家へ続く道を、雪はトボトボと一人歩いていた。
鉛のように重い身体を引き摺りながら。

お腹の調子が良くないな‥

さっきからずっと、胃の辺りに不快感がある。
雪はお腹を擦りながら、自身の体調が芳しくないことを懸念した。
なんか食べたものが消化不良でもたれてるって感じ‥。疲れたな‥。
帰ったらすぐに寝‥

そう思いかけた雪だったが、ベッドに辿り着くまでにやらなくてはいけないことが山のようにあることに気がついた。
課題が1,2,3,4つ‥。そろそろ中間考査‥。

時間がどれだけあっても足りない‥。
雪は溜息を吐きながら、ふと携帯を取り出して発信を押す。青田先輩への電話だ。

先輩は、朝のグルワの授業に出てからすぐインターンに行ってしまった。
どうしているかと思って掛けてみた電話だが、いつまで経っても彼は電話に出なかった。
コール音だけが、虚しく何度も響くのみだ。雪は電話を切った。

そして少ししてから、メールが来た。
会食中なんだ ゴメン~ TT TT

なんだかガックリと力が抜けるようで、雪は項垂れながら歩いた。
きっと先輩は”美女と野獣”のような長テーブルで、優雅に会食中なのだろう‥。

すると突然後方から声がしたと思うと、次の瞬間強い衝撃が膝の裏に走った。
「とぉっ!姉ちゃ~ん!」 「??!!」

いきなりの膝カックンで、雪の身体は前方へ勢い良く飛び出した。
あわや転ぶかと思われた時、力強い腕が雪の身体を抱き止める。
「っと」

雪が目を丸くし顔を上げると、近くに彼の顔があった。
ニヒルな笑みを浮かべる亮は、端正な顔立ちで雪を見つめる。

亮は雪を支えていた手をゆっくりと外し、彼女を立たせてニヤニヤ笑った。
雪は何が起こったのか未だ理解出来ないまま、亮が触れていた部分を意識し赤面する。

「転ぶと顎が擦れちまうぜ」と言う亮の隣で、「膝カックンの勢い強すぎた?」と言って蓮が笑った。
彼等の冗談めいたやり取りに、雪がたしなめるように声を上げる。
「ちょっと!こんなこと止めてって言ったでしょ?!」
「お前こそボーっとして歩いてたくせに」 「そーだよ!呼んでも姉ちゃんが気付かんからだろー」

秋の夜道に、三人のワイワイ騒ぐ声が響く。
雪はようやく落ち着いて、「何で二人が一緒に居るの?」と蓮と亮に向かって質問した。

すると蓮は探偵よろしく、鷹の目で亮に視線を送る。
「俺今日姉ちゃんの大学に行ってきたんだけど、その近くで亮さんとバッタリ会ったわけよ!
な~んか怪しいなぁ~?何で大学の近くに居るのよ?」

「アンタの方が怪しいっつーの。何でうちの大学に‥」 「おい坊や、オレにもプライバシーってもんがあんだよ」
亮は自分が大学に居た理由は流しつつ、蓮の肩に手を掛けて言葉を続けた。
「もうさっさと帰ろーぜ。
ダメージヘアのやつれた姿からして、大学ってのは超疲れる所みてーだからよ」

亮はそう言って、疲れた雪を慮って蓮をたしなめる。
亮にフォローされた雪は頭を掻きながら、なんだか気まずい気持ちだ。きっと見るからに疲労ダダ漏れなんだろう‥。
雪は息を一つ吐いて、気を取り直して二人に聞いた。
「もう夕飯は食べました?」

そして三人は連れ立って歩いた。肩を並べて、ワイワイと賑やかに。
「キンカンが奢ってくれた!」 「ちょっとアンタ‥恵だってお小遣いもらってる学生の身なんだからさぁ‥」
「タメなのに奢ってもらってんのか?金無いのは同じだろーに」 「そうよそうよ!」

まるで兄と姉のように蓮を諭す、亮と雪。
彼等は肩を並べながら、すっかり涼しくなった季節の中を歩いた。
そんな中亮は、フッと雪に視線を流す。
色素の薄いその瞳が、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめていた。

雪がその視線に気づいて見上げると、亮は意味深な笑みを浮かべて顔を背ける。
その表情はどこか含みがあって、そしてとても美しかった。

何故こんな視線を寄越すんだろうと思って、雪は赤面した。顔が熱くなって、思わず手で扇ぐ。
亮は満足そうな表情で、蓮に向かって声を掛けた。
「弟よ、お前女をその気にさせるテク知ってる?オレから学ぶ必要がありそーだな!」
「ほっほぉ~!」

身を乗り出す蓮に、武勇伝が聞きたいかとドヤる亮。
雪は二人の間で呆れ顔だが、とても心地良い空間だった。
「オレ上手く行ったんだぜ?」 「聞かして聞かして!」

裏表の無いこの二人と接する時、雪は気楽に構えていられる。
いつも自身を悩ませる考え過ぎの癖も息を潜め、この落ち着ける場所でただ単純に笑って居られるのだ。
昼間疲労の海の中で揺れていた自分が、ゆっくりと浮上する。
とりあえず‥些細な事がさざ波のように押し寄せたとしても、
それはあくまでもさざ波に過ぎない。

誰しもがそうであるように、耐えることが出来る。
いつも、そうしてきたように。
私はまだ頑張れると、雪は心の中で思った。少し楽になった気持ちの余裕が、雪の心の岸に防波堤を作る。
さざ波は、未だ押しては返しを繰り返すけれど。

そして日々は過ぎて行く。
清水香織はレポートに燃えるが、どこかピントがズレているらしく佐藤のダメ出しを幾度となく食らった。
(佐藤は香織に「これが量で勝負する課題だと思うか?」と口にする。
以前淳から言われていた台詞を佐藤が口にするとは、リーダーの自覚がそうさせるのだろうか?)

雪はやはり健太に悩まされていた。
課題の話題になると逃げ出す健太。彼は頼みの綱の佐藤にも、避けられてばかりのようだが。

味趣連は相変わらずで、居眠りする雪を起こしては今日も美味しい店へと繰り出す。
太一のゲーム好きも相変わらずだが、聡美は特に責めもせず関係は安定を保っていた。

先輩はインターンが忙しそうだ。
”ゴメン 今日も仕事が山積み”というメールを受け取った。

けれど空いた時間を見つけては、図書館の横の非常階段で電話した。
時間としてはほんの十分、十五分の短い会話だったけれど。

二時間弱掛けて家に帰ると、忙しい店を手伝った。
オープンして暫く経つが、未だ客足は多く猫の手も借りたい状態だ。

駆け抜けるように日々は過ぎて行った。
そしていよいよ、グループワーク発表の前日になった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<落ち着ける場所>でした。
前回のラスボス淳とは打って変わって、雪が信頼する‥というか裏を探らなくて良い亮と蓮との場面でした。
素直に笑う雪ちゃんが良いですね。
亮はやはり雪の気を引くことに重点を置いている気がします。淳に当てつけるという意識でやってると思いますが、
彼女が気になるという無意識に根付いた感情で‥。^^ふふふ
次回は<彼女の覚悟>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!
鉛のように重い身体を引き摺りながら。

お腹の調子が良くないな‥

さっきからずっと、胃の辺りに不快感がある。
雪はお腹を擦りながら、自身の体調が芳しくないことを懸念した。
なんか食べたものが消化不良でもたれてるって感じ‥。疲れたな‥。
帰ったらすぐに寝‥

そう思いかけた雪だったが、ベッドに辿り着くまでにやらなくてはいけないことが山のようにあることに気がついた。
課題が1,2,3,4つ‥。そろそろ中間考査‥。

時間がどれだけあっても足りない‥。
雪は溜息を吐きながら、ふと携帯を取り出して発信を押す。青田先輩への電話だ。


先輩は、朝のグルワの授業に出てからすぐインターンに行ってしまった。
どうしているかと思って掛けてみた電話だが、いつまで経っても彼は電話に出なかった。
コール音だけが、虚しく何度も響くのみだ。雪は電話を切った。

そして少ししてから、メールが来た。
会食中なんだ ゴメン~ TT TT

なんだかガックリと力が抜けるようで、雪は項垂れながら歩いた。
きっと先輩は”美女と野獣”のような長テーブルで、優雅に会食中なのだろう‥。

すると突然後方から声がしたと思うと、次の瞬間強い衝撃が膝の裏に走った。
「とぉっ!姉ちゃ~ん!」 「??!!」

いきなりの膝カックンで、雪の身体は前方へ勢い良く飛び出した。
あわや転ぶかと思われた時、力強い腕が雪の身体を抱き止める。
「っと」

雪が目を丸くし顔を上げると、近くに彼の顔があった。
ニヒルな笑みを浮かべる亮は、端正な顔立ちで雪を見つめる。

亮は雪を支えていた手をゆっくりと外し、彼女を立たせてニヤニヤ笑った。
雪は何が起こったのか未だ理解出来ないまま、亮が触れていた部分を意識し赤面する。

「転ぶと顎が擦れちまうぜ」と言う亮の隣で、「膝カックンの勢い強すぎた?」と言って蓮が笑った。
彼等の冗談めいたやり取りに、雪がたしなめるように声を上げる。
「ちょっと!こんなこと止めてって言ったでしょ?!」
「お前こそボーっとして歩いてたくせに」 「そーだよ!呼んでも姉ちゃんが気付かんからだろー」

秋の夜道に、三人のワイワイ騒ぐ声が響く。
雪はようやく落ち着いて、「何で二人が一緒に居るの?」と蓮と亮に向かって質問した。

すると蓮は探偵よろしく、鷹の目で亮に視線を送る。
「俺今日姉ちゃんの大学に行ってきたんだけど、その近くで亮さんとバッタリ会ったわけよ!
な~んか怪しいなぁ~?何で大学の近くに居るのよ?」

「アンタの方が怪しいっつーの。何でうちの大学に‥」 「おい坊や、オレにもプライバシーってもんがあんだよ」
亮は自分が大学に居た理由は流しつつ、蓮の肩に手を掛けて言葉を続けた。
「もうさっさと帰ろーぜ。
ダメージヘアのやつれた姿からして、大学ってのは超疲れる所みてーだからよ」

亮はそう言って、疲れた雪を慮って蓮をたしなめる。
亮にフォローされた雪は頭を掻きながら、なんだか気まずい気持ちだ。きっと見るからに疲労ダダ漏れなんだろう‥。
雪は息を一つ吐いて、気を取り直して二人に聞いた。
「もう夕飯は食べました?」

そして三人は連れ立って歩いた。肩を並べて、ワイワイと賑やかに。
「キンカンが奢ってくれた!」 「ちょっとアンタ‥恵だってお小遣いもらってる学生の身なんだからさぁ‥」
「タメなのに奢ってもらってんのか?金無いのは同じだろーに」 「そうよそうよ!」

まるで兄と姉のように蓮を諭す、亮と雪。
彼等は肩を並べながら、すっかり涼しくなった季節の中を歩いた。
そんな中亮は、フッと雪に視線を流す。
色素の薄いその瞳が、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめていた。

雪がその視線に気づいて見上げると、亮は意味深な笑みを浮かべて顔を背ける。
その表情はどこか含みがあって、そしてとても美しかった。


何故こんな視線を寄越すんだろうと思って、雪は赤面した。顔が熱くなって、思わず手で扇ぐ。
亮は満足そうな表情で、蓮に向かって声を掛けた。
「弟よ、お前女をその気にさせるテク知ってる?オレから学ぶ必要がありそーだな!」
「ほっほぉ~!」

身を乗り出す蓮に、武勇伝が聞きたいかとドヤる亮。
雪は二人の間で呆れ顔だが、とても心地良い空間だった。
「オレ上手く行ったんだぜ?」 「聞かして聞かして!」

裏表の無いこの二人と接する時、雪は気楽に構えていられる。
いつも自身を悩ませる考え過ぎの癖も息を潜め、この落ち着ける場所でただ単純に笑って居られるのだ。
昼間疲労の海の中で揺れていた自分が、ゆっくりと浮上する。
とりあえず‥些細な事がさざ波のように押し寄せたとしても、
それはあくまでもさざ波に過ぎない。

誰しもがそうであるように、耐えることが出来る。
いつも、そうしてきたように。
私はまだ頑張れると、雪は心の中で思った。少し楽になった気持ちの余裕が、雪の心の岸に防波堤を作る。
さざ波は、未だ押しては返しを繰り返すけれど。

そして日々は過ぎて行く。
清水香織はレポートに燃えるが、どこかピントがズレているらしく佐藤のダメ出しを幾度となく食らった。
(佐藤は香織に「これが量で勝負する課題だと思うか?」と口にする。
以前淳から言われていた台詞を佐藤が口にするとは、リーダーの自覚がそうさせるのだろうか?)


雪はやはり健太に悩まされていた。
課題の話題になると逃げ出す健太。彼は頼みの綱の佐藤にも、避けられてばかりのようだが。


味趣連は相変わらずで、居眠りする雪を起こしては今日も美味しい店へと繰り出す。
太一のゲーム好きも相変わらずだが、聡美は特に責めもせず関係は安定を保っていた。

先輩はインターンが忙しそうだ。
”ゴメン 今日も仕事が山積み”というメールを受け取った。

けれど空いた時間を見つけては、図書館の横の非常階段で電話した。
時間としてはほんの十分、十五分の短い会話だったけれど。

二時間弱掛けて家に帰ると、忙しい店を手伝った。
オープンして暫く経つが、未だ客足は多く猫の手も借りたい状態だ。

駆け抜けるように日々は過ぎて行った。
そしていよいよ、グループワーク発表の前日になった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<落ち着ける場所>でした。
前回のラスボス淳とは打って変わって、雪が信頼する‥というか裏を探らなくて良い亮と蓮との場面でした。
素直に笑う雪ちゃんが良いですね。
亮はやはり雪の気を引くことに重点を置いている気がします。淳に当てつけるという意識でやってると思いますが、
彼女が気になるという無意識に根付いた感情で‥。^^ふふふ
次回は<彼女の覚悟>です。
人気ブログランキングに参加しました


