青田淳はじっと柳瀬健太の後ろ姿を眺めていた。
物事の先を見通す術に長けた淳は、彼の未来を想像して微かに笑う。
そしていつもの笑顔を浮かべると、淳は自分達のグループを見回して口を開いた。
「うちも無賃乗車は除名かな?」
淳の問いかけに、佐藤広隆が「当然だろ!」と強い口調で答える。
直美と香織は共にビクッと身を強張らせた。何を隠そうこの二人、先学期は雪のグループにて無賃乗車をやらかしたのだった。
「も、勿論です‥心配要りません‥ははは」
後ろめたい二人の顔に、幾筋も冷や汗が流れる。
すると香織は出し抜けに、淳に向かって発言をし出した。ひっくり返るほど大きな声で。
「せ、先輩‥!私が送った資料、見てくださいましたか?!頑張ったんです‥!」
その突拍子もないタイミングに、思わず直美も身を仰け反らした。
しかし淳は動じず、俯瞰するように香織に視線を落とす。
そして先日雪から聞いた、香織についての情報が鼓膜の裏に蘇った。
最近あの子が度々私の服や持っている物を真似して‥
チラ、と机の上に視線を落とすと、携帯にあのライオン人形がついていた。
加えて今日香織が着ている服は、先週雪と会った時に着ていた服と酷似していた。
全てが繋がった淳は、その本心を露ほども見せずニッコリと微笑んだ。
それは相手を警戒させない為の、笑顔という盾。
そして淳は口を開いた。期待を宿した目でこちらを見る香織から、少し目を逸らして。
「ああ、よく出来ていたよ。後の二人もすごく良く出来ていたけどね」
褒められたことで声を上げかけた香織だが、淳がそれとなく他の二人を褒めたことで香織の喜びも中途半端になった。
しかも淳は続けて、
「インターンであまりグルワに参加出来ずどうしようかと思ったけど、
皆が優秀だからきっと良い成績を取れるだろうね」
とグループ全体のことを言及したため、香織は何も口に出来ずに目を点にして会話を聞くだけとなった。
すると淳は香織に向き直り、淡々とこう口にした。
「あ、そうだ清水。君が送ってくれた資料だけど、調査は熱心にやってくれたみたいだが、
主題と合わない資料も結構多かったよ」
香織が淳に送った資料は香織本人からすると会心の出来だったため、淳のその指摘に彼女は飛び上がった。
「ええっ本当ですか?!すすすすいませ‥」
しかし淳は笑顔で首を横に振ると、自己の体験も踏まえた話で彼女をフォローする。
「いや、会計や財務よりもこういったものの方がより曖昧なんだよね。
理論をどういう風に配置するだとか資料の量だとか、その塩梅がハッキリ決まっているわけじゃないから。
俺もよく蛇足を加えて仕損じたりして」
香織は大きく首を縦に振りつつ、淳の話に耳を傾けていた。
すると淳は何でも無い事のように、プリントに目を落としながらこう言った。
「こういうの、雪ちゃんはキレイにまとめるんだけどね」
ネズミを捕る時は、そこにチーズを置けば良い。
さすればおのずと、ネズミはそこに自ら入って来る。
佐藤、と淳は彼に声を掛けた。
「な、何だ?!」
佐藤が幾分驚いているのは、先ほど淳が雪のことを言及したので、惚気話かと思って淳を睨んでいたからだ。
しかし淳はそのことには全く触れず、佐藤の方を向いて微笑みを浮かべて口を開く。
「実は毎回資料をまとめるのが難しくて‥けど今回佐藤が整理してくれただろう?
本当にありがとうな」
お陰ですぐに読むことが出来た、と淳は尚も佐藤に感謝の意を述べた。
慣れない謝辞に、「お、俺がしなきゃ誰がするんだ‥」と、佐藤は幾分戸惑っている。
そして淳は一つ、佐藤に向かって提案した。
「だから、佐藤が班長になればいいのに」
突然の提案に佐藤は目を剥いた。
「えっ?」
しかし淳は尚も笑顔を浮かべたまま、その根拠を意欲的に口にする。
「俺はあまり大学に来れないし、整理した資料を見ても俺より佐藤の方が優れてるよ。
より優れた人間が班長になるべきだ。そうだろう?」
そして淳は直美と香織の方に向き直り、二人からの了承を取る。
「君らもそれで良いよね?」「あ、ハイ‥」
佐藤は暫し黙りこみ思案していたが、やがて顔を上げて承諾した。
「‥それじゃあ、全部俺の思う通りに進めて行っていいんだな?」
勿論だと言って、淳は笑顔で頷いた。佐藤は眼鏡をいじりながらポツリと呟く。
「まぁ‥そういうことなら‥」
常に淳の影に甘んじていた四年間‥。
佐藤は初めて彼より上の立場に立ったことに、内心嬉々としていた。
そして淳はそんな佐藤を見つめながら、その心情を見抜いて笑顔を浮かべる。
笑顔の盾の裏側で、彼の思惑は進行していた。仕掛けた罠へと続く道を、彼は人知れず誘導する。
物事の先を見通す術に長けた淳は、彼らの未来を想像して微かに笑う‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<仕掛た罠>でした。
淳の班は、男子チーム(青田、佐藤)と女子チーム(香織、直美)が、先学期のグルワでもそれぞれ同じ班だったんでしたね。
↓先学期の淳の班
よく見たら、この女子は仙人(分かる人しか分からずすいません)ですね。なんだか懐かしい‥。
さて、着々と淳が罠を仕掛けています。
これは中間発表に向けての淳の計画の為の罠なんですが‥本当に巧妙でビックリですよ~。お楽しみに‥。
次回は<いびつな爪>です。
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物事の先を見通す術に長けた淳は、彼の未来を想像して微かに笑う。
そしていつもの笑顔を浮かべると、淳は自分達のグループを見回して口を開いた。
「うちも無賃乗車は除名かな?」
淳の問いかけに、佐藤広隆が「当然だろ!」と強い口調で答える。
直美と香織は共にビクッと身を強張らせた。何を隠そうこの二人、先学期は雪のグループにて無賃乗車をやらかしたのだった。
「も、勿論です‥心配要りません‥ははは」
後ろめたい二人の顔に、幾筋も冷や汗が流れる。
すると香織は出し抜けに、淳に向かって発言をし出した。ひっくり返るほど大きな声で。
「せ、先輩‥!私が送った資料、見てくださいましたか?!頑張ったんです‥!」
その突拍子もないタイミングに、思わず直美も身を仰け反らした。
しかし淳は動じず、俯瞰するように香織に視線を落とす。
そして先日雪から聞いた、香織についての情報が鼓膜の裏に蘇った。
最近あの子が度々私の服や持っている物を真似して‥
チラ、と机の上に視線を落とすと、携帯にあのライオン人形がついていた。
加えて今日香織が着ている服は、先週雪と会った時に着ていた服と酷似していた。
全てが繋がった淳は、その本心を露ほども見せずニッコリと微笑んだ。
それは相手を警戒させない為の、笑顔という盾。
そして淳は口を開いた。期待を宿した目でこちらを見る香織から、少し目を逸らして。
「ああ、よく出来ていたよ。後の二人もすごく良く出来ていたけどね」
褒められたことで声を上げかけた香織だが、淳がそれとなく他の二人を褒めたことで香織の喜びも中途半端になった。
しかも淳は続けて、
「インターンであまりグルワに参加出来ずどうしようかと思ったけど、
皆が優秀だからきっと良い成績を取れるだろうね」
とグループ全体のことを言及したため、香織は何も口に出来ずに目を点にして会話を聞くだけとなった。
すると淳は香織に向き直り、淡々とこう口にした。
「あ、そうだ清水。君が送ってくれた資料だけど、調査は熱心にやってくれたみたいだが、
主題と合わない資料も結構多かったよ」
香織が淳に送った資料は香織本人からすると会心の出来だったため、淳のその指摘に彼女は飛び上がった。
「ええっ本当ですか?!すすすすいませ‥」
しかし淳は笑顔で首を横に振ると、自己の体験も踏まえた話で彼女をフォローする。
「いや、会計や財務よりもこういったものの方がより曖昧なんだよね。
理論をどういう風に配置するだとか資料の量だとか、その塩梅がハッキリ決まっているわけじゃないから。
俺もよく蛇足を加えて仕損じたりして」
香織は大きく首を縦に振りつつ、淳の話に耳を傾けていた。
すると淳は何でも無い事のように、プリントに目を落としながらこう言った。
「こういうの、雪ちゃんはキレイにまとめるんだけどね」
ネズミを捕る時は、そこにチーズを置けば良い。
さすればおのずと、ネズミはそこに自ら入って来る。
佐藤、と淳は彼に声を掛けた。
「な、何だ?!」
佐藤が幾分驚いているのは、先ほど淳が雪のことを言及したので、惚気話かと思って淳を睨んでいたからだ。
しかし淳はそのことには全く触れず、佐藤の方を向いて微笑みを浮かべて口を開く。
「実は毎回資料をまとめるのが難しくて‥けど今回佐藤が整理してくれただろう?
本当にありがとうな」
お陰ですぐに読むことが出来た、と淳は尚も佐藤に感謝の意を述べた。
慣れない謝辞に、「お、俺がしなきゃ誰がするんだ‥」と、佐藤は幾分戸惑っている。
そして淳は一つ、佐藤に向かって提案した。
「だから、佐藤が班長になればいいのに」
突然の提案に佐藤は目を剥いた。
「えっ?」
しかし淳は尚も笑顔を浮かべたまま、その根拠を意欲的に口にする。
「俺はあまり大学に来れないし、整理した資料を見ても俺より佐藤の方が優れてるよ。
より優れた人間が班長になるべきだ。そうだろう?」
そして淳は直美と香織の方に向き直り、二人からの了承を取る。
「君らもそれで良いよね?」「あ、ハイ‥」
佐藤は暫し黙りこみ思案していたが、やがて顔を上げて承諾した。
「‥それじゃあ、全部俺の思う通りに進めて行っていいんだな?」
勿論だと言って、淳は笑顔で頷いた。佐藤は眼鏡をいじりながらポツリと呟く。
「まぁ‥そういうことなら‥」
常に淳の影に甘んじていた四年間‥。
佐藤は初めて彼より上の立場に立ったことに、内心嬉々としていた。
そして淳はそんな佐藤を見つめながら、その心情を見抜いて笑顔を浮かべる。
笑顔の盾の裏側で、彼の思惑は進行していた。仕掛けた罠へと続く道を、彼は人知れず誘導する。
物事の先を見通す術に長けた淳は、彼らの未来を想像して微かに笑う‥。
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<仕掛た罠>でした。
淳の班は、男子チーム(青田、佐藤)と女子チーム(香織、直美)が、先学期のグルワでもそれぞれ同じ班だったんでしたね。
↓先学期の淳の班
よく見たら、この女子は仙人(分かる人しか分からずすいません)ですね。なんだか懐かしい‥。
さて、着々と淳が罠を仕掛けています。
これは中間発表に向けての淳の計画の為の罠なんですが‥本当に巧妙でビックリですよ~。お楽しみに‥。
次回は<いびつな爪>です。
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