OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

自分の答えのつくりかた―INDEPENDENT MIND (渡辺 健介)

2009-07-31 23:08:05 | 本と雑誌

 渡辺健介氏の本は、以前「世界一やさしい問題解決の授業」を読んだことがあります。
 本書は、同じようなコンセプトの第2弾です。

 構成は3章からなっていて、それぞれ「日常生活における個人の問題解決を学ぶ」「意思決定の礎となる人間的な土台を作る」「いかに集団の問題解決を行っていくかを学ぶ」ことをテーマとしています。
 中高生でも読みやすいストーリー仕立てになっているのは前著と同じです。

 ロジカル・シンキングという観点からは、「ピラミッド・ストラクチャー」を中心に据えたオーソドックスな内容で、その説明の中では、

 
(p280より引用) 事実と解釈を切り分ける・事実がどこから来ているか問いかける
 自分が何かを伝える時、判断する時、他人の意見を読んだり聞いたりする時、いずれも、事実と解釈をきちんと切り分けなければならない。

  
といった超基本的な事項にも言及しています。

 その他にも、大事なアドバイスとして「たたみ込む力」と名付けた徹底的な行動の勧め。

 
(p80より引用) ピンキーとブーの間に、成長のスピードの差が出てくるのも当たり前じゃ。「たたみ込む力」が格段に違うのじゃ。
 まず、「思う(!)」。問題意識があるので、日々生活する中で、これが問題だ、これをやった方がよい、と感じることが頻繁にある。
 そして、「必ずやる(DO/!)」。思ったら、必ず行動に移す。
 しかも、「すぐやる(DO-speed)」。そのスピードがすごい。
 さらに、「ちゃんとやる(DO-impact)」。やるとなれば必ず、納得がいく形になるまでやる。
・・・「無理だよ」を「とりあえず、やってみよう」に切り替えてほしいのじゃ。この積み重ねで大きな差が出てくるのじゃ。

 
 また、多様な価値観のなかでの自分の作り方のポイント。

 
(p160より引用) そもそも、国という区切りで分けて語ること自体が実に乱暴なもので、どこの国でも「いろいろな人」がいる。・・・
 だからこそ、「やり方の違い」という表面的な部分よりも、「核」の部分が重要性を増してくるのだ。
 「同じ文化同士」という縦の関係だけより、「似た人間同士」という横のつながりが重要になってくる。
 人はある線を越えると、縦ではなく横につながるのだ。

 
 こういった様々なアドバイスを通じて、著者は、粘り強く事実を集め、それを多様な判断軸から評価し、自分自身の意見を自分の頭で論理的に考えきるという姿勢の重要性を繰り返し訴えています。

 中高生の読者を想定した本書の主張の中で、私が特に首肯できた点は、「他者との関わりを通した自己の成長」を求めているところです。

 
(p277より引用) ひとりではなく、他人が必要
・・・よい決断をするには、よい「プロデューサー」になることじゃ。できる限りの、最も優れた知見、情報、経験を集め、最適なタイミングで最適なメンバーで議論をし、限られた時間の中で最善の決断を下す。いつか、そんなしくみをうまく設計し、実現に漕ぎ着けられるようになってほしいのう。・・・

 
  「論理的思考」に没入していくと、しばしば頭でっかちの「個人的志向」に陥るおそれが出てきます。
 他者の叡智を取り込むことにより、さらに高次の「集団としての論理的思考」に止揚できるということです。
 
 

自分の答えのつくりかた―INDEPENDENT MIND 自分の答えのつくりかた―INDEPENDENT MIND
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2009-05-22

 
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三国志談義 (安野 光雅・半藤 一利)

2009-07-29 22:55:48 | 本と雑誌

Ryubi  穏やかな画風で知られる画家の安野光雅氏と独特の切り口で歴史を論ずる半藤一利が、「三国志」について語り合うという内容に惹かれて読んでみました。
 
 後漢に続く魏・呉・蜀、三国志の時代は、魏の流れを汲む晋による統一で幕を閉じますが、陳寿の「三国志」や後の羅漢中による「三国志演義」で後世に伝わりました。
 
 半藤氏は、その時代を日本の幕末期と相対させます。

 
(p59より引用) 半藤 最近あらためて思うのは、三国志の時代は、日本の幕末とよく似ているということ。・・・というのは、一つは、この時代、後漢の古い権威が崩壊しましたが、だからといって何を盛り立てればいいのか、新しい権威が出てきていない。幕末も同様に、徳川幕府が崩壊しても天皇がまだ出てこなくて、次の権威がなかった。二つめに、漢代の社会規範や価値観がずべて崩壊して、必然的に道義の頽廃をきたしました。・・・これも幕末と同じです。最後に、社会の下積みの名もない連中がぐんぐんと歴史の舞台に乗り出してきた‐この三つの点からいうと、三国志はじつに幕末と似ています。もう一つ、一般大衆には大迷惑であった。

  
 そういう観点からみると、双方に、とても個性的で魅力的な人物が大挙して登場するのも道理だと言えますね。
 
 本書では、三国志に登場する多くの英雄・豪傑たちをとりあげ、安野氏・半藤氏がそれぞれへの思いを語り合います。
 その中で、二人ともの評価が高かったのが、魏の創始者曹操です。

 
(p74より引用) 半藤 ・・・逆説の多い魯迅がまともにほめているということは、曹操はやっぱりすごかった。なにしろ曹操は自分で決めます。そして人物を見る目が素晴らしいのと同時に同時に、趙雲や関羽らに対して「あいつはいい、俺の家来にしたい」と言ったりするのは、本当に人間が好きなんだと思う。加えてリーダーシップがあるから、いい武将がたくさんつく。まあ、欠点と言えば、猜疑心がやや強いのと、権謀術数の人というか。

  
 三国志の時代には、軍師・謀将も大いに活躍しました。
 もちろんその代表格が、蜀の宰相として劉備を援けた名参謀諸葛孔明でしょう。魏の荀彧、呉の周瑜らがそれに続きます。
 参謀というところから、安野氏は旧日本軍の参謀と三国志の参謀とを対比させます。

 
(p107より引用) 安野 かつての日本軍は、勝てもしないのに勝てると思い込んだり、夢を描いて突進するところがなかったでしょうか。ノモンハンなんて、どう考えても勝てないのに勝てると思って突っ込んでいく。ああいうのは三国志の参謀にはいないですね。
半藤 いませんねえ。張飛のようにやたら突っ込もうとする連中がいても、参謀が合理的かつ具体的に一所懸命諌めますから。

 
 このように、本書での三国志に纏わるお二人の対話はとても興味深いものが多いのですが、正直なところちょっと残念な点がありました。
 致命傷といってもいいのかもしれませんが、私自身、まだ「三国志(正史)」も「三国志演義」も通読したことがないということです。そのために、話題になっている人物や場面が、私なりの印象として具体的にイメージできないのです。
 お二人の話題について行くには、いかにも素養不足ということでした。
 

三国志談義 三国志談義
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2009-06

 
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ワイルド・ソウル (垣根 涼介)

2009-07-26 19:42:52 | 本と雑誌

Amazon  ハードボイルド系は、かなり前は大藪春彦、ちょっと前は大沢在昌あたりを結構読んでいた時期もありました、が、最近は、あまりこの手のジャンルの本は読んでいません。

 本書は、会社の方のお勧め本ということで手にとってみたものです。

 著者の垣根涼介氏は2000年にデビュー、その4年後に、本作品で大薮春彦賞・吉川英治文学新人賞・日本推理作家協会賞の3賞を受賞したとのことです。

 ストーリーは、戦後のブラジルへの政府主導の移民政策にまつわる復讐劇です。娯楽小説ですからいつものような「引用」や具体的なあらすじの紹介はやめておきます。
 読み終わっての感想ですが、一言で言えば、結構楽しむことができました。

 奇を衒ったようなキャラクターは登場しませんが、各々の役回りに応じて人物の性格付けが明確で、絡みの歯切れの良さが際立ちます。また、車や銃のディテイルの書き込み等、この手の小説のお決まりのルールも踏まえていて、ハードボイルド小説としてはオーソドックスな構成で無理がありません。

 ラテンの地・人を基本プロットに据えていることもあり、ストーリーはアップテンポで進みます。特に、犯行現場に向かう車の中、大音量で流れるサンバ「シランダの輪」、このシーンはいいですね。

 ただ、ちょっと残念に感じたのは、主人公たちの具体的な復讐方法でした。冒頭の南米アマゾンの移民開拓の壮絶な描き出しに比べて、若干の唐突感と軽さは否めません。
 逆に、必要以上の無意味な暴力や殺戮のシーンがないのは好ましく感じ、また登場人物のラストもそれぞれ希望を残した形で幕が下ろされたのには、かえって新鮮な印象をもちました。
 
 

ワイルド・ソウル〈上〉 (幻冬舎文庫) ワイルド・ソウル (幻冬舎文庫)
価格:¥ 720(税込)
発売日:2006-04

 
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即戦力の人心術―部下を持つすべての人に役立つ (マイケル・アブラショフ)

2009-07-23 22:36:56 | 本と雑誌

Gunkan  かなり以前に評判になった柴田昌治氏の「なぜ会社は変われないのか」という本を思い出しました。

 著者は元海軍大佐。
 成果の出ない無気力な乗組員を一大変身させて、最優秀戦艦に至らしめた新艦長の取り組みのエッセンスを、テンポよく紹介したものです。

 基本は、「一人ひとりのメンバが自ら考えて動く」という自律的組織づくりです。
 まず、著者である新艦長が行ったことは、部下との会話でした。

 
(p22より引用) 私は、「何をするにも必ずもっとよい方法があると考えよ」と呼びかけることにした。・・・つねに部下に「きみがしている仕事で、もっとよいやり方はないか?」と聞いてまわったのである。

 
 著者は、部下に自主的なチャレンジを促しつつ、その結果については自責として受け止めています。

 
(p37より引用) 私は、自分が思うような結果を部下たちから得られなかったときには、・・・自分がその問題の一部になってはいなかったかどうか考えた。自分自身に三つの質問を問いかけたのである。
① 目標を明確に示したか?
② その任務を達成するために、十分な時間と資金や材料を部下に与えたか?
③ 部下に十分な訓練をさせたか?

 
 うまくいかなかった場合、「そのほとんどの原因は自らにもある」との自覚です。
 これは、結構難しいことです。

 著者が目指したのは、チームとしての総合力です。そのためには、個のパワーアップが不可欠であり、その肝になるのは、個々の判断力になります。
 ここでの「個」で優先すべき層は「中間管理職」です。これは軍隊でも企業でも同じです。

 
(p85より引用) 今日のめまぐるしく変化する世界にあっては、本当に重要なもの以外、規則は“厳然たる法”としてではなく、“指針”として扱われるべきである。
 とはいえ、規則を守るべきか、破るべきか、どちらとも言えない状況もある。そのような状況があるからこそ、中間管理職が必要なのだ。もし何もかもが明確に判断できるのであれば、組織は規則をつくる最高経営責任者と、それを意義もなく実行する社員だけで足りるはずだ。
 中間管理職とは、どちらとも言えない状況の中で判断し、指示を出す人間であるべきなのだ。

 
 本書では、多くの具体的な「改善アイデア」や「べからず集」が示されています。その多くは、私にとっても大きな反省材料でした。

 たとえば、メールによるコミュニケーションについての指摘です。

 
(p169より引用) 中にはメールで連絡を取ってはいるが、じかに話し合うということをしない上司がいる。メールで連絡を取るのは手軽だが、効果ははるかに小さい。じかに顔を合わせる関係よりも、より抽象的なやりとりが行なわれることが多いネットワークの世界においては、社会的な相互関係が失われつつある。これは重大なあやまちである。

 
 最後に2点、著者の「リーダー観」を示したコメントです。

 ひとつは、「指導者の評価」について。

 
(p222より引用) 私は指導者の評価は、本人が組織を離れてから半年か1年経つまでは下すべきではないと思う。自分が任期中にどれだけのことを行ったかということを正確に判断するものは、自分が後任に手渡す遺産なのだ。

 
 もう一つは、「リーダーの役割」についてです。

 
(p224より引用) どんな分野でも繁栄している企業というのは、リーダーの役割が命令を下すという立場から部下を育てるという立場、「才能の育成者」へと変化している。

 
 さて、本書ですが、具体的な成功のポイントがサクサクと示されていて大変読みやすい本です。指摘しているポイントも(特に目新しいものは少ないのですが、)首肯できる内容です。
 ただ、ちょっとリアリティには欠けるような印象を持ちました。
 現実の意識変革の現場には、もっともっと泥臭い山谷があるはずです。
 
 

即戦力の人心術―部下を持つすべての人に役立つ 即戦力の人心術―部下を持つすべての人に役立つ
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2008-09

 
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自由と規律―イギリスの学校生活 (池田 潔)

2009-07-20 14:44:36 | 本と雑誌

Buckingham_palace  著者の池田潔氏自らのパブリック・スクール在校の体験をもとに、その教育方針やそこから窺えるイギリス社会の特質を記した著作です。
 第1刷発行は1949年、敗戦後の日本に英国流個人主義主義思想を紹介しベストセラーになったとのことです。

 日本でいえば中学から高校に相当するパブリック・スクールですが、その教育方針は、長きにわたる伝統に培われ極めて厳格だったようです。

 
(p6より引用) 大学における『紳士道の修業』が彼等の教育概念の一面であるとまさに等しく、パブリック・スクール学生に課せられた苛烈な『スパルタ式教育』も他の一面であるに外ならない。そして、この盾の両面を正しく見ることが、イギリス教育の実態を把握する上に、不可欠な前提条件あることはいうをまたないのである。

 
 パブリック・スクールは全寮制でした。そこでは集団生活の規律が最優先されました。そのため、このような寮生活にうまく順応したものもいれば、自らの個性の強さゆえに適応できないものもいました。

 
(p52より引用) 生来そのような個性を持ち合わせない大多数のもの、またはその抑圧に甘んじ個性を捨てて大勢に順応し得るものには、安穏な生活が許される。・・・
 これに反し、異常な才能を持ち合わせてこれを伸ばすことを許されず、しかも衆愚と妥協することを潔しとしない気概をもったものにとっては、これほど惨めな生活は考えられない。

 
 寮生活には功罪がありました。が、これは、パプリック・スクール特殊な状況ではないというのが著者の見方です。
 イギリス社会に普遍的に見られる性向だとの指摘です。

 
(p54より引用) 帰納し得るところは、パブリック・スクール、否、イギリスの社会そのものが容易に特殊な個性の発展を許さないという一事に外ならない。・・・価値に新しい標準を与え、これを高度に引き上げることによってその共同体のもつ道徳性または学問水準を昂揚せしめようとする企図は、常に猜疑の眼をもって見られることを覚悟せねばならない。むしろ、その共同体において、古来、すでに貴しとされ倫理的とされているすべてに追従し、これを体現して、もって忠実なる個としてその全体の安寧を保つ努力を致すに如くはない。所詮、イギリス人の社会は妥協の社会なのである。

 
 以上のようにイギリス社会を否定的に評しながらも他方、著者はこうも語ります。

 
(p91より引用) 妥協によってよく事に処する術を心得ている彼等は、同時に妥協の許されない一線の限界を明確に弁えている。妥協と因循を区別してその境界を曖昧にしないのである。そしてこの明知と勇断が有識者のみの専有ではなく、大衆の一人一人の心胸に深く根ざしている点に、過去のイギリスがしばしば国家的難況に進退を誤らなかった重大な基因が潜んでいる。

 
 このあたりは、阿川弘之氏がイギリスをもって「大人の国」と評したことと合い通じるものがあります。

 さて、著者は、パブリックスクールの校長もつ絶対的な権限を例に、当時のイギリス社会の特質についてさらに論考を進めます。

 
(p110より引用) 最後の決断が校長に懸り、彼一人の責任において下されることに変りはない。パブリック・スクールを動かすものは、端的にいって、独裁者による善政である。
 表面の形態はともかくとして、実質が独裁者の善政によって運営されている傾向は、イギリス社会のあらゆる部門を通じて窺われるもっともいちじるしい特徴である。

 
 パブリック・スクールの存在はイギリス社会の古来からの階級制の一側面であり、その伝統を墨守することに必ずしも同意するものではありませんが、他方、その特権に伴う義務(ノブレス・オブリージ)を当然のこととする姿勢がある限り、まだ良しとされるのでしょう。

 最後に、若者に対する教育における万国共通の要諦、すなわち、教師が教えるべきものは何かという点についてです。

 
(p121より引用) 十人十色皆異るのであるから一概にイギリスの学校教師の特徴を断定するのは危険である。しかし彼等が青少年に訓えるところで特にわれわれに強く響くことは、要するに、正直であれ、是非を的確にする勇気をもて、弱者を虐めるな、他人より自由を侵さるるを嫌うが如く他人の自由を侵すな、このようなことであると思う。

 
 パブリック・スクールでの教育の使命は、この「人としての姿勢」を生徒の全生活を通して教え込むことでした。

 
(p156より引用) 社会に出て大らかな自由を享有する以前に、彼等は、まず規律を身につける訓練を与えられるのである。・・・彼等は、自由は規律をともない、そして自由を保障するものが勇気であることを知るのである。

 
 規律は、自由を享受する礎であり、勇気は、自由を守る城壁なのです。
 
 

自由と規律―イギリスの学校生活 (岩波新書) 自由と規律―イギリスの学校生活 (岩波新書)
価格:¥ 735(税込)
発売日:1963-06

 
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がんこなハマーシュタイン (ハンス・エンツェンスベルガー)

2009-07-18 14:39:59 | 本と雑誌

Hitler_2  「ヒトラーに屈しなかった将軍」という副題に惹かれて読んでみました。

 主人公は、ドイツ陸軍最高司令官クルト・フォン・ハマーシュタイン=エクヴォルト将軍です。
 「利口で怠け者、戦争嫌い」といわれるハマーシュタインの将軍ですが、こういう人物評もありました。

 
(p93より引用) ハマーシュタインは、参謀本部で誰もが信頼を寄せる静かな柱だった。その信頼は、なんといっても、ハマーシュタインの圧倒的な能力にもとづいていた。情勢をじつにクリアに、実にリアルに判断できるからだ

 
 ハマーシュタイン将軍のエピソードとして興味深かったのは、「部下の将校」の4分類でした。

 
(p98より引用) あるとき、どのような視点で部下の将校を判断するのか、と聞かれたとき、ハマーシュタインはこう言った。「私はね、部下を4つのタイプに分けるんだ、利口な将校、勤勉な将校、馬鹿な将校、怠け者の将校、にね。たいていの場合、ふたつのタイプが組み合わさっている。まず、利口で勤勉なやつ。これは参謀本部に必要だ。つぎは、馬鹿で怠け者。こいつが、どんな軍隊にも9割いて、決まりきった仕事にむいている。利口で怠け者というのが、トップのリーダーとして仕事をする資格がある。むずかしい決定をするとき、クリアな精神と強い神経をもっているからね。用心しなきゃならんのが、馬鹿で勤勉なやつだ。責任のある仕事をまかせてはならない。どう転んでも災いしか引き起こさないだろうから。」

 
 この中で面白いのが、「利口で怠け者」というタイプの適性のところですね。「トップのリーダー」としての素養としては目新しいものです。
 そして、まさにハマーシュタイン自身がそう評されていたのです。

 ハマーシュタインは、ヒトラーが政権を取らんとしたときのドイツ陸軍最高司令官でした。

 
(p135より引用) ハマーシュタインは、友人のシュライヒャー同様、ナチの政権参加のほうが、内戦の危険と比較して、最後まで「害が小さい」と思っていた。ますますふたりは、間違った考えの虜となっていった。ヒトラーとその党を政権に「取り込んで」責任をもたせれば、連中を分裂させて、「飼いならす」ことができる、と信じていたのだ。

 
 このときのハマーシュタインの誤算が、結果的には、後の世界史に大きな影響を与えたのでした。

 
(p236より引用) もしかしたら絶好のチャンスだったのに、フォン・シュライヒャー将軍とハマーシュタイン自身は、それと知りつつ逃してしまったのかもしれない。それは、政権の危機がヒトラー首相任命の前で頂点に達していたときのことだ。『それ以来、私はね、しばしば心のなかで自問したものだ。あのとき行動すべきだったのではないか、と。だが私はヒトラーを過小評価し、シュライヒャーを過大評価してしまっていた。私にとって重要だったのは、国防軍を政治的な権力闘争から、政党政治の権謀術数から遠ざけておくことだったのかもしれないな』

 
 ヒトラーの台頭は、当時のドイツ軍幹部の無理解がその後押しをしていたようです。
 たとえば、1934年6月30日、SS(親衛隊)の虐殺行動に対する将軍たちの反応です。

 
(p205より引用) 国防軍の新しい首脳は、ヒトラーの公然たる違法行為を最初は悪いものとは思っていなかった。・・・ほとんどの将軍が、自分たちが以前つかえていた国防大臣の殺害までをも文句も言わずに受けいれたのだ。・・・この6月の数日間の真の勝利者はSSであり、この勝利者が自分たちのもっとも危険なライバルとなったのだ、ということを彼らは理解していなかった。

 
 本書を執筆した意図を、著者はこう語っています。

 
(p428より引用) ハマーシュタイン家の物語を手がかりにすれば、ドイツの深刻な事態がかかえていた決定的な動機や矛盾のすべてを、再発見し描くことができるからだ。

 
  ただ、正直なところ、著者の意図の実現は、こと私に対しては十分には満たされなかったようです。

 
(p430より引用) この本は小説ではない。あえてたとえるなら、この本の流儀は、絵画というよりは写真に似ている。

 
 まさに、ハマーシュタインとその家族のひとつひとつのエピソードが、モノクロの写真のように無機質に示されていくのですが、ストーリーとしての連続性がうすいので、どうも今ひとつ理解しづらかったというのが実感です。
 
 

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発売日:2009-04-02

 
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ソロモンの指環―動物行動学入門 (コンラート・ローレンツ)

2009-07-15 19:11:05 | 本と雑誌

Lorenz  著者のコンラート・ローレンツ氏は、動物行動学という学問領域を開拓したオーストリアのノーベル賞受賞学者です。
 生れて初めてみたものを親だと思うという「刷り込み」理論で有名です。

 本書は、そのローレンツ氏が一般の読者向けに、興味深い動物たちの生態を温かい視線でとらえ紹介したものです。

 私も子どものころ、家族が好きだったということもあり、家ではいろいろな動物を飼っていました。
 秋田犬・柴犬・パグ・四国犬。キエリボウシインコ・ヨウム・九官鳥・ジュウシマツ・ブンチョウ・(夜店で買ったヒヨコ)。キンギョ・フナ・ドジョウ・メダカ・ヒメダカ。アマガエル・トノサマガエル・ツチガエル・ダルマガエル・ウシガエル。クサガメ・ミドリガメ。ヤドカリ。カブトムシ・クワガタムシ・カナブン・ハナムグリ・カミキリムシ・ゲンゴロウ・アメンボ・バッタ類・キリギリス・エンマコオロギ・スズムシ・アゲハチョウ(卵から成虫まで)・アリ・・・。
 しかし、この本を読むと、かわいそうなことをしていたと申し訳なくなります。

 
(p12より引用) 知能の発達した高等動物の生活を正しく知ろうと思ったら、檻や籠ではだめである。彼らを自由にふるまわせておくことが、なんとしても必要だ。檻の中でサルや大型インコたちがどれほどしょんぼりしていて、心理的にもそこなわれていることか。そしてまったく自由な世界では、その同じ動物がまるで信じられぬほど活発でたのしそうで、興味深い生きものになるのである。

 
 ローレンツ氏は、深い愛情と素晴らしい観察眼で、身近な鳥や動物の興味深い生態を顕かにしていきます。

 私が特に印象的に感じたのが、「コクマルガラス」の群の中での行動様式でした。
 著者によると、コクマルガラスは群のメンバ一羽一羽を互いに正確に認識しあっているのだそうです。それは「序列」の中で理解されているのです。さらに、この点は、単に「序列がある」という静的な事実にとどまりません。

 
(p84より引用) 順位の低い二羽が争いだし、その争いがはげしくなると、たちまち、近くでみていた順位の高いコクマルガラスが奮然とこれに割りこんでゆく。けれども干渉にはいった鳥は、争っている二羽のうちの順位の高いほうにたいして激するのがつねである。そこで、割ってはいった順位の高い鳥、とくに群のデスポットは、かならず騎士道の原則にしたがってふるまうことになる。すなわち、どちらかが強いときは、かならず弱い側に立つのである。

 
 順位に基づく行動が「適切な」調停の役割を果たしているのです。コクマルガラスの「騎士道」とも言うべき行動です。

 本書では、そのほかにも、トゲウオ、ハイイロガン、インコ類、ハムスター、オオカミ系のイヌ、ジャッカル系のイヌ・・・等々、興味深い生物が次々に登場します。どの話をとっても、著者の実際の飼育経験にもとづく具体的観察からの解説なので、リアル感をもって面白く読み進めることができます。

 ローレンツ氏は、「モラルと武器」と名付けた最後の章でとても重要な警鐘を鳴らしています。
 動物も互いに争うことはありますが、その種を絶やすまでの行動には至りません。体の一部(たとえば、牙やくちばし等)が武器になりますが、その行使にあたっては制御する本能をもっているのです。

 
(p247より引用) 自分の体とは無関係に発達した武器をもつ動物が、たった一ついる。したがってこの動物が生まれつきもっている種特有の行動様式はこの武器の使い方をまるで知らない。武器相応に強力な抑制は用意されていないのだ。

 
 これはもちろん「人間」のことです。
 ローレンツ氏はさらに続けます。

(p248より引用) われわれの武器は自然から与えられたものではない。われわれがみずからの手で創りだしたのだ。武器を創りだすことと、責任感、つまり人類をわれわれの創造物で滅亡させぬための抑制を創りだすことと、どちらがより容易なことだろうか?われわれはこの抑制もみずからの手で創りださねばならないのだ。なぜならわれわれの本能にはとうてい信頼しきれないからである。

 
 本書の前書きには「1949年夏」と記されています。
 
 

ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF) ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)
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裁判官は宇宙人 これでも貴方は裁判員制度に参加しますか (半田 亜季子)

2009-07-11 18:46:49 | 本と雑誌

 地上げにかかわる「土地境界確定訴訟」の被告となった著者自身の裁判体験レポートです。
 裁判官・書記官、相手方弁護士等が支配する「法曹界」という特殊な世界に、無防備に入っていった著者自身の奮闘ぶりがリアルに描かれています。

 裁判が進むにつれて、裁判官は「正義の味方だ」という著者の素朴な思い込みが見事に崩壊していきます。

 
(p79より引用) 一体、何のための裁判なのか。裁判官は、私たちの味方なのか、敵なのか。初めのうちは地上げ屋と戦っているつもりだったが、裁判の回を重ねるたびに、もしかしたら私たちが戦う相手は、事件の本質を知ろうとしない裁判官なのではないかという気がしてきた。

 
 私にも、「シックハウス症候群」で不動産会社相手に裁判で戦った経験がある友人がいます。
 彼は、裁判官はともかく相手方弁護士の姿勢にはものすごい憤りを感じていました。形式的には整えられた「書面」で、平気で「ウソ」を主張してくるのだそうです。これも「法廷戦術」の常道なのでしょうか?

 弁護士もそうですが、裁判官にもいろいろな人がいるのでしょう。
 裁判官の判断を「一般人の常識?」に近づけるための著者の提案です。

 
(p143より引用) 裁判官を「人」にするか「宇宙人」にするかは、裁判所の内部だけの問題ではないような気がする。裁判官が「人」として、慣例ではない良い判決を下したときは、マスコミが評価し、報道すべきだと考える

 
 しかし、どうでしょう?
 この提案は、裁判という特殊専門性をもつ閉鎖的世界の常識に、外部の評価軸を加えるという点では意味がありますが、新たな疑問も生じさせます。「マスコミ」の評価軸は正当か否かという点です。
 残念ながら、この点については、必ずしも信頼に足るとは言い難いのではないでしょうか。

 さて、著者は、自らの裁判体験を踏まえて、「裁判員制度」についてもコメントしています。

 
(p162より引用) 裁判官と国民をつなぐパイプとして「裁判員制度」を誕生させるのだろうが、法の分からない国民と人の気持ちが分からない裁判官が果たして、どんな形で融合できるのか、疑問が残る。

 
 これからは、誰もが、裁判の原告/被告という立場に加えて、裁判員という「裁く立場」になる可能性が出てきたわけです。
 もちろん、本書で採り上げられているケースは異例なものではあります。が、半面、こういう実態があるというのも厳然たる事実だということです。

 裁判という未知の世界の「限られた一面」を知るうえでは、とっつきやすくなかなか興味深い本だと思います。
 
 

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かくもみごとな日本人 (林 望)

2009-07-07 22:25:45 | 本と雑誌

Murata_seifuu  日本経済新聞夕刊のコラムを書籍化したものとのこと。

 本書で林望氏が採り上げた70名の方々は、世にあまり知られていない人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。超有名人と言える人は数えるほどです。

 歴史の教科書にも登場する人物としては、たとえば、江戸初期の独学の徒、陽明学者の中江藤樹
 「近江聖人」といわれた人徳の人として紹介されています。

 
(p221より引用) 三十を過ぎて王陽明の哲学に接するや、その思想が自分の所感に同じきことを知って俄然これに帰依し、・・・そうして、彼が三十三歳の頃に著した『翁問答』に、本当の教育というものは、口で教えるのではなくて、自ら行いて、その師の行状を以て自然に弟子が変化するようにするべきものだと言っている。聴くべき論に違いない。

 
 江戸後期、不可能と思えた長州藩の財政再建を成し遂げた村田清風も有名人の方でしょう。
 彼は、藩校明倫館の拡張等人材の育成にも尽力しました。

 
(p162より引用) 後に孫弟子に当たる吉田松陰に宛てた書状のなかで「時失すべからず」と言っているのは、今自分たちがやらなくて誰がこの改革をできるか、という激励なのであった。・・・
 子供の頃鈍亀と呼ばれた努力の人清風の遺徳はかくて、後に幕末の志士を鼓舞し、明治維新の政策にまで深い影響を与えたのだが、その事を知る人はごく少ない。

 
 さて、「知る人ぞ知る」というタイプの人としては、小野友五郎はどうでしょう。
 小野友五郎は、咸臨丸による遣米使節に航海長として参加。帰国後は、純国産蒸気軍艦の基本設計・江戸湾の精密海図の作成・小笠原諸島の測量等、持ち前の数学力をもって多方面に活躍しました。

 
(p113より引用) その飽くまでも真摯で純粋な人柄と有能過ぎる才覚が却って煙たがられたのか、幕府の瓦解に際しては勝海舟の忌避するところとなって、一時獄に下る。

 
 その後も、明治以降、天文台の創設・天文暦の編纂・富籤と干拓の提言・洋式製塩技術の研究・・・とテクノクラートとして多彩な才能を発揮しました。

 さて、本書、その他にも、先進的種痘施術を私せず世に広めた九州秋月藩医緒方春朔、日英外交史において恩人とも称されるアーネスト・サトウ、第二次大戦において「日本陸軍の良心」といわれた陸軍大将今村均・・・等々、数多くの魅力的な人物が、林望氏独特の筆致でテンポよく紹介されています。

 「コラム」の性格上切れのよい記述である反面、各々の人物についてもう少し詳しく知りたいとの気持ちも残りました。
 そのあたりは、巻末に紹介されている参考資料に当たることで満たすことにしましょう。
 
 

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回復力‐失敗からの復活 (畑村 洋太郎)

2009-07-05 14:26:09 | 本と雑誌

Gone_with_the_wind  畑村氏の本はいままでも結構読んでいます。
 本書は、著者が提唱している「失敗学」の研究から導かれた「失敗を乗り越えるための現実的なアドバイス」を開陳したものです。

 畑村氏は、人間が生来もっている「回復力」を大切に考えています。
 まずは、失敗から立ち直るためのエネルギーの充填を第一とし、疲弊している状況からの強引なリカバリーを否定します。

 
(p34より引用) 程度に差はありますが、失敗したときには誰だってショックを受けるし傷つきます。・・・こういうときに失敗とちゃんと向き合い、きちんとした対応をしようとしても、よい結果は得られません。大切なのは「人(自分)は弱い」ということを認めることです。自分が、いまはまだ失敗に立ち向かえない状態にあることを潔く受け入れて、そのうえでエネルギーが自然に回復するのを待つしかないのです。
 不思議なもので、人はエネルギーが戻ってくると、困難なことにも自然と立ち向かっていけるようになります。これは人間がもともと持っている「回復力」の為せる業です。

 
 失敗と向き合うための方法は、過去の畑村氏の著作でも説かれていますが、その第一歩は「失敗を認める」ということです。

 
(p72より引用) 失敗を失敗と認めないうちは、失敗後の対処など考えることができないし、悪い現象を前にして何ひとつ手を打つことができないのです。だから失敗にうまく対処するには、自分の失敗を認めることが第一歩なのです。

 
 そして、自ら認めた失敗を自ら評価するのです。
 畑村氏が薦める評価方法は「絶対基準」からの評価です。「お天道様に向かって堂々と話せるかどうか」、これが畑村氏の基準です。ただ、これは結構難しいことです。

 
(p80より引用) 自分の中に絶対基準を持つことは、失敗の評価をきちんと行うことにつながりますが、これとは別にきちんとした視点で失敗を見ることも、失敗を正しく評価するための有効な手段です。
 その中でもとくに重要なのは「物理的視点」「経済的視点」「社会的視点」「倫理的視点」という四つの視点です。

 
 失敗は誰にとっても嫌なことです。誰でも、知られたくないと思うものです。しかし、ここに大きな危険があるのです。「記憶のすり替わり」です。

 
(p95より引用) もともと失敗について検討するときには、人は、「自分は悪くない」という理由づけをどう行うかを重点的に考える傾向があります。・・・その一方で、失敗を招いた自分の悪い行為に関する記憶はいつの間にか消えてしまいます。その結果、頭の中ではいつの間にか自分にとって都合のよい架空の記憶へのすり替わりが起こるのです。

 
 こうして自分に失敗したという自覚がない状態で失敗が隠蔽されると、また同様の失敗が再発する可能性が高まります。さらに危険な「失敗の再生産」のサイクルに入ってしまうのです。

 さて、本書では、「失敗と付き合う」ための具体的な方法がいくつも示されています。中には、「逃げる」とか「他人のせいにする」といった方法まで紹介されています。

 もちろん、こういった姿勢は通常の状況では褒められたものではありません。しかし、それを承知で畑村氏は薦めているのです。
 失敗から回復できず最悪の状況に陥ることだけは、何としても避けなくてはならないという強い意志の表れです。

 
(p114より引用) 「あきらめない」というのは、失敗と付き合うときの大切な心構えですが、ここでいう「あきらめない」は、目標に向かってひたすら「やり続ける」というのとはちょっと違います。これは「意欲を持ち続ける」という意味です。行動としては、あえて失敗と向き合うことを中断することがあってもいいのです。

 
 なんとか「意欲」を持ち続けて「回復力」を待つのです。
 「明日は明日の風が吹く(”Tomorrow is another day.”)」という台詞が、口に出るようになれば大丈夫です。
 
 

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橋本治と内田樹 (橋本 治・内田 樹)

2009-07-03 23:31:01 | 本と雑誌

 橋本治氏の著作は、以前、「「わからない」という方法」や「これで古典がよくわかる」を読んだことがあります。ご本人はそのつもりはないようですが、非常にユニークな思考回路を持った方との印象を持っています。

 本書は「橋本治論」です。ただ、それが「対談形式」であり、その対談相手のひとりが橋本治氏本人ということです。
 橋本氏独特の思考方法が、内田氏との対話を通して対比的に浮かび上がって、大変興味深いものがありました。

 お二人の議論の的は、リアルな「人」に密着したところがあります。現実の所作や思考が材料になります。

 たとえば、「一流の職人遊び心」について。

 
(p83より引用) 内田 ・・・西本願寺の書院を見て一番感じたのは、作っている人たちに自信があるっていうことなんですよね。自分のやっていることに対する自信がある。自分の遊びが個人的なレベルにとどまらなくて、ある種の普遍的なレベルに達することに対する自信がある。だから、ああいうことができるような気がする。
橋本 等身大の人の精一杯ってすごいですよ。
内田 等身大なのに、それが世界的なものに通底しているんですよね。

 
 こちらは、「若者のお洒落」に関する橋本氏の指摘です。
 ちなみに、橋本氏も一時期、数百万円かけて全身をベルサーチで包んだことがあるとのこと。

 
(p212より引用) 橋本 お洒落によってね。自分によって自己主張しているんじゃない、お洒落によって自己主張しているから、お洒落をとっちゃうと自己主張がないんです。・・・
内田 欲望だけはあるんですね。純粋な。自己主張したいと。何をしたいの? というと、自己主張したいという欲望だけがあって、主張されるべき自己がないんだ。

 
 この解説は結構納得感がありました。

 「若者」を材料にした議論で、もうひとつ面白かったのが「義務教育」の意味についての内田氏の指摘でした。

 
(p106より引用) 内田 学生としゃべってて一番びっくりするのが、「義務教育」って言葉をほとんど全員が誤解しているんですよね。ほとんどの大学生は、「教育を受ける義務がある」と思ってる。憲法で規定してるのは「親が子どもに教育を受けさせる義務がある」ということなのに。・・・君らには勉強する「権利」があるんで、「義務」なんかないんだよと言うと、きょとんとしてますね。子どもたちには学校に行く権利があるんだという話がうまく理解できないみたいです。

 
 さらに、全く観点の違った話題ですが、「現代国語」のテストが得意だった内田氏による「現国テスト攻略法」の伝授です。

 
(p204より引用) 内田 ・・・現代国語は「書いた人間」と、「出題した人間」と、「解く人間」の三人いるわけです。ターゲットはここ、「出題者」なんです。「書いた人間」のことなんか考えちゃいけないんです。「出題した人間」の頭に同調するんです。・・・出題者は書いた人より、頭の作りがシンプルですから。

 
 この指摘もビシッと的を得ていますね。「現代国語」のテストの問題文に採用された著者自身が、その問題に戸惑うというのはよく聞く話です。

 さて、最後に「橋本治論」として、内田氏が指摘した「橋本治的思考方法」を記しておきます。
 「引き算による人物造形」です。

 
(p208より引用) 内田 知ってることを知らないふりをする。知っている情報を抜くというのは、知的操作の中でもいちばん難しいことですよ。・・・自分が知っていることを知らないという状態に戻すとか、知っている情報を抜いてみたときどんなふうにものが見えるか、なんてことはふつう誰も思いつかないんですってば。

 
 創作において、自分の人格とか思考方法等を元に、いろいろな要素を「加える」ことによって「他人になる」のではなく、今、既にある「自分」から(年齢差・性差等の)差分の経験値等を引くことによって「他人になる」というやり方です。
 これは、内田氏の言うように、なかなか思いつく発想ではありません。

 さらに、橋本氏自身は、他人と重なりのない「公共の一部」であり、他人がやらないことを自分が分担してやることによって「公共の拡大」に寄与しているといいます。
 非常に面白い考え方です。
 
 

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当った予言、外れた予言 (ジョン・マローン)

2009-07-01 21:58:53 | 本と雑誌

Henry_ford  今、村上春樹氏の「1Q84」が驚異的なベストセラーになっていますが、もうひとつの「1984」、ジョージ・オーウェルの作品は近未来の管理世界を描いた一種の「予言」の物語です。

 本書は、1858年から1996年までの約140年間になされた科学・技術の分野を中心とした発明や発見のエピソードと、その将来への影響を語った言葉を集めたものです。
 先見の明もあれば、見事な外れもあります。
 「結果論」として合否を云々するのではなく、「その当時」の世情がそういう「将来予測」をなさしめたと思うと興味深い話題が数多くありました。

 たとえば、当時、日の出の勢いのアメリカを象徴するヘンリー・フォードの言葉です。

 
(p85より引用) 1908年のT型車・・・を発表するにあたって、フォードは「わたしは自動車を大衆のものにする。そしてそれをやり終えたときには、誰もが1台の車を買えるようになり、ほとんどすべての人が車を持っているだろう」と語った。この自信たっぷりの予言は、まさに的中した。

 
 もうひとつ、第一次大戦を前にして「平和の希求」が表れた飛行家たちの思いです。

 
(p109より引用) 第一次世界大戦前夜、イギリスの飛行家クロード・グラハム=ホワイトとハリー・ハーバーは、航空機は、たとえ目の前に迫った戦争を阻止できないとしても、いずれ世界の国々に恒久的な平和をもたらすと主張した。
まずはヨーロッパが、そして次には地球全体が、航空機によってつながれ、各国は互いにしっかりと結びついて、隣人同士に成長するだろう

 
 当時は、まだ、航空機は主力兵器ではありませんでした。

 
(p109より引用) 1917年になるころ、オービル・ライトは、後悔の念をこめて、次のような言葉を書いていた。
兄とわたしが初めて人間を乗せる飛行機をつくって空を飛んだとき、二人はこれ以上戦争を起こさないための招待状を世界に出しているのだと考えていた

 
 ライト兄弟の思いも虚しく、第二次大戦は航空機の戦いでもありました。人類史上初の原子爆弾は、広島市の上空に飛来した航空機から投下されました。
 飛行家たちの想いは、無残にも裏切られてしまいました。

 最後に、もうひとつ、実現方法は異なっていますが、最近の話題でもある「図書館の蔵書のアーカイブ」についての話題です。

 
(p251より引用) 1965年、ポピュラー・サイエンス誌は、マイクロフィルムの進歩によって開かれる可能性についての記事を掲載し、それを「図書館を靴箱のなかにおさめる」と形容した。・・・「新しいマイクロフィルムの技術を用いれば、いつか大図書館の全蔵書をフィルムにして所有することができるようになるかもしれない-すべてを6つほどのファイリング・キャビネットにおさめて」

 
 電子化された本は「キャビネット」ではなく、今や「ネット」という雲(クラウド)の中に納められつつあるのです。
 
 

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