OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

日本のかたち (コロナ・ブックス編集部)

2007-07-29 14:34:06 | 本と雑誌

Miroku_bosatsu  タイトルどおり、内容は、まさに「日本のかたち」

 章立ては、「もののかたち」「文様のかたち」「精神のかたち」の3部構成で、それぞれ、日本の伝統的な意匠・デザイン等を数多くの写真によって紹介しています。
 具体的には、生活用品であったり、工芸品であったり、また、建築であったり、風景であったり・・・。

(p26より引用) 障子 shouji 間仕切りとして、また窓や縁の内側に立てる建具の総称で、明障子、衝立障子、襖障子など種類が多い。平安時代は襖障子のことをいったが、現代では中世以降用いられるようになった明障子を指す

 そのひとつひとつを追っていくたびに、先人の感性にほとほと感心させられます。

 本書の中には、本編の写真や解説のほかに、いくつかの付録や短文が載せられています。

 そのなかのひとつ、「人のかたち」をとるものとして「彫刻」と「人形」を対比した谷川渥氏のエッセイは、なかなか興味深いものがありました。

 谷川氏は、和辻哲郎、高村光太郎、谷崎潤一郎の3氏の言葉から「彫刻」と「人形」の差異を浮き立たせていきます。
 各氏の言葉を踏まえて、「人形⇔彫刻」の対比を「顔・手足・姿⇔胴体(トルソ)」「日本⇔西洋」といった対比として図式化していきます。

 さらに谷川氏は、この図式をヘーゲルの「美学談義」における主張とあわせ、以下のように解説しています。

(p65より引用) ヘーゲルは、彫刻において最も大事なこととして、「現象の特殊相の除外」と「表情の除外」を挙げている。ところが、「現象の特殊相」あるいは「表情」こそが、日本で最も重視されるところのものだといってもいい。「現象の特殊相」を「姿」と、「表情」を「顔」と呼ぶこともできる。それらを除外すれば、西洋には「量塊」と、そして「比例」が残るだろうが、日本には何も残らない。その意味で、総じて日本の芸術は反彫刻的なのである。

 ロダンの「考える人」と中宮寺の「半跏思惟像(弥勒菩薩像)」との対比です。

日本のかたち (コロナ・ブックス (134)) 日本のかたち (コロナ・ブックス (134))
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2007-07

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「方法序説」の意味づけ (デカルト『方法序説』を読む(谷川多佳子))

2007-07-28 16:41:33 | 本と雑誌

 デカルトの思索は、「方法序説」において、「コギト・エルゴ・スム(Cogito,ergo sum)」から「(心身)二元論」に至ります。

(p109より引用) こうして、考えることが、世界のある無しにかかわらず、わたしの存在を保証する。わたしの本質は考えることであり、身体〔物体〕にはまったく依存しない。

 「二元論」には数々の反論が出されましたし、また、二元論自体においても論理的難点として「心身の結合」問題が提起されました。

 デカルト自身、エリザベト王女からの質問を機に、別々とされている精神と身体を結合させる説明を探究していました。

(p157より引用) たしかにデカルトは心身結合を、「それ自身からしか理解されえない」原初的概念としてとらえ、さらに、生活の次元に属するものとしてとらえることに気づいていたわけです。

(p169より引用) デカルト自身、二元論を立て、精神と身体とを区別しましたが、両者の結合は生きるなかでとらえられる、と語っています。・・・デカルト自身は、感覚や日常生活の豊かさを重視していたことが感じられます。

 この二元論の議論は、「機械論的自然観」にも関わります。
 (ちなみに、デカルトは、数学をモデルにした論理的思考方法と機械論を確立したといわれています)

(p136より引用) デカルトはまず、実践的な哲学と実験を重視します。・・・近代科学がオプティミスティックに始まる時代ですから、自然科学が進歩すれば人間は幸福になれるという学問の展望が述べられる。・・・
 その際の重要な主題が「自然」で、・・・「こうしてわれわれをいわば自然の主人にして所有者たらしめる」という有名な表現です。ヨーロッパ近代の自然へのかかわりを典型的に示す言葉で、フランシス・ベイコンの影響といわれています。

 人が自然を支配するのは「技術の発明」によって可能になるという技術礼讃・機械礼讃的な考え方です。

 この「機械論」が「二元論」の議論に適用されると、(「身体」はともかく)「心(精神)」も「機械」として説明できるかという命題につながります。
 この思索の流れを現代にまで敷衍すると、「心」と「脳」の問題すなわち「大脳生理学」にも至ります。

 この「二元論」や「機械論」に代表されるように、「方法序説」は、その時代においての意味以上に、その後の種々の学問にもその裾野を拡げていたといえます。

(p167より引用) 『方法序説』・・・これは小さな本ですが、そのなかで近代の学問の枠組みを考えるための基本的問題が多岐にわたって提示されています。・・・そして二十世紀、多方面多領域からのデカルト批判。それでもなぜデカルトなのか。個々の問題解決能力には難点や限界があるとしても、問題提起の豊かさ・広さ・深さにおいて、その哲学の偉大さが計られるのではないでしょうか。デカルトの問題提起は根本的であり、その射程は広大でした。

 まさに、現代に生きる(「課題解決型」ではなく)「問題提起型」の思索だったわけです。

デカルト『方法序説』を読む デカルト『方法序説』を読む
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2002-06

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復習「方法序説」 (デカルト『方法序説』を読む(谷川多佳子))

2007-07-25 22:08:58 | 本と雑誌

Descartes_3  以前、デカルトについての入門書として、野田又夫氏の「デカルト」を、そのあと「方法序説」も読みました。

 本書は、その岩波文庫の「方法序説」の訳者である谷川氏が講演された「市民セミナー」の内容をもとにしたものです。
 薄い本ですが、「方法序説」の章立てに合わせて平易に解説が進みます。

 忘れかけている「方法序説」のポイントの復習です。

 まずは、「理性」を一義に考えるデカルトの基本姿勢の表明です。

(p79より引用) 「第二部」は、・・・多くの人よりも一人によってつくられるほうが完成度が高く、さらに、真理への接近も一人の人間の理性によりことが示されていきます。・・・
 真理に接近できるのは、「一人の良識ある人間が目の前にあることについて自然〔生まれながら〕になしうる単純な推論」なのです。そして「われわれの判断力が・・・理性のみによって導かれていた場合ほどに純粋で堅固なもの」になるのです。

 そして、デカルトといえばという「コギト・エルゴ・スム(Cogito,ergo sum)」への道程に係るくだりです。

(p107より引用) 「第四部」のデカルト自身の懐疑ですが、まず感覚を疑い、それを取りのける。次の段階では誤謬推理、推論を取りのける。最後に眠っているときの思考、夢の幻想を取りのける・・・。懐疑の果てにコギトがあらわれます。

 続いて、デカルトの言として「方法序説」からの引用を紹介しています。

(p107より引用) しかしそのすぐ後で、次のことに気がついた。すなわち、このようにすべてを偽と考えようとする間も、そう考えているこのわたしは必然的に何ものかでなければならない、と。そして「わたしは考える、ゆえにわたしは存在する」というこの真理は、懐疑論者たちのどんな途方もない想定といえども揺るがしえないほど堅固で確実なのを認め、この真理を、求めていた哲学の第一原理として、ためらうことなく受け入れられる、と判断した。

 炉部屋の思索から諸国遍歴を経て「コギト・エルゴ・スム(Cogito,ergo sum)」に至るのです。

デカルト『方法序説』を読む デカルト『方法序説』を読む
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発売日:2002-06

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コトラーを読む (酒井 光雄)

2007-07-23 23:47:42 | 本と雑誌

 マーケティングの定番テキストといえばコトラーの「マーケティング・マネジメント」という大著が有名です。
 私も20年ほど前から1冊手元においていますが、読み通す元気はありませんでした。
 (未だに読破していません)

 本書は、コトラーのマーケティングの考え方を概括した超ダイジェスト版ということでザッと読んで見ました。

 コトラー氏のテキストは、今から見ても「先取り」の視点もあれば、昨今のトレンドも踏まえて改訂を続けている「フォロー」の配慮もあります。

(p167より引用) ネットの登場により企業側が情報をコントロールする時代は終わり、生活者が情報をコントロールできる時代に入ったことを、コトラーは強調しています。

 そういう意味では、コトラー氏は、テキストの執筆において、まさに「顧客起点」の考え方を実践しているとも言えます。
 ただ、「マーケティング・マネジメント」という書物自体はあまりにも大作過ぎて、「顧客の立場」には立っていないと言えるかもしれません。
 いや、コトラー氏のことですから、むしろ明確にターゲット(読者)を絞った「商品(著作)」なのでしょう・・・

 以下、本書で紹介されている「マーケティング」の「きほんのき」の記述です。

 まずは、コトラー・マーケティングの源「顧客起点」についてです。

(p33より引用) 顧客起点の発想は、製造業はもとより、サービス業などあらゆる業界で必要な事業視点です。
 例えばハートフォード生命には、商品開発の最終段階に「マザーセールス・テスト」と呼ばれるユニークなテストがあります。これは「社員が自分の母親に対して、自信を持って自社の新しい商品を販売できるか?」という問いかけをして、商品の精度を判断するテストです。・・・
 また・・・ニチレイの企業行動指針の中には、「もう一人の家族のために」という文言が入っています。顧客の存在を、自分の妻子や両親など自分の家族と同じように考え、製品づくりから販売方法まで最善の方法を社員が判断し、行動するように促すためです。

 コトラー氏によれば、企業における「マーケッター」は顧客のための番人だとのことです。

(p50より引用) マーケティングに携わる人とは「顧客に最善の商品やサービスを提供し、顧客に満足を提供する顧客の番人であるべきだ」と、コトラーは指摘しています。

 また、新商品開発にあたっての「常識」です。

 まず、基本は「コンセプト」です。
 コンセプトは、きちんと「言葉」で言い表せなくてはなりません。
 これは、マーケティングに限らず、あらゆる場合に登場する「コンセプト」に共通の基本です。言葉にしなくては、明確になりませんし、伝えることも共有化することもできません。

(p82より引用) コンセプトとは「製品のアイデアを、顧客が理解できる言葉で説明したもの」だとコトラーは説明しています。コンセプトが明確だと、説明を受けた人は具体的な製品をイメージすること(心の中に製品の具体像を思い浮かべること)ができるはずです。

 いくら「コンセプト」は素晴らしくても、結果、顧客に届かなくては「サービス」になりませんし、「商品」にもなりません。

(p77より引用) 製品がいかに素晴らしい機能や効能を持っていても、失敗することがよくあります。それは、「誰もその製品の存在を知らず」また「どこに行っても売られていない」場合です。・・・
 優れた商品を考え出すだけでは、新製品開発とは呼べず、また事業としても成功しません。良い製品がつくられ、想定した顧客にその製品情報が正しく伝わり、顧客の購入が継続して初めて、新製品が成功したといえるのです。

 これも、至極当たり前のことです。

コトラーを読む コトラーを読む
価格:¥ 903(税込)
発売日:2007-04-14

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ダ・ヴィンチ天才の仕事-発明スケッチ32枚を完全復元 (ドメニコ・ロレンツァ)

2007-07-22 14:55:26 | 本と雑誌

Habataki_hikouki  空飛ぶ機械、自走車、武器といったダ・ヴィンチによる発明スケッチをもとに、コンピュータ・グラフィックス(CG)技術を駆使して、現物イメージをリアルに再現したものです。
 ともかく、見ていて楽しい本です。

 ひとつひとつの装置についていえば、こうすれば動くだろうとか、こうすれば飛ぶだろうとか・・・、「てこ」「滑車」「クランク」「ギア」「ロープ」・・・数々のパーツの組み合わせで、メカニックな仕掛けとしてはかなりの納得感があります。

(p45より引用) レオナルドが考案した数々の機械は、理論的な考察を“目に見えるかたち”にしたものだった。

 ただ、問題は、現実の「重量」であったり、その仕掛けを駆動させる「動力」であったりするのですが・・・。

 その意味では、ダ・ヴィンチによる数々の発明ももちろん素晴らしいのですが、仕掛けの礎となる「動力源」を生み出した「蒸気機関」の発明は、改めてその価値を再認識させられました。
 仕掛けを動かすパワーがなければ、折角の仕掛けも世の中に貢献できず、すごいけどね・・・で終ってしまいます。

 しかしながら、そうはいっても、やはりダ・ヴィンチの造形はさすがだと思います。
 ひとことでいえば「機能美」なのでしょうが、ひとつひとつのパーツ、それらを組み合わせた構造物の総体からは、無駄のない均整のとれたスマートさが強く感じられます。

(p223より引用) レオナルドの機械は、実用的であり、理論的であるとともに審美的である。有用性をもった知の結晶というだけでなく、美しさも兼ね備えているのだ。

 さらに、デザインの優しさのせいでしょうか、人間とシンクロした温かさも伝わってくるのが不思議です。

ダ・ヴィンチ天才の仕事―発明スケッチ32枚を完全復元 ダ・ヴィンチ天才の仕事―発明スケッチ32枚を完全復元
価格:¥ 2,415(税込)
発売日:2007-04

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ヤバい経済学-悪ガキ教授が世の裏側を探検する (スティーヴン・レヴィット)

2007-07-21 17:47:10 | 本と雑誌

Wakanohana  全米で100万部超のベストセラー、日本でもかなり売れた本ということで読んでみました。

  • 不動産広告の「環境良好」の隠された意味って?
  • 90年代のアメリカで犯罪が激減したのはなぜ?
  • 勉強ができる子の親ってどんな人?
  • 銃とプール、危ないのはどっち?
  • 力士は八百長なんてしない?
  • 学校の先生はインチキなんてしない?

 本書の扱っている材料が、麻薬や犯罪といったアメリカ的な社会事象が多いので、全米ベストセラーというのもわからないわけではありませんが、日本でも・・・というのはどうも???
(多くの書評で紹介されている「7勝7敗千秋楽の勝率」という「相撲の八百長?」の話題の影響でしょうか?まあ、かく言う私も手にとったわけですから・・・)

 著者は、世の中にまことしやかに流布している通説を、データをもとに分析し、その真偽のほどを明らかにしていきます。

(p176より引用) 私たちには、物事を遠くで起きた事件や難しいことよりも自分の手にとってさわれることに結びつける傾向がある。とくに、ものごとの原因は時間的にそう遠くないところにあると思いがちだ。・・・私たちだって間違った原因を信じ込むことはある。自分の利益に絡んだことを真理と称して高らかに吹聴する専門家にせっつかれて何事かを思い込むことは多い。

 事象Aと事象Bの間には、「相関関係」があるのか?
 相関関係は認められたとして、それは「因果関係」にもとづくものか?

 著者は、そういった基本的な事実の掘り下げや論理の検証を、身近なシーンを材料に豊富なデータを用いて実際にやってみせています。

 根拠の確認なくして因果関係を信じることを戒め、事実をもとに真実を求める姿勢は大事だと思います。
(ただ、そのための啓蒙の手段が、この本というのであれば、正直なところちょっと疑問符がつきます。とくに第6章の「名前」のあたりは・・・。)

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2006-04-28

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ジャック・ウェルチの「私なら、こうする!」 (ジャック・ウェルチ)

2007-07-20 22:46:19 | 本と雑誌

ジャック・ウェルチ わが経営(上) ウィニング 勝利の経営 

 ウェルチ本としては、「わが経営」「ウィニング勝利の経営」等を読んでいますが、その流れで本書も手にとってみました。

 前書きにもあるように、本書は、講演で各所を回った際に受けた数々の「質問」がきっかけとなって執筆されたそうです。
 その講演先のひとつには、このBlogのサイドバーでも紹介しているtakekuraさん(Blog名:「ロサンゼルスMBA生活とその後」)の留学先もはいっているのでしょう。最近、社内SNSの展開でマスコミにも登場しているtakekuraさんは、留学時代、生でウェルチ氏と会っています

 さて、本書は(当然ですが、)ウェルチ氏による本なので、質問者に対する解決策には、「解雇」や「転職」が当たり前になっています。
 このあたり、さすがに今の日本では、(かなりの流動性は出て来たとはいえ、)まだまだそこまでの割り切りは難しいでしょう。

(p110より引用) 組織のコントロールが及ばない外部要因のせいで、迅速に経費削減をしなければならないときが必ずある。そういう場合にもっとも有効なのは解雇なのだ。

 とはいえ、本書には、どんな国や業界でも適用できるウェルチ氏ならではの歯切れのいいアドバイスが満載です。

 ウェルチ氏が基本においているものは、「自分」です。

 たとえば、面接で成功を求めている質問者に対して、「大事なことは『自分』を出すことだ」とアドバイスしています。

(p23より引用) どんな面接でも、最大のセールスポイントは、“あなた自身であること”だ。だから、何かのふりをするのはやめて自分自身になりなさい。あなたが望んでいるプラスの印象は、あなたの内にある。それを外に出せばよいだけのことだ。

 また、「コーチング」の成否についての質問に対しては、エグゼクティブ・コーチから耳に痛いアドバイスを聞いたあと、

(p74より引用) そのあとは、聞き手のあなたの問題だ。エグゼクティブ・コーチがきちんと役割を果たしたとして、その最終的な価値の大きさは、あなたの受容能力に応じて大きくもなれば、小さくもなるということだ。

と諭しています。

 経営というシーンでは、定番のウェルチ氏の持論が登場します。

 まずは、リーダーになった人へ送る言葉です。

(p149より引用) リーダーになるまえ、成功とは、自分自身を成長させることだった。・・・
 リーダーになると、成功とは他人を成長させることになる。

(p166より引用) 信頼というのはつまるところ、そんな複雑なものではない。言葉と行動を通じて勝ちとっていくものだ-常に誠実であることで。

 また、「改革」と「改善=ベスト・プラクティス」について。

(p206より引用) ベスト・プラクティスが真に機能しているカルチャーでは、目の色を変えて新たなアイデアを探し求めることが企業理念のなかに焼きつけられている。

 そのほか、ウェルチ氏の箴言です。

 孫から進学・就職の相談を受けた人に対してのアドバイス。

(p234より引用) お孫さんたちに、次の時代に伸びると予想される分野は何かをぜひ話してあげてほしい。だが、大好きなことをやるべきだよと、もっと強く話してほしい。

 そして、ウェルチ氏のいう「勝者」について。

(p240より引用) 世界で最高の勝者は誰かといえば、「私は自分の選んだ人生を送っているだろうか」の問いに対して、イエスと答えられる人たちだ。

 ウェルチ氏の本としては極めて軽い読み物で、この本だけでも結構楽しめます。
 ただ、できれば、「わが経営」あたりを読んでからの方が面白味は格段に増すように思います。

ジャック・ウェルチの「私なら、こうする!」 ジャック・ウェルチの「私なら、こうする!」
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2007-04-20

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部下を伸ばすコーチング-「命令型マネジメント」から「質問型マネジメント」へ (榎本 英剛)

2007-07-19 23:03:09 | 本と雑誌

 「コーチング」は数年前に一時期かなり流行りました。
 最近は一時ほど聞かれませんが、実際、コーチングの重要度は近年の方がむしろ増しているように思います。

 以前にくらべて事業環境の変化は、より早く激しくなっています。過去の成功体験は役に立たず、ますます「答えのない時代」になってきています。

 こういった状況の特徴として、著者は、「マネジメントの答えは、経営者や上司ではなく、社員や部下にある」と指摘します。「答えがある場所」は、上司ではなく部下、生産者ではなく消費者、本社ではなく現場だというのです。
 「川上と川下の逆転現象」です。

 「答えの所在地」が上司の中にない、個々の社員の中にあるとすると、それを引き出す仕掛けが必要になります。
 従来型の「指揮命令」は上から下へのベクトルです。これでは押し付けることはあっても、引き出すことはできません。
 本人も気づいていない「内在する答え」を引き出すには、社員一人一人に合わせた「ワン・ツー・ワン・マネジメント」が求められます。その具体的な方法のひとつが「コーチング」だというわけです。

 本書では、「コーチング」の基本コンセプトの説明に続いて、具体的なコーチング技術を略説しています。

 まずは、「コーチング」の基本的なコンセプトを3つの哲学として示しています。

(p55より引用) コーチングには「三つの哲学」と呼ばれるものがあります。それらは、①「人は皆、無限の可能性を持っている」、②「その人が必要とする答えは、すべてその人の中にある」、そして③「その答えを見つけるためには、パートナーが必要である」の三つです。

 さらに、著者は、コーチングの技術体系として5つのコアスキルを紹介しています。

  • 質問のスキル
  • 傾聴のスキル
  • 直観のスキル
  • 自己管理のスキル
  • 確認のスキル

です。

 それぞれのスキルの説明には、それぞれ具体的なコーチング(部下と上司との会話)の「良い例」「悪い例」が示されています。
 この具体例は理解を助けるのに非常に有用です。

 ただ、実際の会社では、この「良い例」「悪い例」の中間的なシーンがでてきます。
 そういう場合に行き当たったとき、我慢できずに従来型の「指令命令型アプローチ」となってしまうか、「質問型アプローチ」でサポートに徹することができるか・・・
 そこのところの対応如何が、コーチングの成否の分水嶺です。
 これは、何度も経験して身につけるしかないのでしょう。
 (私も、つい、「これは、こうだよね」とかと言ってしまいます。まだまだです・・・。)

 コーチングの効用のひとつは、「組織の活性化」です。

(p180より引用) コーチングの導入がもたらす究極的な変化は、・・・その組織の中で働く一人一人が、他人から言われないと動かない「依存型人材」から、自分の持てる能力や可能性を最大限に発揮できる「個立型人材」に変わることです。

 コーチングにより、「指示待ち」「依存型」のメンバが自立して、「自ら考え、自ら動く」人材に変わることは、組織にとっても望ましいことですし、何より当の本人にとってHappyなことです。

部下を伸ばすコーチング―「命令型マネジメント」から「質問型マネジメント」へ 部下を伸ばすコーチング―「命令型マネジメント」から「質問型マネジメント」へ
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2006-12

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ブックガイド文庫で読む科学 (岩波書店編集部)

2007-07-18 00:28:22 | 本と雑誌

Yuki  私は結構安直なので、タイトルに惹かれて読んでみました。

 以前から、自然科学についての素養のなさが気になっているので、少しずつでも、取っ掛かりやすい本があれば読んでいるのですが・・・、何か初心者向きのお奨めでもあればとの思いです。

 その点では、本書で紹介されているどの本も興味を持ちました。

 が、まずは、機会をみて、

  • ロウソクの科学(ファラデー)
  • 雑種植物の研究(メンデル)
  • 雪(中谷 宇吉郎)
  • 物理法則はいかにして発見されたか(ファインマン)
  • 零の発見(吉田 洋一)

 あたりを読んでみようと思います。
 何となく、中学生や高校生に戻ったような感じですが、その程度のものでないとついていけそうにありません。

 あと、本書は、現役の研究者の方が紹介しているのですが、その紹介文にもなるほどという興味深いものがあります。

 たとえば、「科学的精神」についての(株)CSKフェローの黒川氏のコメントです。

(p47より引用) 科学的精神とは、ある意味で、過程そのものであって、結果ではない。知ってしまった知識が重要なのではなく、問いかけて、知り、さらに確かめるという手間をかけることが大事なのだ。

 また、アルバータ大学の藤永名誉教授は、以下のような「ファインマンの言葉」を引用されています。

(p6より引用) 量子力学となると、これを本当に理解できている人はいない。こういってまずまちがいないと私は思っております。・・・私がこれからお話することを、何かの模型になぞらえて理解しきるのが本当だなんて思わないでいただきたい。・・・私は、自然がどんな具合に振舞うものか、それをお話いたします。まあ、そんなこともあるものかと素直に受けいれてください。そうすれば、自然というやつも愉快な魅惑的な相手であることがおわかりになると思います。

 悔しいぐらいに、ちょっと格好のいい台詞です。

ブックガイド文庫で読む科学 ブックガイド文庫で読む科学
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2007-06

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戦略思考-「経営戦略」7つの成功法則 (別冊宝島)

2007-07-16 14:06:35 | 本と雑誌

 たまたま図書館で目に付いたので借りて読んでみました。

 「別冊宝島」のシリーズで、今から4年ほど前に出版された100ページ足らずの本です。

 内容は、いわゆる「経営戦略」といわれるいくつかのものを次々の取り上げて、それぞれ数ページほどのボリュームで極めてコンパクトに解説したものです。
 ちょっと前に流行ったMBA指南書ライクな「あんちょこ冊子」ですが、それぞれの「経営戦略」といわれているものがどんな考え方なのかを、ザッと知るには結構手ごろかもしれません。

 本書の中で、首肯できるコメントに以下のようなものがありました。

 「コア・コンピタンス」について説明した廣野氏の言です。

(p36より引用) 近年、しばしば新事業開発の考え方が安易な方向へと流れている風潮に、筆者は強い危機感を感じてなりません。
 自社で開発できなければ技術を買う。新商品も開発できなければOEM・・・で済ませる。ハードよりソフトだとばかりに、ビジネスモデルの構築を基本戦略だと錯覚しているようです。
 しかしこれらは十分条件であるにすぎず、新事業開発で確固たる成功を収めるための絶対的な必要条件が、独自の新商品開発の前提となる差別的な技術創造にあることが、軽視されてはいないでしょうか。

 新規ビジネスに出遅れた企業は、まさに安易なM&Aやアライアンスに走りがちです。

 自分の会社の「コア・コンピタンス」は何なのか。その冷静な確認がますます重要になってきました。

戦略思考―「経営戦略」7つの成功法則
価格:¥ 980(税込)
発売日:2003-01

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図解 マネジメント-管理・遂行能力を身につけるには (山際 有文)

2007-07-15 13:37:23 | 本と雑誌

 「ベタ」なタイトルの本です。
 たまたま会社の書庫にあったので、読んでみました。

 まえがきには「マネジメントの基本を整理して提供することが本書の目的」とあり、目次をみると以下のとおり「現場/実業志向」です。

  • 1章 仕事を円滑にすすめるマネジメント
  • 2章 人を活かすマネジメント
  • 3章 生き生きした職場をつくるマネジメント
  • 4章 情報を活用し、コストを下げるマネジメント
  • 5章 仕事の能率を向上させるマネジメント
  • 6章 職場を改善するマネジメント
  • 7章 組織を使いこなすマネジメント

 内容は、10年以上前の中~大規模製造業をターゲットにしているようで、正直、刺激になるところは少なかったです。
 むしろ、「その頃はそうだったのか」という思いと、「今も当時と同じような環境条件にある企業も多々あるのだろう」という再認識には役立ちました。

 もちろん、本書でも指摘されている、それこそ「超基本的な事項」は当時でも現在でも(今の職場でも)等しく重要です。

 たとえば、

(p82より引用) 数字を使って考え、数字をふまえて判断する

であるとか、

(p93より引用) 「これだけかかる原価」から「これでつくる原価」へ

等といった教えです。

 もう1点、この本を読んでの「改めての気づき」です。

 本書では、多くの具体的な手順を「フォローチャート」の形で示しています。
 それらのフローチャートは、「はじめ」と「おわり」がキチンと明示されています。
 そして、「おわり」の一つ前の判断ボックスは、必ず「反省・評価する」というチェックボックスになっていて、そこで「満足できない」となると、上流のボックスにもどるループが書かれています。

 こういうベタな基本は、折に触れ意識し大事にしなくてはなりません。

図解 マネジメント―管理・遂行能力を身につけるには 図解 マネジメント―管理・遂行能力を身につけるには
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:1995-05

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コテコテ論序説-「なんば」はニッポンの右脳である (上田 賢一)

2007-07-14 15:44:15 | 本と雑誌

Dotonbori  「コテコテ」というタイトルに惹かれて読んでみました。

 内容は、「関西人論」かと思いましたが、むしろ「都市文化論」的な色合いの本でした。
 「鉄道の歴史」や「なんばパークスの生い立ち」、「関西のエンターテーメントの系譜」等々、実証的な記述で予想外に真面目な内容でした。

 いくつか、なるほどと思ったところをご紹介します。

 まずは、「バブル崩壊で大阪が栄えた」との話です。

(p170より引用) 90年代に入り、バブル経済は終焉を迎えたが、・・・不景気の到来によって制作費が縮小されたテレビは予算のかからないバラエティ番組、旅番組を増やす方向に走った。これもまた、大阪への注目を高める流れの後押しをした。・・・
 大阪グルメの復活、お笑い人気、いずれも不景気が結果的にはプラスに働いたわけである。それをラッキーと捉えるか、必然と捉えるか、解釈は様々だろう。しかし、筆者としては、これもまた、なんばを中心とする大阪が潜在的に持つパワーの賜物であったと考えたいのである。

 まあ、バブルが膨らもうが弾けようがどうであれ、大阪には「たこ焼き」はありましたし、「よしもと」もあったわけです。
 B級グルメやお笑いの大ブレイクは、著者の言うように、まさに「大阪が生来持っていたポテンシャル」ゆえでしょう。

 もうひとつ「なんばの街を守る」話です。

 登場するのは、なんば?を代表する企業の社長2人。山中南海電鉄社長と吉野吉本興業社長です。

(p175より引用)
〔山中〕 なんば、道頓堀、千日前、吉本。それが大阪ですよ。
〔吉野〕 ・・・しかし、最近は道頓堀という伝統的な場所に東京資本が入ってきて、土地を買っています。・・・道頓堀の人たちは「道頓堀をどうしようか」といろいろと考えておられますが、ぼくは基本的には土地を手放してはいけないと思います。・・・
〔山中〕 単に自分のところの利益を上げるというだけでなく、大阪らしさを残す努力を大阪商人はしないといけない。大丸の奥田会長は心斎橋筋にケータイショップやドラッグストアばかりが並ぶのは困るといって、自ら心斎橋筋に土地を借りたり、購入したりして、自分のところの店を出しています。
〔吉野〕 街づくりについて、われわれ大阪商人は行政などに過大に期待せずに、自分から進んでやらないといけない。

 街には「らしさ」が必要です。
 ひとつの「コンセプト」に基づいた一定の「秩序」が都市景観には必要だと思います。

 その点で、特に最近の東京の「ビル景観」は最悪です。
 遠くから見ても近づいてもグロテスクな感じがします。ビルひとつひとつもそうですし、ビル群として眺めても美しさのかけらもありません。

コテコテ論序説―「なんば」はニッポンの右脳である コテコテ論序説―「なんば」はニッポンの右脳である
価格:¥ 714(税込)
発売日:2007-05

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分析マヒ症候群 (イノベーションの作法(野中郁次郎・勝見明))

2007-07-13 22:35:50 | 本と雑誌

Seven_eleven  野中氏は、「ものごとの進め方」として、対極にある2方法を示します。

(p125より引用) ものごとの進め方には、論理実証主義に基づく客観的で科学的で論理分析的なアプローチと、ビジョンや強い思いに裏付けされた主観的で実践的なアプローチとがある。理論か実践か、論理分析か直観か、この対比は本書のあらゆる場面で登場する課題だ。

 本書では、この2つの方法の対比から、イノベーターたる要件を明らかにしていきます。

 たとえば、「イノベーションの創造のためには・・・」との切り口からは、以下のように論じています。

(p342より引用) 論理分析は誰が考えても同じ展開になるため、他社も同じような分析的仮説を導き出し、差別性がなくなってしまうのだ。
 これに対し、イノベーターが生み出す仮説とは、客体と一体化して顧客の目線に入り込み、市場を内側から見たときに直観的に浮かび上がるものである。

 2つの方法は、主体の立ち位置の対比でもあります。

  • 主客分離・自他分離の客観的観点から、マーケットを外から顧客と一線を画した視座でみるか、
  • 主客一体・自他非分離の主観的視点でマーケットの中に入り、顧客と同一化された視座でみるか。

 また、この2方法は、主体のものごと(対象)に対する姿勢の対比でもあります。

(p343より引用) 分析的仮説が顧客の「平均像」を出そうとする計算的な解であるのに対し、直感的仮説は主客未分化の世界で顧客にとっての最善を実現しようとする思いの投影にほかならない。分析的仮説が過去や現在の延長上に連続的にしか未来を描けないのに対し、直感的仮説は非連続的に新しい未来を創造していこうとするものであり、ここに決定的な違いがある。

 野中氏は、イノベーションを生み出すため2つの方法のうち「論理分析的アプローチ」に対して明らかに否定的です。

(p338より引用) 世の中をより豊かにする新たな知識想像は、単なる市場分析からは生れない。

 そして、現代の日本には、この悪しき姿勢が蔓延していると感じています。

(p248より引用) 日本のビジネスマンの多くが今、「分析マヒ症候群」に陥っている。何かというとすぐ分析が始まり、・・・論理が明晰であればあるほど、仕事ができていると思い込んでいる。
 こうした論理分析万能主義者の最大の問題点は、「あなたは何をやりたいのか」という問いに、明快に答えられないことだ。自分は何のために仕事をし、何をやりたいのか。この問いに、どこかで借りてきたような言葉でしか答えられない人間にはイノベーションは起こせない。

 野中氏は、イノベーションの源泉を「熱き思いを持った主体」に求めます。

 さて、最後に、本書で印象に残ったフレーズをいくつかご紹介します。

 まずは、こういった類の著作にはいつも登場するセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長の言です。

(p352より引用) 鈴木氏は「ものごとは常に客観的に考えろ」という一方で、「私はものごとを直観的に考える方だ」と一見矛盾したことをいうが、これは、いったんメタ認知による自己否定を媒介して、顧客の視線に入り込み、直観するという発想法を語っている。

 帯広の「北の屋台」を運営している久保北の起業協同組合専務理事の気づき(不便のコミュニケーション)です。

(p93より引用) 「店主も開店前に屋台を組み立て、閉店後はまた収納するのは面倒で不便です。できればやりたくない。だから、隣同士、お向かいさん同士で手伝い合う。屋台の不便さが店主同士のコミュニケーションも生んでいるのです。・・・」

 主体性の大事さについての「はてな」近藤代表取締役の言葉です。

(p306より引用) ユーザーの声に一つ一つ応えていくと、結局、つくり過ぎ症候群と同じになってしまいます。われわれが公開した情報に対してユーザーから批判が出ても、どちらが客観的に正しいかではなく、そのユーザーの要望に本質的な問題が隠れているのかどうか、自分たちで探って判断していかなければならない。・・・最後に本質的な問題を見つけ、解決していくのは自分たちだという決意がなければユーザーの声とは向き合えません。

イノベーションの作法―リーダーに学ぶ革新の人間学 イノベーションの作法―リーダーに学ぶ革新の人間学
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2007-01

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SONY 二つの「創造」 (イノベーションの作法(野中郁次郎・勝見明))

2007-07-11 01:02:47 | 本と雑誌

Walkman   コンセプトワークで大事な点は、「対象の『意味づけ』」です。
 適切な「意味づけ」は思考の連鎖を呼び起こします。逆に「意味づけ」が不明確だと、同床異夢、思考の狭窄化や迷走をもたらします。

 本書で成功例としてあげられたSONYの「フェリカ」は、正に「的確な意味づけ」により「本質的な価値」が明確化された好例でしょう。

(p223より引用) このとき注目すべきは、フェリカのメモリ内にある共通領域が参加者次第であらゆる用途に活用できる意味合いを突き詰め、「フェリカは究極的にはリアル、サイバーを問わず、デジタル社会での決済の手段であり、権利行使の手段である」という普遍的な価値を導き出したことである。・・・つまり、自分たちの商品の本質的な価値をつかんだことで、あらゆるステークホルダーとアライアンスを組んだ水平展開の可能性を見いだしたのである。

 現在のネット社会は、「対等者の自由な連携」が基本です。
 そういった環境下においては、最終完成品として世に出すよりも、適用可能性のある「素材」をパートナーに提供しその活用を広く促す方が、ネット社会の潜在能力や潜在マーケットをより大きく活かすことができるようです。

(p224より引用) 今の時代、アセンブリした商品そのもので正面突破するより、キーコンポーネントで勝負する世界へ移行している。・・・
 強烈な思いを持って取り組むことは大事だが、・・・バランス感覚を持った人間が黒子的に当事者たちをリンクさせ、知を総動員してイノベーションを実現する。こうしたバランス感覚型のイノベーター人材がミドル層にどれだけ多く自律分散的に存在しているか。それが、間接戦略の時代を勝ち抜く企業の条件といえるだろう。

 ここでのポイントは、「Hubとして動く当事者」です。新種の「黒子のイノベーター」です。
 この「黒子」に必要な資質は、絶妙な「バランス感覚」だと言います。

(p270より引用) 主観と客観、暗黙知と形式知、直観と分析、一方に偏ることなく、常に往還している。イノベーターに求められるのはこのバランス感覚にほかならない。

 もうひとつ、黒子のイノベーター(=リーダー)が振付けるメンバ間の「コンセプトの共有」も極めて重要です。
 このために、リーダーはいろいろな工夫をします。
 サントリー「伊右衛門」の開発にあたっては、メンバ全員で「茶どころ京都」を旅行し、狙ったお茶のイメージを固めました。また、マツダ「ロードスター」の開発にあたっては、メンバ全員で車を連ね「ツーリング」にくり出し、走りの楽しさの共体験を積みました。

 最後、話をSONYに戻します。

 かつてのSONYは、その卓抜したオリジナリティを武器に「SONYならではのプロダクト」を市場に提供し続けていました。
 本書で取り上げられたフェリカは、それら(過去の)SONYらしさとは全く趣を異にした「新たな創造的プロダクト?」です。

(p219より引用) 井深大は「創造」という言葉を最も好んだが、ソニーといえども、 「独創」だけではなかなか成功に結びつかず、「共創」を進めながら、黒子的リーダーシップによりそれぞれの知をつなげていく時代に入った、ということか。先進企業の隠れたヒットは、21世紀型事業戦略のあり方を示して目を離せない。

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イノベータの気概 (イノベーションの作法(野中郁次郎・勝見明))

2007-07-08 19:51:30 | 本と雑誌

Iemon_1  以前、同じ著者による「イノベーションの本質」を読み、このBlogでもいくつかのポイントをご紹介しました。

 本書でも、前作と同じようにイノベーションを起こした「商品/サービス」を材料に、綿密な取材を通した「成功の要諦」を野中理論に当てはめつつ丁寧に解説していきます。

 本書で明らかにされている野中氏/勝見氏の一貫した主張は、「イノベーションの起点は『主観的な当事者意識』だ」という点です。
 その「当事者の暗黙知」をスタートにして、形式知への転換/共有化等のイノベーションのプロセスが駆動されるのです。

(p52より引用) 今、問題なのは、分析は得意でも、傍観者のスタンスで仕事に関わり、主体的な当事者意識が欠如した人間が日本企業の特にミドル層に非常に増えていることだ。
 「自分は何をやりたいのか」「何のために存在しているのか」と問い続け、自らの主観的な思いを原点に置き、その主観的な思いを言語化し、概念化して他者を説得し、巻き込み、イノベーションを起こしていく。当事者意識の塊のようなイノベーターの生き方に目を向けるべきだろう。

 野中氏は、昨今の米国流の分析万能思想・ロジカルシンキングの浸透に疑問を呈しています。
 全否定ではありませんが、「イノベーション」には不適との考えです。

(p332より引用) 論理的思考は、練習さえすれば誰でもある程度はできるようになるが、論理は論の形式を問うため、その人間の生き方は問われない。最悪なのは、自分の生き方を持たないまま、借りてきたような論理を振りかざし、リスクもとらなければ、責任も負わないパターンである。

 イノベーションは「無機質な論理」からは生まれない、「意思をもった人間の生き方」が生むものだと考えています。

 「意思」が重要です。
 この意思は「自分はこうありたい」という確固たる思いです。この「自分の未来に対する思い」が、自分の過去や現在を規定するのだと言います。

(p385より引用) 来たらんとする未来において、「自分はどうありたいのか」「どうありうるのか」という可能性が見えたとき、能動的に先駆して覚悟を決め、過去の経験に意味を与え直し、現在を直視して生きる。過去が今を決めるのではなく、未来によって主導されて過去が意味づけられ、再構成されたとき、現在の新たな生き方が切り開かれ、今、ここ(=here and now)の刻一刻が生き生きと刻まれていく。

 本書では、何人もの「意思」をもったイノベーターが紹介されています。

 「伊右衛門」を世に送り出したサントリーの話です。

(p64より引用) そうした型破りが可能だったのも、サントリーに「やってみなはれ」の文化があったからだろう。過去にどこもやっていなくても挑戦を認める。ただ、沖中にいわせれば、「“やってみなはれ”は、その前にわれわれ自身の“やらせてください”の精神があって活きてくる」という。

 サントリーのDNAは、当事者意識あっての「やってみなはれ」だということです。

イノベーションの作法―リーダーに学ぶ革新の人間学 イノベーションの作法―リーダーに学ぶ革新の人間学
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2007-01

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