グループワーク課題の発表時刻が、もう間近に迫っていた。
先ほど柳瀬健太と赤山雪の元に居た青田淳も、自分の班のメンバーが居る席へと移動する。
「どうした?皆発表の準備しなくちゃ」
淳がそう皆を促すと、香織と直美は慌てて手元の資料を整理し始めた。
そんな中佐藤は、幾分気まずそうに柳瀬健太の方を窺い口を開く。
「ま、まぁ、課題して来てないんだから、あのくらいされても安いもんだろ」
佐藤は健太が除名されたことを知ってから、少し気になっていたのだった。
尚も健太を罵倒する言葉を口にする佐藤に、
(それを口にすることで彼は、自分が健太の課題を手伝わなかったことの後ろめたさを解消する)
淳が「今は自分たちの課題に集中しよう」と柔らかく注意する。
そう言って机に手を付いた淳は、偶然香織の携帯画面に触れた。
スマートフォン画面の明かりが灯り、そこに彼女の待ち受け画面が表示される。
ふとそこに目を留めた淳は、思わず目を見開いた。
そこに写っていたのは、雪の弟の赤山蓮だったからだ。
しかし携帯画面はすぐに暗くなり、それ以上見ることは出来なかった。
淳はじっと香織を見ながら、なぜそこに蓮の写真があるのかを思案する‥。
そんな淳の視線に気がついた香織は、一人白目を剥いてビクビクした。
な‥何だろ?また私何かやらかしたのかな‥??
淳はそんな香織を見て笑顔を浮かべ、そして話しかけた。
用意してきた言葉で、彼の仕掛けた罠にかかった彼女に。
「清水、本当に良く調査をしてくれたね。俺等はリーダーシップにありふれた事例を使ったけど、
清水がQ社を調べたのは予想外だったよ。あそこは女性のCEOで有名だったのに、完全に忘れていた」
香織は淳から褒められ、嬉しそうに声を出して頷いた。
資料を探す内、Q社のそれは少し古い事例だが今回のプレゼンにうってつけだった、と香織は誇らしげに口にする。
「頑張ったね」と労う淳を前に、香織は少し照れながら頭を掻いた。
「はい‥先輩が参考にと教えてくれたサイトのお陰で、探すことが出来ました」
本当にありがとうございました、と謝辞を述べる香織に向かって、淳は笑顔を浮かべた。
「そう? それは良かった」
ネズミは知らぬ間に、罠に足を嵌め込んでいた。
彼女がそれに気がつくのは、恐らく後少し先のこと‥。
雪は班のメンバーと会話する青田淳の姿を、その場からじっと眺めていた。
先輩久しぶりに見るな‥
課題やアルバイトに追われる雪と、インターンでほとんど大学に来ていない先輩と。
電話やメールでのやり取りはあったものの、実際彼を目にするのはとても久しぶりに思えた。
大学に彼が居る。そこで笑顔を浮かべている。
今までは当たり前だった風景が、なぜかとても新鮮に感じられた‥。
そして遂にプレゼン発表が始まった。
グループAから順に始まり、学生達は各々準備してきた内容を発表する。
発表の後にある質疑応答も、学生達は積極的に行った。教授はそんな彼等を見て満足そうに微笑む。
そしていよいよ雪達の発表も始まり、雪は準備してきた資料を元に、順調に発表を進めていく。
「‥したがって国内労働者のモチベーション方式とは差別化された方法が必要であり、
この話は企業文化を考慮した代案が必要だと考えます」
流れるような雪のプレゼンに、教授はニッコリと笑って頷いた。雪のグループにその感想を述べる。
「はい、上等でした。丁寧に準備したのが伝わりましたよ」
お疲れ様、と労いの言葉を口にする教授に、皆喜んで謝辞を述べた。
聡美も柳も嬉しそうである。健太だけは彼等を睨みながら膨れていたが‥。
続く質疑応答もつつがなく終わり、雪はホッと胸を撫で下ろした。
きっと良い成績が貰えることだろう‥。
そして次のグループ名が呼ばれた。
「次、グループE」 「はい!」
班長の佐藤が、元気よく返事をする。
彼等は前に出て、発表の為の準備を始めた。教室内が暗くなり、パワーポイントを映す映写機が回る。
グローバル企業CEOの変革的リーダーシップ研究
パッと映し出されたその画面を見て、雪は目を見開いた。
頬杖をついたその姿勢のまま、目は画面に釘付けだ。
隣に座る聡美が、アタフタ動揺して口を開く。
「へっ?!ちょっ、雪!あのパワポのテンプレッ‥!」
雪は聡美が言わんとしていることを理解して頷いた。
二人はヒソヒソと声を潜めて話し合う。
「あれは前に私が発表した時の‥」 「あんたがフォトショで作った背景だよね?」 「うん‥」
二人は驚いた。
何故ならば、画面に映し出されているテンプレートは、去年雪が自作した物そのままだったからだ。
話としてはこうである。
去年雪と聡美は同じ授業を取り、雪はレポートを作成した。
そして履修が終わってから、ネット上にある”レポート販売サイト”にそのレポートを売ったのだ。
このグループの誰かがそれを買ったのだろう、と雪は言った。まさか清水香織が? と二人は口にしてから、
背筋が寒くなるようだった。知ってか知らずかは分からないが、まさかそこまでコピーする訳ないだろう‥?
佐藤広隆、青田淳、糸井直美、と発表は順調に進行した。
そして最後に教壇に立ったのは清水香織だった。胸を張りながら、自身のレポートを解説する。
「現代社会においては女性の社会進出も増え、
それに応じて女性のリーダーシップも浮かび上がって来ています」
先学期のオドオドとしたそれとは違い、香織のプレゼンは格段に上達していた。
雪は自分と同じ班だった時の彼女を思い出し、思わず苦い顔をする。
発表は順調に進んでいた。
画面に映し出された資料を元に、清水香織は解説して行く。
雪は彼女のプレゼンを眺めながら、去年自分が作成した内容を思い出していた。
そしてある箇所に差し掛かった時、雪の眼の色が変わったのだ。
信じられない思いで、雪は画面に映し出されたそれを目にしていた。
心の中にある高い塀の前に、大きな波が押し寄せる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<罠への誘導>でした。
さてプレゼン資料をよく見ると‥。
雪のグループ↓
名前の順は、柳→聡美→雪 ですね。
先輩のグループ↓
名前の順は、佐藤→青田→直美→香織 です。
リーダーなのに自分の名前を一番下に書く雪の謙虚さがうかがえます。
青田を差し置いて俺がリーダーだぞ!という佐藤の自己顕示も‥。
面白いですね^^
次回は<奪われたくない>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!
先ほど柳瀬健太と赤山雪の元に居た青田淳も、自分の班のメンバーが居る席へと移動する。
「どうした?皆発表の準備しなくちゃ」
淳がそう皆を促すと、香織と直美は慌てて手元の資料を整理し始めた。
そんな中佐藤は、幾分気まずそうに柳瀬健太の方を窺い口を開く。
「ま、まぁ、課題して来てないんだから、あのくらいされても安いもんだろ」
佐藤は健太が除名されたことを知ってから、少し気になっていたのだった。
尚も健太を罵倒する言葉を口にする佐藤に、
(それを口にすることで彼は、自分が健太の課題を手伝わなかったことの後ろめたさを解消する)
淳が「今は自分たちの課題に集中しよう」と柔らかく注意する。
そう言って机に手を付いた淳は、偶然香織の携帯画面に触れた。
スマートフォン画面の明かりが灯り、そこに彼女の待ち受け画面が表示される。
ふとそこに目を留めた淳は、思わず目を見開いた。
そこに写っていたのは、雪の弟の赤山蓮だったからだ。
しかし携帯画面はすぐに暗くなり、それ以上見ることは出来なかった。
淳はじっと香織を見ながら、なぜそこに蓮の写真があるのかを思案する‥。
そんな淳の視線に気がついた香織は、一人白目を剥いてビクビクした。
な‥何だろ?また私何かやらかしたのかな‥??
淳はそんな香織を見て笑顔を浮かべ、そして話しかけた。
用意してきた言葉で、彼の仕掛けた罠にかかった彼女に。
「清水、本当に良く調査をしてくれたね。俺等はリーダーシップにありふれた事例を使ったけど、
清水がQ社を調べたのは予想外だったよ。あそこは女性のCEOで有名だったのに、完全に忘れていた」
香織は淳から褒められ、嬉しそうに声を出して頷いた。
資料を探す内、Q社のそれは少し古い事例だが今回のプレゼンにうってつけだった、と香織は誇らしげに口にする。
「頑張ったね」と労う淳を前に、香織は少し照れながら頭を掻いた。
「はい‥先輩が参考にと教えてくれたサイトのお陰で、探すことが出来ました」
本当にありがとうございました、と謝辞を述べる香織に向かって、淳は笑顔を浮かべた。
「そう? それは良かった」
ネズミは知らぬ間に、罠に足を嵌め込んでいた。
彼女がそれに気がつくのは、恐らく後少し先のこと‥。
雪は班のメンバーと会話する青田淳の姿を、その場からじっと眺めていた。
先輩久しぶりに見るな‥
課題やアルバイトに追われる雪と、インターンでほとんど大学に来ていない先輩と。
電話やメールでのやり取りはあったものの、実際彼を目にするのはとても久しぶりに思えた。
大学に彼が居る。そこで笑顔を浮かべている。
今までは当たり前だった風景が、なぜかとても新鮮に感じられた‥。
そして遂にプレゼン発表が始まった。
グループAから順に始まり、学生達は各々準備してきた内容を発表する。
発表の後にある質疑応答も、学生達は積極的に行った。教授はそんな彼等を見て満足そうに微笑む。
そしていよいよ雪達の発表も始まり、雪は準備してきた資料を元に、順調に発表を進めていく。
「‥したがって国内労働者のモチベーション方式とは差別化された方法が必要であり、
この話は企業文化を考慮した代案が必要だと考えます」
流れるような雪のプレゼンに、教授はニッコリと笑って頷いた。雪のグループにその感想を述べる。
「はい、上等でした。丁寧に準備したのが伝わりましたよ」
お疲れ様、と労いの言葉を口にする教授に、皆喜んで謝辞を述べた。
聡美も柳も嬉しそうである。健太だけは彼等を睨みながら膨れていたが‥。
続く質疑応答もつつがなく終わり、雪はホッと胸を撫で下ろした。
きっと良い成績が貰えることだろう‥。
そして次のグループ名が呼ばれた。
「次、グループE」 「はい!」
班長の佐藤が、元気よく返事をする。
彼等は前に出て、発表の為の準備を始めた。教室内が暗くなり、パワーポイントを映す映写機が回る。
グローバル企業CEOの変革的リーダーシップ研究
パッと映し出されたその画面を見て、雪は目を見開いた。
頬杖をついたその姿勢のまま、目は画面に釘付けだ。
隣に座る聡美が、アタフタ動揺して口を開く。
「へっ?!ちょっ、雪!あのパワポのテンプレッ‥!」
雪は聡美が言わんとしていることを理解して頷いた。
二人はヒソヒソと声を潜めて話し合う。
「あれは前に私が発表した時の‥」 「あんたがフォトショで作った背景だよね?」 「うん‥」
二人は驚いた。
何故ならば、画面に映し出されているテンプレートは、去年雪が自作した物そのままだったからだ。
話としてはこうである。
去年雪と聡美は同じ授業を取り、雪はレポートを作成した。
そして履修が終わってから、ネット上にある”レポート販売サイト”にそのレポートを売ったのだ。
このグループの誰かがそれを買ったのだろう、と雪は言った。まさか清水香織が? と二人は口にしてから、
背筋が寒くなるようだった。知ってか知らずかは分からないが、まさかそこまでコピーする訳ないだろう‥?
佐藤広隆、青田淳、糸井直美、と発表は順調に進行した。
そして最後に教壇に立ったのは清水香織だった。胸を張りながら、自身のレポートを解説する。
「現代社会においては女性の社会進出も増え、
それに応じて女性のリーダーシップも浮かび上がって来ています」
先学期のオドオドとしたそれとは違い、香織のプレゼンは格段に上達していた。
雪は自分と同じ班だった時の彼女を思い出し、思わず苦い顔をする。
発表は順調に進んでいた。
画面に映し出された資料を元に、清水香織は解説して行く。
雪は彼女のプレゼンを眺めながら、去年自分が作成した内容を思い出していた。
そしてある箇所に差し掛かった時、雪の眼の色が変わったのだ。
信じられない思いで、雪は画面に映し出されたそれを目にしていた。
心の中にある高い塀の前に、大きな波が押し寄せる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<罠への誘導>でした。
さてプレゼン資料をよく見ると‥。
雪のグループ↓
名前の順は、柳→聡美→雪 ですね。
先輩のグループ↓
名前の順は、佐藤→青田→直美→香織 です。
リーダーなのに自分の名前を一番下に書く雪の謙虚さがうかがえます。
青田を差し置いて俺がリーダーだぞ!という佐藤の自己顕示も‥。
面白いですね^^
次回は<奪われたくない>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!