考え過ぎる人間は、恋愛するのが難しいと人は言う。

物語は、雪のこんなモノローグから始まる。
頬杖を突きながらぼんやりと前を見つめるのは、高校時代の赤山雪だ。

雪のクラスの担任が、授業をしているところだった。
担任は顔を顰めながら、雪の方を見てとあるジェスチャーをする。
”頬付えを突くのは止めなさい”と。

雪はそんな彼女の仕草に気づき、言われた通り頬杖を突くのを止めた。
しかし周りを見回してみると、皆頬杖を突き、果てはアクビまでしている子もいる‥。

担任は、なぜ自分だけに注意したんだろう?
何か悪いことでもしただろうか?
私の姿だけ特別ダラケて見えたのだろうか‥?

「それ、あんたが自分で招いた結果でしょ」

萌菜は、雪の方を振り向きもせずそう言った。
「今でこそ皆うちの担任変だって思ってるけど、
あんたは初めからあの人が気に入らないって態度取ってたじゃん。だからずっと目の敵にされてんじゃないの。
まぁそれさえも、あんた勉強出来るから大したことない程度だけどね」

雪が悩んでいたことに、萌菜は淡々と答えを出した。
その周りでは友人二人が、思い思いのことをして過ごしている。高校時代の雪の周りは、大体こんな感じだ。
いつもつるんでる彼女らは、皆それぞれに性格は違ったが不思議とバランスが取れていた。
中でも一番仲の良い萌菜は、ズバズバと忌憚のない意見を雪に述べてくれる、貴重な存在だ。
「この人はこの人、あの人はあの人。いちいち人の行動問い詰めて神経使ってたら、
恋人が出来た時どうやって付き合うってーの?」

わざとじゃないのに、と雪は一人心の中で弁解するが、
嘆いてみたところで、現状は何も変わらない。自分の鋭敏さがもたらす災難は、結局自分に返ってくるのだ。
そして萌菜はそんな雪を見て、いつももどかしく思っていた。雪に向かって何回も、この言葉を口にする。
”世渡り上手になれ”と。
狐のようにしなやかに、そして時に小狡く、と。
けれどまだ若い雪には、それがどういうことなのか分からなかった。
親友からのアドバイスすら、どこか遠い国の言葉のように聞こえる。
時折周りの人々から、ストイックすぎるとか、鋭敏だとか、考え過ぎとか、
そのせいで生きるのに疲れるだろうとか、そういうことを度々言われた。

担任をはじめとする、雪の周りの人達。
その人達からそういう言葉を掛けられる度、心の中で呟く言葉があった。
これといって特別なコトをしたわけじゃないのに‥

どうして私は何もしていないのに、周りはしきりに私を困らせるんだろう。
答えの出ないその問いが、いつも雪の頭を悩ませた。
漠然とした未来は霞んでいて、そんな自分が恋愛する時が来るなんて思いもしなかった。
しかし、その時は突然やって来る。歯車のように回る運命が、予想もつかない縁を紡ぐ。
そんな私が、恋愛を始めた。

そして物語の舞台は現在へと移る。
視線の先には、彼の姿があった。
相手は、付き合うことになるなんて想像もしなかった青田先輩。

待ち合わせ場所で人々と談話する彼の姿を見つけて、雪は自然と口元に笑みを浮かべた。
こんな表情で彼のことを見る日が来るなんて、一年前には想像もしていなかった。

実際、マイナスな感情しか抱くことのなかった相手だし、
これ以上関りたくないと思っていたのだが‥。
恋愛というものは分からないものだ。
今は共に過ごしながら、少しずつ先輩という人を知っていく日々だ。

例えば、と雪が例に上げるのは、一緒に勉強している彼の姿だ。
そして同時に、その彼とは同一人物とは思えないその姿も。
私より遥かに大人っぽいくせに、たまに驚くほど子供みたいだったり、

そして思い出すのは、教室での彼の姿だ。
彼はいつだって前を向き、居眠りも無駄話もせず授業に集中する。
何でも簡単にこなしてしまうように見えるのは、
その陰で綿密な計画と努力を惜しまず、目標達成に徹する人だからなのだと知った。

彼と一緒に勉強していると、その計画の綿密さに驚くばかりだ。
今週はこれをして来週はこれをして‥と小さな目標から大きな目標まで細かく立ててある。
週三でジムに通い、忙しい時は無理しない。自分に対して厳しく、しかし時に寛容に、力の抜き加減も分かってやっているように見えた。
だからこそ、ぜひとも一度勝ってみたい‥。

雪はそんな彼を知る度、密かにライバル心が燃えた。
努力の量なら彼にも負けない、雪の心の中にはそんな自負があった。
「グループワーク、うちの班のが上手くやりますからね!」「ははは、それはどうかな?」

恋人同士である前に、二人は一流大学に在籍する優秀な学生だ。
いつか彼に勝ってみたいという欲求が、雪を更に高めていく。
付き合って二ヶ月、目にしてきたこういった彼の一面は隙がなく完璧で、誰しもが一目置く存在だ。
しかし雪は、彼の顔がもう一つあることを知っていた。
けれど時折、常軌を逸した行動をした。

レポート事件の時に彼は、”お前の為を思って”と平気な顔をしてそう言った。
平然と遠藤さんを利用し貶めて、それすらも正義だという顔をしていた。
脳裏には、彼が特定の場合に浮かべる笑みが蘇る。
他では決して見せることのない、奇妙な笑みを浮かべる時‥

気をつけろよと肩を掴まれた時の笑みも、先日教室で目にした柳瀬健太に送る笑みも、共通する点があった。

まるで裂けたように上がる口角。
鋭敏な雪の性分が、その笑顔の種類を見分け、彼の本心を看破する。

あの路地裏で見た光景を、雪は未だに忘れることが出来ない。
衝撃だったのは苦痛に歪んだ変態男の顔でも、足を怪我した事でもなかった。

無慈悲に男を蹴り続ける、彼の姿。
何の感情も読み取れないその瞳。
顔色一つ変えずに人を蹴る、その心の中ー‥。

この人が何を考えているのか、全く分からなくなるー‥

どうして? と雪は考える。
どうして彼は、何故に彼は、何で彼は‥。
疲れないの?

ふと萌菜の言葉が、鼓膜の奥で響いた。
いちいち人の行動問い詰めて神経使ってたら、恋人が出来た時どうやって付き合うっていうの?と。

夢から覚めたような顔で、頬杖を突くのは大学生の赤山雪だ。
テーブルの上にはコーヒーが二つ。彼女には恋人がいるのだった。

不意に肩を軽く叩かれた。
顔を上げると、彼が微笑んでいた。次授業あるんでしょ?と言って。
「行こうか」

微笑む彼に、微笑みを返す彼女。
表面をなぞるようなそんなやり取りで、彼らは恋人を続けている。

確かに私たちは付き合っているけれど、未だにどこか互いに距離があり、深く分かり合えない。

物理的な距離は近くとも、心と心の間に見えない壁があるかのようだった。
どこか寂しい気持ちを抱えて、雪は彼を見上げてみる。
確かに好きなのに‥

また私が無駄に考え過ぎているだけなのかもしれないが、
この人のことが分からないので、彼の核心に近づくことが出来ないのだ‥。

彼の心の扉にはいつだって鍵がかかっていて、
見上げた彼の横顔からは、その在処を窺い知ることは出来なかった。
けれどそこは本当に扉なのか? そう自らの鋭敏さを咎める、もう一人の自分が口にする。
私が考え過ぎているだけなのか、先輩が本心を隠しているからなのか、まだその理由は分からない。

そこは扉ではなく単なる壁なのかもしれない。
また考え過ぎの癖が出ただけで、元々開くはずのない場所なのかもしれない。
もっと深く彼を知りたいと思う自分と、どこかブレーキを掛ける自分。
雪の心の中では、両者がせめぎ合っている。
そして本当の彼を知る時が来たならば、その時私がどんな風に思うかは、
予測もつかない。

それこそが、ブレーキを掛けている原因だった。
雪はそれ以上近づくことの出来ない場所で、彼の横顔をじっと見つめている。
時折目にする、少年のような彼の顔。
少し俯き加減で歩く彼の横顔に、今日もその少年が見え隠れする‥。
そして物語は再び高校時代の記憶に飛ぶ。
雪のクラスの担任が、授業をしているところだった。

この日雪は頬杖を突かず、姿勢を正して授業を受けた。
理解出来ない彼女とも、いつか分かり合えると信じながら。

しかしそんな雪の真摯な態度を前にしても、担任は顔を顰めたままそっぽを向いた。
そしてそれきり、こちらを向くことはなかった。

相手を知り過ぎることは、時に不快なこともあるけれど、
互いを全て分かってこそ、近付くことが出来るんじゃないかと考えたこともあった。

他の生徒は、頬杖を突き居眠りをし、果てはイヤホンで音楽を聞いてる子もいた。
その中で雪だけが、真面目に授業を聞いていたのに。
けれど、それは違った。

理解出来ない人とも真っ直ぐ向き合おうとするのは、雪の律儀な性分だ。
けれどそれによって相手と理解し合えるかどうかと言ったら、それはまた別の話である。
教室の中で味わった苦い記憶が、雪に一つの結論を教える。

青田淳の隣を歩く、赤山雪。

赤山雪の隣を歩く、青田淳。
二人は手を繋いでいた。
互いの体温が溶け合うほど、二人の距離は近かった。

けれどあの日出た結論が、雪と淳を別々の個体に分けていた。
それは残酷で目を覆いたくなるような結論だったが、しかしそれこそが雪の思う真実だった。
なぜならば私達は、完全に別の人間なのだから‥

全く別の人間同士が理解し合うなど不可能だと、雪はそう思っていた。
だからこそ分かり合うことが必要だとも考えていた。
けれどその先が明るい未来かどうかなんて、誰にも分からないのだ‥。
彼と手を繋ぎながら、その体温を分け合いながら、雪はそんなことを考えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<特別編 あなたと私>でした。
何だかまとまらない記事になってしまい申し訳ない‥。読みにくくてすいません。
モノローグ中心だと解釈が入れづらくて‥難しかったです。
さて今回で、雪と淳が真反対の考えを持っていることが明らかになりましたね。
淳は変態男に言った通り、「あの子と俺は同類」と思っているのに対し、雪は「私達は完全なる他人」だと思っています。
これ、きっとどちらでも無いんだと思うんですよね。
完全に同じでもなければ、完全に違うわけでもない。
同じ所もあれば違う所もある、そうやって互いを認めて自分を肯定することが、二人の成長に必要なプロセスだと思うのですが‥。
ラストが楽しみですね^^
次回は<赤山連の悩み>です。
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物語は、雪のこんなモノローグから始まる。
頬杖を突きながらぼんやりと前を見つめるのは、高校時代の赤山雪だ。

雪のクラスの担任が、授業をしているところだった。
担任は顔を顰めながら、雪の方を見てとあるジェスチャーをする。
”頬付えを突くのは止めなさい”と。

雪はそんな彼女の仕草に気づき、言われた通り頬杖を突くのを止めた。
しかし周りを見回してみると、皆頬杖を突き、果てはアクビまでしている子もいる‥。

担任は、なぜ自分だけに注意したんだろう?
何か悪いことでもしただろうか?
私の姿だけ特別ダラケて見えたのだろうか‥?

「それ、あんたが自分で招いた結果でしょ」

萌菜は、雪の方を振り向きもせずそう言った。
「今でこそ皆うちの担任変だって思ってるけど、
あんたは初めからあの人が気に入らないって態度取ってたじゃん。だからずっと目の敵にされてんじゃないの。
まぁそれさえも、あんた勉強出来るから大したことない程度だけどね」

雪が悩んでいたことに、萌菜は淡々と答えを出した。
その周りでは友人二人が、思い思いのことをして過ごしている。高校時代の雪の周りは、大体こんな感じだ。
いつもつるんでる彼女らは、皆それぞれに性格は違ったが不思議とバランスが取れていた。
中でも一番仲の良い萌菜は、ズバズバと忌憚のない意見を雪に述べてくれる、貴重な存在だ。
「この人はこの人、あの人はあの人。いちいち人の行動問い詰めて神経使ってたら、
恋人が出来た時どうやって付き合うってーの?」

わざとじゃないのに、と雪は一人心の中で弁解するが、
嘆いてみたところで、現状は何も変わらない。自分の鋭敏さがもたらす災難は、結局自分に返ってくるのだ。
そして萌菜はそんな雪を見て、いつももどかしく思っていた。雪に向かって何回も、この言葉を口にする。
”世渡り上手になれ”と。
狐のようにしなやかに、そして時に小狡く、と。
けれどまだ若い雪には、それがどういうことなのか分からなかった。
親友からのアドバイスすら、どこか遠い国の言葉のように聞こえる。
時折周りの人々から、ストイックすぎるとか、鋭敏だとか、考え過ぎとか、
そのせいで生きるのに疲れるだろうとか、そういうことを度々言われた。

担任をはじめとする、雪の周りの人達。
その人達からそういう言葉を掛けられる度、心の中で呟く言葉があった。
これといって特別なコトをしたわけじゃないのに‥

どうして私は何もしていないのに、周りはしきりに私を困らせるんだろう。
答えの出ないその問いが、いつも雪の頭を悩ませた。
漠然とした未来は霞んでいて、そんな自分が恋愛する時が来るなんて思いもしなかった。
しかし、その時は突然やって来る。歯車のように回る運命が、予想もつかない縁を紡ぐ。
そんな私が、恋愛を始めた。

そして物語の舞台は現在へと移る。
視線の先には、彼の姿があった。
相手は、付き合うことになるなんて想像もしなかった青田先輩。

待ち合わせ場所で人々と談話する彼の姿を見つけて、雪は自然と口元に笑みを浮かべた。
こんな表情で彼のことを見る日が来るなんて、一年前には想像もしていなかった。

実際、マイナスな感情しか抱くことのなかった相手だし、
これ以上関りたくないと思っていたのだが‥。
恋愛というものは分からないものだ。
今は共に過ごしながら、少しずつ先輩という人を知っていく日々だ。

例えば、と雪が例に上げるのは、一緒に勉強している彼の姿だ。
そして同時に、その彼とは同一人物とは思えないその姿も。
私より遥かに大人っぽいくせに、たまに驚くほど子供みたいだったり、


そして思い出すのは、教室での彼の姿だ。
彼はいつだって前を向き、居眠りも無駄話もせず授業に集中する。
何でも簡単にこなしてしまうように見えるのは、
その陰で綿密な計画と努力を惜しまず、目標達成に徹する人だからなのだと知った。


彼と一緒に勉強していると、その計画の綿密さに驚くばかりだ。
今週はこれをして来週はこれをして‥と小さな目標から大きな目標まで細かく立ててある。
週三でジムに通い、忙しい時は無理しない。自分に対して厳しく、しかし時に寛容に、力の抜き加減も分かってやっているように見えた。
だからこそ、ぜひとも一度勝ってみたい‥。

雪はそんな彼を知る度、密かにライバル心が燃えた。
努力の量なら彼にも負けない、雪の心の中にはそんな自負があった。
「グループワーク、うちの班のが上手くやりますからね!」「ははは、それはどうかな?」

恋人同士である前に、二人は一流大学に在籍する優秀な学生だ。
いつか彼に勝ってみたいという欲求が、雪を更に高めていく。
付き合って二ヶ月、目にしてきたこういった彼の一面は隙がなく完璧で、誰しもが一目置く存在だ。
しかし雪は、彼の顔がもう一つあることを知っていた。
けれど時折、常軌を逸した行動をした。

レポート事件の時に彼は、”お前の為を思って”と平気な顔をしてそう言った。
平然と遠藤さんを利用し貶めて、それすらも正義だという顔をしていた。
脳裏には、彼が特定の場合に浮かべる笑みが蘇る。
他では決して見せることのない、奇妙な笑みを浮かべる時‥

気をつけろよと肩を掴まれた時の笑みも、先日教室で目にした柳瀬健太に送る笑みも、共通する点があった。

まるで裂けたように上がる口角。
鋭敏な雪の性分が、その笑顔の種類を見分け、彼の本心を看破する。

あの路地裏で見た光景を、雪は未だに忘れることが出来ない。
衝撃だったのは苦痛に歪んだ変態男の顔でも、足を怪我した事でもなかった。

無慈悲に男を蹴り続ける、彼の姿。
何の感情も読み取れないその瞳。
顔色一つ変えずに人を蹴る、その心の中ー‥。

この人が何を考えているのか、全く分からなくなるー‥

どうして? と雪は考える。
どうして彼は、何故に彼は、何で彼は‥。
疲れないの?

ふと萌菜の言葉が、鼓膜の奥で響いた。
いちいち人の行動問い詰めて神経使ってたら、恋人が出来た時どうやって付き合うっていうの?と。

夢から覚めたような顔で、頬杖を突くのは大学生の赤山雪だ。
テーブルの上にはコーヒーが二つ。彼女には恋人がいるのだった。

不意に肩を軽く叩かれた。
顔を上げると、彼が微笑んでいた。次授業あるんでしょ?と言って。
「行こうか」

微笑む彼に、微笑みを返す彼女。
表面をなぞるようなそんなやり取りで、彼らは恋人を続けている。

確かに私たちは付き合っているけれど、未だにどこか互いに距離があり、深く分かり合えない。

物理的な距離は近くとも、心と心の間に見えない壁があるかのようだった。
どこか寂しい気持ちを抱えて、雪は彼を見上げてみる。
確かに好きなのに‥

また私が無駄に考え過ぎているだけなのかもしれないが、
この人のことが分からないので、彼の核心に近づくことが出来ないのだ‥。

彼の心の扉にはいつだって鍵がかかっていて、
見上げた彼の横顔からは、その在処を窺い知ることは出来なかった。
けれどそこは本当に扉なのか? そう自らの鋭敏さを咎める、もう一人の自分が口にする。
私が考え過ぎているだけなのか、先輩が本心を隠しているからなのか、まだその理由は分からない。

そこは扉ではなく単なる壁なのかもしれない。
また考え過ぎの癖が出ただけで、元々開くはずのない場所なのかもしれない。
もっと深く彼を知りたいと思う自分と、どこかブレーキを掛ける自分。
雪の心の中では、両者がせめぎ合っている。
そして本当の彼を知る時が来たならば、その時私がどんな風に思うかは、
予測もつかない。

それこそが、ブレーキを掛けている原因だった。
雪はそれ以上近づくことの出来ない場所で、彼の横顔をじっと見つめている。
時折目にする、少年のような彼の顔。
少し俯き加減で歩く彼の横顔に、今日もその少年が見え隠れする‥。
そして物語は再び高校時代の記憶に飛ぶ。
雪のクラスの担任が、授業をしているところだった。

この日雪は頬杖を突かず、姿勢を正して授業を受けた。
理解出来ない彼女とも、いつか分かり合えると信じながら。

しかしそんな雪の真摯な態度を前にしても、担任は顔を顰めたままそっぽを向いた。
そしてそれきり、こちらを向くことはなかった。

相手を知り過ぎることは、時に不快なこともあるけれど、
互いを全て分かってこそ、近付くことが出来るんじゃないかと考えたこともあった。

他の生徒は、頬杖を突き居眠りをし、果てはイヤホンで音楽を聞いてる子もいた。
その中で雪だけが、真面目に授業を聞いていたのに。
けれど、それは違った。

理解出来ない人とも真っ直ぐ向き合おうとするのは、雪の律儀な性分だ。
けれどそれによって相手と理解し合えるかどうかと言ったら、それはまた別の話である。
教室の中で味わった苦い記憶が、雪に一つの結論を教える。

青田淳の隣を歩く、赤山雪。

赤山雪の隣を歩く、青田淳。
二人は手を繋いでいた。
互いの体温が溶け合うほど、二人の距離は近かった。

けれどあの日出た結論が、雪と淳を別々の個体に分けていた。
それは残酷で目を覆いたくなるような結論だったが、しかしそれこそが雪の思う真実だった。
なぜならば私達は、完全に別の人間なのだから‥

全く別の人間同士が理解し合うなど不可能だと、雪はそう思っていた。
だからこそ分かり合うことが必要だとも考えていた。
けれどその先が明るい未来かどうかなんて、誰にも分からないのだ‥。
彼と手を繋ぎながら、その体温を分け合いながら、雪はそんなことを考えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<特別編 あなたと私>でした。
何だかまとまらない記事になってしまい申し訳ない‥。読みにくくてすいません。
モノローグ中心だと解釈が入れづらくて‥難しかったです。
さて今回で、雪と淳が真反対の考えを持っていることが明らかになりましたね。
淳は変態男に言った通り、「あの子と俺は同類」と思っているのに対し、雪は「私達は完全なる他人」だと思っています。
これ、きっとどちらでも無いんだと思うんですよね。
完全に同じでもなければ、完全に違うわけでもない。
同じ所もあれば違う所もある、そうやって互いを認めて自分を肯定することが、二人の成長に必要なプロセスだと思うのですが‥。
ラストが楽しみですね^^
次回は<赤山連の悩み>です。
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