Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

特別編 あなたと私

2014-05-06 01:00:00 | 雪3年3部(防御壁~グルワ発表前日)
考え過ぎる人間は、恋愛するのが難しいと人は言う。



物語は、雪のこんなモノローグから始まる。

頬杖を突きながらぼんやりと前を見つめるのは、高校時代の赤山雪だ。



雪のクラスの担任が、授業をしているところだった。

担任は顔を顰めながら、雪の方を見てとあるジェスチャーをする。

”頬付えを突くのは止めなさい”と。



雪はそんな彼女の仕草に気づき、言われた通り頬杖を突くのを止めた。

しかし周りを見回してみると、皆頬杖を突き、果てはアクビまでしている子もいる‥。



担任は、なぜ自分だけに注意したんだろう?

何か悪いことでもしただろうか?

私の姿だけ特別ダラケて見えたのだろうか‥?





「それ、あんたが自分で招いた結果でしょ」



萌菜は、雪の方を振り向きもせずそう言った。

「今でこそ皆うちの担任変だって思ってるけど、

あんたは初めからあの人が気に入らないって態度取ってたじゃん。だからずっと目の敵にされてんじゃないの。

まぁそれさえも、あんた勉強出来るから大したことない程度だけどね」




雪が悩んでいたことに、萌菜は淡々と答えを出した。

その周りでは友人二人が、思い思いのことをして過ごしている。高校時代の雪の周りは、大体こんな感じだ。

いつもつるんでる彼女らは、皆それぞれに性格は違ったが不思議とバランスが取れていた。

中でも一番仲の良い萌菜は、ズバズバと忌憚のない意見を雪に述べてくれる、貴重な存在だ。

「この人はこの人、あの人はあの人。いちいち人の行動問い詰めて神経使ってたら、

恋人が出来た時どうやって付き合うってーの?」




わざとじゃないのに、と雪は一人心の中で弁解するが、

嘆いてみたところで、現状は何も変わらない。自分の鋭敏さがもたらす災難は、結局自分に返ってくるのだ。

そして萌菜はそんな雪を見て、いつももどかしく思っていた。雪に向かって何回も、この言葉を口にする。

”世渡り上手になれ”と。

狐のようにしなやかに、そして時に小狡く、と。


けれどまだ若い雪には、それがどういうことなのか分からなかった。

親友からのアドバイスすら、どこか遠い国の言葉のように聞こえる。


時折周りの人々から、ストイックすぎるとか、鋭敏だとか、考え過ぎとか、

そのせいで生きるのに疲れるだろうとか、そういうことを度々言われた。




担任をはじめとする、雪の周りの人達。

その人達からそういう言葉を掛けられる度、心の中で呟く言葉があった。

これといって特別なコトをしたわけじゃないのに‥



どうして私は何もしていないのに、周りはしきりに私を困らせるんだろう。

答えの出ないその問いが、いつも雪の頭を悩ませた。

漠然とした未来は霞んでいて、そんな自分が恋愛する時が来るなんて思いもしなかった。


しかし、その時は突然やって来る。歯車のように回る運命が、予想もつかない縁を紡ぐ。


そんな私が、恋愛を始めた。




そして物語の舞台は現在へと移る。

視線の先には、彼の姿があった。


相手は、付き合うことになるなんて想像もしなかった青田先輩。



待ち合わせ場所で人々と談話する彼の姿を見つけて、雪は自然と口元に笑みを浮かべた。

こんな表情で彼のことを見る日が来るなんて、一年前には想像もしていなかった。



実際、マイナスな感情しか抱くことのなかった相手だし、

これ以上関りたくないと思っていたのだが‥。

恋愛というものは分からないものだ。

今は共に過ごしながら、少しずつ先輩という人を知っていく日々だ。




例えば、と雪が例に上げるのは、一緒に勉強している彼の姿だ。

そして同時に、その彼とは同一人物とは思えないその姿も。


私より遥かに大人っぽいくせに、たまに驚くほど子供みたいだったり、

  


そして思い出すのは、教室での彼の姿だ。

彼はいつだって前を向き、居眠りも無駄話もせず授業に集中する。


何でも簡単にこなしてしまうように見えるのは、

その陰で綿密な計画と努力を惜しまず、目標達成に徹する人だからなのだと知った。


 

彼と一緒に勉強していると、その計画の綿密さに驚くばかりだ。

今週はこれをして来週はこれをして‥と小さな目標から大きな目標まで細かく立ててある。

週三でジムに通い、忙しい時は無理しない。自分に対して厳しく、しかし時に寛容に、力の抜き加減も分かってやっているように見えた。

だからこそ、ぜひとも一度勝ってみたい‥。



雪はそんな彼を知る度、密かにライバル心が燃えた。

努力の量なら彼にも負けない、雪の心の中にはそんな自負があった。

「グループワーク、うちの班のが上手くやりますからね!」「ははは、それはどうかな?」



恋人同士である前に、二人は一流大学に在籍する優秀な学生だ。

いつか彼に勝ってみたいという欲求が、雪を更に高めていく。


付き合って二ヶ月、目にしてきたこういった彼の一面は隙がなく完璧で、誰しもが一目置く存在だ。


しかし雪は、彼の顔がもう一つあることを知っていた。


けれど時折、常軌を逸した行動をした。



レポート事件の時に彼は、”お前の為を思って”と平気な顔をしてそう言った。

平然と遠藤さんを利用し貶めて、それすらも正義だという顔をしていた。


脳裏には、彼が特定の場合に浮かべる笑みが蘇る。


他では決して見せることのない、奇妙な笑みを浮かべる時‥




気をつけろよと肩を掴まれた時の笑みも、先日教室で目にした柳瀬健太に送る笑みも、共通する点があった。





まるで裂けたように上がる口角。

鋭敏な雪の性分が、その笑顔の種類を見分け、彼の本心を看破する。





あの路地裏で見た光景を、雪は未だに忘れることが出来ない。

衝撃だったのは苦痛に歪んだ変態男の顔でも、足を怪我した事でもなかった。



無慈悲に男を蹴り続ける、彼の姿。

何の感情も読み取れないその瞳。

顔色一つ変えずに人を蹴る、その心の中ー‥。




この人が何を考えているのか、全く分からなくなるー‥




どうして? と雪は考える。

どうして彼は、何故に彼は、何で彼は‥。


疲れないの?




ふと萌菜の言葉が、鼓膜の奥で響いた。

いちいち人の行動問い詰めて神経使ってたら、恋人が出来た時どうやって付き合うっていうの?と。





夢から覚めたような顔で、頬杖を突くのは大学生の赤山雪だ。

テーブルの上にはコーヒーが二つ。彼女には恋人がいるのだった。




不意に肩を軽く叩かれた。

顔を上げると、彼が微笑んでいた。次授業あるんでしょ?と言って。

「行こうか」



微笑む彼に、微笑みを返す彼女。

表面をなぞるようなそんなやり取りで、彼らは恋人を続けている。




確かに私たちは付き合っているけれど、未だにどこか互いに距離があり、深く分かり合えない。



物理的な距離は近くとも、心と心の間に見えない壁があるかのようだった。

どこか寂しい気持ちを抱えて、雪は彼を見上げてみる。

確かに好きなのに‥



また私が無駄に考え過ぎているだけなのかもしれないが、

この人のことが分からないので、彼の核心に近づくことが出来ないのだ‥。





彼の心の扉にはいつだって鍵がかかっていて、

見上げた彼の横顔からは、その在処を窺い知ることは出来なかった。

けれどそこは本当に扉なのか? そう自らの鋭敏さを咎める、もう一人の自分が口にする。


私が考え過ぎているだけなのか、先輩が本心を隠しているからなのか、まだその理由は分からない。



そこは扉ではなく単なる壁なのかもしれない。

また考え過ぎの癖が出ただけで、元々開くはずのない場所なのかもしれない。


もっと深く彼を知りたいと思う自分と、どこかブレーキを掛ける自分。

雪の心の中では、両者がせめぎ合っている。


そして本当の彼を知る時が来たならば、その時私がどんな風に思うかは、

予測もつかない。




それこそが、ブレーキを掛けている原因だった。

雪はそれ以上近づくことの出来ない場所で、彼の横顔をじっと見つめている。


時折目にする、少年のような彼の顔。

少し俯き加減で歩く彼の横顔に、今日もその少年が見え隠れする‥。




そして物語は再び高校時代の記憶に飛ぶ。

雪のクラスの担任が、授業をしているところだった。



この日雪は頬杖を突かず、姿勢を正して授業を受けた。

理解出来ない彼女とも、いつか分かり合えると信じながら。



しかしそんな雪の真摯な態度を前にしても、担任は顔を顰めたままそっぽを向いた。

そしてそれきり、こちらを向くことはなかった。



相手を知り過ぎることは、時に不快なこともあるけれど、

互いを全て分かってこそ、近付くことが出来るんじゃないかと考えたこともあった。




他の生徒は、頬杖を突き居眠りをし、果てはイヤホンで音楽を聞いてる子もいた。

その中で雪だけが、真面目に授業を聞いていたのに。


けれど、それは違った。




理解出来ない人とも真っ直ぐ向き合おうとするのは、雪の律儀な性分だ。

けれどそれによって相手と理解し合えるかどうかと言ったら、それはまた別の話である。

教室の中で味わった苦い記憶が、雪に一つの結論を教える。




青田淳の隣を歩く、赤山雪。





赤山雪の隣を歩く、青田淳。



二人は手を繋いでいた。

互いの体温が溶け合うほど、二人の距離は近かった。





けれどあの日出た結論が、雪と淳を別々の個体に分けていた。

それは残酷で目を覆いたくなるような結論だったが、しかしそれこそが雪の思う真実だった。


なぜならば私達は、完全に別の人間なのだから‥




全く別の人間同士が理解し合うなど不可能だと、雪はそう思っていた。

だからこそ分かり合うことが必要だとも考えていた。


けれどその先が明るい未来かどうかなんて、誰にも分からないのだ‥。



彼と手を繋ぎながら、その体温を分け合いながら、雪はそんなことを考えていた。




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<特別編 あなたと私>でした。

何だかまとまらない記事になってしまい申し訳ない‥。読みにくくてすいません。

モノローグ中心だと解釈が入れづらくて‥難しかったです。


さて今回で、雪と淳が真反対の考えを持っていることが明らかになりましたね。

淳は変態男に言った通り、「あの子と俺は同類」と思っているのに対し、雪は「私達は完全なる他人」だと思っています。


これ、きっとどちらでも無いんだと思うんですよね。

完全に同じでもなければ、完全に違うわけでもない。

同じ所もあれば違う所もある、そうやって互いを認めて自分を肯定することが、二人の成長に必要なプロセスだと思うのですが‥。

ラストが楽しみですね^^


次回は<赤山連の悩み>です。

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