「んだとコラァ!!」

遂に柳瀬健太はブチ切れた。
恥を忍んで六歳も年下の後輩に自分の事情を打ち明けたのに、まるで聞き入れて貰えなかったからである。
それは先輩の事情ですよ

雪は健太を見据えてハッキリと正論を口にした。
しかし正論というものは、時に人の神経を逆撫でしてしまうことがある。

今にも掴みかからんとする健太を、柳がその腕を取って制止する。
心臓は早鐘を打ち、今にも震えが来そうであったが、雪は決して視線を逸らさなかった。
怖くないわけじゃない。

その毅然とした態度を支えるものは、心に築いた確固たる決意だった。
雪は健太を見据えながら、頭の中で冷静に彼を分析する。
健太先輩は普段豪快に笑ってる時だって、少し機嫌を損ねると急に威嚇するように怒り出す。
皆そういった点を分かっていて、健太先輩が怒る前に適当に合わせたり避けたりするのだ。
やはり私も、正面からぶつかって余計な波風を立てるようなことはしたくなかった。

健太先輩が怒りそうになった時に、やはり自分も席を外した場面が脳裏に思い浮かんだ。
圧倒的なパワーで向かって来るこの厄介な人間に、真正面から向き合うのは本当に疲れることだ。
しかし雪が彼と向き合うことを覚悟した理由は、更に疲れるシチュエーションがそこに存在していたからである。
けれど、さざ波が人を揺さぶり続ければ、耐えるのだって限界が来る。

たった一度の派手な衝突よりも、慢性的に小さな攻撃を与えられ続ける事の方が、実際の所ダメージは大きい。
前日の夜、いつまでも繋がらない電話の前で雪は決めたのだ。
防波堤を取り除き築いた高い塀の前で、大波を迎え撃つ覚悟を。
「先輩の個人的な事情に、何故私達全員が巻き添えを食らわされなければいけないんですか?
それに、そういった事情を抱えているのは先輩だけだと思います?」

ハッキリと正論をぶちかます雪に、健太は顔を青くした。
そして雪は尚更強い眼差しで健太を見据え、キッパリと決意を口にする。
「あらかじめ確かに除名の意はお伝えしてありましたし、撤回するつもりもありません」

健太はワナワナと怒りに震えながら、雪に向かって厳しい視線を送る。
「おい、お前マジで血も涙も無いのか?
班長だからって、先輩の名前をバッサリ切っても構わないってのか?あぁ?!」

「その班長に私を任命したのは先輩です」
雪の冷静な返答に、健太の怒りのメーターが振り切れた。健太は声を荒げて、雪に掴みかかろうとする。
「言いたいことはそれだけか?!ありえねぇぞ!マジでヒドすぎんだろ?!」

柳が健太を制止しようとし、聡美が雪を庇おうと手を掛ける。
しかし健太の勢いは強く、あわや惨事かと思われた時だった。
「先輩」

不意に、健太の肩に大きな手が置かれた。
健太はその手の主の方へ振り向く。

そこに居たのは、青田淳だった。
高い位置から、皆を見下ろすようにして立っている。

雪は彼の登場に目を見開いた。
先ほどまでバタついていた空気が一瞬にして変わり、ピンと張り詰めるような緊張が走る。

健太を俯瞰する青田淳は、凍るような眼差しで彼を見ていた。
無言で屈服を促す力が、光を映さないその瞳には宿っている。

それはほんの短い時間だったのだが、淳の眼差しはあれほど昂っていた健太を即効で黙らせる力を持っていた。
見たことの無い青田淳のその視線に、思わず健太はその場で固まる。


そして張り詰めた空気を緩めるように、次の瞬間青田淳はフッと微笑んだ。
それは彼がいつも浮かべている、見慣れた万人向けの笑顔だった。
「もう教授がいらっしゃいますから、お静かに願いますよ」

淳は健太の肩を掴んだまま、柔らかくそう彼に告げた。
四年間常に淳にたしなめられてきた健太は、その笑顔の前で不平を鳴らす。
「おい!お前自分の彼女に肩入れすんのか?!
アイツが今俺の名前を勝手に抜きやがったんだ!」

しかし健太の不平は効力を成さなかった。グループメンバー全員が、雪の味方についたからである。
「違いますよ!除名にはあたしも賛成しましたよ?!」
「まぁ‥俺も賛成したりなんかして‥」

柳は雪が本気で除名を実行するとは思わなかったらしいが、
とにかく”無賃乗車者は除名”ということに関しては、健太を除く全員の総意であるということに落ち着いた。
聡美はともかく柳まで雪側についたことが気に入らず、健太は青筋を立てて憤る。

尚も声を荒げようとした健太であったが、その瞬間教授が教室に入って来たので、言葉を続けることが出来なくなった。
教授はざわついている学生達に着席を促す。
「はい、席に就きましょう。発表の準備は出来てますか?」

ガヤガヤと学生達は三々五々着席する。
健太もやむなく着席し、腕を組んだままムッツリと膨れた。

淳は雪の肩を軽くポンポンと叩くと、笑顔を浮かべて声を掛ける。
「後でね。発表頑張ってな」

雪が言葉を紡げずにいると、彼は雪に向かってニッコリと微笑んだ。
それは先ほど健太に向けた笑顔とは、どこか違った表情に見えた。

そのままニコニコと微笑みながら、淳は「大丈夫大丈夫」と言って自分の席へと歩いて行った。
雪は何も口にすることが出来ないまま、久しぶりに見る彼の背中を見つめていた‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<相対>でした。
健太先輩‥ワタシ的には”チートラ内で彼氏にしたくない男”ナンバー1になりそうです‥。
少しへそを曲げただけで威嚇するように怒るだなんて‥。
身長190センチ超え&三十路近い男が、女子後輩に凄むのもいただけません。
いつもはその黒さにビックリの青田淳ですが、ここではブラック全開で行って欲しいと思ってしまいました^^;
さてプレゼン始まりましたね。波乱の幕開けです。
次回は<罠への誘導>です。
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遂に柳瀬健太はブチ切れた。
恥を忍んで六歳も年下の後輩に自分の事情を打ち明けたのに、まるで聞き入れて貰えなかったからである。
それは先輩の事情ですよ

雪は健太を見据えてハッキリと正論を口にした。
しかし正論というものは、時に人の神経を逆撫でしてしまうことがある。

今にも掴みかからんとする健太を、柳がその腕を取って制止する。
心臓は早鐘を打ち、今にも震えが来そうであったが、雪は決して視線を逸らさなかった。
怖くないわけじゃない。

その毅然とした態度を支えるものは、心に築いた確固たる決意だった。
雪は健太を見据えながら、頭の中で冷静に彼を分析する。
健太先輩は普段豪快に笑ってる時だって、少し機嫌を損ねると急に威嚇するように怒り出す。
皆そういった点を分かっていて、健太先輩が怒る前に適当に合わせたり避けたりするのだ。
やはり私も、正面からぶつかって余計な波風を立てるようなことはしたくなかった。


健太先輩が怒りそうになった時に、やはり自分も席を外した場面が脳裏に思い浮かんだ。
圧倒的なパワーで向かって来るこの厄介な人間に、真正面から向き合うのは本当に疲れることだ。
しかし雪が彼と向き合うことを覚悟した理由は、更に疲れるシチュエーションがそこに存在していたからである。
けれど、さざ波が人を揺さぶり続ければ、耐えるのだって限界が来る。

たった一度の派手な衝突よりも、慢性的に小さな攻撃を与えられ続ける事の方が、実際の所ダメージは大きい。
前日の夜、いつまでも繋がらない電話の前で雪は決めたのだ。
防波堤を取り除き築いた高い塀の前で、大波を迎え撃つ覚悟を。
「先輩の個人的な事情に、何故私達全員が巻き添えを食らわされなければいけないんですか?
それに、そういった事情を抱えているのは先輩だけだと思います?」

ハッキリと正論をぶちかます雪に、健太は顔を青くした。
そして雪は尚更強い眼差しで健太を見据え、キッパリと決意を口にする。
「あらかじめ確かに除名の意はお伝えしてありましたし、撤回するつもりもありません」

健太はワナワナと怒りに震えながら、雪に向かって厳しい視線を送る。
「おい、お前マジで血も涙も無いのか?
班長だからって、先輩の名前をバッサリ切っても構わないってのか?あぁ?!」

「その班長に私を任命したのは先輩です」
雪の冷静な返答に、健太の怒りのメーターが振り切れた。健太は声を荒げて、雪に掴みかかろうとする。
「言いたいことはそれだけか?!ありえねぇぞ!マジでヒドすぎんだろ?!」

柳が健太を制止しようとし、聡美が雪を庇おうと手を掛ける。
しかし健太の勢いは強く、あわや惨事かと思われた時だった。
「先輩」

不意に、健太の肩に大きな手が置かれた。
健太はその手の主の方へ振り向く。

そこに居たのは、青田淳だった。
高い位置から、皆を見下ろすようにして立っている。

雪は彼の登場に目を見開いた。
先ほどまでバタついていた空気が一瞬にして変わり、ピンと張り詰めるような緊張が走る。

健太を俯瞰する青田淳は、凍るような眼差しで彼を見ていた。
無言で屈服を促す力が、光を映さないその瞳には宿っている。

それはほんの短い時間だったのだが、淳の眼差しはあれほど昂っていた健太を即効で黙らせる力を持っていた。
見たことの無い青田淳のその視線に、思わず健太はその場で固まる。


そして張り詰めた空気を緩めるように、次の瞬間青田淳はフッと微笑んだ。
それは彼がいつも浮かべている、見慣れた万人向けの笑顔だった。
「もう教授がいらっしゃいますから、お静かに願いますよ」

淳は健太の肩を掴んだまま、柔らかくそう彼に告げた。
四年間常に淳にたしなめられてきた健太は、その笑顔の前で不平を鳴らす。
「おい!お前自分の彼女に肩入れすんのか?!
アイツが今俺の名前を勝手に抜きやがったんだ!」

しかし健太の不平は効力を成さなかった。グループメンバー全員が、雪の味方についたからである。
「違いますよ!除名にはあたしも賛成しましたよ?!」
「まぁ‥俺も賛成したりなんかして‥」

柳は雪が本気で除名を実行するとは思わなかったらしいが、
とにかく”無賃乗車者は除名”ということに関しては、健太を除く全員の総意であるということに落ち着いた。
聡美はともかく柳まで雪側についたことが気に入らず、健太は青筋を立てて憤る。

尚も声を荒げようとした健太であったが、その瞬間教授が教室に入って来たので、言葉を続けることが出来なくなった。
教授はざわついている学生達に着席を促す。
「はい、席に就きましょう。発表の準備は出来てますか?」

ガヤガヤと学生達は三々五々着席する。
健太もやむなく着席し、腕を組んだままムッツリと膨れた。

淳は雪の肩を軽くポンポンと叩くと、笑顔を浮かべて声を掛ける。
「後でね。発表頑張ってな」

雪が言葉を紡げずにいると、彼は雪に向かってニッコリと微笑んだ。
それは先ほど健太に向けた笑顔とは、どこか違った表情に見えた。

そのままニコニコと微笑みながら、淳は「大丈夫大丈夫」と言って自分の席へと歩いて行った。
雪は何も口にすることが出来ないまま、久しぶりに見る彼の背中を見つめていた‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<相対>でした。
健太先輩‥ワタシ的には”チートラ内で彼氏にしたくない男”ナンバー1になりそうです‥。
少しへそを曲げただけで威嚇するように怒るだなんて‥。
身長190センチ超え&三十路近い男が、女子後輩に凄むのもいただけません。
いつもはその黒さにビックリの青田淳ですが、ここではブラック全開で行って欲しいと思ってしまいました^^;
さてプレゼン始まりましたね。波乱の幕開けです。
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