JR九州813系電車
813系電車(813けいでんしゃ)は、九州旅客鉄道(JR九州)の交流近郊形電車。
421系・423系や715系など、日本国有鉄道(国鉄)から承継した近郊形電車の取替えを目的として1994年(平成6年)3月から製造されている。
九州北部向けの近郊形車両として811系に代わって増備され、811系と併用することを前提としているが、JR九州としては初のVVVFインバータ制御(東芝製GTOサイリスタ素子)が採用されたほか、車両デザインを水戸岡鋭治率いるドーンデザイン研究所が手掛けたため、外観・車内・搭載機器ともに811系から大幅な変更がなされた。水戸岡が近郊型電車のデザインを手掛けたのは本形式が初となる。また、長期にわたって製造されていることから、製造年によって細部が異なっている。登場当初は、811系が4両固定編成であったため編成の自在度を上げることを目的として2両編成であったが、1995年から3両編成が加わり、しばらくこの二種の編成が混在していたが、2003年(平成15年)までに2両編成に中間車を組み込み、全編成が3両編成に統一された。長期にわたって製造されていることから、製造年によって細部が異なっている。
1994年から2009年にかけて13次にわたり3両編成×85本の255両が製造されたが、増備途中に事故廃車が発生したため、全車が同時に在籍したことはない。また、2001年以降は817系と並行して増備が続けられた。
811系、815系、817系との相互連結も可能なため柔軟な運用が組めるのが特徴で、長編成での運転が多い鹿児島本線や日豊本線では811系、817系3000番台と、一時的に長編成が必要な福北ゆたか線(筑豊本線・篠栗線)、長崎本線では817系とそれぞれ併結運転されることも多い。
車体
車体はビードプレス処理の軽量ステンレス製幅広車体であり、片側3箇所に両開き客用扉が設置されている。乗降扉には扉数を表す数字が記されている事が特徴である。停車中は扉の選択開閉(ドアカット)が可能である。窓配置は811系と同じく扉間3枚であるが、開閉可能な窓(下降式)は扉間の中央にある窓と車端部の窓のみで、その他は固定窓である。
車体の大部分は無塗装であるが、側面に飾り帯を配していたこれまでのステンレス製車両とは異なり、飾り帯を廃してJR九州のロゴマーク(英社名)を配置した。側扉は室内・室外とも赤色に塗装されている。また、ドーンデザイン研究所がデザインしたJR九州車両に共通的な特徴であるが、車体側面にロゴ文字が入り、車両番号表記は1文字ずつ正方形の枠で囲っているスタイルである。前頭部は普通鋼製で、窓下にもガラスを取り付けている。縁と幌枠及び歩み板は側面扉と同じ赤色に塗装されている。貫通扉は黒色で、前述の英社名ロゴおよび、国鉄時代から続くつばめマークをステッカーで張り付けている。前頭部の他の部分は黒色が配されている。福北ゆたか線用車両は前面部が黒、前頭部が銀色、貫通扉のステッカーはCTロゴとなっている。
前面には貫通扉が設けられている。非常用の位置づけであった811系と異なり貫通扉を常用する構造になっており、貫通幌および幌枠、歩み板などを装備している。分割併結時の作業性向上のために811系で搭載された自動解結装置のほか、新たに半自動式の幌装置が取り付けられた。装置の使用は1995年4月20日に行われたダイヤ改正時より使用されている。貫通扉を常用とする815系や817系と連結する際には各編成間の貫通が可能であるが、非常用の811系編成と連結する際は貫通とはならない。
前照灯(電球)・および尾灯(LED)は811系同様にコンパートメント化されている。特筆事項として、JR九州の近郊型・通勤型電車では唯一フォグランプを装備している。フォグランプは前照灯の内側に設置され、前照灯とは独立してオンオフが可能である。しかし、フォグランプの使用頻度が少ないため、200番台以降ではフォグランプは廃止された。200番台以降ではプラスチック板のみのダミーに置き換えられている。200番台以降ではプラスチック板のみのダミーに置き換えられている。
先頭の排障器(スカート)は増備途中から大型化(乗務員室昇降ステップ組込み)され、2005年7月にR003編成を最後に交換が完了している。
主要機器
架線からの単相交流20kVを主変圧器で降圧した上で、サイリスタ位相制御で直流に変換した後、VVVFインバータで三相交流電源とし、その交流電源で主電動機(MT401K)を駆動する。
M-TAユニットを採用し、M車(クモハ813・モハ813形)にはVVVFインバータ・補助電源装置、TA車には主変圧器(TM401K)・サイリスタ位相制御装置(RS405K)・集電装置が搭載される。設計時から、ユニット間に付随車を挟んで3両編成の組成も可能であった。
主回路制御方式は、GTO素子によるVVVFインバータ(PC400K)1基で1基の電動機を制御する、1C1M構成のVVVF制御である。インバータ装置は東芝製である。本形式は、これまでの抵抗制御式車両に比べて大きな性能を持つために消費電力の増加と地上設備への負担が懸念されたため、主回路装置には1次電流抑制機能を持たせ、車両性能の負担を最小限に抑えると共に負荷電流の低減を図っている。それにより、415系の77パーセントの消費電力を実現している。
集電装置(PS400K)は、下枠交差式パンタグラフで、制御車のクハ813形に設置している。
台車はヨーダンパ付き軽量ボルスタレス台車のDT401K(電動車)、TR401K(制御車・付随車)が採用されている。車輪径を810mmに縮めたことで、床面高さは811系より55mm低い1125mmとなった。
主電動機にはJR九州では初めて三相誘導電動機を搭載した。主電動機出力は150kW、歯車比は1:6.50で、1M2T編成における起動加速度は2.0km/h/s、最高速度は120km/hである。また、6.50の歯車比はこの形式以降に製造された近郊形・通勤形車両に採用されている。
補助電源装置は、3次巻線方式の静止形インバータを搭載している。セクション通過時の瞬間停止を防止するために直流100ボルトのシール鉛バッテリーはフローティング充電方式を採用している。異常時に6両までの給電に対応するため、バッテリー容量は15kVAとしている。空気圧縮機は、誘導電動機駆動式のものを搭載する。
ブレーキ装置は電気指令式で、811系と同様に発電ブレーキを搭載する。基礎ブレーキは電動台車がユニットブレーキによる踏面片押し式、付随台車が1軸1ディスクと踏面片押し式ブレーキの併用である。VVVFインバータ装置との電空協調のため、ブレーキの制御装置はマイコン制御による受量器方式となっている。
消費電力は0番台-300番台において、415系の約77パーセントと、同様の駆動方式である883系の76%を超え、JR化後の車両の中で最も消費電力が大きい車両となった。これは、回生ブレーキを装備しないこと、GTOサイリスタを制御する電流がすべて熱損失になること等に起因する。
1000番台・1100番台については、817系3000番台と同等の機材のため、消費電力については改善されている。
車内設備
811系と同等の車内設備とするため、座席は転換クロスシートが採用されている。座席モケットは200番台までは赤色と黒色の豹柄模様であったが、300番台以降は茶色と黒色の市松模様となった。座席の枕の部分は独立している。優先席は枕の色が他の座席と異なっている(通常席:黒〔赤系〕・こげ茶色〔茶系〕、優先席:灰色)。さらに2006年末より、視認性を高めるため「優先席」表示がされた白色の座席枕カバーが装着されている。壁はモノトーン調で、床、貫通扉は青色に塗装されている。日本海側のドアの上にLED車内案内装置が取り付けられており、近郊形である事を理由に内容は次駅案内のみとなっている。南福岡車両区及び、直方運輸センター所属車では英語表記も行われる。ドア上にはドアチャイムも設置している。
415系1500番台と窓ガラス寸法を共通にしたため、811系と同様に新製時から座席と窓配置が合っていない。
トイレは上り門司港側制御車のクハ813形に設けられている。循環式で、臭気対策としてシャッターを設けている。便器は0・100・200番台が和式、300・1000・1100番台が車椅子対応の洋式である。811系まではトイレは鹿児島側に設置されていたため、従来車とは異なる位置となった。
大形くずもの入れを車端部に設置しているのも811系と共通するが、中間車では811系の2箇所(両端ドア部)に対し本系列では1箇所(八代側車端ドア部のみ)である。
冷房装置は、811系と同様に集中式の単相クーラーを1基 (AU403K - 42,000kcal/h) を屋根上に搭載する。811系のものと形式(AU403K)は同じだが、AU75Gタイプのキセの上にメッシュ状のカバーが装着されているため、外観は異なる。一部にカバーが撤去されている車輌があり、それらではAU75Gタイプのキセが見られる。暖房装置は腰掛け下にあり、運転室後部の袖仕切りに薄型温風ヒーターを設置して暖房効果を高めている。AU75Gタイプのキセが見られる。暖房装置は腰掛け下にあり、運転室後部の袖仕切りに薄型温風ヒーターを設置して暖房効果を高めている。
なお、2021年のダイヤ改正以降、200番台と1100番台の一部の車両について、扉間の転換クロスシート5列のうち、両端の2列を撤去し立席スペースを確保する改造が行われており、車両番号が「原番号+2000」となっている。
形式
クモハ813形(0・100・200・300番台)
サハ813形(100・200・300・400・500番台)
クハ813形(0・100・200・300・1000・1100番台)
クハ812形(1000・1100番台)
モハ813形(1000・1100番台)
編成は0・100・200・300番台が八代側からクモハ813形(Mc) - サハ813形(T) - クハ813形(TAc)、1000・1100番台が八代側からクハ812形(Tc') - モハ813形(M) - クハ813形(Tc)である。かつて存在した2両編成は八代側からクモハ813形 - クハ813形の組成であった。
車両番号は基本的には編成毎に同じ番号で揃えられている。また、編成自体にも「Rxxx」の編成番号が与えられている。「R」は813系であることを示し、「xxx」は車両番号に対応している。後から組み込んだ中間車については、編成番号と車両番号が一致していない(400番台車については、下1桁は併結相手の0番台〔=編成番号〕と合わせてある)。車両に表示される編成番号は「Rxxx」だが、正式な編成番号は南福岡車両区配置車が「RMxxx」、筑豊篠栗鉄道事業部直方車両センター配置車が「RGxxx」である。なお、1994年の1次車落成時点では編成番号が「Dxxx」だったが、1年程度で現行の「Rxxx」に変更され、現在「D」は485系を表す記号とされている。
運用
1994年に落成した0番台9本は南福岡車両区に配置された。当初は421系が配置されていた大分電車区(現・大分鉄道事業部大分車両センター)の運用をそのまま引き継いだため、常に2本の編成を連結した4両単位で使用され、専ら普通列車で運用されていた。しかし翌1995年に100番台が製造されると、0番台も含め運用が大きく変更され、811系との併結運転を開始するとともに、快速列車にも使用されるようになった。また、同年のダイヤ改正で長崎本線(鳥栖 - 肥前山口間、定期列車としての長崎駅までの運用実績あり)および日豊本線での運転が開始された。その後も増備が進められ(配置は全て南福岡区)、運転区間がさらに拡大されている。
1997年には200番台の大量増備があり、423系の置き換えだけではなく、北九州・福岡都市圏の鹿児島本線普通列車に充当されていた415系の運用も置き換えたため、同年11月改正では、同都市圏の鹿児島本線は日中のほとんどの普通・快速列車が811系・813系の運用とされたが、同時に日豊本線では、日中のほとんどの普通列車が415系での運用とされ、本系列は朝・夕方以降の運用が中心とされた。
また、715系の老朽取替えのために福岡都市圏だけでなく長崎本線や佐世保線での運用も一時期増加したが、2001年のダイヤ改正で817系によるワンマン運転を開始して以降、同線での本系列の運用はごく一部に限られている。長崎本線系統の運用縮小と前後して、本系列はおおむね福岡都市圏の利用客の多い区間に使われるようになったことにより、付属車を組み込んで2003年までに全て3両編成となった。これに伴う鹿児島線系統の列車両数は増加傾向が見られたほか、一部は福北ゆたか線向けに直方運輸センターへ転属した車両もある。
その後鹿児島本線門司港 - 荒尾間のうち、小倉 - 折尾間、鳥栖駅以南の普通列車の一部が817系などに置き換えられたが、813系の運用傾向・範囲に大きな変化はなく、当該区間では終日811系・813系の運用がされている。2009年3月改正では長崎本線運用が減少し(肥前大浦駅 - 長崎駅から撤退、415系に置き換え)、日中の日豊本線での運用が増加している。
過去には熊本地区での運用があったが、2008年3月改正で熊本地区から撤退、より輸送力のある415系1500番台に置き換えられた。
南福岡車両区所属の車両は、日豊本線のワンマン運転開始に伴い、日豊本線(小倉 - 中津)を3両で運用する場合は専らワンマン対応車両(1000・1100番台)が充当されるようになった。ワンマン運転できる編成は20編成あり、日中は同区間を中心に運用されている。 直方運輸センター所属の車両は導入当初、福北ゆたか線では整理券方式の運賃収受を行っていたために昼間での運用がなかったが、2006年3月改正で駅での運賃収受に変更となったためにほぼ終日運用に入ることが可能となった。2015年現在では、主に以下の路線で使用されている。
その他
全番台に共通するが、先頭の排障器(スカート)が大型化(乗務員室昇降ステップ組込み)され、2005年7月にR003編成をもって旧来の四角い断面のものは消滅した。
2016年には中間連結部分の転落防止幌を装備をした車両が登場し、随時取り付けが行われている。
南福岡所属の100番台についても2005年秋頃より車外スピーカーの設置が進められ、2008年秋までに完了した。
R001 - 007, 009, 102 - 113,R014 - 019, 201 - 236はATSのチャイム音を止める警報持続スイッチが運転席上部に移設されている。ただし、300, 1000, 1100番台(9次車以降)は、落成時点から運転席上部に設置されている。
直方運輸センター所属の編成は、817系に準じてドア付近にはCTステッカーが、前面の貫通扉には「Commuter Train 813」のロゴ等が入れられている。
0,100番台にあった車内放送用オルゴールは、車内放送用マイクに支障する故障が頻発したため撤去された。
2010年頃には運転席の右上にATS-DKの表示機が取り付けられた。これにより従来のATS-SKに加え、連続パターン照査による速度照査がより強化された。
広告車両(ラッピング車両)の例として、2004年にR214に「コカ・コーラ C2」のラッピングが、2011年にR222・2012年にR206に「人吉球磨広域行政組合」のラッピングが、2013年にR218に「スペースワールド」のラッピングが施された。811系のような塗装変更は行われず、側面の窓と窓の間にステッカーを貼る形で実施された。
九州鉄道記念館に設置されている811系運転シミュレーターでは、2011年のリニューアルの際、R205編成で撮影した映像を使用している。
運用者 九州旅客鉄道
製造所 近畿車輛
九州旅客鉄道小倉工場(4次車まで)
製造年 1994年 - 2009年
主要諸元
編成 3両
軌間 1,067mm(狭軌)
電気方式 交流20,000V (60Hz)
(架空電車線方式)
最高運転速度 120 km/h (曲線通過+15km/h)
設計最高速度 120 km/h (曲線通過+15km/h)
起動加速度 2.0 km/h/s
編成定員 254人(立席)+144人(座席)=398人 (1000番台)
編成重量 92.7t(1000番台)
全長 20,000 mm
車体長 19,500 mm
全幅 2,985 mm
車体幅 2,935 mm
全高 4,295 mm
車体 ステンレス
台車 ロールゴム式ボルスタレス台車(ヨーダンパ付)
DT401K・TR401K
主電動機 かご形三相誘導電動機
駆動方式 TD継手式中実軸平行カルダン駆動方式
編成出力 150kW×4=600kW
制御方式 サイリスタ位相制御+GTOサイリスタ素子VVVFインバータ制御(0・100・200・300番台)
PWMコンバータ制御+IGBT素子VVVFインバータ制御(1000・1100番台)
制動装置 発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ(0・100・200・300番台)
回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ(1000・1100番台)
保安装置 ATS-SK、ATS-DK、EB装置、防護無線