OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

祖国とは国語 (藤原 正彦)

2010-02-28 10:45:24 | 本と雑誌

 会社の方からお借りして読んでみました。

 「国家の品格」がベストセラーとなった藤原正彦氏のエッセイ集です。出版は「国家の品格」より前ですが、当然ながら著者の主張は一貫しています。

 著者の主張の柱は、論理に勝る「教養」「情緒」の大切さです。

 
(p17より引用) 読書は教養の土台だが、教養は大局観の土台である。文学、芸術、歴史、思想、科学といった、実用に役立たぬ教養なくして、健全な大局観を持つのは至難である。

 
 著者のいう情緒は、他人を慮る気持ちや「もののあはれ」を感じる心情、美しいものを愛でそれに感動する心といった幅広い教養に裏打ちされた情緒です。

 
(p27より引用) 情緒は我が国の有する普遍的価値でもある。普遍的価値を創出した国だけが、世界から尊敬される。経済的繁栄をいくら達成したところで、羨望や嫉妬の対象とはなっても尊敬されることはありえない。

 
 こういう「情緒」は、「論理」に先立つものとしてあります。「情緒」が体現する「普遍的価値」と捉えているものは、「日本人が抱く世界観」といってもいいでしょう。

 
(p84より引用) その人の教養とか、それに裏打ちされた情緒の濃淡や型により、大局観や出発点が決まり、そこから結論まで論理で一気に進むということになる。どんな事柄に関しても論理的に正しい議論はゴロゴロある。その中からどれを選ぶか、すなわちどの出発点を選ぶかが決定的で、この選択が教養や情緒でなされるのである。論理は得られた結論の実行可能性や影響を検証する際に、はじめて有用となる。

 
 国際社会において認められるものは、この「世界観(=大局観)」の是非になります。
 「論理性」はそれ自体が重要なのではなく、論理的議論が拠って立つ「世界観」が本質的な意味を持つということです。

 さて、本書ですが、大きく3つのパーツに分かれます。
 後の「国家の品格」に連なる「国語教育絶対論」、藤原家の人々の風景を描いた軽妙洒脱なエッセイ集である「いじわるにも程がある」、そして、著者の出生地満州を家族で訪ねた際の思い出を綴った「満州再訪記」です。

 それらのうち、「満州再訪記」から、私の印象に残った一節をご紹介します。
 昭和20年8月9日、長春を引き上げるために着の身着のままでたどり着いた新京駅を、数十年の年月を経て改めて訪れたときのくだりです。

 駅舎の二階に続く階段を前にして、著者はこう記しています。

 
(p220より引用) 同じ階段を、皇帝溥儀が通り、天皇の名代として秩父宮、高松宮が通り、多くの日本の首相や中国の要人の通ったことなど、誰も興味がないのだろう。まして、山ほどの荷物を背負いぶらさげた、女子供ばかりの日本人引揚者たちが、必死の形相でこの階段を登っていったこと、その多くが故国へたどり着く前に力つきたこと、などに思いいたる人はいない。人の波の切れた階段をじっと見上げていると、歴史が風のように駅を吹き抜けた、とさえ思えてくる。

 
 著者の母であり、作家新田次郎の妻である藤原ていさんの「流れる星は生きている」を読んでみたくなりました。
 
 

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大人のためのスキマ時間勉強法 (和田 秀樹)

2010-02-26 18:59:39 | 本と雑誌

 スキマ時間の具体的活用法を列挙した「How To本」です。
 会社の方からいただいたので、まさに「スキマ時間」にパラパラ読んでみました。

 著者の説く「スキマ時間の活用法」は大きく2つ。
 ひとつは、スキマ時間に短時間でこなせる「仕事や勉強」を効率よく組み込むこと。
 もうひとつは、スキマ時間を、本来の仕事や勉強時間に集中するための「準備(リラックス)」時間として活かすことです。

 たとえば「移動時間」の活用法

 
(p95より引用) 移動時間というのは、最もスキマ時間ができやすい時間帯の一つだ。・・・いずれも五分、十分、あるいは、三十分、一時間といったスキマ時間ができる。
 これらの時間単位に合わせて仕事を用意しておけば、移動時間中にかなり多くの仕事をこなしてしまうことができる。

 
 著者が重視しているのは、「時間の長さ」ではなく「時間の密度」です。
 「オンの密度」を高めるためには、「オフの充電」が重要になります。

 
(p107より引用) 疲れているときは、中途半端に何かをしないで、思い切ってオフにしてしまう。そして、スッキリしてから集中的に何かをする。オンとオフの切り替えをはっきりとすることが大切だ。

 
 ただ、本書で紹介しているような具体的なTipsは、時間を大切にし活用しようと意識している人は既に実行しています。こういう人から見ると、本書からの学びはほとんどないでしょう。

 逆に本書を読んでの気づきが多かった人は、そもそも「時間の大切さ」や「時間活用の目的」等をあまり意識していなかったのだと思います。
 その場合は、本書のようなHow To本を読む前に、まず「目的の明確化」と「それに向かった計画策定」が先でしょう。「目的」と「道程」がはっきりすると、そのための手段は真剣に考えるようになりますし、自ずから具体的な工夫をするようになります。
 
 

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柳井流 (成功は一日で捨て去れ(柳井正))

2010-02-24 19:04:22 | 本と雑誌

 柳井氏は、「ユニクロ」を「第三世代SPA」と位置づけています。
 第一世代の代表はGAP、スポーツウェアのカジュアル化。第二世代はZARAやH&M、それにファッションの要素を加えたもの。そして、さらに「情報」をアドオンしたユニクロが第三世代というのです。

 
(p122より引用) ぼくはファッションだけが服を買う理由ではないと思っている。機能や素材、着心地、シルエットなど、その服の持つ情報そのものを、商品と一緒に伝えて買っていただく。・・・
 商品そのものがいいということと、その商品の持つ情報が自分にとって有益だと思えること、そこに、広告などで伝わる商品のイメージが加わる。・・・我々のように、いろんな意味の情報を商品と同時に伝えるSPAを、第三世代SPAと名付けた。

 
 これは、「服」に対する「意味づけ」の転換・発展を目指したものでした。

 柳井氏は、本書で、いくつもの成功事例・失敗事例・リカバリー事例を紹介しています。その中で、私として注目したいのは「リカバリー事例」です。

 たとえばその中のひとつ。「ジーユー」の例です。
 ユニクロが「低価格にはこだわらない」ことを宣言した、その後のマーケットをカバーするために、柳井氏は低価格商品にチューンした「ジーユー」を展開しました。しかし、その経営状況は鳴かず飛ばずでした。

 
(p159より引用) よく、先行している商売人が流行を作り出すとか、お客様の心理を作り出すといった類の話があるが、そんなことは実際にはあり得ない。こちらから心理状態を変えるなんて滅相もないことだ。重要なのは、お客様の心理状態に合わせて商品を作り出すことなのだ。

 
 この考え方に基づき「てこ入れ策」として登場したのが、大いに話題になった「990円ジーンズ」です。「不況の真っ只中で低価格の商品を求めている消費者でさえ驚くような価格」がポイントでした。
 「お客様の心理状態(ニーズ)を読み、その上を行く『驚き』を提供する」、こういったことも世のマーケティングの指南書には書かれています。が、要は、必要なタイミングで決断実行できるかという1点に尽きます。その点が、マーケッター/コンサルタントと経営者の決定的な違いです。

 この「990円ジーンズ」に見られる「低価格戦略」はユニクロの代名詞のような印象があります。しかしながら、柳井氏の「価格」についての意味づけはちょっと違っています。

 
(p205より引用) ユニクロはベーシックなカジュアルウェアを低価格で販売する企業という印象を持っている方が多いと思うが、安く売るという前に「よい商品をつくって、あらゆる人に買っていただきたい」という思いが強い。価格を安く設定しているのは、そのための手段と位置づけている。

 
 価格は、それが「価値」だというのではなく、あくまでも「価値」を提供するための「手段」だと言うのです。確かにPriceは「4P」のひとつに過ぎないのですから、言われてみるとマーケティングの古典においても当たり前の考え方なのですが、改めて再認識させられました。

 さて、最後の「柳井流」ですが、「企業内教育」についての取り組みです。

 
(p194より引用) ぼくが考えている教育の最終の姿は、仕事自体が教育そのものになるというものだ。
 それぞれの人が自ら考えながら仕事をする。個々人が教育したり教育されたり、教え合ったり、育んだりする。この仕組みができれば、結果的に常に新しい企業に生まれ変わるための起爆剤になるのではないかと考えている。

 
 企業の根幹を「人」と捉えた場合、重要なのは人材育成です。柳井氏の描く育成の理想像は、「相互教化」という仕組みでした。
 教えあう職場は、仕事を「部分最適」から「全体最適」を導きます。組織として「全体最適」を求めることができるということは、まさに企業として「変化への対応」が自律化されるということです。
 
 

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ユニクロ流SPA (成功は一日で捨て去れ(柳井正))

2010-02-21 16:11:54 | 本と雑誌

Uniqlo  現代を代表する経営者のひとりファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の最近の著作です。

 多くの経営書で説かれている内容もあれば、柳井氏独特のポリシーも紹介されています。
 まずは、一般的なものから。
 経営の基本姿勢に関するコメントです。

 
(p35より引用) ぼくは常日頃から会社というのは、何も努力せず、何の施策も打たず、危機感を持たずに放っておいたらつぶれる、と考えている。常に危機感を持って会社経営することが正常なのである。「正常な危機感」とでも言おうか。・・・
 危機感と不安とは全く違う。・・・
 危機、つまりリスクを裏返すとプロフィット、要するに利益に通じる。会社経営では、危機は利益と同義語なのだ。

 
 ユニクロは、SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売業)という業態で成功したと言われています。
 SPAの強みについて、著者はこう説明しています。

 
(p86より引用) そもそもSPAというのは、商品企画から販売までの流れをワンサイクル全部1社で回しているからそう呼ばれる。
 ・・・SPAでは、圧倒的な「売れ筋商品」を発見するまで何度でも何度でもそのサイクルを自社で回せる。つまり実験=試行錯誤できることこそが、SPAの本当の強みであろう。

 
 SPAのメリットは中間の流通を除いたことによる低価格の実現だけではありません。店頭現場のお客様の声を直接製造に反映できる、そういう商品改良のサイクルを回すことにより蓄積されるノウハウにあります。

 
(p128より引用) 我が社には、成功の方程式なるものはまったくないばかりか、現場主義を徹底的に磨きこむという地道な作業が尊ばれる。社員ひとりひとりがもっとよく深く考えて、すぐに実行していくという経験値の積み重ねのようなものが、現状のブレークスルーにつながっていく。・・・
 現在の多くの小売業は自分で商品を作っていないので、そういうことよりも自分たちのアイデアを押し付け「こんな風な商品を作ってきて!」とメーカーさんに指示するだけなので、長続きしないし、自分たちにノウハウは貯まらない。それでは成功は継続しない。

 
 SPAというビジネスモデルは決してユニクロが発案者ではありません。海外の先行アパレルメーカーにも見られた形でした。
 しかし、ユニクロは、現場主義の徹底によって「商品企画→生産→販売→商品改善→商品企画・・・」というサイクルを自己完結させることにこだわったのです。ユニクロの強さは「徹底した現場主義」にあります。

 
(p172より引用) 我々は「売れない」ことを前提にして、「売れるにはどうすればいいのか」を常に考え、試し、実践し続けてきた。その努力があって、やっと商品の良さが認知され売れるようになったのだと思う。

 
 「売るための方法」を、販売の現場と生産の現場との往還活動の中で考え抜いてきたこと、ここに、不況の中で「一人勝ち」といわれるユニクロの強さの源泉のひとつがあるようです。
 

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中学生からの哲学「超」入門―自分の意志を持つということ (竹田 青嗣)

2010-02-19 23:26:57 | 本と雑誌

 竹田氏は、自らの「自我」の経験を振り返りを、本書のテーマである「哲学入門」の導入として語っています。

 20歳代、竹田氏にとって、数ある哲学思想の中で理解できたものが「現象学」だったといいます。竹田氏が紹介する「現象学」のポイントです。

 
(p40より引用) 最も大事なポイントは、まず、人間が何かを認識するというとき、事実を知るという問題と、「了解する」とか「納得する」という問題は本質が違うということ。次に、前者は「誰が見てもこう見える」を探す方法だけれど、後者は、「自分の中でぎりぎりこう了解するほかはない」という形で、いわば“後ろ向き”に現われる納得の問題であって、両者をはっきりと区別する必要があるということ。そして、人間や社会の認識の場合は、後者のタイプの認識である、ということです。

 
 著者は本書で、哲学とはどういう学問か、著者は宗教や自然科学と比較しながら説明していきます。その中で、宗教との違いとしてその「方法」を挙げています。

 
(p75より引用) 哲学で大事なのは、あくまでその「方法」なのです。
 ・・・哲学の方法の特質は、①概念を使うこと、②原理を置くこと、③再始発すること、です(再始発は、後の人が、先人の提出した「原理」に対して、幾度でも新しい「原理」を提示できるということ)。哲学はこの方法で、どんなこともテーマにして考えます。実際、哲学は、自然や社会や人間や神などの問題について徹底的に考えてきました。

 
 また、著者は「哲学とは」の説明として「哲学はゲームだ」と語っています。
 ゲームには「ルール」が必要です。哲学の方法におけるルールは、「あることがらの一番大事なポイントをどんな言葉で呼べばよいか」を探すというものでした。

 
(p117より引用) 哲学は、それ自体が「本質や原理と上手に探していくゲーム」と言ってよい。・・・
 「本質を見つける」とは、「絶対的な認識」をつかむということではなくて、みんなの中にうまく共通の了解を作り出してゆく、ということなのです。

 
 さて、哲学が「社会の成員の共通了解」を生み出す方法だとすると、そういう方法を採りうる社会的状況がなくては哲学は存在しえません。この条件を満たしたものが「近代社会」です。
 近代社会以前は「実力支配の社会」でした。近代社会は、「全員で作ったルールによる対等なゲーム」の仕掛けとして登場しました。

 
(p123より引用) 近代社会のいちばん中心の原則は、だれもが自由で平等であることを誰かが(神や、政府や、その他が)認めている、というのではなく、社会の成員がそれを「相互承認」する意志をもつ、という仕組みにあるということです。哲学ではこれを「自由の相互承認」と言います。

 
  「相互承認」という営みが認められている社会においては、多くの人が共通にもつ「一般欲望」が形づくられます。これは、「自由恋愛」「職業の自由」「社会的承認」といったものですが、もっと分かりやすい例でいえば「きれいになりたい」とか「お金持ちになりたい」・・・といったものもそうです。
 しかしながら、この「一般欲望」はすべての人にとって叶うものではありません。そこに挫折や絶望といった大きな壁が立ちはだかります。

 ここで、「一般欲望」に抗い、この精神的な苦難を乗り越えるために、 「自己のルール」=「自分の意志をもつこと」がとても大事になるのです。
 著者は、本書を通してこのことを今の若者に訴えてかけています。

 本章のタイトルは「中学生からの哲学「超」入門」ですが、内容は決して中学生レベルではありません。情けないのですが、正直なところ私としても2割理解したかどうか・・・。
 
 

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世界標準 (日本辺境論(内田樹))

2010-02-16 19:31:07 | 本と雑誌

 著者は、幕末と明治末年(日露戦争後)の日本がおかれている状況を比較して、「情報と判断」との関係についてこうコメントしています。

 
(p88より引用) 情報量の多寡と状況判断の当否は必ずしも相関しない。わずかな情報からでもわかることはわかるし、潤沢な情報があっても、知りたくないことは知られない。・・・

 
 幕末においては状況判断を誤らず、明治末期には判断を誤ったと著者は考えています。情報量は、明治末期の方が大きかったにもかかわらずです。では、何が原因で、こういう判断結果の差異が生じたのか?その考察から、よく言われている日本人の特性に言及していきます。

 
(p88より引用) 相違点は本質的には一つしかありません。幕末の日本人に要求されたのは「世界標準にキャッチアップすること」であり、それに対して、明治末年の日本人に要求されたのは「世界標準を追い抜くこと」であったということ。これだけです。
 日本人は後発者の立場から効率よく先行の成功例を模倣するときには卓越した能力を発揮するけれども、先行者の立場から他国を領導することが問題になると思考停止に陥る、ほとんど脊髄反射的に思考が停止する。

 
 この日本的思考様式の現出は、思想の如何を問いません。

 
(p94より引用) 日本の右翼と左翼に共通する特徴は、どちらも「ユートピア的」でないこと、「空想的」でないことです。すでに存在する「模範」と比したときの相対的劣位だけが彼らの思念を占めている。

 
 この点が、ヨーロッパの思想的根本と決定的に異なるところです。

 
(p95より引用) ヨーロッパ思想史が教えてくれるのは、社会の根源的な変革が必要とされるとき、最初に登場するのはまだ誰も実現したことのないようなタイプの理想社会を今ここで実現しようとする強靭な意志をもった人々です。そういう人々が群れをなして登場してくる。

 
 これら無数の先駆者の挑戦的実践の重層のうえに西欧の社会思想基盤が築かれていったのです。

 著者は繰り返し強調します。日本人には「フォロワー」としての思考・行動が染み付いています。ここに新たな世界を牽引する「中心」たり得ない決定的な「辺境の限界」があるとの主張です。

 
(p96より引用) 私たちにできるのは「私は正しい。というのは、すでに定められた世界標準に照らせばこれが正しいからである」という言い方だけです。・・・
 「世界標準に準拠してふるまうことはできるが、世界標準を新たに設定することはできない」、それが辺境の限界です。

 
 確かに、こういう「自分自身を根拠にした判断」というのは私たちにとっては難しい行動です。

 
(p98より引用) 指南力のあるメッセージを発信するというのは、「そんなことを言う人は今のところ私の他に誰もいないけれど、私はそう思う」という態度のことです。・・・その「正しさ」は今ある現実のうちにではなく、これから構築される未来のうちに保証人を求めるからです。私の正しさは未来において、それが現実になることによって実証されるであろう。それが世界標準を作り出す人間の考える「正しさ」です。

 
 現実的には、いくら「未来が証明する」といわれても、それをそのまま信じるという人は稀でしょう。
 ただ、「私は自分を信じる」という強い意志は、周りの同調や支持を不要とする覚悟でもあるのです。

 
 

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相対思考 (日本辺境論(内田樹))

2010-02-14 16:12:46 | 本と雑誌

 「きょろきょろする」ことは、周りを見る、周りの中で自己を位置づけるという行動です。
 この性癖は、日本のあらゆる場面で顔を出します。「国」「政府」というレベルでも同じです。

 
(p37より引用) 他国との比較を通じてしか自国のめざす国家像を描けない。国家戦略を語れない。そのような種類の主題について考えようとすると自動的に思考停止に陥ってしまう。これが日本人のきわだった国民性格です。

 
 著者はこのあたり、アメリカとの比較から立論を進めます。オバマ氏の大統領就任演説で語られたような「建国の理念」「国民の物語」が日本には欠如しているという指摘です。

 
(p38より引用) 日本という国は建国の理念があって国が作られているのではありません。まずよその国がある。よその国との関係で自国の相対的位置がさだまる。よその国が示す国家ヴィジョンを参照して、自分のヴィジョンを考える。

 
 こういう思考スキームは、最近も「空気を読む」というフレーズで再登場しています。
 「空気」というのはその場にいる人々の「関係性」の態様であり、その関係性を意識して、つまり「空気を読んで」、自己の振る舞いを決めるという態度です。まさに「空気を読む」という所作は「きょろきょろする」ことと同体です。

 本書のタイトル「日本辺境論」からは、文字通り地理的な意味で「辺境=周辺」というニュアンスが感じられますが、著者のいう「辺境」は絶対座標ではなく相対座標において自己の立ち位置を測る、「not 中心」という意味でも「辺境」というコンセプトを提示しているようです。

 
(p44より引用) ここではないどこか、外部のどこかに、世界の中心たる「絶対的価値体」がある。それにどうすれば近づけるか、どうすれば遠のくのか、専らその距離の意識に基づいて思考と行動が決定されている。そのような人間のことを・・・「辺境人」と呼ぼうと思います。

 
 別の言い方をすると、「状況創造」ではなく「状況受容」「状況反応」というのが日本人の基本的行動様式だということでもあります。

 ただ、こういう相対性や受容力は、「学び」という観点ではある種の強みを発揮するようです。まわりを見、それをまず受け入れるという態度は「オープンマインド」にも通底しています。

 
(p148より引用) 人間のあり方と世界の成り立ちについて教えるすべての情報に対してつねにオープンマインドであれ。これが「学びの宣言」をなしたものが受け取る実践的指示です。

 
 絶対的なものを追求せず、外部からの受けた情報と自己の思考とのつじつまあわせをする、そういう過程から何らかの新たな気づきを得ていくという「効率的」な学びの方法が、日本人特有の「学びの力」となっているとの指摘です。

 
(p150より引用) 弟子は師が教えたつもりのないことを学ぶことができる。これが学びのダイナミズムの玄妙なところです。

 
 「学び」はまさに「力」でした。

 
(p197より引用) 「学ぶ力」とは「先駆的に知る力」のことです。自分にとってそれが死活的に重要であることをいかなる論拠によっても証明できないにもかかわらず確信できる力のことです。・・・
 この力は資源の乏しい環境の中で・・・生き延びるために不可欠の能力だったのです。この能力を私たち列島住民もまた必須の資質として選択的に開発してきました。狭隘で資源に乏しいこの極東の島国が大国強国に伍して生き延びるためには、「学ぶ」力を最大化する以外になかった。「学ぶ」力こそは日本の最大の国力でした。

 
 日本の「学び」の大きな特徴は、「効果が分からなくても、まず学びを始める」というところにあります。

 
(p199より引用) 「その意味を一義的に理解することを許さぬままに切迫してくるもの」について、「理解したい。理解しなければならない」ということが先駆的に確信されることが「学ぶ」という営みの本質をなしている。

 
 西洋流の、「先駆的な知」はアプリオリなものとして既に「そういうものがある」という前提ではなく、必ず何かが得られるという確信なくして学ぶことができる。これは素晴らしい強みです。
 逆に言えば、この「学びの姿勢」をなくしてしまうと、日本は大きな強みを失うことになるのです。
 
 

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COURRiER Japon(クーリエ・ジャポン)2010年03月号

2010-02-13 21:22:32 | 本と雑誌

 レビュープラスというサイトの紹介で読んでみた雑誌です。
 世界各国のメディアと提携した多彩な記事の紹介が大きな特徴です。

 今月号のメイン記事は「オバマ大統領就任から1年 貧困大国(アメリカ)の真実」
 こういった企画は、新聞では表層的になりますし、書籍ではリアルタイム性が欠如してしまうので、まさに雑誌で採り上げるのに相応しいテーマですね。
 その中のジャーナリスト堤未果さんへのインタビューから、私の気になったフレーズです。「教育の場での新自由主義的側面」について。

 
(p24より引用) 私たちが奨学金と聞くと、成績優秀な学生は返さなくてもいいものを想像します。ですが、そうした返済義務のない奨学金はこの20年で激減しています。また、そうした奨学金は大学にとっての「投資」であり、将来出世して大学に寄付してくれそうな学生、つまり裕福なエリート家庭の指定しか給付対象に選ばれない。
 そうなると、普通の学生の選択肢は高い利子付きで返済義務がある「学資ローン」に限られる。・・・

 
 学びの意欲は希望の源泉です。その源において「既に格差が存在する」、もっと言えば「格差を積極的に助長している」という現状。何と情けなく、辛いことでしょう。

 もうひとつ、「世界が見たNIPPON」という記事もなかなか面白い内容です。
 米国・韓国・シンガポール・中国・ロシアのジャーナリズムが報じる外からの目を通した「日本像」を知ることができます。
 たとえば、安定した「中流社会」を築いた日本に倣おうというロシアの識者のコメント。

 
(p85より引用) 日本の例は、ある教訓を与えてくれる。中流階級を有権者層に持つ政党は、彼らを支持基盤とし、その利益を保護する限りは、安定した成長と成功が見込めるということだ。われわれロシアも、まずは中流階級の評価を行うことから始めてみてはどうだろうか。・・・ロシアに中流階級が増えているということは、よいことである。もし、減っているのであれば、そのときは皆で選挙に行こう。

 
 その他、この雑誌で興味をひいたものをいくつかご紹介しましょう。

 まずは、「WORLD NEWS HEADLINE」
 アジア/オセアニア・アフリカ・ヨーロッパ・アメリカと世界各国の社会・政治・経済に関する26のトピックを並べています。エチオピアでインド企業が農業に進出しているといったあまり注目されないアフリカ関係のニュースや、フランスの“キノコ”を巡ってのギャングとの抗争等、ヨーロッパの社会面的話題はちょっと気になります。

 また、定番の「グルメ」系の記事「ボルドー、トゥールーズ『食べてからのお楽しみ』」や、中国のメディア事情をレポートした「ネット上から瞬時に削除された中国の『100の過激言論』」あたりもおもしろいですね。

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きょろきょろする日本人 (日本辺境論(内田樹))

2010-02-12 18:53:14 | 本と雑誌

 「日本人とは何ものか」という問いに対して、今日の人気論客内田樹氏が「ビッグピクチャー」を描いて大胆に論じます。

 絵を描く際には、「対象」を捉える「視野」の設定が重要です。

 
(p18より引用) 私が驚いたのは、私がどんな質問をしても、トーブさんが、そのつどその論点はどういう時間的な幅の中で考察すべきかというスケールの吟味から入ったことです。「どういうスケールで対象を見るか」という問いは、本来あらゆる知的活動の始点に立てられなければならないはずのものです。

 
 内田氏自身、「はじめに」でも述べていますが、過去にも数々の「日本文化論」が論じ重ねられてきました。が、これほど多くの「日本文化論」が存在していること自体、極めて「日本人的」であると内田氏は言います。
 ただ、この点はすでに梅棹忠夫が指摘しているところでもあるとのこと。

 
(p23より引用) 私たちが日本文化とは何か、日本人とはどういう集団なのかについての洞察を組織的に失念するのは、日本文化論に「決定版」を与えず、同一の主題に繰り返し回帰することこそが日本人の宿命だからです。
 日本文化というのはどこかに原点や祖型があるわけではなく、「日本文化とは何か」というエンドレスの問いのかたちでしか存在しません。・・・すぐれた日本文化論は必ずこの回帰性に言及しています。

 
 この回帰性を政治学者丸山眞男「執拗低音」と表しました。「きょろきょろして新しいものを外なる世界に求める」態度です。
 これが「日本人の振る舞いの基本パターン」であり、繰り返し表れる「回帰パターン」なのです。

 
(p26より引用) 丸山が言っているのは・・・日本文化そのものはめまぐるしく変化するのだけれど、変化する仕方は変化しないということなのです。
「まさに変化するその変化の仕方というか、変化のパターン自身に何度も繰り返される音型がある、と言いたいのです。・・・よその国の変化に対応する変り身の早さ自体が『伝統』化しているのです」

 
 こういう「変り身の早さ」が伝統化するには、もちろん必然の経緯があります。

 
(p29より引用) もっぱら外来の思想や方法の影響を一方的に受容することしかできない集団が、その集団の同一性を保持しようとしたら、アイデンティティの次数を一つ繰り上げるしかない。・・・世界のどんな国民よりもふらふらきょろきょろして、最新流行の世界標準に雪崩を打って飛びついて、弊履を棄つるが如く伝統や古人の知恵を捨て、いっときも同一的であろうとしないというほとんど病的な落ち着きのなさのうちに私たちは日本人としてのナショナル・アイデンティティを見出したのです。

 
 「きょろきょろするナショナル・アイデンティティ」は、辺境に住む日本人にとって、外からの力に抗するための自己防衛的態度だったのです。

 こういう辺境人たる日本人の特性は、つい最近まではいくつもの局面で効果的に働いていました。

 
(p186より引用) 辺境人は「遅れてゲームに参加した」という歴史的ハンディを逆手にとって、「遅れている」という自覚を持つことは「道」を究める上でも、師に仕える上でも、宗教的成熟を果たすためにも「善いこと」なのであるという独特のローカル・ルールを採用しました。これは辺境人の生存戦略としてはきわめて効果的なソリューションですし、現にそこから十分なベネフィットを私たちは引き出してきました。

 
 しかしながら、今はというと

 
(p186より引用) 問題は「その手」が使えない局面があるということです。

 
 

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もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら (岩崎 夏海)

2010-02-10 19:23:47 | 本と雑誌

Management  一風変わったドラッカーの代表的な著作「マネジメント」の入門書です。

 主人公の野球部女子マネージャーみなみちゃんが、ドラッカーの『マネジメント』を片手に、文字通りのマネージャーとして野球部の「マネジメント」に取り組みます。

 まずは、ドラッカーのマネジメント論のスタート、「事業の定義」「顧客の定義」に関するくだり。みなみちゃんは、「野球部にとっての『顧客』とは誰か」という問いに対します。

 
(p56より引用) 「ふむふむ、そうなんだ・・・そう考えると、高校野球に携わるほとんど全ての人を、顧客ということができるよね」・・・
 「それから、忘れちゃいけないのは、ぼくたち『野球部員』も顧客だということだな」

 
 みなみちゃんは「野球部の顧客」を「野球部員」だとして、その野球部員のニーズを満たすべく「マネジメント」に挑戦します。

 さて、野球部員が顧客だとすると、マーケティングでいえば「消費者」の位置に立ちます。そう位置づけると、「野球部員の行動=消費者の行動」ととらえることができます。

 
(p124より引用) 「消費者行動」とは、製造やサービスの改良を求めて、消費者が企業に働きかける運動のことである。代表的なものには、不買運動やボイコットなどがある。
 これを読んで、みなみは気づかされた。
「部員たちが練習をサボっていたのは、『消費者行動』だったんだ。彼らは、練習をサボる-つまりボイコットすることによって、内容の改善を求めていたのだ」

 
 この本では、「野球部」が「企業(組織)」、「野球部員」が「社員」であり「顧客」、「練習」は顧客である野球部員にとっては「商品・サービス」・・・とこんな感じで当てはめられストーリーと『マネジメント』の解説が進んでいきます。

 ついに、「甲子園出場」。
 「甲子園では、どんな野球をしたいですか?」というインタビューに対して、キャプテンの正義くんはこう答えました。

 
(p266より引用) 「あなたは、どんな野球をしてもらいたいですか?」・・・
「ぼくたちは、それを聞きたいのです。・・・ぼくたちは、みんながしてもらいたいと思うような野球をしたいからです。ぼくたちは、顧客からスタートしたいのです。顧客が価値ありとし、必要とし、求めているものから、野球をスタートしたいのです。」

 
 奇抜なプロットが本書の顧客を惹きつける「フック」ですが、正直なところ、予想していたよりも面白かったですね。
 もう一度、ドラッカーの「マネジメント」を読み直してみようかという気持ちがしてきます。
 
 

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25歳の補習授業―学校で教わらなかったこれからいちばん大切なこと (福岡 伸一 他)

2010-02-08 19:03:53 | 本と雑誌

 20歳代の若者をターゲットに、幅広いジャンルの論客?が応援メッセージを送ります。

 登場するのは、分子生物学者 福岡伸一氏、コピーライター 糸井重里氏、ジャーナリスト池上彰氏、政治学者 姜尚中氏、解剖学者 養老孟司氏、タレント 太田光氏、経営者 渡邉美樹氏の7名で、それぞれの皆さんの、若者に自らの思いを何とか伝えようという真摯な気持ちが感じられる内容です。

 それぞれの方の専門分野の話題から、若者へのアドバイスを紡ぎだしていきます。

 たとえば、「自分探し」についての福岡伸一氏のお話。

 
(p29より引用) 細胞はひとりでは生きることすらできないのです。
 どんな細胞にでもなれる可能性は持っているのに、周囲との相互作用がないと自分の存在をいうか、自分自身を定義できない。
 つまり、生物学がずっと探してきたものは“関係性”だったというわけです。
 これと同じように考えると、人間も「自分とは何か?」「自分のあり方とは?」というようなことは、自問自答して、内省してもわからないということになります。

 
 また、「人間関係」についての糸井重里氏のコメント。

 
(p54より引用) ほかのメンバーと仲良くできる人の特徴って、なんだか分りますか?
 それは、「人当たりがいいこと」ではなくて、「あの人、すごいな」とか「いいヤツだな」なんていうように、「職場の仲間のことを尊敬できること」なんですよ。

 
 こういった感じでそれぞれの方々がいろいろな話をされているのですが、その中から特に私の印象に残ったものをひとつご紹介しておきます。
 太田光さんからのメッセージです。

 
(p160より引用) たとえば、団塊の世代って、「俺たちのときはもっと活気があって・・・」みたいなこと言いたがるんだけど、「果たして本当にそうかな」って思うんですよね。
 学生運動にしても、ただ何も考えずに流行に流されてただけでしょ。・・・
 そんな、しょうもない世代に比べれば、むしろ今の若い人たちのほうが恵まれてるかもしれない。
 それこそ今の時代は本当に混沌として、このあいだの選挙みたいに何がどうなるか分からないっていう意味で、可能性が満ちあふれてるわけでしょう?・・・
 これはもう、「何をやってもいい時代」が来てるんだよ、きっと。
 みんなが同じ方向を向いていた高度成長期やバブルのころに比べりゃ、何倍もワクワクできる。

 
 いつの時代でも、現状についての「若者」としての不満や悩みはあり、将来についての不安や夢もあるはずです。そしてまた「未知の可能性」も。
 ただ、これは年齢に関係のないことでもあります。これはとても大切なメッセージです。

 他方、ちょっとした不満も感じました。
 本書のタイトルには「25歳・・・」とありますが、中学生でも高校生でも気軽に読める内容です。むしろ、25歳=社会人には、もっとしっかりした「形」で伝えるべきものだと思います。
 この本のメッセージは全く否定するものではありませんが、いい年のオジサンとしては、「25歳の大人が、こんなかたちで元気づけられるなよ」と言いたくなりますね。
 しかし、やはり今は、こういう時世なのでしょうか・・・。
 
 

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遊びをせんとや生れけむ (久世 光彦)

2010-02-06 21:12:32 | 本と雑誌

Mu_ichizoku  久世光彦氏のエッセイということと梁塵秘抄を引いたタイトルが気になって読んでみた本です。

 久世光彦氏といえば、何はさておきTBSの「ムー」や「ムー一族」が頭に浮かびます。
 放映されていた当時は、私もテレビっ子でよく観ていました。時折あった「生放送」は確かにスリリングで今でも印象に残っています。

 
(p39より引用) 私は、昔の仲間の顔を思い出すとき、彼らが目を輝かせ、息急き切って走っていた、〈生放送〉のころの彼らの顔を想うことにしている。・・・みんな若かった。あれは面白い〈遊び〉があると聞いて、取るものも取り敢えず集まってきた子供の顔だった。-テレビはあのころ、〈巨きな玩具〉だった。

 
 当時は「テレビを創る人」が生き生きと情熱をもって仕事をしていたのでしょう。
 ドラマとバラエティというジャンルは異なりますが、同じような熱さは、数年後に一世を風靡したフジテレビ「オレたちひょうきん族」の横澤彪氏にも感じられましたね。

 
(p122より引用) 時代もよかったのだろう。私たちは運のいい時代にテレビという巨きな玩具で遊ばせて貰っていたのだ。
 同じように幸せに遊んでいた人たちは、他にも大勢いた。向田さんがTBSの「寺内貫太郎一家」で遊んでいれば、NTVでは倉本聰さん「前略おふくろ様」で遊んでいた。早坂暁さん「天下御免」で、山田太一さん「想い出づくり」で、それぞれ自由で新鮮な香りのする〈美味しいドラマ〉を作っていた。テレビドラマが幸福な時代だったのだ。

 
 そう、なかでも「天下御免」。今でも最も好きなドラマのひとつです。
 放映されていた時期は、私が小学校から中学校にかけてでしょうか。山口崇さんの平賀源内、林隆三さんの小野右京之介、津坂匡章(秋野太作)さんの稲葉小僧・・・、とりわけ林隆三さんのニヒルでシャイな小野右京之介はよかったですね。
 この番組で「早坂暁」氏の名前がインプットされ、それが再び私の中で登場したのが「夢千代日記」でした。

 さて、私の父親と同年代の久世氏のエッセイ。最後にご紹介するのは、私が一番印象に残ったフレーズです。

 
(p158より引用) 焼け跡の匂いのする時代は、私たちにとって特別な時代だった。これから先、この国がどうなるか見当がつかなかったが、私たちはちっとも暗くはなかった。それどころか、私たちは何にでもなれると思っていた。そんな身勝手な空想に、希望と力を与えてくれたのが、あのころの映画と、焼け跡の天使たちだったのではないか。いま、そう思う。いつもお腹が空いていて着る物もなく、バラック校舎で粗末な教科書とチビた鉛筆で勉強していたが、私たちにはピカピカ光る可憐な〈希望〉があった。

 
 どんな時代でも、子どもが〈希望〉を感じられるということは素晴らしいことですね。
 
 

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読書の個性 (私の読書法(大内 兵衛・茅 誠司 他))

2010-02-04 20:36:16 | 本と雑誌

 本書は、それぞれの学問領域における大御所の方々が、「私の読書法」という同一のテーマで書かれたエッセイ集です。

 ひと昔前とはいえ、これだけのビッグネームの方々が登場するとういうのも、岩波書店の「図書」の力でしょうか。

 さて、おひとりおひとり個性的で多種多様な執筆者が一同に会すると新たな楽しみも生まれてきます。たとえば、「タイトル」と「最初の1文」を眺めるだけでも結構面白いものです。

 ご参考までに、いくつか列挙引用してみると以下のような感じです。

  • 主観主義的読書法 清水幾多郎  一口に読書法といっても、そこには二つの問題があるようである。・・・
     
  • 一月・一万ページ 杉浦明平  生まれからいっても気質からいっても。わたしはオブロモフの一族であることに気づいた。・・・
     
  • 読書のたのしみ 加藤周一  私は今まで必要に応じて本をよみ興味に任せて本をよんできたが、読書のし方について、まとめて考えてみたこともないし、それについて書いたこともない。・・・
     
  • 乱読から批判的読み方へ 蔵原惟人  さいきんの私は毎日の仕事におわれてなかなか落着いて本が読めない。・・・
     
  • 枕下に書を置いて眠る 茅誠司  中学校に村瀬先生という地理と歴史の先生があって、小学校から入学した私の心の中に消え難い印象を与えたようである。・・・
     
  • このごろの読書 大内兵衛  この頃は、読書しない。・・・
     
  • 行動中心の読書 梅棹忠夫  本というものは、なるべくなら、読まずにすませたらそれに越したことはない、というのがわたしの本音である。・・・
     
  • ノートを取る場合と配合を求める時 田中美知太郎  読書法というようなものは、後からの反省であって、始めから意識されているものではないようだ。・・・
     
  • 読書遍歴は独り旅で 都留重人  私の父は、学校が山川均氏と一緒で、親しくもしていたし、終生大いに尊敬していたが、山川氏の書かれたものは、おそらく一行も読んだことがなかったようだ。・・・
     
  • 読書法というもの 宮沢俊義  「読書法」という言葉は、本の読み方を意味するのだろうが、それには、無意識的にうまれるものと、意識的に作られるものとがあるようにおもう。・・・
     
  • 心はさびしき狩人 開高健  姿勢だけからいうと寝ころんで読むのがいちばん楽だし、自由である。・・・
     
  • 戦中・戦後の読書から 鶴見俊輔  評価のさだまった古典だけと読んでゆく方法をとるならべつだが、同時代に出る本を読んでゆくことは、何かしらにかけることだ。・・・
     
  • 両棲類的読書法 松田道雄  中学のころ私は読書家といわれる人間のタイプを好まなかった。・・・
     
  • 濫読 円地文子  読書法ということについては考えてみたことがありません。・・・

 清水幾多郎氏・宮沢俊義氏の冒頭のくだりは正に生真面目な「学者然」としていますし、開高健氏の書き出しもまた、「洒脱なエッセイスト」のものですね。

 それぞれの書きぶりに各人の個性・人柄等が存分に滲み出ていて、非常に興味深いものがあります。
 こういった如何にもという「その人らしさ」はいつまでも記憶に止めたいものです。

 

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先達の読書 (私の読書法(大内 兵衛・茅 誠司 他))

2010-02-02 19:41:09 | 本と雑誌

 この本も、本棚の奥の方から引っ張り出したものです。

 初版は1960年、私が読んだのは1979年版第25刷ですから、大学生のとき買ったものです。
 雑誌「図書」に連載されたものをそのまま再録ているのですが、著者陣は錚々たる方々です。加藤周一氏ですら one of them という感じです。

 その加藤氏の「読書の楽しみ」という章で興味を惹いた「本居宣長とモンテーニュとの比較評価」についてのフレーズです。

 
(p28より引用) あれほど沢山の本をよんだ両家の随想録を今よみくらべてみると、遺憾ながらわが宣長のはるかに彼の西洋人モンテーニュに及ばないことを感じる。学者として宣長が上であったかもしれない。しかし文士・思想化としては、比較を絶してモンテーニュが上である。見聞の記録がモンテーニュに多いからではない。見聞によってモンテーニュの読書のよみが深くなっているからである。

 
 次は、評論家蔵原惟人氏が言う「批判的読書」の方法です。
 自分の考えをしっかり持ちつつも、それを読書により得られる外部の智慧でさらに磨いていこうとする姿勢、これは、まさに読書に対する構えとしては王道ですね。

 
(p40より引用) 私はいつも書いてあることに自分の考えを対置しながら読んでいるが、これはなかなかむずかしいことだ。自分の主観によって著者の意見をゆがめて読んだり、自分に近い著者の間違った見解に引きずられたりする。書物を批判的に読みながらそこから学んでゆくこと、これがほんとうに出来るようになればたいしたものだと思う。

 
 さらに、プラトンの著作の訳出等で有名な哲学者田中美知太郎氏の「読書の配合」についてのくだりです。

 
(p94より引用) 今でもわたしは、そんな風にして違った方向の読書もまぜることにしている。・・・貧しい材料でも、うまく配合を考えて、そこからバランスのとれた健康的な食事を用意する、一種の料理法みたいなものが、読書についても考えられるのではないかと思うだけである。もっともこんなことは、面倒な料理法などを神経質に考えるよりも、自然の要求に従って読めば、それでいいことなのかも知れない。

 
 このあたりの意識していろいろなジャンルの本を混ぜるという方法は、(恐れ多い言い様ではありますが、)私の読書傾向とも似たところがあるように思いました。
 
 

私の読書法 (岩波新書 青版 397)
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