「もう!何なんですか?!」

校舎の脇の道を歩きながら、佐藤広隆はいつまでも後をついてくる柳瀬健太に閉口していた。
しかし気にせず健太は佐藤を呼び止め話を切り出す。
「俺今回はグルワ課題頑張ってやってみようと思ってる」と。
「それで?」

健太の前向きな言葉を前にしても、佐藤は懐疑的な態度を崩さない。
共に大学に通った四年間、佐藤は何度も健太から煮え湯を飲まされて来たのだ。簡単に信頼するわけにはいかなかった。

健太は更に話を続ける。
課題に一生懸命取り組もうという意欲はあるものの、如何せん4年だから就活やその他の問題で時間が足りないと。
そして健太はニヤリと笑い、佐藤に一つ提案を持ちかけた。
「そこでだ。一緒にWin-Win作戦と行こうじゃねーか!」

唐突な健太の提案に、佐藤は疑問符を浮かべ眉を寄せる。しかし健太は尚も続けた。
「俺とお前で協力して課題やんだよ!」

佐藤はあんぐりと口を開けていたが、健太は腕組みをしながら青田淳への恨み節を口にし始める。
「正直お前だって青田が出しゃばってんのは気に入らねーだろ?
俺ら二人で分担して資料探して、アイツをギャフンと言わせてやろーぜ!」

佐藤は健太からの提案に目を剥いた。
何故ならば今回佐藤は青田淳と同じ班であり、しかも班長を任された。健太の提案に乗るメリットなど、一つもないのだ。
ハッキリと佐藤が「嫌ですよ」と言うと、健太は舌打ちをして睨みを利かす。
「な~にが嫌だよ。どうせ個人評価だろ。
お前を特別に思って誘ってやってんじゃねーか」

誰もそんなこと望んでいないのにこの言い草‥。佐藤は思わず苛立って声を上げる。
「何言って‥!」

しかし健太は怯まず、佐藤に結論を急がせた。それで結局やるのやらないの?と。
「やりませんってば!」

尚も首を横に振る佐藤だが、健太は気にせず指示を出す。
明後日までに組織行動論の253ページの事例を探して来い、と言って。
「メールで送っとけよ」

健太はそう言って後ろ手に手を振って去って行った。
佐藤は何度も「やりません」とその後姿に向かって叫んだが、健太は全く聞き耳を持たなかった‥。

佐藤広隆の受難‥それは柳瀬健太に始まり柳瀬健太に終わると言っても過言ではない。
彼に悩まされ続けた四年間。まだ終わらないその災難が、佐藤の頭を悩ませる。
佐藤は次の授業の教室に入っても、未だ健太の言い草を思い出して憤っていた。
笑わせんなあの腐れヤロー!やってくるわけないだろうが!

佐藤は今まで健太に様々な無理を強いられてきたが、今回のように課題に関わられることが最も嫌だと感じていた。
いっそ物を取られたり壊されたりするほうがマシだ、と思いつつ、佐藤は頭を抱えて俯いた。

苛立ちが募り、頭が痛い。佐藤はふと机の上に視線を落とし、そこに置かれた教科書を見る。
そして教養課程に何でこんなの申請したんだ俺は‥!

教科書には”楽しい教養芸術思潮”と書いてある。
単位の為とはいえ、まるで興味の無い授業を前に佐藤は溜息を吐いた。

その時だった。
ふと後ろを振り返った時、視線の先に彼女が入って来たのは。

河村静香だった。
佐藤は彼女の名は知らない。しかし静香と彼は、何度か面識があった。

まるで信じられないものでも見たかのように、佐藤は思わずバッと顔を逸らした。
夢か幻でも見たのかと思い佐藤は何度も目をこすり、最後に再びそっと振り返る。

すると彼女は佐藤に向かって手を振った。ニッコリと笑いながら。
「あらぁ?また会ったわね!あたしのこと分かる?ほら、コンビニでよく会った!」

彼女の好意的な態度に、佐藤は白目になりながら身を強張らせた。
「!!!!!」

佐藤広隆の受難は続く。
柳瀬健太とそしてもう一人、コンビニでよく会ったその彼女が、佐藤を更なる災難に巻き込んでいく‥。
「え~!すっごいウレシー!」

授業の後、河村静香はキャアキャア言いながら、偶然の再会を手放しで喜んだ。
「本当に縁ってあるのね~!こんな所で会うなんて!」
「はは‥はぁ‥。そうみたいですね‥」

顔を引き攣らす佐藤だが、静香は気にせず尚も大きな声で話続ける。
「あたしのこと覚えてる?会計塾で同じ建物!コンビニ!」

静香は二人の間のキーワードを口にするが、佐藤は気が気じゃなかった。
この女、ただでさえ目立つのに、声が大きいので皆の注目を集めてしまうのだ。

廊下を行き交う人々が、自分たちの方を見て何やらコソコソ噂していく。
好奇な視線に晒された佐藤は、一人俯きながら赤面した。

取り敢えず佐藤は静香に、場所を変えましょうと提案した。
静香は笑顔で了承し、カフェラテが飲みたいと早速おねだりする‥。

カフェに着いた二人は、向かい合わせで席についた。
静香の手には、お目当てのカフェラテが握られている。
「いただきま~す」

笑顔の静香に対して、佐藤は仏頂面で彼女から目を逸らしていた。
なぜこんなことになったのだろう‥。答えの出ない問いが、佐藤の頭を悩ませる。
「コンビニでも、何度も色々ありがとう」

静香は佐藤に改めて礼を述べた。佐藤は尚も俯きながら、ぎこちなく頷く。
夏休みに通ったTOEFL塾の下の階‥電算会計の塾に通ってた女‥。

佐藤は静香との妙な縁を振り返っていた。
出会いはコンビニにて、店員と揉める静香の会計を佐藤が済ませたことから始まる。

そして事あるごとに、佐藤は静香とコンビニで出くわした。
ある時は小銭をねだられ、ある時は男共をはべらせた彼女とすれ違い‥。

身につけたブランド品やその高慢な態度から、佐藤は彼女が見栄っ張りな高飛車女だと判断していた。
二言三言会話してみたが、内容の無い話ばかりで頭が良くないことも分かっていた。
つまり、俺が一番嫌悪する部類の女‥!

目の前の彼女に対して、佐藤の見解にはそう結論が出ていた。
しかし今、向かい合ってコーヒーを飲んでいる現実が、佐藤の頭を悩ませる。
‥ところで何で俺はコーヒーを奢ってるんだ?!それ700円もするんだぞ?!
大学のカフェのくせに、何でこんなに高いんだよ!

俯いて苛立つ佐藤は、果ては大学のカフェの値段設定が高過ぎることにまで苛立った。
頭と心と現実が、全て別の方向を向いたベクトルのように佐藤を翻弄する。

暫し俯いていた佐藤だが、ふと彼女の方へと視線を上げた。
チラ、と向けられたその視線に気づいた静香は、フッと微かに笑みを浮かべる。

その微笑みは美しく、独特の雰囲気があった。
異国の血が入っている彼女の、形容し難い魅力がそこにある。

思わず佐藤は赤面し、パッと彼女から顔を背けた。
咳払いをするそんな佐藤に視線を送りながら、静香は口元に笑みを湛える。

数々の男を手玉に取ってきた彼女には、佐藤の気持ちなど手に取るように分かるのだ。
野暮ったく冴えない佐藤など本来なら目にかけもしないが、静香の視線が彼の身なりを観察する。
服と鞄はどうやら高価な物のようね

それにかけては目の肥えた静香は、佐藤がわりと裕福な家の息子だということを見抜いていた。
大学に通う間、たかれるだけたかってしまえば良い。静香は佐藤に対してそう結論づけた。
「こうやって同じ授業を聽くことになったわけだし、私達これから仲良くしましょ?」

ニッコリと微笑む彼女を前にして、佐藤は躊躇いながらも頷いた。
「え?あぁ‥はい‥まぁ‥」

止めた方が良いと分かっていながらも、佐藤は首を横に振れなかった。
更なる災難が待ち受けていることを仄かに知りながらも、佐藤は静香と尚も会話を続けた‥。
ところで‥ひょっとしてここの学生‥ではないですよね‥ モグリに決まってんじゃんww

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<佐藤広隆の受難>でした。
最後のコマの訳をCitTさん&青さんに教えて頂きました~。お二方、ありがとう!

‥ということで、今回は佐藤君のターンでしたね。
悪い人ではないのに、いつも損な役回り‥。挙句静香の毒牙が‥!
この静香&佐藤が物語にどんな影響を与えるのか、楽しみであります。
次回は<さざ波>です。
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校舎の脇の道を歩きながら、佐藤広隆はいつまでも後をついてくる柳瀬健太に閉口していた。
しかし気にせず健太は佐藤を呼び止め話を切り出す。
「俺今回はグルワ課題頑張ってやってみようと思ってる」と。
「それで?」

健太の前向きな言葉を前にしても、佐藤は懐疑的な態度を崩さない。
共に大学に通った四年間、佐藤は何度も健太から煮え湯を飲まされて来たのだ。簡単に信頼するわけにはいかなかった。


健太は更に話を続ける。
課題に一生懸命取り組もうという意欲はあるものの、如何せん4年だから就活やその他の問題で時間が足りないと。
そして健太はニヤリと笑い、佐藤に一つ提案を持ちかけた。
「そこでだ。一緒にWin-Win作戦と行こうじゃねーか!」

唐突な健太の提案に、佐藤は疑問符を浮かべ眉を寄せる。しかし健太は尚も続けた。
「俺とお前で協力して課題やんだよ!」

佐藤はあんぐりと口を開けていたが、健太は腕組みをしながら青田淳への恨み節を口にし始める。
「正直お前だって青田が出しゃばってんのは気に入らねーだろ?
俺ら二人で分担して資料探して、アイツをギャフンと言わせてやろーぜ!」

佐藤は健太からの提案に目を剥いた。
何故ならば今回佐藤は青田淳と同じ班であり、しかも班長を任された。健太の提案に乗るメリットなど、一つもないのだ。
ハッキリと佐藤が「嫌ですよ」と言うと、健太は舌打ちをして睨みを利かす。
「な~にが嫌だよ。どうせ個人評価だろ。
お前を特別に思って誘ってやってんじゃねーか」

誰もそんなこと望んでいないのにこの言い草‥。佐藤は思わず苛立って声を上げる。
「何言って‥!」

しかし健太は怯まず、佐藤に結論を急がせた。それで結局やるのやらないの?と。
「やりませんってば!」

尚も首を横に振る佐藤だが、健太は気にせず指示を出す。
明後日までに組織行動論の253ページの事例を探して来い、と言って。
「メールで送っとけよ」

健太はそう言って後ろ手に手を振って去って行った。
佐藤は何度も「やりません」とその後姿に向かって叫んだが、健太は全く聞き耳を持たなかった‥。

佐藤広隆の受難‥それは柳瀬健太に始まり柳瀬健太に終わると言っても過言ではない。
彼に悩まされ続けた四年間。まだ終わらないその災難が、佐藤の頭を悩ませる。
佐藤は次の授業の教室に入っても、未だ健太の言い草を思い出して憤っていた。
笑わせんなあの腐れヤロー!やってくるわけないだろうが!

佐藤は今まで健太に様々な無理を強いられてきたが、今回のように課題に関わられることが最も嫌だと感じていた。
いっそ物を取られたり壊されたりするほうがマシだ、と思いつつ、佐藤は頭を抱えて俯いた。

苛立ちが募り、頭が痛い。佐藤はふと机の上に視線を落とし、そこに置かれた教科書を見る。
そして教養課程に何でこんなの申請したんだ俺は‥!

教科書には”楽しい教養芸術思潮”と書いてある。
単位の為とはいえ、まるで興味の無い授業を前に佐藤は溜息を吐いた。

その時だった。
ふと後ろを振り返った時、視線の先に彼女が入って来たのは。

河村静香だった。
佐藤は彼女の名は知らない。しかし静香と彼は、何度か面識があった。

まるで信じられないものでも見たかのように、佐藤は思わずバッと顔を逸らした。
夢か幻でも見たのかと思い佐藤は何度も目をこすり、最後に再びそっと振り返る。


すると彼女は佐藤に向かって手を振った。ニッコリと笑いながら。
「あらぁ?また会ったわね!あたしのこと分かる?ほら、コンビニでよく会った!」

彼女の好意的な態度に、佐藤は白目になりながら身を強張らせた。
「!!!!!」

佐藤広隆の受難は続く。
柳瀬健太とそしてもう一人、コンビニでよく会ったその彼女が、佐藤を更なる災難に巻き込んでいく‥。
「え~!すっごいウレシー!」

授業の後、河村静香はキャアキャア言いながら、偶然の再会を手放しで喜んだ。
「本当に縁ってあるのね~!こんな所で会うなんて!」
「はは‥はぁ‥。そうみたいですね‥」

顔を引き攣らす佐藤だが、静香は気にせず尚も大きな声で話続ける。
「あたしのこと覚えてる?会計塾で同じ建物!コンビニ!」

静香は二人の間のキーワードを口にするが、佐藤は気が気じゃなかった。
この女、ただでさえ目立つのに、声が大きいので皆の注目を集めてしまうのだ。

廊下を行き交う人々が、自分たちの方を見て何やらコソコソ噂していく。
好奇な視線に晒された佐藤は、一人俯きながら赤面した。

取り敢えず佐藤は静香に、場所を変えましょうと提案した。
静香は笑顔で了承し、カフェラテが飲みたいと早速おねだりする‥。

カフェに着いた二人は、向かい合わせで席についた。
静香の手には、お目当てのカフェラテが握られている。
「いただきま~す」

笑顔の静香に対して、佐藤は仏頂面で彼女から目を逸らしていた。
なぜこんなことになったのだろう‥。答えの出ない問いが、佐藤の頭を悩ませる。
「コンビニでも、何度も色々ありがとう」

静香は佐藤に改めて礼を述べた。佐藤は尚も俯きながら、ぎこちなく頷く。
夏休みに通ったTOEFL塾の下の階‥電算会計の塾に通ってた女‥。

佐藤は静香との妙な縁を振り返っていた。
出会いはコンビニにて、店員と揉める静香の会計を佐藤が済ませたことから始まる。

そして事あるごとに、佐藤は静香とコンビニで出くわした。
ある時は小銭をねだられ、ある時は男共をはべらせた彼女とすれ違い‥。

身につけたブランド品やその高慢な態度から、佐藤は彼女が見栄っ張りな高飛車女だと判断していた。
二言三言会話してみたが、内容の無い話ばかりで頭が良くないことも分かっていた。
つまり、俺が一番嫌悪する部類の女‥!

目の前の彼女に対して、佐藤の見解にはそう結論が出ていた。
しかし今、向かい合ってコーヒーを飲んでいる現実が、佐藤の頭を悩ませる。
‥ところで何で俺はコーヒーを奢ってるんだ?!それ700円もするんだぞ?!
大学のカフェのくせに、何でこんなに高いんだよ!

俯いて苛立つ佐藤は、果ては大学のカフェの値段設定が高過ぎることにまで苛立った。
頭と心と現実が、全て別の方向を向いたベクトルのように佐藤を翻弄する。

暫し俯いていた佐藤だが、ふと彼女の方へと視線を上げた。
チラ、と向けられたその視線に気づいた静香は、フッと微かに笑みを浮かべる。

その微笑みは美しく、独特の雰囲気があった。
異国の血が入っている彼女の、形容し難い魅力がそこにある。

思わず佐藤は赤面し、パッと彼女から顔を背けた。
咳払いをするそんな佐藤に視線を送りながら、静香は口元に笑みを湛える。

数々の男を手玉に取ってきた彼女には、佐藤の気持ちなど手に取るように分かるのだ。
野暮ったく冴えない佐藤など本来なら目にかけもしないが、静香の視線が彼の身なりを観察する。
服と鞄はどうやら高価な物のようね

それにかけては目の肥えた静香は、佐藤がわりと裕福な家の息子だということを見抜いていた。
大学に通う間、たかれるだけたかってしまえば良い。静香は佐藤に対してそう結論づけた。
「こうやって同じ授業を聽くことになったわけだし、私達これから仲良くしましょ?」

ニッコリと微笑む彼女を前にして、佐藤は躊躇いながらも頷いた。
「え?あぁ‥はい‥まぁ‥」

止めた方が良いと分かっていながらも、佐藤は首を横に振れなかった。
更なる災難が待ち受けていることを仄かに知りながらも、佐藤は静香と尚も会話を続けた‥。
ところで‥ひょっとしてここの学生‥ではないですよね‥ モグリに決まってんじゃんww

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<佐藤広隆の受難>でした。
最後のコマの訳をCitTさん&青さんに教えて頂きました~。お二方、ありがとう!

‥ということで、今回は佐藤君のターンでしたね。
悪い人ではないのに、いつも損な役回り‥。挙句静香の毒牙が‥!
この静香&佐藤が物語にどんな影響を与えるのか、楽しみであります。
次回は<さざ波>です。
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