八木重吉
連作「鞠とぶりきの独楽」より
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ぽくぽくひとりでついていた
わたしのまりを
ひょいと
あなたになげたくなるように
ひょいと
あなたがかえしてくれるように
そんなふうになんでもいったらなあ
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「そんなふうになんでもいったらなあ」という重吉の思いは
なかなかそうはいかない、という苦い現実認識のうえにあります。
現実にはそうはいかない。
さまざまな思わくや打算が入り込んでしまう。
思いがけない受け取り方をされたり
行為の裏を読まれたり。
けれども、芸術的営為というものは
「そんなふうになんでもいったらなあ」という思い以外の何者でもないはず。
「ぽくぽくひとりでついている」という孤独な作業。
しかし、それを「ひょいとあなたになげたくなる」というのが、表現。
「ひょいとあなたがかえしてくれる」というのが、共感。
だとすれば、芸術的営為の根源のすべてが、
この詩の中に描かれているというわけです。