グループワークが終わり、清水香織と直美は構内で課題の段取りを話していた。
傍らには横山翔が、そのやり取りが終るのを待っている。

話が終わると、直美は香織に手を振って別れを告げた。
課題頑張ろうねと激励を口にする直美の横で、横山翔がグッと拳を握って笑顔を浮かべる。

ファイティン、と口にする横山に、香織は笑顔で手を振った。
すっかり仲直りした横山と直美は、そのまま肩を組んで楽しげに歩いて行く。

香織はそんな二人の姿を眺めながら、心の中に風が吹き抜けるような気持ちがした。
色づいていく木々が示すように、季節はもうすっかり秋だ‥。

ザワザワと、秋風が葉擦れの音を奏でる。
香織は一人、落ち葉を踏みしめながら秋のキャンパスを歩いていた。

すると不意に旋風が巻き起こり、足元の落ち葉が一斉に螺旋を描いて舞い上がった。
香織は手で顔を覆いながら、舞い散る葉の中で目を閉じる。

舞い上がった木の葉は、風が抜けるとハラハラと再び地面に舞い落ち、
香織はその中で目を開けた。

そしてそこで香織は、信じられないものを目にした。
なんと目の前に、あの男の子が居たのだった。
彼は舞い落ちる木の葉の中で、どこか切なそうな表情で天を仰ぐ。

以前声を掛けられた、あの男の子だった。
あの日目にしたこの男の子の姿が、今も香織の脳裏にはありありと焼き付いている‥。

再び彼が目の前に現れたことが、香織には信じられなかった。
しかし彼は秋の風景の中に、今確かに存在している。

ドクン、と香織の心臓は大きく跳ねた。
美しい風景の中に佇む彼から、目を逸らすことが出来ない。

俯き溜息を吐く彼の表情は切なくて、それはなんとも儚げだった。
ドキドキと高鳴る鼓動もそのままに、香織は彼を見つめたままその場に立ち尽くす。

一つ一つの動作が、切り取った絵のように美しく見えた。
携帯電話を掲げて佇む彼に、どこからか美しい言葉が降ってくる。
俺は時折涙を流す‥。頭ではなく心で泣く俺‥

ピピーッと携帯電話から機会音が響いた。画面には、文字がそっけなく表示される。
”バッテリー残量があと僅かです 5%”

蓮は心で泣いた‥。
やるせない気持ちをぶつけるように、落ち葉の絨毯に携帯を投げつける‥。

そして顔を上げた蓮と香織は、目が合ったのだった。
赤面した香織の心臓が、飛ぶように跳ねる。

すると蓮は手を上げて、香織の方に近付いて来た。
「あっちょっと!ちょっと待って下さ~い!」

ドギマギする香織の方に向かって、彼はニコニコしながら近寄ってくる。
「ここの学生さんっすか?ちょっと聞きたいことあるんすけど!」

香織のすぐ傍で、彼が立ち止まる。
香織はどうしたら良いのか分からず、ただ赤面して俯いていた。
「ちょっと美大の場所教えてもらえますかね?」

彼の顔が、ほんの数十センチ先にある。
香織は顔も上げられぬまま、高鳴る鼓動で何も口に出来なかった。

そんな香織を見て、蓮は自分が変な人だと思われているから黙っているんだと思い、今の状況を説明した。
「携帯のバッテリーが無くなっちゃって!ったくこのオンボロ携帯!
前に一度来たことあるんすけど、やたら構内は広いし道が複雑だしで度々こんがらがるんすよ!
あ、だから別に俺が方向音痴ってワケじゃねーすよ?」

蓮はペラペラと香織に向かって弁明を交えて説明した。
その勢いに香織はついていけず、頷いて相打ちを打つだけで精一杯だ。
「美大の場所のついでに、この大学の近くにある美味くて有名な◯◯って店の場所も教えてくれます?」

次々と要求を出す彼に、香織は必死についていこうとして携帯を取り出した。
「今検索します」と言ってネットブラウザのボタンを押す。
一生懸命携帯を睨む香織を見て、蓮は軽い調子で声を掛けた。
「あれ?ところで俺等どっかで会いました?違うかな?」

ハハハ、と笑う彼に向かって、香織は震える手で携帯を操作し、無音でシャッターが切れるカメラアプリを立ち上げた。
小さく震えながらも、しっかりと無音モードになっていることを確認する。

そして香織はネットで検索する振りをして、彼に向かってシャッターボタンを押した。
写真を撮られているなど露ほども知らない蓮は、一人鼻歌を歌いながら香織が調べ終わるのを待っている。

ほどなくして香織は、蓮が頼んでいた店の地図を表示し、差し出した。
「こ、ここです‥」 「おぉ~!」

香織は地図を見ながら店の行き方を説明し、蓮はひとしきり頷いた後、香織に礼を言って去って行った。
「ありがとうございました~!」

彼の背中が段々と小さくなっていく。香織は暫し放心した。
そして震える手で、携帯を取り出し画像フォルダを開く。

そこには彼が居た。
秋に色づく背景の中で、写真の中の彼は色素の薄い髪と目が透けるように輝いている。

香織はその写真を眺めながら、先ほど彼が口にした言葉を思い出していた。
俺等‥どこかで会ったかな‥?

ドキドキして顔は上げられなかった。
けれど彼の口元は優しく微笑んで、穏やかに自分を見つめていた‥。
私のこと、覚えてた‥?
あんなに格好いいんだから、写真一枚くらい‥いいよね?

キャアア、と香織はその場で叫んでうずくまった。
まるで小説のような運命の再会。彼の全てが、瞼の裏に焼き付いて離れない‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<舞い散る葉の中で>でした。
香織が雪のカーディガンを真似したことで、奇跡の蓮と香織ペアルック的展開に‥
ちなみにこの蓮の服は、アメリカで買ったものだそうです。
そう考えると雪と被ったのは姉弟の為せるシンクロ技‥?^^
次回は<カップル誕生(仮)>です。
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傍らには横山翔が、そのやり取りが終るのを待っている。

話が終わると、直美は香織に手を振って別れを告げた。
課題頑張ろうねと激励を口にする直美の横で、横山翔がグッと拳を握って笑顔を浮かべる。

ファイティン、と口にする横山に、香織は笑顔で手を振った。
すっかり仲直りした横山と直美は、そのまま肩を組んで楽しげに歩いて行く。


香織はそんな二人の姿を眺めながら、心の中に風が吹き抜けるような気持ちがした。
色づいていく木々が示すように、季節はもうすっかり秋だ‥。

ザワザワと、秋風が葉擦れの音を奏でる。
香織は一人、落ち葉を踏みしめながら秋のキャンパスを歩いていた。

すると不意に旋風が巻き起こり、足元の落ち葉が一斉に螺旋を描いて舞い上がった。
香織は手で顔を覆いながら、舞い散る葉の中で目を閉じる。

舞い上がった木の葉は、風が抜けるとハラハラと再び地面に舞い落ち、
香織はその中で目を開けた。

そしてそこで香織は、信じられないものを目にした。
なんと目の前に、あの男の子が居たのだった。
彼は舞い落ちる木の葉の中で、どこか切なそうな表情で天を仰ぐ。

以前声を掛けられた、あの男の子だった。
あの日目にしたこの男の子の姿が、今も香織の脳裏にはありありと焼き付いている‥。

再び彼が目の前に現れたことが、香織には信じられなかった。
しかし彼は秋の風景の中に、今確かに存在している。

ドクン、と香織の心臓は大きく跳ねた。
美しい風景の中に佇む彼から、目を逸らすことが出来ない。

俯き溜息を吐く彼の表情は切なくて、それはなんとも儚げだった。
ドキドキと高鳴る鼓動もそのままに、香織は彼を見つめたままその場に立ち尽くす。

一つ一つの動作が、切り取った絵のように美しく見えた。
携帯電話を掲げて佇む彼に、どこからか美しい言葉が降ってくる。
俺は時折涙を流す‥。頭ではなく心で泣く俺‥

ピピーッと携帯電話から機会音が響いた。画面には、文字がそっけなく表示される。
”バッテリー残量があと僅かです 5%”

蓮は心で泣いた‥。
やるせない気持ちをぶつけるように、落ち葉の絨毯に携帯を投げつける‥。

そして顔を上げた蓮と香織は、目が合ったのだった。
赤面した香織の心臓が、飛ぶように跳ねる。

すると蓮は手を上げて、香織の方に近付いて来た。
「あっちょっと!ちょっと待って下さ~い!」

ドギマギする香織の方に向かって、彼はニコニコしながら近寄ってくる。
「ここの学生さんっすか?ちょっと聞きたいことあるんすけど!」

香織のすぐ傍で、彼が立ち止まる。
香織はどうしたら良いのか分からず、ただ赤面して俯いていた。
「ちょっと美大の場所教えてもらえますかね?」

彼の顔が、ほんの数十センチ先にある。
香織は顔も上げられぬまま、高鳴る鼓動で何も口に出来なかった。

そんな香織を見て、蓮は自分が変な人だと思われているから黙っているんだと思い、今の状況を説明した。
「携帯のバッテリーが無くなっちゃって!ったくこのオンボロ携帯!
前に一度来たことあるんすけど、やたら構内は広いし道が複雑だしで度々こんがらがるんすよ!
あ、だから別に俺が方向音痴ってワケじゃねーすよ?」

蓮はペラペラと香織に向かって弁明を交えて説明した。
その勢いに香織はついていけず、頷いて相打ちを打つだけで精一杯だ。
「美大の場所のついでに、この大学の近くにある美味くて有名な◯◯って店の場所も教えてくれます?」

次々と要求を出す彼に、香織は必死についていこうとして携帯を取り出した。
「今検索します」と言ってネットブラウザのボタンを押す。
一生懸命携帯を睨む香織を見て、蓮は軽い調子で声を掛けた。
「あれ?ところで俺等どっかで会いました?違うかな?」

ハハハ、と笑う彼に向かって、香織は震える手で携帯を操作し、無音でシャッターが切れるカメラアプリを立ち上げた。
小さく震えながらも、しっかりと無音モードになっていることを確認する。


そして香織はネットで検索する振りをして、彼に向かってシャッターボタンを押した。
写真を撮られているなど露ほども知らない蓮は、一人鼻歌を歌いながら香織が調べ終わるのを待っている。

ほどなくして香織は、蓮が頼んでいた店の地図を表示し、差し出した。
「こ、ここです‥」 「おぉ~!」

香織は地図を見ながら店の行き方を説明し、蓮はひとしきり頷いた後、香織に礼を言って去って行った。
「ありがとうございました~!」

彼の背中が段々と小さくなっていく。香織は暫し放心した。
そして震える手で、携帯を取り出し画像フォルダを開く。

そこには彼が居た。
秋に色づく背景の中で、写真の中の彼は色素の薄い髪と目が透けるように輝いている。

香織はその写真を眺めながら、先ほど彼が口にした言葉を思い出していた。
俺等‥どこかで会ったかな‥?

ドキドキして顔は上げられなかった。
けれど彼の口元は優しく微笑んで、穏やかに自分を見つめていた‥。
私のこと、覚えてた‥?
あんなに格好いいんだから、写真一枚くらい‥いいよね?

キャアア、と香織はその場で叫んでうずくまった。
まるで小説のような運命の再会。彼の全てが、瞼の裏に焼き付いて離れない‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<舞い散る葉の中で>でした。
香織が雪のカーディガンを真似したことで、奇跡の蓮と香織ペアルック的展開に‥

ちなみにこの蓮の服は、アメリカで買ったものだそうです。
そう考えると雪と被ったのは姉弟の為せるシンクロ技‥?^^
次回は<カップル誕生(仮)>です。
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