もともと学校の勉強は試験前に将来今よりひどい状況にならないためということで、
試験前に単に丸暗記していて、高校進学後は何やかやで関心もなくやりたくもない理系に進んだ。
虐待の影響で、自分でコースを選ぶような価値が自分にはないと思っていた。
大学に入り、それまで相談していた公立病院の医師が何もしない人だったので、
偶然に知った家族療法というものをしているところをその医師に紹介されて行った。
しかし担当になったセラピストは大学院も出ていなくて、普通の家に育ったようで、
こちらが学校どころではない家ということも解らなかった。
そしてそこの医師は親に対して、こちらとぶつかり合う様に言ったので、
余計に虐待された。
傍から見ると、単に志望校に落ちてゴネているように見えたので、そのように接する
ように言ったのだろう。
当時の多くの医師や心理士は、親のほうが病んでいて、
子どもを世話せず常識も教えず虐待するのみの家庭を知らないので、
そのような対応をしたのかもしれない。
それでも父親の理解不能な言動に驚き、母親と兄を呼んで、
「あの人はこれまでどうやって生きて来たのですか」と聞いたとのことだが、
母親は現実を認めたくないのか、「ちゃんと勤め上げた人です。」
と答えたとのことだ。
隣に住んでいた人は、父親の喚き声が聞こえただろうから、
こちらがどんどん具合が悪くなっていくのが、父親の行為の結果と
わかっていただろう。
父親は誰からも相手にされなく、働けない人だったが、時代的に
企業に居させてもらっていたのだろう。
しかしながら父親はそのことも理解できない人だったので、
ひたすらこちらを怒鳴り、責めてばかりいた。
防衛大学卒だったので、大学時代に教官にそのように指導され、言いなりになって
いたので、こちらにもそう接したのだろう。
教官の言いなりになるのみで、自分で考えるということがなかったので、
幹部学校進学後はその場に応じた指示などを出せず、やっていけないので
中退したのだろう。
勤務先の納入先に自衛隊の関連企業があっただろうから、
会社としても、追い出しにくかったのかもしれない。
三十代半ばのジャズベーシストの主人公と行きつけのスナックの年上の店員、
そして音楽仲間たちとの話ですが、ほぼずっと会話で構成されてゆきます。
これまでに著者が書いた小説より、途切れることなく息遣いやリズム感が感じられるものになっています。
中編ですが最初から最後まで一気に続けて読んでしまう小説でした。
著者は本職の社会学者としても、この小説のように相手に随伴する感じで
様々な人達の語りを長年にわたり聞いてきたのだろうか、と思いました。