蕪村
鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな
半紙
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「句意」
野分が秋草をなびかせて吹き荒れる中を
軍装の武者五、六騎が一団となって鳥羽殿をさして次々と疾駆していった。
何か兵馬の変でも起こるのか、ただならぬ気配だ。
騎馬武者の去ったあとには、相変わらずすさまじい野分が吹きつのる。
「俳句の解釈と鑑賞事典」
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蕪村の句は、物語的だとよく言われますが
この句などは典型的です。
「鳥羽殿」って何なのかを知らないと、まるで分かりません。
「鳥羽殿」というのは、京都の南、紀伊郡鳥羽(現在の京都府伏見区)に
白河・鳥羽両帝が造営した離宮のこと。
目の前に起きている出来事を題材にしているのではなくて
「保元物語」の記事を元に脚色してつくられていると言われています。
そういうつもりで読んでみると、
まるで映画のワンシーンのような句であることが分かります。
「五六騎」というのがいいですね。
こうやってぼかすことで、
「騎馬」のイメージが「ぶれている」かのようなイメージがわきます。
「野分」は、もちろん台風のこと。
今では、ただただ恐ろしい台風ですが、
こんなふうに描かれると、また格別な趣があります。