OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

このムダな努力をやめなさい:「偽善者」になるな、「偽悪者」になれ (成毛 眞)

2013-04-30 22:38:36 | 本と雑誌

Businessman  変わったタイトルが気になって手にとってみました。

 著者は、元日本マイクロソフト社長の成毛眞氏です。ちょっと前に同氏による「日本人の9割に英語はいらない」という本も読んだところです。

 本書で開陳されている成毛氏お薦めのアドバイスは、首肯でき実践できそうなものもありますが、ごく普通の会社勤めをしているビジネスパーソンには「ちょっとそこまでは・・・」といった類のものもあります。

 当たり前に重要な指摘という点からは、「チームワーク」についてのコメントが挙げられます。

(p115より引用) ビジネスにおいて、チームワークは重要だ。
 肉体労働でも知的労働でも、チームワークがなくては仕事は進行しない。
 努力嫌いの人間でも、チームワークばかりは軽視すべきではない。

 ただ、ここでも「チームの利益は自分の利益でもある」といった考え方が基底にはあるのですが。

 他方、ちょっと難しいかなと思えるのは、たとえば、こんな割り切りです。

(p3より引用) 仕事は選べない、と思うかもしれないが、それは単なる思い込みだ。たとえば、自分が苦手な仕事は、それが得意な人間にやってもらったほうが効率的だし、生産的だ。会社にとっても、そのほうがいいに決まっている。
 極端なことをいえば、自分が苦手な仕事は放っておけばいい。そうすれば誰かがその仕事を代わりにやることになる。会社組織というのは、そういうものなのだ。

 確かに、適材適所を追求する考え方からみると、成毛氏のいう役割分担のほうが効率的なのかもしれません。しかしながら、現実的には、そういった仕事のやり方を一社員がやるのはやはり無理でしょう。ひょっとすると日本マイクロソフト社ではそうだったのかもしれませんが、少なくとも多くの会社では難しいと思います。

 ただ、本書で挑戦的に訴えている成毛氏の想いは、ある意味、誠実な姿勢の表れであり、私自身正しいと思います。

(p12より引用) 努力をすれば必ず報われる。
ムダな努力などない。
昔からよくいわれる精神論だ。
とりわけ一定の成功を収めた経営者などが嬉々としていう言葉である。
もうそろそろ、真実をいってもいい時期ではないか。
努力をしても必ず報われるわけではない。
ムダな努力はこの世にあふれている。
今の日本では、努力をしても報われないことがあるのだ、と。
・・・
誤解しないでほしいが、人生をあきらめろ、といいたいのではない。
むしろ逆だ。
自分の人生を生きろ、といいたいのだ。

 これが、本書を貫いている成毛氏一流のメッセージの本意です。
 

このムダな努力をやめなさい: 「偽善者」になるな、「偽悪者」になれ このムダな努力をやめなさい: 「偽善者」になるな、「偽悪者」になれ
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2012-10-09


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ソクラテスと朝食を 日常生活を哲学する (ロバート・スミス)

2013-04-27 09:18:11 | 本と雑誌

Socrate_napoli  久しぶりの哲学関係の本です。面白そうな切り口なので気になって読んでみました。

 朝起きて寝るまでの1日の中から、「目覚める」「身支度をする」「通勤する」・・・といったような18のシーンを取り出して、そこに著名な哲学者の思想を紹介するかたちで哲学的な意味づけを加えた読み物です。

 たとえば「本を読む」ことについて。

(p188より引用) 本は読まれることによって、そして読者の頭のなかで活性化されることによって、はじめて意味を得る。・・・その言葉を正しく読んで理解するためには、写真のネガみたいに、媒体(現像液)を通過させる必要がある。その媒体とはあなたの頭だ。・・・したがって本には、あなたの限界と同じだけ、限界があるということだ。つまり本は、意味を引き出すあなたの能力の範囲内でしか、意味をもたない。言い換えると、本を読むのは、他でもない、あなたの頭脳なのだから、あなたが得る意味というのはあなた自身の意味だということになる。

 この考え方は論理的には正しいように思えるのですが、どうも首肯できないところが残ります。
 この考えによると、いくら本を読んでも「頭脳(能力)」は発展・拡大しないということになるのでしょうか。直観的には、人は本を読むことによって、自らの外から新たな刺激を受け、それにより自らの能力を高めている、限界を拡げているというのが、私の素直な感覚です。

 さて、本書ですが、日常生活のシーンを材料に哲学的解釈を加えるという点では面白い着眼だとは思いますが、私のような哲学初心者にはちょっと企画倒れ的に感じられてしまいました。
 採り上げられている個々の哲学思想の解説自体の理解ができないので、この著者の試みの面白さを十分に理解することはできませんでした。残念です。

 帯には「哲学入門」とあるのですが、この本を最初に読むのはちょっと適切ではないように思います。
 

ソクラテスと朝食を 日常生活を哲学する ソクラテスと朝食を 日常生活を哲学する
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2012-09-21


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青春とは、心の若さである。 (サムエル・ウルマン)

2013-04-25 00:24:17 | 本と雑誌

Samuel_ullman  本については雑食性の私ですが、詩集を読むことはまずありませんでした。典型的「食わず嫌い」です。

 今回手に取ったのは、あの有名な「青春」も採録されているサムエル・ウルマンの詩集です。なんと、恥ずかしいことに、意識して全文を読んだのはこれが初めてです。

(p22より引用) 青春(Youth)
青春とは人生のある期間ではなく、
心の持ちかたを言う。

薔薇の面差し、紅の唇、しなやかな手足ではなく、
たくましい意志、ゆたかな想像力、炎える情熱をさす。
青春とは人生の深い泉の清新さをいう。
・・・・・
年を重ねただけで人は老いない。
理想を失うとき初めて老いる。

・・・・・

 原文は、

Youth is not a time of life ; it is a state of mind ; it is not a matter of rosy cheeks, red lips and supple knees ; it is a matter of the will, a quality of the imagination, a vigor of the emotions ; it is the freshness of the deep springs of life.
・・・・・
Nobody grows old merely by a number of years. We grow old by deserting our ideals.

ウルマン氏が78歳の時の作品とのことです。

 とはいえ、「詩集」というのは、やはりどうも苦手ですね。決定的に「想像力」と文学的素養が欠如しているので、直截的な表現のものしかピンとこないというのが正直なところです。

 そういった私でもイメージが浮かぶストレートな表現の詩の中から、ちょっと心にとまったフレーズをいくつか書き留めておきます。

 まずは、「人生航路の賜物(Valentines on Life's Highways)」という作品の一節です。

(p53より引用) ・・・
輝く陽光と
永遠の昼のみでは
大地の緑は
しぼみ衰える

涙の水がなければ
歳月を通じて
心の奥底は
希望のつぼみを閉じる

人生のどんなところでも
気をつけて耕せば
豊かな収穫をもたらすものが
手の届く範囲にたくさんある

 そして、「たしかな処方箋(A Tried Remedy)」から。

(p113より引用)
朝 めざめたとき
その日を始めるとき
この処方箋を幸せ求めて試してみたまえ
引きあうことを保証するよ
・・・
さあさあ すこし笑ってみよう
握手し ほほえもう

ほかのことはたいてい いらない
君がこの処方箋を試してみるなら

 さらに、「ほほえみ(Smile)」

(p117より引用) ・・・
ほほえみ 歩めぬ者への杖
ほほえみ 見えぬ者への目
ほほえみ 悩める心に呼びかける
時を得た言葉のなかにあり

 最後は、「なぜ涙を(Why Tears)」

(p146より引用) ・・・
別れの涙があふれたら
そっと その日をそのままにしておいて欲しい
私を惜しむことなく 共に過ごした日々を喜んで欲しい
そして こう言って欲しい「満ち潮だ。よい船旅を」

 1922年10月21日、ダラスで書かれたウルマン氏の最後の作品の最後のフレーズです。
 

青春とは、心の若さである。 (角川文庫―角川文庫ソフィア) 青春とは、心の若さである。 (角川文庫―角川文庫ソフィア)
価格:¥ 500(税込)
発売日:1996-06


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

荘子 ヒア・ナウ (加島 祥造)

2013-04-20 08:55:22 | 本と雑誌

Zhuangzi  久しぶりに老荘思想関係の本を読みたくなったので手に取ってみたものです。

 「荘子」原典の解説ではなく、「口語意訳」といった体裁なのでとても読みやすい著作です。
 著者によると、英訳された「荘子」をもとに自己の感性も加えて自由に訳したとのことなので、さもありなんというテイストです。

 たとえば、こういったトーンで書き綴られています。

(p26より引用) 何かを指して、これは悪いといっても、
それはね、こっちが正しいとするからそっちを悪いとするだけなんだ。
だから、本当に賢明な人はこういう区別を超えた、
遠くて高い所から、ものごとを見ようとする。・・・
すなわち、ひとつのものには、
正しいと間違いの両方が含まれているんだよ。

 すべてのものは「ひとつ」のものから始まりましたし、視座を高めると、結局のところ区別を超えた「ひとつ」でしかないということです。弁証法にも似た考え方ですね。ただ、弁証法の場合は「違い」があることを当然の前提とし、それを明確化したうえで「止揚」する考え方です。
 「荘子」の場合はちょっと違います。もっと大らかに、異なるものを意識せず包み込むようなイメージがありますね。

(p45より引用) 本当に賢明な人は、
大きなものも小さなものも同じ目で見るんです。

価値の低いものを見下したり、
価値の高いものを崇めたりしない。
あらゆるものはみんな、それぞれ違うんですからね。
どうして比較なんかできます?

 本書は「荘子」の部分意訳ですが、ところどころに「老子」からの章句が採録されていて、そのフレーズが「荘子」の逸話で伝えようとしたエッセンスであるとの位置づけとなっています。

(p175より引用) 知識を学ぼうとする者は、
毎日何かを知り、覚えこもうとする。
タオを求める人は、
毎日何かを忘れ去ろうとする。
 「老子」第48章

 知識を増やすということは、ものを区別するということの一側面でもあります。また「作為」でもあります。違いを意識し際立たせるのが知識です。「タオ」の道は、「非区別」に向かいます。

 「無為」を目指すのは、ある意味、今まで拠って立っていたものを捨てることにもなりますから、かなりの思い切りや勇気が必要なように思います。が、そう強く意図して目指すのも、また「タオ」には相応しくないのでしょう。

 さて、本書の「あとがき」に相当する章で、「老子道徳経」と「荘子」との特徴の違いについて、著者なりの見解を紹介しています。

(p203より引用) 老荘タオイズムは、社会の通念や一般常識とは逆の方向を指すものだ。一般の人たちがこうと教え込まれた社会常識とは反対の方角のことを説く。・・・この大切な思想をもっと多くの、一般の人たちに行き渡らせねばならない。それにはどうしたらいいか。「笑い」-ユーモア-である。荘子は誰でもが共有するもの-笑い-を通して「老子」思想を伝えようとしたのではないかと思います。

 「荘子」で紹介されている寓話、「胡蝶の夢」にしても「木鶏」にしても、知らず知らずのうちに常識と思っている私たちの「前提概念」を鮮やかに切り返してくれます。この刺激は爽快でとても心地よいものです。

 老荘の思想に傾倒するか否かはともかく、こういった「思考の楔」は大切だと思います。
 

荘子 ヒア・ナウ 荘子 ヒア・ナウ
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2006-09


人気ブログランキングへ

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

失敗からの学び (リーダーを目指す人の心得(コリン・パウエル))

2013-04-17 23:05:44 | 本と雑誌

Iraq_header  本書で紹介されているパウエル氏のアドバイスにリアリティがあり実践的である理由は、すべてパウエル氏の体験の中で醸成されたものだからです。

 その中でも殊更説得力があるのは、パウエル氏の「失敗」から得た教訓を語っているくだりです。

 たとえば、2003年、サダム・フセイン政権を崩壊させた「イラク進攻」におけるアメリカの判断を顧みてのコメント。

(p203より引用) この勝利はすばらしい成功であるとともに大きな問題の解決でもあると皆が思っていた・・・勝利後になにをしなければならないのか、誰もほとんど考えていなかったのだ。・・・
 我々が引きおこす変化がイラク国民にどのような影響を与えるのか、また、イラクの社会構造にどのような影響を与えるのか・・・イラク国民は、・・・自由を手に入れても不平は収まらず、逆に反目や対立が激化。・・・何年ものあいだ、希望的観測で欠陥戦略を進めてしまったのだ。

 まさにその時重要な立場にいたパウエル氏の語る教訓はとても重いものがあります。

(p203より引用) まず、解決策を検討する場合、何段階か先の副次効果までよく検討しなければならない。また、これで解決できると思う対策に到達したときには、それが本当に解決策なのか、それとも、将来に禍根を残す希望的観測なのか、自問自答しなければならない。

 重要な決定であればあるだけ、その直接的効果の大きさに注意が集中してしまい、その他のことが瑣末な事象に見えてしまうことは確かにあります。また、「手段の目的化」の陥穽に陥り易くもなるのです。改めて心しなくてはなりません。

 さて、本書を読んでの感想ですが、一言で言えば、開陳されているパウエル氏のアドバイスは私にとって素直に腹に落ちるものばかりでした。

 その中でも特になるほどと感じたものを、最後に書き留めておきます。
 「『第1報』に注意せよ」の章にあるパウエル氏の「第1報対応のチェックリスト」です。

(p166より引用)
常識的に変だと感じないか? 深呼吸をしたり目をこすったりしてみよう。
進行中のほかのことと矛盾はないか? その出来事に特別な状況や前後関係はないか?
・チェックにどれだけの時間が使えるか?
・どうすれば確認できるか? スタッフにやらせろ! 電話をかけろ!
第1報が正しく、確認で対応を遅らせた場合のリスクやコスト、失われるチャンスは?
第1報がまちがっており、あわてて対応してしまった場合のリスクやコスト、失われるチャンスは?
・なにがかかっているのか?
・時間切れだ! 動きはじめろ! 探しつづけろ!

 最初の、「違和感」を感じる直観は、数多くの経験を積むことによってでしか獲得できないのでしょう。

 そして、もうひとつ感じたこと、それは、パウエル氏の“真っ当な姿勢”でした。
 もちろん、自分自身の生き方に自信と誇りを持っており、それは、本書の語り口に明瞭に表れているのですが、それ以上に、氏の思いやりに溢れ包容力に富む言葉には大いに感じ入るところがあります。

(p291より引用) 子どもたちがなにを見ているのかわからないが、・・・彼らは常になにかを見ており、見たものを常に評価している。彼らに豊富な経験をさせてあげれば、なにかいいものをつかんでくれるはずだ。自分たちの人生やほかの人の人生をよくするなにかをつかんでくれるはずだ。

 最終の「第六章 人生をふり返って」の中の「若者は見ている」で紹介されているエピソードは特筆に価しますね。
 

リーダーを目指す人の心得 リーダーを目指す人の心得
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2012-09-29


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コリン・ルール (リーダーを目指す人の心得(コリン・パウエル))

2013-04-13 12:37:02 | 本と雑誌

Colin_powell  著者のコリン・パウエル氏は、政治家としてはジョージ・W・ブッシュ政権時の国務長官、軍人としては、陸軍大将・統合参謀本部議長を歴任したスーパーエリートです。

 本書は、パウエル氏によるリーダー論、アメリカでもベストセラーになったとのことです。が、「リーダー論」というレッテルは本書の内容を正しく捉えたものではありません。

 パウエル氏自らの体験から生まれた箴言はもちろん氏自身の信条を表したものですが、パウエル氏が大切にしている言葉やエピソードから、その人柄・価値観が伝わってきます。

 たとえば、パウエル氏の“13カ条のルール”として知られている中の「9.功績は分けあう」の章で紹介されている心理療法士の言葉です。

(p39より引用) 功績は皆で分けあい、非難はひとりで背負う。そして、おかしくなった理由を探し、そっと直す。「自分の行為の原因を自分以外に求めたとき、それは理由でなく言い訳になる」・・・どのような人も心に刻むべきものだと思うが、特にリーダーにとって大事な言葉だろう。

 パウエル氏の経歴を語るとき、しばしば「黒人初の・・・」という接頭句が付くことがあります。マイノリティーとしての痛みを知っているパウエル氏は「思いやり」の人でもありました。

(p74より引用) 親切な人といくじなしや軟弱者とは違う。親切とは弱さを示すものではなく、自信を示すものだ。親切で思いやりがあると皆に思われていれば、厳しい決断をしても受けいれてもらいやすい。なぜそういうことをしているのか、理解してくれるからだ。・・・
 昔から言われているように、「世界にとってあなたはひとりの人にすぎないかもしれないが、ひとりの人にとってあなたは世界になりうる」のだ。

 とはいえ、やはり軍人としてまた行政官としても頂点を極めた人物だけに、「判断プロセス」における基本的なプロトコルは厳格に適用しました。そのプロセスの中でも特に重要なのが「情報」の扱いです。

(p153より引用) 情報収集プロセスに対し私と担当官で同じ見方になるように、また、担当官の説明責任を軽減してあげるため、私は、次に示す4カ条のルールを設定した。・・・
・わかっていることを言え。
・わかっていないことを言え。
・その上で、どう考えるかを言え。
・この3つを常に区別しろ。

 この4カ条の中で最も実践するのが難しいのが、「わかっていないことを言え」です。
 そもそも「わかっていない」ことは何なのかを突き詰めるのは極めて困難ですし、情報を求めている上司に対して「わかっていない」ことを言うこと自体に大きなプレッシャーがかかるからです。
 したがって、この「わかっていないことを言え」を実践させるためには、上司の側から受容の姿勢を示すことが重要になります。

 パウエル氏の受容の姿勢を示す証左のひとつは、パウエル氏が新しい部下に配るメモの第一項目でも明らかです。

(p178より引用) なにをなすべきかわからないとき、私への確認を遠慮するな

 指示内容がわからなければとことん聞け、そこまでしてもわからないのならば、自分の方か混乱しているのだとパウエル氏は言っています。

 最後の責任を自分に帰納させるこの謙虚な態度は、素晴らしいと思います。
 私も口では同じようなことを言いはしますが、本当に完遂できるか、またできているかと自問すると、情けないことに全く自信がありません。是非とも学びたい姿勢です。
 

リーダーを目指す人の心得 リーダーを目指す人の心得
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2012-09-29


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界史 上 (ウィリアム. H. マクニール)

2013-04-09 23:10:56 | 本と雑誌

Assyria_max_territory  すこし前に話題になった本なので手に取ってみました。

 著者のウィリアム. H. マクニール氏は、カナダ生まれの歴史学者、シカゴ大学名誉教授です。文庫版は上下2巻で構成されていますが、上巻がカバーしているのは、古代から西暦1500年ごろまでです。

 まず、冒頭「はじまり」の章、原人類からホモ・サピエンスが分化した頃の記述にこんなくだりがありました。

(p47より引用) 人間の行動は、DNAのすばらしい機構によって遺伝された個人の生物学的な資質よりも、人が社会の中で学んだものの力によってはるかに律せられるようになった。文化的進化が生物学的進化の先に立ったとき、本来の厳密な意味での歴史がはじまったのである。

 以降、本書は、基本的に過去から歴史を辿る形で記述が進んでいきます。

 紀元前3000年以降、それまでの農耕民の世界に加えて新たに草食獣に依存した遊牧民が登場してきました。

(p72より引用) 旧世界におけるこれ以後の歴史は、農耕民の生活によって可能になった人間の数の優越と、遊牧民文化の必要から生まれた政治・軍事組織の優越との間のかかわり合いを軸に展開した。・・・そこで紀元前3000年以後、農・牧のふたつの生活スタイルが分離したため人間社会の変化の軸が増大し、ユーラシア全体にわたっての社会の発展は急に歩を早めたのである。

 その後、青銅器の時代を経て鉄器の時代が到来しました。専門職人の手によって鉄製の武器・農具等が作られ、軍事面でも経済面でも大きな変化(進歩)が生じました。著者はこの「鉄器時代」の意味づけをこう語っています。

(p117より引用) 経済的分業という強味が中東の社会階層の一番底まで徹底したとき、文明ははじめて完全に、そして確実に不滅のものとなった。人間人口の中のどんな重要部分も、もはや交換と相互依存の網の目からまったく外れて生きることがなくなった。たぶん、このことが、鉄器時代の最大の成果だろう。

 こういうザクッと本質を捉えようとする記述が、本書のそこここに見られます。
 その適否について判断する力は私には到底ありませんが、とても興味深く、いろいろな面で勉強になります。

 そのほか、上巻の範囲内で気になった解説として「ローマ法」の位置づけについての記述がありました。

(p257より引用) この法体系の中心となる観念は、人間関係が、自由に結ばれ法廷によって強制できる契約によって規制される、ということだった。第二の基本的な観念は、すべての形式の財産は、ひとりの明確な所有者をもつべきであり、その所有者はそのような財産に関して契約関係を結ぶ資格を与えられる、ということだった。・・・第三の原理は、政治の主権者は、意のままに新しい法を作れる、と宣言していた。つまり、全法体系は、時代を通じて新しい必要と状況に応じて発展しうる、ということである。・・・これは、後代になって商業の再興を大いに助けたのであり、ローマ帝国の現代への永続的遺産のひとつとなったのである。

 本書を読むにあたっての私の基本的な問題意識は、いわゆる「山川世界史」と比較してそれと大きく異なる切り口があるかという点でした。

 その点では、まず「宗教」の取り上げ方が明らかに異なっていると感じましたね。本書では、キリスト教はもちろんですが、イスラム教・ヒンドゥー教・マーニー教・シーク教等々、それらの宗教の誕生から拡大、相互間の衝突・支配・併存といったダイナミクスが世界史の基底のひとつとして強く意味づけられていました。
 また、東西世界を結びつける役割としての匈奴・フン族といった遊牧民族への注目も興味深いものでした。

 核となる文明を規定し、その周縁文化への影響等を自然な流れとしてバランスよく俯瞰する視点や、歴史の中での本質的変曲点をその後の世界の姿に敷衍する捉え方は明らかに本書の方が重厚ですね。
 

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3) 世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)
価格:¥ 1,400(税込)
発売日:2008-01


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

震災日録―記憶を記録する (森 まゆみ)

2013-04-05 22:22:37 | 本と雑誌

Fukushima_genpatsu  いつも行っている図書館の新着書コーナーで目に付いたので手に取ってみました。

 著者の森まゆみさんはノンフィクション作家ですが、地域雑誌の発行等の市民視点の地域活動も行っています。

 本書は、その森さんによる東日本大震災の等身大の記録です。森さんとその周りの人びとの震災発生後その時々の生の声を残したもので、とても興味深い内容です。
 それら数々の記録の中から、いくつか覚えとして書きとめておきます。

 まずは、日本の旧来型マスコミに見られた3月27日東京での脱原発デモの扱いについてです。
 意図的に情報を矮小化したとしか考えられない姿勢が、海外メディアとの対比の中で際立ちます。

(p28より引用) この脱原発デモは日本のマスコミでは報道されなかった。取材に来ていたのはフランスやドイツのテレビクルーであった。NHKは朝の番組「おはよう世界」のなかで、海外ニュースが東京のデモを伝えているという報道をした。なんとまだるっこしい話。

 今回の大震災は、いろいろな面で様々な人々の実像を浮かび上がらせました。それは個々人の場合もあれば集団の場合もありました。
 美点という点では、災害後の治安の安定がよく語られていましたが、こんな日本人評もありました。

(p30より引用) ピーター・バラカンさんは大危機における日本人の自制心と助け合いに敬意を表しつつも、「自分で判断すべき時には判断する」という民主主義と個人主義の力が弱いのではないか、と述べていた。そのとおり。

 ちなみに、ピーター・バラカン氏はイギリス生まれで日本在住の音楽評論家、テレビ番組のキャスターも務めたこともある社会派です。特に巨大津波が押し寄せた際、「自己の判断力」が厳しい運命の分水嶺にもなりました。

 外国の方という点では、海外からいち早く援助の手が差し伸べられたことは多くの報道で伝えられました。他方、あまりマスコミには取り上げられませんでしたが、日本在住の外国人の方からも献身的な心遣いをいただいていたのです。いわきで炊き出しのボランティアをされたマクブールさん。

(p92より引用) マクブールさんはバングラディッシュ人。東京で長らく料理人をしていたがいま失業中。そんな人が日本人のために震災直後から二か月、一人で調理してきた。「わたし金ない、だから体だけサービス」が口癖。

 こういった個人レベルでの援助がさまざまなシーンで広がりをみせた反面、国・地方自治体等行政機関のいかにも「お役所仕事」といった後追い対応も問題視されました。
 被災状況の把握・援助物資の分配・・・、被災現場の切迫した状況への対応としては不十分でした。

(p134より引用) 今回、地域に密着した支所は機能したが市役所はまったくだめ。・・・みんな市役所はあてにならないと思い切った。水だって区長さんが運んで配った。来た物資は名前だけ書けば持っていって、それでよかった。家も流されない壊れないのに物を持っていく人もいたが全体の一割程度。それより早く配る方が大事だった。

 献身的な活躍をした自衛隊に対してですら、震災後日が経つにつれ、実際に被災した方々は微妙な気持ちのズレを感じ始めたとのことです。

(p196より引用) テントと食糧、暖房もあって給料も出ている自衛隊員と、家を流され何もないなかで家族や親戚を捜す被災者である消防団員のすこしずつ開いていく溝。

 このあたりの現場でなくては感じることのできないリアルな感覚はとても大事だと思います。

 今回の未曽有の大災害は、人々の生活のありとあらゆる面に計り知れないほどの傷を残しました。その傷は、癒されつつあるものもあれば、未だに快方に向かっていない、むしろ傷口が広がりつつあるものもあります。

 本書で紹介されている地道な活動は、日々起こっている現実を現場視線で掴み続けること、そしてそれを問題意識とともに発信し続けることの重要性を改めて強く訴えています。
 この先、復興の名で行われる諸々の営みが、旧態の復活に止まらないよう、喉元過ぎれば・・・には決してならないよう、折に触れ心したいと思います。


震災日録――記憶を記録する (岩波新書) 震災日録――記憶を記録する (岩波新書)
価格:¥ 861(税込)
発売日:2013-02-21



人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする