OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

宇宙人としての生き方―アストロバイオロジーへの招待― (松井 孝典)

2009-05-31 14:36:29 | 本と雑誌

Ginga  ビッグバン以来150億年、150億光年という時空のスケールで宇宙・地球・生命の歴史を再整理し、そのモデルから今までの文明論を見直すという試みの本です。

 宇宙に「視座」を移すと、人間を含め地球上の事象を「俯瞰的」「相対的」に見ることになります。

 
(p10より引用) 宇宙から地球を見ると、地球の全体が見えます。全体が見えるということは、俯瞰するということです。・・・もう一つは、我々の存在をほかの知的生命体が存在するとしてどう見えるかについて考えるわけですから、相対的な視点を持つということです。宇宙からの視点でものを考えるということは、俯瞰的な視点と相対的な視点を持つということです。我々を絶対視して考えないというところが非常に重要な点です。

 
 こういった見方は、全体として認識するための「総合化」を目指した新たな方法論を必要とします。
 これは、デカルトやベーコン以来の「二元論」や「要素還元主義」に替わるべきものです。

 著者は、この「総合化」のための方法論として、とりあえず「システム」と「歴史」という視点での考察を提案しています。
 「システム」は、その構成要素と構成要素間の連関で成り立っています。

 
(p60より引用) 宇宙からの視点にたつと、・・・現代とは地球システムの構成要素として新たに人間圏が誕生した時代です。このような視点から考えると、人間圏をつくって生きる生き方が文明であると定義できます。

 
 「人間圏」の成立は、「狩猟採集」から「農耕牧畜」への移行がその契機となりました。

 
(p60より引用) 農耕牧畜とは、地球システムの中に人間圏をつくって生きる生き方といえます。・・・狩猟採集という生き方は、生物圏の中の物質とかエネルギーの流れを利用する生き方です。これは、わかりやすい表現でいえば、生物圏の食物連鎖に連なって生きる生き方ともいえます。

 
 狩猟牧畜の時代は、人類はまだ生物圏内の一生物種に過ぎない時代であって、地球システム論的には意味をもっていません。
 しかしながら、農耕牧畜の時代になると、人類は生物圏から離れ新たに人間圏という独立したシステム構成要素を構築することになるのです。

 農耕牧畜が始まると、人は集団である地域に定住するようになります。集落が村に都市にと変貌していきますが、そういう共同体を構築・維持していくためには、その構成員間で「共同の意識」をもつことが必要となります。
 この共同意識をもつ条件として、著者は脳の発達も指摘しています。

 
(p102より引用) 我々がなぜ人間圏をつくったかという問題を考えるときには、脳の神経細胞回路の接続の変化により、抽象的思考ができるようになったこと、すなわち共同幻想を抱けるということも重要な条件だろうと思っています。

 
 本書で主張されている「人間圏」という捉え方は、以前読んだ今道友信氏の「エコエティカ」で説かれた「生圏倫理学」(=人類の生息圏の規模で考える倫理)のスコープにも似ているようです。

 最後に、本書を読んで特に興味をいだいたフレーズを2つ、覚えとして記しておきます。

 ひとつは「生き残り」の条件について。

 
(p129より引用) 多細胞生物になり、生命がある環境に適応し特殊化してくると、絶滅を起こすようになります。・・・
 これに対して原核生物や単細胞生物など単純な生物は絶滅しにくく、最古の生命が今でも生き残っていることは前に述べました。原核生物や単細胞生物は、からだのつくりが単純で、やたら数が多く、生存しうる環境条件が広いからです。

 
 この指摘は、たいへん示唆に富んでいますね。

 もうひとつは「自然科学者の知の獲得」についてです。

 
(p180より引用) 知的生命体として我々にすばらしい能力があって、ものすごい知の体系を創造しているのではありません。叡智だなどというと、なんとなく我々が知の体系を創造しているように感じられますが、そうではないわけです。ビッグバン以来の宇宙の歴史、地球の歴史、あるいは生命の歴史を解読した結果を単に知の体系と呼んでいるにすぎません。
 自然科学者の仕事とは創造することではなく、解読することなのです。

 
 
 

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夜の物理学 (竹内 薫)

2009-05-30 18:41:47 | 本と雑誌

M100  著者の竹内薫氏の本は、「99.9%は仮説」「世界が変わる現代物理学」「仮説力」・・・と気がつくともう何冊も読んでいます。今年になってからは「天才の時間」ですね。

 今回は「宇宙論」「物理学」の話題を材料にしたエッセイです。

 エッセイといっても、最近の議論のエッセンスも紹介してくれています。
 たとえば、最近の宇宙論に関してです。

 
(p33より引用) 2000年前後の天文観測によって判明したのは、
・宇宙の幾何学は平らである
・ハッブル定数の正確な値(137億年分の1)
・宇宙は加速度的に膨張している(=宇宙定数があるらしい)
ということ

 
 本書の面白いところは、ひとつにはエッセイのテーマの選び方にあります。
 数々の「理論」を「定説」「準定説」「異端説」に分類して紹介しているのです。
 「異端説」はある意味「独創的」です。異端説のままで終わることもあれば、後年になって「定説」として再度登場して日の目を見ることもあります。

 さて、「理論物理学」や最新の「宇宙論」となると、私のような門外漢には、「定説」であろうと「異端説」であろうと、自分の頭の中に「絵」として描けないのでどうも理解不能で欲求不満がたまります。

 こういった状態を少しでも解消するヒントが、本書にありました。

 「物理学」に対する2つの姿勢についての解説です。

 
(p157より引用) 量子論の背景には、2つの陣営の「戦い」が潜んでいる。
陣営1「実在派」・・・
陣営2「実証派」・・・
 陣営1の人間は、ホーキングの虚時間宇宙の話を聞くと、
「なぜ、虚時間なのか? 時間が虚数とはどういう意味か? それは本当にあったことなのか?」
というような疑問を抱いてしまう。
 ところが、陣営2の人々にとって、そういった「意味」を問うことに意味はない。
「虚時間にすればうまくいく。そこに意味などない。
数式を書いて観測結果と比較するだけでいいではないか。そもそも《本当》かどうかを論ずることすら無意味である」
と、実用主義で押し通す。

 
 この著者の解説で、理論物理学の議論の様相が少しは分ったような気がしました。
 もちろん、「理論」の内容を理解したわけではありません。私自身「分らない」と感じていたその背景がなんとなく理解できたということです。

 最後に、本書では、著名な科学者の「人間的」なエピソードも紹介されています。

 ニヒルな威厳をもった利根川進教授や鬼軍曹として物理学科の学生の前に立ち塞がった小柴昌俊教授の話は興味深かったですね。
 
 

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世界の異文化街道を行く (窪田 寛)

2009-05-26 23:04:54 | 本と雑誌

 著者の窪田氏は、製薬会社在職中に長年にわたる海外勤務を経験されました。その後、退職されてからも海外で活動され、その体験談をエッセイとしてまとめ出版されました。

 内容は、言葉とコミュニケーション・世界の食文化・世界の商人・海外の日本大使館での思い出といったものから、東西ドイツや南北朝鮮民族の統一問題や世界の人口問題といった話題にも及びます。

 たとえば、「世界の食文化」の章での「世界で一番美味しい料理」についての著者のコメントです。

 
(p77より引用) 世界でもっともおいしい料理は中国料理といわれるのは、中国5千年の歴史もさることながら、人間の原点である自然のままに食べ、あまりマナーについてうるさくなく、家族が円テーブルを囲んで皆で、話をしながら楽しく過ごす食習慣を保ち続けている中国料理であるからと私は考えている。

 
 もちろん、海外のビジネス事情についての興味深い記述も多く見られます。
 ただ、それらは著者が海外勤務をしていた30年~40年ほど前の状況が語られているので、その内容の説得力には今ひとつの感がありました。

 
(p208より引用) 三十年以上の時が経ち、現在の日系企業がインドネシアにおいてどのようなマネジメントを行っているのか、知る由もないが、・・・日本企業は、まだまだ、欧米の企業のようなマネジメントシステムは完成されていないであろうし、依然として、アジア的なマネジメントが展開されているのではなかろうか。

 
 こういった記述は、根拠のない著者の推測でしかなく、仮にエッセイと言えども無責任な印象が残ってしまいます。
 読んでいても少々残念な気持ちがしますね。
 1冊の本の中に、あれもこれもと多様な話題を詰め込んだために、どうもひとつひとつのテーマについての書き込みが浅くなってしまったようです。
 
 

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下世話の作法 (ビートたけし)

2009-05-24 14:53:22 | 本と雑誌

Asakusa  「ビートたけし」という芸人でもあり、「北野武」という映画監督でもあるたけしさんのエッセイです。
 芸能関係の方の本はあまり読みません。エッセイというジャンルでは、高倉健氏による「旅の途中で」以来でしょうか。

 本書で、たけしさんは、「品」とか「粋」とかについて、自身の経験を踏まえた考え方を開陳していきます。

 たけしさんの考える「品」は、いたずらに「夢を追わない」「身の丈にあった」ところにあります。

 
(p76より引用) 自分の範囲っていうものをしっかり考えられれば、下品にならない。自分のできる範囲、自分の能力、それから自分の生きている時代を考えて、他人に迷惑をかけることなく、目立つこともなく普通に生きていく。それが人間的にいちばんいい方法で、品がいい生き方なんだよ。

 
 「他人に迷惑をかけない」「礼儀をわきまえる」といった普段の心遣いが大事だというのです。

 
(p16より引用) つねに相手を思いやる、人に気を使うという日本特有の精神構造をもう一回持たせないと、日本人はかっこよくならないと思う。

 
 さらに「粋」となると、ただ「品」が良いだけでなく「かっこよさ」が加わります。

 
(p93より引用) 俺なりに言うと、「粋」っていうのは「常識をわきまえたうえでの、もうひとつ上の生き方」なの。・・・まずは他人に気を使えることが大事になってくるんじゃないかと思ってる。気遣いができる人って、すごくかっこいいじゃない。

 
 この「気遣いの仕方」がポイントです。
 そこで登場するのが、あの高倉健さんです。高倉健さんの周りの人への気遣いの凄さは、常に「高倉健」を演じきっている姿だとたけしさんの目には映ります。

 さらにたけしさんの師匠の深見千三郎さんの「粋」な台詞も紹介されています。

 
(p110より引用) 姿を消すから粋であり、気遣いの押し売りをしないから粋なんだ。よく言われたもん。「相手にお礼をさせるなよ、悪いだろう」って。

 
 これには、シビレますね。

 本書の「あとがきにかえて」で、たけしさんの詩が載っています。

 
(p230より引用) 日本文化はもっと高尚で、精神的である
人の喜ぶ姿を見て、それを自分の喜びと
けっして人にそれを気づかせない事
それがジャパニーズの世界に誇る
時代遅れの、マヌケな、男の精神
俺はそれが好き

 
 さて、「品」「粋」に続いて、たけしさんの話題は「作法」に広がります。

 
(p185より引用) 作法は自然を守って共存して生きてきた人たちの動きにつながっている。だからわれわれ全員、共通のものなんだ。金持ちだろうが、貧乏人だろうが関係ない。

 
 どんな世界にも「作法」があり、作法が「品格」につながるのです。
 辛口で知られるたけしさんですが、「悪口」を言うにも作法があるといいます。

 
(p172より引用) 作法としての「言わない約束」って本当は難しくて、相手が何を考えているのか、どういう状態にあるのか、その人に対してこっちに知識がないと、相当失礼なことを言っている場合もある。・・・
 作法は一見、簡単な振舞いなんだけど、その作法を身につけるためには莫大な知識がいる。

 
 この本でも、高倉健さん・渡哲也さんら実名が出ている方々は、すべて「褒め言葉」の対象ですね。

 最後に、たけしさんらしいフレーズをひとつ。

 
(p25より引用) 昔の人は自分が貧乏なことを認めるし、格差も認めるけど、精神は貧乏じゃなかった。貧乏人にも誇りがあった。・・・
 今の人は踏みとどまらないからね。・・・今のやつらの開き直りは単なる詭弁でね、精神的な誇りは一切ない。そんな時代になってしまったんだ。

 
 

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反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (湯浅 誠)

2009-05-23 13:33:10 | 本と雑誌

 ここ数年、社会的格差拡大が言われて久しく、そういった世相を反映して「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」といった新語も登場しています。
 更に昨年来の不況の影響で、内定取消や非正規労働者の解雇や雇い止め等雇用情勢の悪化も著しく、さらに問題を拡大・深化させています。

 こういった状況は、「貧困」の深刻化をもたらします。

 著者は、この「貧困」という大きな社会問題に対してNPO法人の代表という立場で幅広い支援活動を行っています。

 その著者が、貧困問題を議論する際の基本認識として問題視しているのが「安易な自己責任論」という考え方です。

 
(p16より引用) 誰にも頼れない状況の放置をそのまま正当化するのが自己責任論だが、自己責任論を声高に主張する人も、自分一人で生きてきたわけではないだろう。官・民にわたるサポートの不在は、本当に肯定されるべきものなのか。そこに行政や社会の責任はないのか‐今、徐々にその問題に人々の関心が向き始めている。

 
 著者は、そもそも「自己責任論」が拠って立つ「前提」を否定します。

 
(p82より引用) 自己責任論とは「他の選択肢を等しく選べたはず」という前提で成り立つ議論である。

 
 しかし、現実社会においては、自分の責任に帰すべからざる理由によりその前提条件が欠如した状態が現存し、それが貧困の一因となっているのです。
 まず、この状態を多くの人々が認知することが、自己責任論の濫用を防ぐ力になると著者は主張しています。

 社会には、最低限の生存権を保障するために、「雇用」「社会保険」「公的扶助」という三層のセーフティネットがあります。しかしながら、今の社会はこれらのネットに大きな綻びができ、機能不全に陥りつつあるのです。

 著者は、3つのネットを滑り抜けて貧困状態に落ち至った当事者と同じ視点に立ったとき、初めて見えてくるものがあるといいます。

 
(p60より引用) 私は貧困状態に至る背景には「五重の排除」がある、と考えている。
 第一に、教育課程からの排除。・・・
 第二に、企業福祉からの排除。・・・
 第三に、家庭福祉からの排除。・・・
 第四に、公的福祉からの排除。・・・
 そして第五に、自分自身からの排除。・・・第一から第四の排除を受け、しかもそれが自己責任論によって「あなたのせい」と片づけられ、さらには本人自身がそれを内面化して「自分のせい」と捉えてしまう場合、人は自分の尊厳を守れずに、自分を大切に思えない状態にまで追い込まれる。

 
 セーフティネットの修繕等の貧困を解消するための取り組みは、第一義的には政治の仕事です。が、著者はさらにこう指摘します。

 
(p108より引用) しかしそれは、政治家に任せる、ということとは違う。現在の貧困の広がりは、政治によって進められてきた面がある。・・・これは、「社会」の仕事である。

 
 現在、著者が主宰するNPO法人のほかにもいくつもの社会団体が様々な切り口で「貧困」の問題に取り組んでいます。

 そういった活動の中で、実効的な改善効果をもつものとして「法律家への期待」が挙げられています。

 
(p175より引用) 貧困が広がり、さまざまなサービスから排除される人たちが増えていくにつれ、日本でも日常的な生活レベルで権利擁護を行う法律家への期待は高まっている。労働分野にしろ生活保護分野にしろ、現場で起こっているのはあからさまな違法行為であることが少なくない。・・・「反貧困」の活動を展開するにあたって、法律家が参加することの意義は大きい。

 
 貧困の問題は、まさに憲法25条が保障している「生存権」の具現化に係る問題なのです。

 生活保護法の第1条には、「日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長すること」(第1条)と謳われています。
 
 

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生きる姿勢 (一日一言―人類の知恵(桑原武夫))

2009-05-21 22:49:55 | 本と雑誌

Keller  歴史に名を残した人。
 そういった人の生き様から発せられた言葉は、やはり浸透力が違います。

 まずは、かのベートーヴェンの「手記」からの言葉です。

 
(p52より引用) つねに行為の動機のみを重んじて、帰着する結果を思うな。報酬への期待を行為のバネとする人々の一人となるな。

 
 純粋な行為の勧めであると同時に、おそらくは自分自身の信念でもあったのでしょう。

 次は、中国明代の陽明学左派の思想家 王心斎の「鰍鱔説」での言葉です。

 
(p101より引用) 甕に鱔あり。重なりあいて気息奄奄。一匹の鰍なかより現れて暴れまわれば、鱔は鰍によって身を転じ、気を通じ生意あるを得たり。・・・たちまち雷雨おこる。鰍、機に乗じて躍り出、大海に投じ、快楽かぎりなし。甕中の鱔をかえり見、身を奮って竜と化し、ふたたび雷雨をおこし、甕を覆す。かの気息奄奄たりしものみな蘇り、相ともに大海に帰りぬ。

 
 知行合一を説く陽明学のダイナミックな思想が迸ったような生き生きとした文章です。

 また、行動派という点では、西欧社会の代表としてフランス革命期のロベスピエールにも登場願いましょう。彼の「人権宣言草案」からのフレーズです。

 
(p124より引用) すべての国の人間は兄弟であり、諸国民は、おなじ国家の市民のように、その力に応じて互いに助けあわねばならない。・・・国王、貴族、暴君は何人であれ、世界の主権者である人類に対し、宇宙の立法者である自然に対して反逆する奴隷である。

 
 さて、最後は、有名な社会運動家ヘレン・ケラーの言葉をご紹介します。

 
(p106より引用) 私は、愛、四海同胞主義、平和などを説きながら、一方では、敵意を感じ、ときには剣をふりかざして戦をいどんでいることさえあります。・・・私は、さいごには愛が勝利をえるものだと信じていますが、同時に、自分の権利を守るために、やむをえず暴力を用いている虐げられた人びとへの同情も、また、禁じることはできないのです。

 
 こちらは、自分の気持ちに正直に向き合った、まさに真実の言葉だと思います。
 
 

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信念の言葉 (一日一言―人類の知恵(桑原武夫))

2009-05-19 22:25:07 | 本と雑誌

Masaoka_shiki  人の記憶に残る箴言は、語る人の強い信念の表出でもあります。

 まずご紹介するのは、1904年2月9日の日露戦争開戦に際しての「平民新聞」の主張です。

 
(p24より引用) 不忠と呼ぶ、可なり。国賊と呼ぶ、可なり。もし戦争に謳歌せず、軍人に阿諛せざるをもって不忠と名づくべくんば、我らは甘んじて不忠たらん。もし戦争の悲惨、愚劣、損失を直言するをもって国賊と名づくべくんば、我らは甘んじて国賊たらん。
 世は平和をとなうるを効果なしとす。しかも我らはただ一人の同志を得ば足る。今日一人を得、明日一人を得、三年、五年、十年、進んで止まず、我は必ず数千、数万の同志を得るの時あるを信ず。

 
 平民新聞は、幸徳秋水・堺利彦らが興した「平民社」が発刊した週刊新聞でした。その主義主張の当否・是非はともかくとしても、当時のジャーナリズムには明確な信念にもとづく強烈なメッセージがありました。

 もうひとつ、黒岩涙香の「万朝報」発刊の辞です。
 こちらの新聞は、明瞭・痛快を編集方針とし、社会派的な暴露記事で読者を獲得していきました。(ちなみに、当初、幸徳秋水や堺利彦も万朝報の記者でした)

 
(p166より引用) この頃の新聞紙は「間夫がなくては勤まらぬ」ととなう売色遊女のごとく、みな内々に間夫を有し、その機関となれり。・・・ああ我社はただ正直一方、道理一徹あるを知るのみ。もしそれ偏頗の論を聞き陰険邪曲の記事を見んと欲する者は去って他の新聞を読め。

 
 言論が、自らの存在に誇りを持っていたのでしょう。我れが「輿論をつくる」という気概ですね。(今の新聞は、「世論(あるいは、スポンサー)につくられている」感がありますが・・・)

 あわせて、海外の例もご紹介しましょう。
 フランス革命期のジャーナリストのマラーは、「人民の友」紙でこう訴えています。こちらは、冷静でシニカルです。

 
(p86より引用) 不幸な人びとの階級(高慢な金持どもは賎民という名でよんでいるが)は社会のもっとも健康な部分である。この汚辱の世紀において、なお真理、正義、自由を愛している唯一の部分である。・・・なぜなら、生きるためにはたえず労働せねばならず、堕落する手だても暇もないので、彼らは、諸君よりもずっと自然に近いままに止まっているからである。

 
 さて、次にご紹介するのは、すでに江戸時代中期において「人間の平等」を思っていた安藤昌益の「自然真営道」のなかの言葉です。

 
(p54より引用) 上みなければ下責め取る奢欲もなし。下なければ上に諂い巧むこともなし。・・・金銀銭の通用なければ上に立ち富貴栄花をなさんと欲を思う者もなく、下に落ちて賤しく貧しくわずらい難儀する者もなし。

 
 封建的身分制度の世の中に対し、ひとり異を唱えた社会批判でした。

 最後は、正岡子規の「病牀六尺」より、病苦と闘いながら語った青年の力への期待の言葉です。

 
(p156より引用) 何事によらず、革命または改良ということは、必らず新たに世の中に出てきた青年の力であって、従来世の中に立っておったところの老人が説をひるがえしたために革命または改良が行われたという事は、ほとんどその例がない。

 
 

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科学の精神 (一日一言―人類の知恵(桑原武夫))

2009-05-17 15:46:06 | 本と雑誌

Rutherford  編者の桑原武夫氏(1904~88)は福井県生れ、フランス文学者でありまた評論家でもありました。
 「はしがき」によると、本書に採録されている数々の言葉は、桑原氏の長年の読書の蓄えだそうです。

 多くの箴言の中から、「科学」に関するものをご紹介します。

 まずは、明治初期日本に招かれたドイツ人医師ベルツの「日記」より、和魂洋才への疑義の言葉です。

 
(p9より引用) 西洋の科学の起源と本質に関して日本では、しばしば間違った見解が行われているように思われる。・・・西洋の科学の世界は決して機械ではなく、一つの有機体であって、その成長には他のすべての有機体と同様に一定の気候、一定の大気が必要である。・・・日本では今の科学の「成果」のみを受取ろうとし、・・・この成果をもたらした精神を学ぼうとはしない。

 
 この態度は、自然科学に限ったものではなく、広く人文科学も含め共通に指摘される明治初期の問題点です。

 次は、民本主義の提唱者、大正期の政治学者吉野作造の言葉です。
 「学生に対する希望」の中で、真理探究に向かう謙虚で柔軟な姿勢について語っています。

 
(ア) (p47より引用) 学生の真理探究の態度は、多情でなくてはなりません。無節操でなくてはなりません。無節操といっては誤解をまねくかも知れませんが、常により正しからんとして、いつでも態度を改めうるように用意していなくてはなりません。

 
 最後は、原子核模型を示したイギリスの物理学者ラザフォードの言葉です。

 
(p143より引用) 物理学の進歩の速さをながめて、私は、自然にかんするわれわれの知識をひろめる科学的方法の力づよさに、ますます感銘するようになった。・・・ときおり、蓄積された知識をふまえた、電光のごとく光る着想が生じ、一そう広い領域を照らしだし、個々人の諸努力のあいだの関連を示す。かくてその後に全般的な前進が続くのである。

 
 多くの科学者による地道な研究の積み重ねと、それを礎とした「セレンディピティ」との往還による科学の進歩の道程を、一流の学者が語ったものです。
 
 

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強いIT戦略 攻めの経営に向けたIT活用の新機軸 (アクセンチュア テクノロジーコンサルティング)

2009-05-16 19:08:10 | 本と雑誌

 本書は、ITコンサルティングを得意としているアクセンチュアのメンバによる「IT投資の青図」を提示しようと試みた本です。
 著者のお一人から頂いたので読んでみました。

 今日のITを議論するための視点を“5つのI”(「Innovation(イノベーション)」「Information(インフォメーション)」「Integration(インテグレーション)」「Infrastructure(インフラストラクチャ)」「Industrialization(インダストリアライゼーション)」)にまとめて、各章ごとに要領よく解説していきます。
 それぞれの説明には、最新のITトレンドを語るうえで重要と思われるキーワードが適度に含まれているので、現状や課題のアウトラインをザックリとつかむことができます。

 さて、本書で紹介されているイシューのうち、従前から私自身が早急に具体的対応に着手すべきだと考えていたのが「ITインフラの統合」という提案です。

 
(p141より引用) 今後も産業の情報化は進み、日本企業はIT投資を継続的に行うだろう。・・・
 その施策として、新しい業務アプリケーションへの投資に目がいきがちだが、これと同時に、日本企業は固定的IT支出の削減に向けたITインフラの統合と標準化も、優先事項として位置づけるべきである。

 
 フレキシブルなリソースマネジメントを可能とするITインフラは、仮想化技術やユーティリティサービスの登場で現実性が高まっています。

 SOA(Service Oriented Architecture)によるアプリケーション連携は、なかなか企業の基幹系システムで実装するのは難しいところがあります。企業内の業務プロセスを「共用可能な程度の粒度」で切り出すのが困難だからです。
 その点、CPUやストレージといったシステムリソースの共用は、IT部門主導できちんとしたデザインを描いてマイグレーションプランを策定すれば、現実的施策として今からでも実行できるものです。

 最後に、本書を通して私が最も興味深く感じたのが、「ITの生産性向上への寄与度」についてのアンケート結果でした。

 
(p27より引用) 「Q.この2~3年間で、企業全体でのITに基づく生産性は向上しましたか?」
 「向上した」と回答した人の割合
 全体 52% IT部門管理職 47% 業務部門管理職 57%

 
 「生産性」の定義が不明確であり、またその「生産性」の変動に対するITの因果関係もはっきりしないので、数字の絶対値から何か言うのは難しいと思います。
 が、ここで面白いのは、「本来ITを活用する『業務部門』より、ITを構築・提供する『IT部門』の方がITの効果に懐疑的だ」という点です。

 私もIT部門で社内システムの構築に関わった経験があるので、この結果は少々理解に苦しみます。
 IT部門の半数以上の人々が「生産性に寄与しないシステム」を作っていたと自ら認めているとしたら、それはあまりにも無責任ですし、もしそうなら、なぜそのようなシステムを開発したのか、原因を徹底的に追求しなくてはなりません。
 
 

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五重塔 (幸田 露伴)

2009-05-15 22:06:42 | 本と雑誌

Gojyunotou  今年は年初に、少しでも読書の食わず嫌いを減らそうと決意したのですが、その一環として、この歳になって初めて幸田露伴を読んでみました。

 腕は一流だが世渡り下手で頑固一徹な大工の「のっそり十兵衛」が、東京谷中の感応寺に五重塔が建立されるという話を聞きつけ、魔物に憑かれたように一心にその仕事を買って出て見事に成し遂げる、その間の様々な人間模様を描いた短編作品です。

 作品の中から、いくつかの印象的な場面をご紹介します。

 まずは、「五重塔の仕事を求めた大工十兵衛と感応寺朗円上人との対面の場」の描写です。

 
(p22より引用) さあ十兵衛殿とやら老衲について此方へ可来、とんだ気の毒な目に遇わせました、と万人に尊敬ひ慕はるる人はまた格別の心の行き方、未学を軽んぜず下司をも侮らず、親切に温和しく先に立て静に導きたまふ後について、迂闊な根性にも慈悲の浸み透れば感涙とどめあへぬ十兵衛、・・・

 
 源太か十兵衛か、いづれが塔を任されるのか、「上人の沙汰を待つ十兵衛の姿」です。

 
(p32より引用) ああいぢらしや十兵衛が辛くも上げし面には、・・・額の皺の幾条の溝にはに沁出し熱汗を湛え、鼻の頭にも珠を湧かせば腋の下には雨なるべし。膝に載きたる骨太の掌指は枯れたる松枝ごとき岩畳作りにありながら、一本ごとにそれさへも戦々顫へて一心に唯上人の一言を一期の大事と待つ笑止さ。

 
 上人の意を汲み「五重塔を二人で建てよう」と持ちかけた親方源太。それを断る十兵衛。

 
(p48より引用) 先刻より無言の仏となりし十兵衛何ともなほ言はず、再度三度かきくどけど黙々としてなほ言はざりしが、やがて垂れたる首を擡げ、どうも十兵衛それは厭でござりまする、と無愛想に放つ一言、吐胸をついて驚く女房。なんと、と一声烈しく鋭く、頚骨反らす一、二寸、眼に角たててのつそりを驀向よりして瞰下す源太。

 
 源太の情は分りつつも、それを拒んだ「十兵衛の道理」です。

 
(p62より引用) 自分が主でもない癖に自己の葉色を際立てて異つた風を誇顔の寄生木は十兵衛の虫が好かぬ、人の仕事に寄生木となるも厭なら我が仕事に寄生木を容るるも虫が嫌へば是非がない、和しい源太親方が義理人情を噛み砕いて態々慫慂て下さるは我にも解つてありがたいが、なまじひ我の心を生して寄生木あしらひは情ない、十兵衛は馬鹿でものつそりでもよい、寄生木になつて栄えるは嫌ぢゃ、・・・

 
 作者の幸田露伴(1867~1947)は、江戸生まれの明治~昭和期の小説家です。この「五重塔」で文名が高まり、明治期を代表する作家として尾崎紅葉とならび称されました。

 しかし、この「五重塔」という作品。活劇を観ているような場面場面の切り出し、緊迫感溢れる子気味の良い文体はとても刺激的でした。
 齋藤孝氏ではありませんが、まさに「音読」するためのテキストです。
 これが、露伴25歳のときの作とのこと。全くの驚きです。
 
 

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異口同音の箴言 (朝令暮改の発想―仕事の壁を突破する95の直言(鈴木敏文))

2009-05-11 21:59:50 | 本と雑誌

 本書で紹介されている数多くのアドバイスの中には、鈴木氏ならではといった独創的な切り口のものもあれば、世に氾濫する多くのビジネス本で言われている指摘もあります。

 後者に属する指摘は、どんな企業でもみられる共通的な問題点であり、また、そうである所以は、現実には簡単には是正することができない現実を映し出しています。

 たとえば「自責と他責」について。

 不調の原因を他責に求めるのは世の常です。

 
(p25より引用) ものが売れないのは、まだ表面に表れず顕在化していない消費者のニーズを掘り起こすような新しい商品やサービスを提供できていない自分たちに責任がある。にもかかわらず、「不景気のせい」にすることで自分たちを納得させていたのです。

 
 「他責」に流れるのは、「自己の成果」を客観的に評価できていない、また、しようとしない姿勢にひとつの原因があります。
 そして、そういう姿勢は、しばしば経験豊富なプロやベテランと言われるタイプに見られがちです。

 
(p67より引用) 経験豊富な人にかぎって、よく、「わたしの経験では・・・」といった話し方をしますが、これはたいてい、「わたしにとってやりやすいやり方は・・・」とか、「わたしが正しいと思うやり方は・・・」という意味で使われるのです。

 
 そしてうまくいかなければ、「顧客のせい」とか「特殊事情のため」というのです。

 
(p68より引用) プロといわれる人ほど間違いを犯しやすい面も実はあるのです。プロは自分の過去の経験やそれをとおして蓄積した専門的知識を過信し、自分をとらえ直すという視点をなかなか持てないからです。

 
 芸の世界でも、一流の人は決して「芸を極めた」とは言わないものです。
 「まだまだ修行が足りません」「毎日が稽古です」といって、学び続ける姿勢を持ち続けています。

 
(p70より引用) 真のプロフェッショナルとは、過去の経験をその都度否定的に問い直すことのできる人です。

 
 さて、最後に話題を大きく変えましょう。

 昨今、消費者行動を対象にした議論において「行動経済学」的な論考が多く見られるようになっています。
 鈴木氏も「消費は『経済学』ではなく、『心理学』で考えなければならない」と語っています。

 
(p104より引用) 価値のある商品でも、置き場が違うと価値の伝わり方がまったく異なり、買われ方に差が出てしまうのです。

 
 全く同じ商品でも、売り場を替えると売れ行きも変わる例は枚挙に暇ありません。
 「コストパフォーマンスの良いお買い得商品」か「単なる安売りバーゲン品」か。商品の位置づけや価値を顧客に伝える具体的な方法のひとつが、「どの売り場におくか」ということだというのです。

 顧客の購買心理を常に考えて商品の発注や陳列を行う、そういうきめ細かなPDCAの実践が、変化への挑戦をし続けるという一つの具体的な姿勢の表れです。
 
 

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絶対価値 (朝令暮改の発想―仕事の壁を突破する95の直言(鈴木敏文))

2009-05-10 21:23:38 | 本と雑誌

 経営戦略を考えるにあたっては、いろいろなフレームワークが提示されていて、その中には必ず「競合」を対象とする議論があります。
 競合との「相対優位」を追求するのが競争の本質だという有力な考え方もありますが、鈴木氏は、その論には組みしません。

 
(p45より引用) 競争社会にいると、わたしたちはとかく他社と比較した相対的な価値に目が奪われがちです。しかし、売り手として本当に目指すべきは絶対的な価値の追求です。・・・相対価値の比較は本来、買い手である顧客がすることであって、売り手側がすることではないのです。

 
 鈴木氏が経営において最も重視する「絶対価値」の根源は「顧客のニーズ」です。
 「顧客のニーズ(=絶対価値)」の追求を目指してすべての企業活動を推進するのです。

 
(p48より引用) 「われわれの競争相手は競合他社ではない。真の競争相手は目まぐるしく変化する顧客のニーズそのものである

 
 経営を競争相手との戦いと捉えると、競合が増えることは「勝利へのリスク要因」です。
 しかし、鈴木氏の考えは異なります。「絶対価値」を追求していれば「競合はチャンス」となるというのです。

 
(p51より引用) 常に絶対を追求して、明確に自己差別化されていれば、「競合相手の出現は逆にチャンスになる」という意識を持つことができるようになり、どんな競合が出現しても、成長を続けることができるのです。

 
 「絶対価値」を「顧客のニーズ」だと定義すると、「顧客」をどう位置づけ、どう意味づけるかという基本認識が重要になります。

 「顧客」は自己の何らかのニーズを、商品やサービスの購入を通して具現化します。

 
(p55より引用) 顧客は期待以上の価値を感じて初めて満足する。その期待度は一定ではなくどんどん増幅し、・・・売り手が同じレベルのまま続けていくだけでは顧客はやがて離れていくでしょう。

 
 「顧客の満足を満たすためにはどうすればいいか」を考え続けるのです。
 このときの立ち位置について、鈴木氏はこう語ります。

 
(p58より引用) 今の時代にわれわれが追求しなければならないのは、「顧客のために」ではなく、常に「顧客の立場」で考えることです。「顧客のために」と考えるのと「顧客の立場」で考えるのとでは、一見同じようでいて、大きな違いがあります。

 
 この指摘は、非常に重要な「視座の転換」だと思います。

 
(p58より引用) 第一に、わたしたちが「顧客のために」と考えるときは、たいていの場合、自分の過去の経験をもとに、「顧客はこんなものを求めているはずだ」「顧客とはこういうものだ」という売り手からの思い込みや決めつけがあります。

 
 「顧客のために」との考え方は、まだまだ「売り手」の立場からの発想に立っているとの指摘です。

 
(p61より引用) 「顧客のために」と考える発想のもう一つの問題点は、「顧客のために」といいながら、自分たちのできる範囲内や、いまある制度や仕組みの範囲内で考えたり、行っているにすぎないケースが多いことです。

 
 「顧客の立場」に視座を移すことによって、はじめて「顧客目線」のニーズやウォンツに気づくことができるのです。
 
 

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変化への挑戦 (朝令暮改の発想―仕事の壁を突破する95の直言(鈴木敏文))

2009-05-09 12:43:46 | 本と雑誌

Seven_eleven  著者の鈴木敏文氏はセブン&アイ・ホールディングスの会長兼CEO。セブン-イレブン・ジャパンを創設した経営者として有名です。

 その鈴木氏が、自己の経験に基づきこうあるべきという仕事に対する姿勢を「95の直言」として開陳したものです。

 まずは、「変化」に対応するための要諦についてです。

 変化の激しい時代においては、現状に止まることが「リスク」となります。

 
(p27より引用) 変化の激しい時代には、むしろいままでどおりのことを続けている方がかえってリスクが大きく、新しいことに挑戦することでリスクが回避されるという発想に切り替えるべきです。

 
 とはいえ、鈴木氏は拙速な対応を戒めます。

 
(p124より引用) わからないのに先手を打つのは、「あたるも八卦」か「博打」のようなものです。
 もちろん、先のことをいろいろ考えることは大切です。しかし、変化の時代に必要なのは、先手を打つことよりも、どんな変化にも対応できる体質をつくっておくことです。

 
 「変化の兆しを事実として捉え、それに間髪入れず対応し続ける」、そのための仕掛けが、POSに代表されるセブンイレブン自慢の情報システムであり、また、朝令暮改を認める柔軟な企業風土です。

 また、鈴木氏は、「リスクへの挑戦」に関して、社内の反対を押し切って実施した高密度多店舗出店やATM積極設置等の施策を例に、次のように語っています。

 
(p142より引用) 一歩踏み込んで挑戦すれば、当然、リスクをともないます。しかし、爆発点はリスクの向こうにあることを忘れるべきではありません。

 
 顧客の認知度や利用頻度の「ティッピングポイント(爆発点)」を越えるためには、思い切った挑戦が不可欠との教えです。

 こういった挑戦的な施策は、多くの場合、過去の延長線上の思考からは導き出されません。意識して従前とは違った視点・視座から物事を考える姿勢が求められます。

 そういう姿勢を身につけるための「読書のヒント」です。

 本を読むとき、重要と思うところに線を引きながら読む人がいます。

 
(p160より引用) 線を引くならむしろ、自分の考え方とは異なる意見や反対の考え方の箇所にすべきです。・・・
 特にノウハウ本やハウツウ本の類は過去の成功体験に基づいて書かれているものがほとんどで、変化の時代には必ずしもそのまま通用するとはかぎりません。そうした過去の成功体験を同感に思い、鵜呑みにしているかぎり、自身も過去の経験から抜け出せなくなる可能性があります。

 
 本を読む場合もそうですが、新たな情報を得るためには、常に頭の中に「問題意識」をもっておかなくてはなりません。

 
(p163より引用) 新しい価値や新しい需要について常に問題意識を持っている人は、何かのきっかけになる有益な情報がフックされていて、それをとっかかりにして外へ出て行き、新たな挑戦へと踏み出すチャンスをつかんでいきます。

 
 単にアンテナを立てているだけでは情報は受信できません。
 電源がONになっていないと受信機は機能しませんし、チューナーがないと望みの放送がキャッチできないのは当然です。
 
 

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人は意外に合理的 新しい経済学で日常生活を読み解く (ティム・ハーフォード)

2009-05-06 19:12:17 | 本と雑誌

 同じ著者の本として、以前「まっとうな経済学」を読んでいます。
 本書はその「拡大版」とのことです。

 著者は、昨今の行動経済学の研究内容を理解しつつも、それに反論しています。
 多くの行動経済学の実験は、通常の生活環境ももとでなされたものではなく、いつもとは異なる不慣れな環境下で判断を強いられていて、その結果にはバイアスがかかっているとの考えです。すなわち、人々は通常の環境下においては、ほとんどの場合「合理的な判断」をしているとの主張です。

 著者は、本書における「合理性」を以下のように定義しています。

 
(p23より引用) 合理的な人はインセンティブに反応する。あることをするコストが上昇すると、人はそれをしなくなる。・・・選択肢を比較検討する際には、合理的な人々は全体的な制約を念頭に置いて評価する。つまり、どれか一つの選択肢のコストと便益だけではなく、予算全体を考えるということだ。そして、現在の選択肢が将来もたらす結果も考慮する。

 
 本書では、いくつもの社会的な課題を取り上げて、課題を産み出してしまう個々人の行動の「合理性」を解説していきます。

 そのうち、「都市」への経済の集中・地域格差の拡大を取り上げた章の中で、「通信技術」の位置づけを論じた箇所がありました。
 通信技術の進歩は、地域間の情報格差を解消し都市への集中を無用化するものか否かとの論点です。

 
(p263より引用) 経済学用語でいえば、デジタル・コミュニケーションはおそらく対面での会合の代替財であるのとまったく同じように、その補完財でもあるのかもしれない。そして、デジタル技術が対面での会合の補完財であるなら、対面で会うことを容易にする都市の補完財でもある。

 
 著者は、偶然性も含めた密なコミュニケーション空間としての都市の役割を重視しています。
 巨大都市は、リアル・バーチャル双方のコミュニケーションの深化・拡大により、ますますイノベーションの発信地となるとの考えです。

 
(p270より引用) 因果関係の連鎖の方向は、生産性から多様性ではなく、むしろ多様性から生産性へと向かっているようであり、文化の多様性はともかくも都市の生産性を高めるというのがいちばんそれらしい説明になる。

 
 このところ「行動経済学」関係の本を何冊か読んでいるので、本書の論旨は、それらとの対比という意味で有効でした。

 「経済は感情で動く」とか「予想どおりに不合理」といった本で紹介されている「非合理性」は、神経経済学的アプローチも採り入れており「個々人ベース」の行動例が多いように感じます。
 他方、本書で解説されている「合理性」の主体は、「集団」が主になっています。ただ、それらの説明に使われている例示が、欧米社会の在り様を前提としているので、正直なところちょっと腹に落ちにくい印象を持ちました。
 その点では、同じ著者(ティム・ハーフォード)の前作(まっとうな経済学)の方が取っつきやすいですね。

 最後に、本旨とは全く異なるのですが、本書を読んで気になった言葉をご紹介します。

 
(p91より引用) 2005年にノーベル賞を受賞したとき・・・、シェリングは受賞記念講演の冒頭でこう語りかけている。「この半世紀のあいだに見られた最も劇的な出来事は、起こらなかった出来事です。私たちは、核兵器が怒りにまかせて爆発することなく、60年という歳月を過ごすことができました」

 
 

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世界がわかる理系の名著 (鎌田 浩毅)

2009-05-05 20:07:59 | 本と雑誌

Wegener  タイトルやその中に書かれている業績は知っていても、なかなかその原典を読む機会はありません。

 本書は、ファーブル『昆虫記』、ガリレオ『星界の報告』、ニュートン『プリンキピア』、アインシュタイン『相対性理論』・・・等々、科学史において顕著な業績を残した科学者の代表的な著作を取り上げ、その内容のポイントやエピソード等を分りやすく紹介したものです。

 たとえば、ファーブルの著作のオリジナリティについてです。

 
(p28より引用) ファーブルには出版にあたり別の野心があった。多くの啓発書では、書かれた内容の出典はよそにある。もし詳細に調べてみれば、原典がどこかにあり、それを平易に書き直したものであることがわかる。しかしながら『昆虫記』の中身は実はファーブル自身が新たに発見したことであり、どこにも類書はない。
 彼が目指したのは、オリジナルでありながら万人に広く読まれるという新しいタイプの本だった。

 
 本書で紹介されている科学者の多くは、当時権威のあった通説や社会の常識を打ち破る全く新たな「視座」や「視点」を提示しました。

 「生物から見た世界」を著したエストニア出身の生物学者ユクスキュルの鮮やかな「視座の転換」です。

 
(p74より引用) 一般に、環境とは客観的にわれわれ生き物を取り囲む状態のすべてである。・・・
 しかし、ユクスキュルはまったく異なる視座を持っていた。客観的な視点から環境をとらえるのではなく、生物が自分を中心として意味を与えたものが本来の環境であると考えたのだ。
 動物たちはみな、それぞれが独自の環境を持っている。動物を取り巻く時間や空間は、物理学が説明するように一意的に決定されたものではなく、動物によってすべて違う、と言うのである。

 
 環境は絶対的な与件ではなく、対象により相対的なものだという考え方です。

 
(p75より引用) これは私たち人間にも同じことが言える。私たちが「環境問題」という時は、人間にとって都合の良い世界が周囲にあるかどうかを問題にしているわけだ。すなわち、「良い環境を築く」とは、実は「人間にとって良い環世界を築く」という意味で用いられているのである。

 
 通説や常識を打ち破るという点では、ガリレオ・ガリレイが代表的ですが、アルフレッド・ウェゲナーが「大陸と海洋の起源」で唱えた「大陸移動説」も当時は驚天動地の説でした。
 大西洋の両側の海岸線が似ているとの気づきはおそらく多くの人が感じていたはずです。
 ウェゲナーの卓越したところは、その理論化への執着でした。

 
(p228より引用) 思いつきだけではサイエンスは成功しない。思いつきをサイエンスにするための大切な仮説と実証、この過程をウェゲナーはきちんと踏んだ。人々を納得させる理論を提出し、あらゆる角度から事実で検証したのである。

 
 しかし、当時得られた事実だけでは、ウェゲナーの仮説は十分に立証できませんでした。
 そのときのウェゲナーのとった思考方法は非常に参考になります。

 
(p229より引用) 確定できない部分はさておき、入手できた事実から話を組み立ててしまう戦略がここにはある。たとえて言うならば「棚上げ法」だ。この方法を使ったものだけが、パイオニアの成功を勝ち得ることができるのである。

 
 本書で紹介されている科学者は皆、当然ですが「超一流」です。
 一流の人ほど、謙虚であり、地道な努力を厭いません。

 あのニュートンですら、こう語っています。

 
(p141より引用) 「世間が私のことをどう見ているか知らないが、自分は波打ち際で遊ぶ一人の子どもに過ぎない。真理という大きな海は、いまだ発見されないまま目の前に果てしなく広がっている。それなのに私は、ときどき美しい貝殻や小石を見つけては、無邪気に喜んでいる」
 ニュートンの自然観がよく表現されたものであり、私たち自然科学者にとって、この言葉は、研究の現場でいつも味わう感慨でもある。

 
 また、斉一説を唱え「地質学原理」を著したスコットランド出身の地質学者チャールズ・ライエルの研究姿勢も、まさに王道です。

 
(p208より引用) ライエルは、第一に非常に優れた自然現象の観察者だった。しかも、くわしく観察しながらも単純な記載に留まることなく、ここから一般法則を立てることに熱心であった。観察と理論化という科学者としての基本的な資質に恵まれた研究者だったのである。

 
 本書で紹介されている本の中で、私が読んだことがあったのは、アインシュタインの「相対性理論」だけでした。(全く恥ずかしい限りです・・・)
 とても面白そうな本がたくさん紹介されているので、よい読書案内を見つけた気がします。
 
 

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