徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

「今朝の秋」再び…

2023-12-30 17:37:33 | テレビ
 昨日深夜、NHK-Gで「山田太一さんをしのんで ドラマスペシャル『今朝の秋』」が放送されたた。このドラマは1987年に初回放送されたが、その後の再放送も含め観るのは今回で5回目ではないかと思う。個人的には不動の「オールタイム・ベスト1ドラマ」である。初回放送から36年経った今日でも新鮮な感動がある。原作・脚本が山田太一、演出が深町幸男、音楽が武満徹という超一流のスタッフに加え、笠智衆、杉村春子、杉浦直樹、倍賞美津子、樹木希林、加藤嘉、名古屋章、谷村昌彦ほかのキャスティングは絶妙だ。当時、社会問題となりつつあった家庭の崩壊、老いや病いと人生観、老々介護など今日的な問題が丹念に描かれている。
 このドラマの中で僕が最も好きなシーンは、年老いた父(笠智衆)が、癌で余命いくばくもない一人息子(杉浦直樹)を入院先の病院から連れ出し、蓼科の山荘で最後の日々を過ごさせてやるのだが、そこで父と息子が初めてしみじみ語り合うというシーンだ。

息子「病気も悪いことばっかりじゃあないな。元気じゃ、お父さんとこんなこと、絶対ないもんな」
 父「うむ」
息子「忙しがってて」
 父「うむ」
息子「とても、救われたな」
 父「――」
息子「こんな気持のまま、死ねるとは思えないけど」
 父「――」
息子「まだ、きっとジタバタするだろうけど、なるべく、見苦しく、ないように、したいな」
 父「――」
息子「――」
 父「案外、わしの方が早いかもしれんよ」
息子「そんなことはないだろうけど」
 父「多少の前後はあっても、みんな死ぬんだ」
息子「そうだね、みんな死ぬんですよね」
 父「特別のような顔をするな」
息子「フフ、いうな、ずけずけ。しかしね、フフ、こっちは五十代ですよ、お父さんは八十じゃない。そりゃあ、こっちは、少しぐらい、特別な顔をするよ。フフ(顔歪んで、泣いてしまう)」
 父「――」
息子「(泣いている)」
 父「(涙が湧いてくる)」

 息子が寝た後、父親の笠智衆さんが一人手酌で酒を飲みながら熊本民謡「田原坂」を口ずさむのも泣かせる。
※2013.6.10の記事「今朝の秋」ふたたび・・・ を再編集したものです。