本書は著者の中学時代に大きな影響を与えた出来事や、それ以降のことなどが色々と描かれていて、
読み物としてとても面白くなっています。
一般的には何かと快楽を求めて覚醒剤に依存すると思っている人が多いようですが、
実際には多くの場合、興味本位で使用し始め、その後にトラウマ由来のフラッシュバックを
防ぐためや、様々な苦しみをごまかすために使い続ける人が多いとのことです。
覚醒剤よりもアルコールのほうが、人体への害が大きいのですが、
アルコールのほうが長い歴史を持ち、社会的に容認されていることで、
問題となりにくくなっていると言うのが、長年にわたって依存症臨床に
携わってきた著者の考えとのことです。
覚醒剤依存症患者というと、犯罪を犯す傾向が強いという印象を持っていましたが、
実際には犯罪を起こす人は少なく、覚醒剤の購入以外の犯罪行為を起こさずに
使い続けている人のほうがはるかに多いとのことが、意外なところでした。
そのため経済的に豊かで、他に楽しみのある人のほうが、覚醒剤を止めやすいというのが
著者が長年見てきた事とのことです。
覚醒剤への依存に、成育歴由来のトラウマなどの影響が大きいとしているところが、
これまでの覚醒剤依存症への見方との違いでしょう。
そして厳罰化より依存症患者を社会で受け入れて、刑罰よりも治療につなげるほうが、
依存症患者を減らすのに有効とのことです。
その事を著者は、アディクション(依存)よりコネクション(繋がり)を、と表現しています。
漫画やドラマなどの様々な媒体で、ゾンビや廃人のような覚醒剤依存症患者が
取り上げられていますが、実際にはそのような方はほとんど居ないとのことです。
そのような人が多いような偏見が広まった背景には、一時盛んに喧伝された、
「人間やめますか、それとも覚醒剤止めますか」という覚醒剤乱用防止対策ポスターなどの
影響が大きいとのことです。
これまでの覚醒剤依存症などへの見方を大きく変える一冊でした。