文部省唱歌
朧月夜
爪楊枝
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一
菜の花畠に 入日薄れ、
見わたす山の端 霞ふかし。
春風そよふく 空を見れば、
夕月かかりて におい淡し。
二
里わの火影(ほかげ)も、森の色も、
田中の小路を たどる人も、
蛙(かわず)のなくねも かねの音も、
さながら霞める 朧月夜。
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「一」の「におい」は、「(1)あざやかに映えて見える色あい。色つや。古くは、もみじや花など、赤を基調とする色あいについていった。そのものから発する色あい、光をうけてはえる色、また染色の色あいなどさまざまな場合にもいい、中世にはあざやかな色あいよりもほのぼのとした明るさを表わすようになった。(2)人の内部から発散してくる生き生きとした美しさ。あふれるような美しさ。優しさ、美的なセンスなど、内面的なもののあらわれにもいう。」(日本国語大辞典)とありますが、ここでは、(1)の中世以後の用法でしょう。
「二」の「里わ」とは「里のあたり。里の中」の意。「さとみ(里回)を、中古以後、誤読してできたことば。」(日本国語大辞典)
「さながら」は、「全部そっくり」の意。
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この歌は、一番もいいですが、二番もまた素晴らしい。絵のようでいて、なかなか「絵にも描けない」光景です。