徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

「勧進帳」よもやま話

2013-09-05 13:18:41 | 音楽芸能
 先日の火の君文化ホールにおける「誠会 おさらい会」で、20分以上にも及ぶ「素囃子 勧進帳」を聞きながら、とりとめのないことを考えていた。

 「勧進帳」というのは、能「安宅」を元にした歌舞伎の演目。歌舞伎十八番の中でも最も親しまれている演目と言えるだろう。あらすじは、源義経一行が源頼朝の追及を逃れ、山伏姿に身をやつして奥州への逃避行の途中、加賀国の「安宅」の関を通過しようとして関守の富樫との間で繰り広げる攻防を描いたもの。中でも武蔵坊弁慶が富樫に迫られて白紙の勧進帳を読み上げる場面が有名だ。

 今年2月に亡くなった十二代目市川團十郎(成田屋)のお家芸でもあるが、僕はテレビで能「安宅」や歌舞伎「勧進帳」を観るよりずっと前にこの物語に接したのは黒澤明監督の映画「虎の尾を踏む男達」だった。弁慶役の大河内傳次郎、森雅之、志村喬らの山伏、富樫の藤田進、そして映画版で創造されたキャラクター、強力の榎本健一など、名優たちが織りなすサスペンス劇は今でも忘れられない。終戦の昭和20年(1945)にこんな映画が製作されたというのも驚きだ。またこの映画の撮影中には進駐軍関係者の見学が多かったらしく、ある時、そんな米軍関係者の中に黒澤監督が敬愛してやまないジョン・フォード監督が含まれていたらしいが、肝心の黒澤監督は俯瞰撮影のためクレーンの上にいて気づかなかったというエピソードも残されている。ちなみに僕が映画少年として目覚めた映画は小学2年の時(昭和28年)に観たジョン・フォード監督の「三人の名付親(1948)」である。

 そんなことを考えながら「素囃子 勧進帳」を聞いていたら、あっという間に演奏時間が過ぎ幕が下りてきた。