その点では、
以前勤めていた会社の同僚の方が、アンソニー・ホロヴィッツの作品のファンで最新刊の感想を投稿していました。
本格推理小説の名手とのことですが、恥ずかしながら私はまだ読んだことがなかったので、彼の代表作をまずは手に取ってみたというわけです。
で、読み終えての感想です。
【本屋大賞翻訳小説部門第1位獲得! ついに5冠達成! !ミステリを愛するすべての人々に捧げる驚異の傑作】との売り文句でしたが、残念ながら、私には今ひとつ響いてこない作品でした。
ネタバレになるとまずいので内容には触れませんが、一言でいうと “仰々しい構成” であるが故に、物語の展開にスピード感がなく、表現も冗長で “サスペンスに必須の緊迫感が感じられない” のです。
もちろん、斯くいう私の感性も全く大したことはないので、一冊だけで私ごときが何某かの評価を下すのは余りにおこがましいことでしょう。
せめて、この作家の作品も、もう一冊ぐらい読んでみましょう。それで印象が変わる可能性は十分にありますから・・・。
いつも利用している図書館の新着本リストで目についたので手に取ってみました。
シェイクスピアの翻訳ものは久しぶりですね。
本編の新訳だけでなく、詳しい注釈やシェイクスピアが創作するのに参考にしたと思われる文献(プルタルコスの「英雄伝(対比列伝)」)の抄訳も載せられている1冊です。
そういった多彩な内容の本書ですが、その中から、私の印象に残ったくだりをいくつか覚えとして書き留めておきます。
まずは、シーザー暗殺前夜のブルータス邸。共謀者に語ったブルータスの言葉の一部です。
(p53より引用) ブルータス
一旦口にした言葉を決してたがえることのない
ローマ人の密約に?どんな誓いが要るというのだ?
正直と正直とが互いに、命に代えても
やってのけようと約束したことのほかに?
誓いなど、神官、卑怯者、策士、
耄碌した老いぼれ、不正に甘んじる腰抜けどもに
任せておけ。悪事を働こうというときに限って、
そういう怪しげな連中が誓いを立てるのだ。
だが、我らが大義や行動に誓いが必要などと考えて、
我ら がしようとすることの正しさ、
我らが精神の不屈の精神を穢してはならぬ。
気高く人望のあったブルータスですが、帰還したシーザーの専制を予感し、ローマ市民のために彼の暗殺を決意します。
しかしながら、シーザー暗殺が成ったのち、アントニーの讒言とも言えるような演説でローマ市民は翻意し、ブルータスの立場は暗転してしまうのです。
(p107より引用) アントニー
ブルータスは、周知のとおり、シーザーには天使だったのだから。
ああ神々よ、シーザーがどれほど彼を愛していたことか。
これこそまさに、最も人の道に悖る一撃だ。
気高いシーザーは、己を刺さんとするブルータスを見て、
謀叛人の腕より遙かに強烈な忘恩に、完膚なきまで
打ちのめされ、その強靭な心も破裂したのだ。
・・・
ああ、すべてが打ち倒されたのだ、諸君!
私も君たちも、我々全員が倒されたのだ。
血塗れの裏切りが、我らに勝ち誇ったのだ。
シェイクスピアの戯曲の真骨頂と言うべき道化の駄洒落や皮肉な語り口は、本作品ではほとんど目にしません。そのあたり、少々物足りなさを感じます。
上演された舞台は、壮大な叙事詩的テイストだったような気がしますね。
いつも利用している図書館の新着本リストで目についた本です。
進化や生物の不思議については結構関心があるので、気になって手に取ってみました。
著者の鈴木正彦さんは植物学者、末光隆志さんは動物学者で、お二人の共同作業で動植物の様々な “共生” の姿を紹介してくれます。
興味深い話が多々ありましたが、その中から特に印象に残ったものをいくつか覚えとして書き留めておきます。
まずは、第二章「ミトコンドリアと葉緑体を飼いならす」の章で紹介された「真核細胞とミトコンドリアの共生」の意義について。
(p53より引用) こうして起こったミトコンドリアの共生は、宿主細胞にとって画期的な出来事でした。いわば産業革命のようなものです。産業革命では蒸気機関ができて今までにないエネルギーを大量に得ることができるようになり、世界は一変しました。・・・このような革命的な変化が、ミトコンドリアとの共生によって宿主細胞にも起きたといえます。
余剰エネルギーが大量に得られたため、進化における様々な試みが飛躍的に可能になりました。目に見えないほどの微小な細菌が、現在見られるような大型動物にまで進化できたのも、ミトコンドリアが共生して多量のエネルギーを産生できるようになったからです。
ミトコンドリアとの細胞レベルでの共生は、生命の進化における “エネルギー革命” だったのです。
もうひとつ、第四章「依存しきって活きるには」の章で紹介されたのは、深海の熱水噴出孔付近に棲む「チューブワーム」です。
(p100より引用) チューブワームのトロフォソーム細胞のなかには、硫黄酸化細菌が共生細菌として生息しています(細胞内共生)。硫黄酸化細菌は、硫化水素を酸化して得られたエネルギーでATPを合成し、それを用いて、二酸化炭素から炭水化物などの生体有機物を合成して増殖します。要するに、硫黄酸化細菌は硫化水素と酸素があれば生きていけるのです。硫黄酸化細菌が合成した有機物をチューブワームも利用するので、チューブワームは何も食べなくても成長することができるわけです。
チューブワームは、口がなくても、エラから硫化水素や酸素を吸収できます。化学合成独立栄養生物である硫黄酸化細菌を共生させることで、チューブワームは従属栄養生物(動物的生き方)から独立栄養生物(植物的生き方)になったことになります。
共生による「独立栄養状態」の実現 → 動物の “植物化”。とても興味深い話でした。
そして、最後は、人間にとってとても有益な「細菌の利他行動」。
(p167より引用) シアノバクテリアは葉緑体の話でも登場してきましたが、窒素固定能力のあるシアノバクテリアは、大気中の炭酸ガスから光合成で炭素化合物を作り、窒素分子から窒素化合物を作るという見事な離れ業を行う驚異の生物です。古い原核生物だからといって、決して侮ることはできません。彼らが生来持つすごい能力のおかげで、人間をはじめ、高等生物も生きていけるのです。
地球上に存在する細菌は分類学上でも大きなグループを形作っており、我々が知っている細菌は全体の一パーセントほどで、残りの九九パーセントは未知であるともいわれています。地球上の未知の領域を隈なく探せば、もっと色々な能力を持つ細菌が見つかるかもしれません。
葉緑体の炭素固定能力、根粒菌の窒素固定能力・・・、人類の科学は日々進歩しているとはいえ、まだまだ “未知なる生命力” には遥かに及びません。自ら生成できないのであれば、まずは、せめてうまく活かすことに注力すべきです。
生命を絶やすのは、いとも容易いことです。地球環境を破壊し続けている人間がその愚を改めるに、一刻の猶予もないのだと強く思います。
本書で紹介された宿主特異性を示す「共生関係」は “ひとつの生命体” としてのエンティティを拡張するもののようです。そして、そうやって拡がりを示す “共生生態系の連鎖” は、さらに大きな「生命体」を形作っていきます。
「共生」というコンセプトを取り上げて、この「地球」という “私たちをも包含した生態系” を維持する重要性を訴えた本書は、地球環境保全が声高に叫ばれている今に相応しい刺激に満ちた良書でした。