セット、野外手術システムと併せて使用すると大きな効果を発揮する。
浄水セット,逆浸透型2型の構成
水処理装置
ディスク式除濁(長毛ろ過)装置:ごみ、砂などの除去
限外ろ過器:微粒子、細菌などの除去(原水の濁度:200mg/l以上に対応)
逆浸透ろ過器:溶解性物質の除去(フィルター構成:0.01μm)
揚水装置:揚水ポンプ
貯水装置:貯水タンク
車体部:3 1/2tトラック
その他発電機、水質検定セット、凍結防止器材
浄水セット,逆浸透型2型の能力
浄水能力
淡水70m3/日以上(約35,000人分)
海水30m3/日以上(約15,000人分)
揚水能力:揚程18m
揚水量:9m3/h
貯水能力:10m3(5m3タンク×2)
外気温:-30℃~ 60℃で使用可能
分割:3分割可能(ヘリコプターで移動可能)
対強度性:最大重力加速度3Gに耐える
製作:NECファシリティーズ
陸上自衛隊では、有事の際の隊員の生活用水の確保のため、河川水や湖沼水などの自然水を浄化し飲料水として供給する「浄水セット・逆浸透型」と呼ばれる車載式の浄水装置を保有しています。
近年では有事の際のみならず、PKOなどの国際平和活動や東日本大震災などの災害復興支援などでも、隊員の生活用水や被災者が利用する風呂の水などに使われ、今後も活躍が期待される装置です。
浄水セット・逆浸透2型開発の経緯
従来の浄水セット・逆浸透型は、河川水や湖沼水などのいわゆる淡水しか浄化することができず、近年問題となっている島嶼(とうしょ)部の防衛力強化や、災害時には土砂の流入により河川水が原水として使用できないなどの問題を受け、海水も浄化できる新たな浄水セットの開発が望まれていました。
そうした背景のもと、2010年に浄水セット・逆浸透型の後継機種の開発機の入札が行われ、NECファシリティーズがその開発機を落札し、製作期間約 9カ月の間、試行錯誤を繰り返しつつ、無事納入しました。開発機納入後は陸上自衛隊による厳しい試験が実施され、その性能が認められ量産化が決定しました。
浄水セット・逆浸透2型のシステム
浄水セット・逆浸透 2型は陸上自衛隊が所有する3.5tトラックの荷台に、浄水装置の運転に必要な電気を供給する「発電機」と、河川水や海水などの原水を飲料水に浄化する「浄水装置」を固定したものです。
浄水装置は、原水中の濁質を除去する「前処理ろ過器」と、溶解性成分を除去する「逆浸透ろ過器」で構成されており、その主要技術はNECファシリティーズが NECなどの電子デバイス業界で培った純水製造技術を応用したものです。
(1)浄水性能と重量
陸上自衛隊が活動する場所には制限が無いため、河川や海のみならず、ヘドロが堆積した沼地や汚染された水からも飲料水を得られるよう要求がありました。更には、トラックに搭載する浄水装置の重量は発電機も含めて3.5t以下という条件もあり、装置の設計は小型かつ軽量で高性能を目指す必要がありました。
溶解性物質を除去する技術はトラックに搭載する以上、小型・軽量でなおかつ除去性能の良いものに限定されるため、「逆浸透ろ過膜」を採用しました。逆浸透ろ過膜の技術は日東電工株式会社、東レ株式会社といった日本国内の膜メーカが非常に高い技術力を持っており、海外においても高いシェアを誇っています。こうした国内メーカのほか逆浸透ろ過膜を扱う海外メーカも含めた各社製品を検証し、除去性能、透過水量、価格などを比較して、最適な膜を選定しました。
また、逆浸透ろ過膜は溶解性成分まで除去できる反面、非常に汚れやすく少しの濁質が混入するだけで目詰まりを起こしてしまいます。そのため、逆浸透ろ過膜を長持ちさせ、最大限の性能を発揮させるためには、前処理装置の選定が非常に重要でした。今回は.01μmという非常に細かい細孔を持つ「限外ろ過膜」を採用しました。これにより、濁質のみならず細菌まで除去し、風呂などの生活用水の場合は、限外ろ過膜を通すだけで使用できるようにしました(淡水を原水とした場合のみ)。最も苦労したのが、限外ろ過膜の前処理装置です。陸上自衛隊の要求では原水の濁度(濁質量を表す指標)濃度が200mg/l以上とされており、この水をそのまま限外ろ過膜に通すと、負荷が大きすぎて限外ろ過膜が目詰まりを起こしてしまいます。そのため、事前に高濁質の粗取りを行う必要があります。しかし、従来の一般的な濁質除去装置は大型で、材質が鉄やステンレスのため重量も重く、今回の浄水セットの構成としては使用できませんでした。そこで限外ろ過膜の前処理となりうる装置を調査し、「ディスクフィルタ」と呼ばれる樹脂製の小型かつ高性能のろ過装置を選定しました。実証試験を経てその性能を確認し、限外ろ過膜の前処理装置として採用しました。
このように装置の小型・軽量化を進めましたが、それでも3.5t以下という重量の制限は非常に厳しく、ボルト1本、ナット1本まで重量を計算してシミュレーションを行うことで、要件を満たすことができました。(2)耐環境性前述のように、浄水セット・逆浸透 2型はあらゆる場所での使用を想定しているため、非常に高い耐環境を求められます。その中でも最も厳しいのが使用温度条件であり、外気温 -30℃~ 60℃でも運転が可能という要求があります。一般的に機器メーカが推奨する外気温には「保管温度」と「使用温度」があり、保管温度は -30℃レベルまで保証しているものの、使用温度については多くが0℃以上とされています。そのため、浄水装置を運転する前に装置周辺の温度を0℃以上まで上げる必要がありました。浄水装置を搭載しているトラックには幌が付いており、幌を閉めると密閉空間となるため、温風機などの暖房機器を搭載して温めることで装置周辺の温度を上げることができました。今回、一番の問題となったのが、装置の配管内に溜まる水が凍結することでした。一度凍った水を溶解させるには、非常に高いカロリーと時間が必要となるため、可能な限り配管内の残水を減らす必要があります。浄水装置は構造上、配管が複雑に入り組む形状となり、また、10mm、20mm程度の細い配管も多いため凍りやすい構成となっています。配管の形状を考慮しながら適切な個所に液抜きバルブを設け、かつ、短時間で的確に水を抜けるよう、圧空を用いて残水を吹き飛ばす機能を設けるなど工夫を行いました。また、残水があると装置の重量にも影響が出るため、残水チェックを実施しながら液抜きバルブの場所を変更するなど改良を重ねました。
(3)耐強度性
浄水セット・逆浸透 2型の浄水装置部は、3分割できるようになっています。その理由はトラックが辿りつけないような山間部などでの使用を想定し、ヘリコプターで運搬できるようにするためです。そのため、ヘリコプターが浮き上がる瞬間の最大重力加速度である3Gに耐えうる強度が求められました。前述の装置重量の制限もあるため、可能な限り補強を少なくしながらも強度を保てるよう、装置のフレーム設計には3次元解析による強度計算を用いて必要な補強位置を決定しました。
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