OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

ぼんやりの時間 (辰濃 和男)

2010-07-31 11:16:57 | 本と雑誌

 著者の辰濃和男氏は、朝日新聞の記者・論説委員を歴任した方で、1975年から88年にかけて「天声人語」の執筆もなさっていたとのこと。その辰濃氏の最近のエッセイです。

 テーマは「ぼんやり」「懶惰」「閑適」「無為」・・・。そういう時間の過ごし方の意味や意義を、何人かの「人々」、いくつかの「文字」を入口に語ります。

 たとえば、詩人の高木護氏を紹介している「放浪-マムシと眠る」の章から。

 
(p61より引用) 高木は書く
「ぽかんとしていると、そこら辺の景色がじつに鮮やかに見えてくる。木も、草も、小石も、空も、風も、日向も、小鳥たちも。・・・」
 ぼんやりしているとき、こころは、解放されている。こころが解放されていると、空は本来の空として見えてくるし、森の木々は本来の森の木々として見えてくる。見えてくるだけではない。・・・万物の中にとけこんでいる己の小ささも見えてくる。

 
 私にはこういう経験はありませんが、そうなんだろうなと感じることばですね。

 もうひとつ、ミヒャエル・エンデの代表作「モモ」を取り上げた「『むだな時間』はむだか」の章から、「無駄な時間の潜在力」についての辰濃氏の捉え方です。

 
(p102より引用) 一見むだに見える時間のなかに、実は大切な役割をはたしているものがたくさんある。街をぶらつく。夕焼けをながめる。・・・そういうむだに見える時間を重ねるところに、生活の厚みとか深みとか、そういうものが育ってくるのではないか。たくさんのむだな時間の集積こそが、実は、暮らしをゆたかにする潜在的な力をもっているのではないか。

 
 このあたり、私はそこまで達観できないですね。「こころのアソビ」を持ちたいとは思うのですが、まだまだです。通勤時間の過ごし方、歩いているときは「iPod」、電車の中では「本」というのも大いに考え物です・・・。強制的なインプットで時間を埋めても、それは決して「こころの充実」にはならないということでしょう。

 辰濃氏は、本書の「まえがき」にこう記しています。

 
(p14より引用) 飛躍する言い方になるのは承知だが、「ぼんやりしてみようよ」と主張することは、「近代」を問い詰めることになるとも考えている。

 
 近代化・都市化・過密化・高速化・・・ちょっと前に流行った言葉では「ユビキタス化」・・・。こういう方向を全否定はしません。ただ、無条件肯定ではないですね。

 私の記憶の中で「ぼんやりの時間」を過ごしたとはっきりいえるのは、大学の夏休みのときまで遡るのでしょうか。
 ひとりで大阪南港から船中2泊、フェリーで沖縄へ。那覇の泊港からまた船中1泊で石垣島へ。そして竹富島。竹富島の砂浜でぼぉ~と寝転がったり、シュノーケルをつけて珊瑚礁の海に浮かんだり・・・。あのときの空と海は強烈でした。
 
 

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100年前の世界一周 ある青年の撮った日本と世界 (ボリス・マルタン/ワルデマール・アベグ)

2010-07-29 22:30:17 | 本と雑誌

 ちょっと前に、司馬遼太郎氏の「坂の上の雲」を読んだところですが、本書は、まさに1905年から06年の世界、日本でいえば日露戦争当時の世界の風景を映し出したものです。

 世界一周の旅をしたのは、ドイツ人ワルデマール・アベグ。
 船でヨーロッパを発ち、アメリカ東海岸に上陸。その後、アメリカ大陸を横断し、西海岸から太平洋を渡って、日本・朝鮮・中国・インドネシア・インド・スリランカなどを巡りました。

 その間、1年半。ワルデマールは訪れた世界各地で多くの貴重な写真を撮影しました。

 まだ荒涼とした台地を西海岸目指して延びる大陸横断鉄道、清朝末期、辮髪の男達が行き交う上海・・・、それらに比して、ホワイトハウスとタージマハルは白く今と変わらない姿で写っていました。もっと遥か昔だったかのように感じられる人々の生活風景、100年前であっても今のものと見紛うような建物、・・・、ワルデマールの残した写真を眺めていると、いくつかの時代が幾重にも重なっているように見えてきます。とても興味深い本です。

 117点にのぼる写真。その中でもアメリカに着く船上から写した「自由の女神像」は特に印象的です。今ではその背後にマンハッタンの超高層ビル街が迫っているのでしょうが、当時の写真の「自由の女神」の背景は空でした。

 ワルデマールは日本も訪れています。
 太平洋を横断して横浜に着いたのは、日露戦争が終わって間もない1905年12月末でした。日本の風景、出会った人々、ワデマールが受けた強烈な印象は、その回顧文と数多くの写真に十分に表れています。

 さて、長い旅の最後の訪問地セイロン(現スリランカ)に至ったとき、ワルデマールの感性は、旅に出る前とはそれは大きく変わっていました。

 
(p207より引用) コロンボにはヨーロッパから到着したばかりの船がたくさん停泊していた。町やホテルにもヨーロッパ人の旅行者があふれていた。当然、私は彼らと接触を持つようになるのだが、どうしても彼らと、今まで旅の中で出会った人々を比較せざるを得なかった。日本では礼儀正しく、控えめで、偉大な文化をしめす簡素さを持ち合わせた人々に出会った。中国とインドでは質素で、貧しさの中にあっても多くを要求することなく暮らす人々を知った。ジャワでは息苦しいような熱帯の植物ととけ合って、花のように存在する人々がいた。それに比べ、このヨーロッパ人の姿のなんと不自然なことだろう。

 
 ヨーロッパとアジアとの差。「深夜特急」で描かれた沢木耕太郎氏の姿と重なるところがあります。
 本書の著者マルタン氏はこう記しています。

 
(p207より引用) ある意味でこの旅は、彼が自分の文化から受け継いだ粗野な部分を矯正し、厳格な教育によって形作られた人格の基盤を揺るがすものとなった。同時に、無意識のうちに彼の心に根を張っていた西洋中心主義をも揺るがした。

 
 未知の国への旅は、誰に対しても、その時までに堆積された世界観を根っこから揺り動かすもののようです。

 
(p216より引用) 好むと好まざるとにかかわらず、旅は私をかつての自分とはまったく別の人間に変えた。そして誉れ高いヨーロッパが自然からかくも遠ざかり、その文明も文化もおとしめてしまったことを悟ったのだ。

 
 旅を終えるにあってのワルデマールの言葉です。
 
 

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道楽三昧―遊びつづけて八十年 (小沢 昭一/神崎 宣武)

2010-07-25 10:17:31 | 本と雑誌

 私が知っている小沢昭一さんは、俳優でありラジオのパーソナリティとしての姿です。
 小沢さんと永六輔さん・野坂昭如さんが一緒に活躍されていたことを薄っすらと記憶しています。

 本書は、民俗学者神崎宣武さんとの対談で、自らの趣味・道楽の歴史を数回にわたって語ったものの書き起こしです。
 テーマは、「虫とり」「べいごま・めんこ・ビー玉」「相撲・野球」「飲む・打つ・買う」「落語」「芝居」「大道芸」「映画」「俳句」「歌」「競馬」「食・釣り・写真」と多種多様。ただ、そこで語られているエピソードはどれも時代を感じさせるものですね。

 しかし、それぞれの道楽(趣味)に対する小沢さんの入れ込みようには圧倒されます。そして、次の道楽に移るときの、そのスパッとした吹っ切り方も見事です。

 
(p134より引用) 舞台に命を賭けるとか、最期までそれをやりぬくとか、そういう一道を貫くっていう精神が、どうも欠如していて、次から次へと道楽ができるんですね。

 
 小沢さんは今80歳とのこと。老成されているかと思えば然に非ず、とても軽やかな語り口は全く衰えていません。
 ユーモア溢れる話し振りのところどころには、ちょっとしたスパイスが混ぜ込まれています。

 
(p230より引用) 素人は、専門家を見極める眼力というか、勘みたいなものを養うべきだと思います。ただ、みんながいいと言っている専門家は、それほどでもない場合が多く、地味な専門家というのに、卓越した人がおられるようです。

 
 ただ、このくだりは、競馬」に関するお話で登場したものです。小沢さんは競馬評論家の予想に頼って、そこそこ勝ち越したとのこと・・・。
 
 

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ソーシャルブレインズ入門―<社会脳>って何だろう (藤井 直敬)

2010-07-23 23:08:00 | 本と雑誌

Nou  「ソーシャルブレインズ」は「社会脳」と訳されるのですが、そう訳されたとしても何のことかよく分からないですね。

 藤井氏による最もシンプルな定義はこうです。

 
(p4より引用) ソーシャルブレインズとは、ごく簡単に言えば、「僕たちが社会の中で生き抜くために必須の脳の働き」と説明できます。

 
 著者は、「ソーシャルブレインズ」の説明にあたって、「脳単独」「1対1の関係」「多数(社会)との関係性」といったフェーズに分けて論じています。

 脳の機能を解き明かそうとする従来の神経科学においては、ブロードマンの脳地図に代表されるような機能面から見た組織学的アプローチが主流でした。この流れに対して、著者は自己の立場を以下のように表明しています。

 
(p95より引用) 僕はモジュール仮説という、脳の特定の部位に特定の機能を当てはめる考えに懐疑的です。むしろ、高次機能のほとんどが、複数の脳領域がつながるネットワークの中で、柔軟かつ動的に実現されているという考え方をとっています。

 
 この「脳内のネットワーク構造」が、複数の脳を対象とした「ソーシャルブレインズ」というコンセプトにつながっていくのです。

 ちょっと前に流行った「空気」も複数の人間が集まった空間で生まれるものですから、「ソーシャルブレインズ」というコンセプトが関係するイシューです。
 著者は、この「空気」の効用を変わった視点から指摘しています。

 
(p54より引用) わたしたちの創造性を狭めているようにも見える「空気」による社会的抑制は、一方で、他者とのコミュニケーションをもたらします。そこで得られた想定外の情報や刺激がわたしたちに働きかけ、一人で過ごしているときにはけっして手に入れることのできないダイナミックで多様な創造性が立ちあらわれる気がします。

 
 私は、「脳」に関しては以前からちょっと興味をもっていて、今までも「だまされる脳」「進化しすぎた脳」「感動する脳」「脳が教える! 1つの習慣」等々何冊かの本を読んでいるのですが、本書が提示している「ソーシャルブレインズ」というテーマは非常に面白いと感じました。
 以下に、本書を読んで気になったいくつかの点を、覚えに書き記しておきます。

 そのひとつは、「認知コスト」という考え方です。
 著者によると、認知コストとは「脳内の認知操作に必要とされるエネルギー」のことを言います。

 
(p134より引用) 僕は認知コストという脳内のエネルギー収支バランスに、ヒトのさまざまな社会行動を説明するポイントがあるのではないかと考え始めたのです。つまり、ヒトは目の前の問題に対して、その解決に必要な認知コストバランスを勘案し、行動を決定しているのではないかと考えたわけです。

 
 脳にとっては、すでに脳内に構築されている既存の方法をとることが、新たなエネルギー消費を生じさせない方法となります。
 たとえば、「評判がいいものを選ぶ」という行為は、自分自身の脳であれこれ考えなくても社会的に一定の評価を得ているものを選択できることになりますから、「認知コスト」を抑制するものと言えます。
 この「認知コスト」を行動選択のメルクマールにするとの立場にたつと、脳は(すなわちヒトは)「既存の方法」「保守的な選択」をしがちであることを理解しやすくなります。

 もうひとつ、ヒトは社会的動物であるが故に、置かれた社会的条件(環境)次第では「なんでもやってしまう」という現実です。

 
(p157より引用) わたしたちは、本質的にきわめて脆弱な倫理観と、無意味に保守的な傾向を持った生き物なのだと言えるでしょう。・・・強いストレス環境下では、脳が後天的に獲得した倫理観や行動規範はすっかりはげ落ち、環境状況が求めるままのふるまいに無責任に落ち込む危険性を持っているのです。

 
 本書で紹介されているミルグラム実験やスタンフォード監獄実験で明らかにされたものは、 「『権威による社会的従属傾向』はすべてのヒトに後天的に身につくものだ」という悲しい結果でした。
 
 

ソーシャルブレインズ入門――<社会脳>って何だろう (講談社現代新書) ソーシャルブレインズ入門――<社会脳>って何だろう (講談社現代新書)
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進化するグーグル (林 信行)

2010-07-19 09:53:44 | 本と雑誌

 会社の共用文庫に寄贈されていたので読んでみました。

 発行は2009年1月ですから、この手の業界を扱ったものとしては、ちょっと前の内容ということになります。とはいえ、「グーグルという企業」のアウトラインをザクッと把握するには、コンパクトで手ごろな本だと思います。

 本書で紹介されている内容は、これといって特に目新しいものはありませんが、復習までにいくつか覚えを書き記しておきます。

 まずは、「グーグルのミッション」です。

 
(p20より引用) グーグルは、・・・幅広い事業を手がけている。一見すると支離滅裂で、およそまとまりがない事業内容だが、じつはすべてのサービスは、ある1つのシンプルなルールに基づいている。「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」
-これは創業以来変わることがない。
 これが、グーグル社の使命を表した「ミッション・ステートメント」であり、2万人以上の従業員を結束させる経典となっている。

 
 もうひとつ、著者が考える「グーグルが目指しているもの」について。

 
(p129より引用) 21世紀のIT革命は、グーグルがインターネット上に点在する人類の叡智を整理、集約、OS化し、世界中のIT企業がグーグルの提供する技術基盤の上でサービスを構築していく。これこそがグーグルが本当に目指していることだろう。

 
 グーグルが提供するサービスの多くはAPIが公開されていて、それにより競合企業は、「きわめて容易」にグーグルが開発したサービス基盤を利用し、新たなサービスを提供することが可能となります。

 この戦略は、類似サービスの市場投入を促進するという点では、近視眼的には競合企業を利することになります。が、他方、グーグルが提供するAPIを利用している限り、そのサービスはグーグルのサービスを超えることはできません。結局のところ、APIの公開は、「競合企業をグーグル自らの手の中に取り込んでしまう」、すなわち俯瞰的視点でみると、これから拓かれる新市場を「グーグル依存」に導くための極めて効果的な戦略だと言えます。
 著者も指摘していますが、「グーグルを基盤とした生態系」の構築が進んでいるのです。

 本書で紹介されているグーグルを中心とした動きは、IT自由主義・技術性善説といった思想をその底流に感じます。
 それ自体は否定されるものではありませんが、他面、人を基点にした人文科学・哲学的なアンチテーゼも社会潮流のバランス保持という観点から意識して議論されるべきだとも思いました。
 
 

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日露戦争の人々 (坂の上の雲(司馬遼太郎))

2010-07-17 11:13:26 | 本と雑誌

Nichiro_war_2  本書は日露戦争を舞台としたかなりの長編小説なので、数多くの登場人物が描かれています。

 全編を通しての主役は秋山好古・真之兄弟ですが、前編では、秋山兄弟と同郷、松山出身の歌人正岡子規が主要人物として登場します。後編は、まさに日露戦争の陸海の戦場が舞台となりますから、主役は軍人です。

 それら多くの登場人物の描写の中で、私が関心を持ったところを1・2、ご紹介します。

 まずは、陸軍大将児玉源太郎

 
(五 p94より引用) 児玉にいわせれば、
(専門家のいうことをきいて戦術の基礎をたてれば、とんでもないことになりがちだ)
ということであった。・・・かれらの思考範囲が、いかに狭いかを、児玉は痛感していた。児玉はかつて参謀本部で、
「諸君はきのうの専門家であったかもしれん。しかしあすの専門家ではない」
とどなったことがある。専門知識というのは、ゆらい保守的なものであった。児玉は、そのことをよく知っていた。

 
 この「専門家」に対する児玉の評価はまったく首肯できるものです。
 「諸君はきのうの専門家であったかもしれん。しかしあすの専門家ではない」という台詞は鋭く本質を突いています。

 もうひとり、当時の海軍の日本海海戦の先任参謀として当時の海軍の作戦策定の核を担った秋山真之。彼の思考をよく現している記述です。

 
(二 p206より引用) 明晰な目的樹立、そしてくるいない実施方法、そこまでのことは頭脳が考える。しかしそれを水火のなかで実施するのは頭脳ではない。性格である。

 
 最後はやるかやらないか、真之は、一途に考え抜いた人だったようです。

 さて、その他、この作品で印象に残ったくだりを二つ記しておきます。

 ひとつは「革命」の現実の姿について。

 
(六 p199より引用) 人類に正義の心が存在する以上、革命の衝動はなくならないであろう。しかしながら、その衝動は革命さわぎはおこせても、革命が成功したあとでは通用しない。そのあとは権力を構成してゆくためのマキァベリズム(権謀術数)と見せかけの正義だけが必要であり、ほんものの正義はむしろ害悪になる。

 
 もうひとつは「新聞」の堕落について。

 
(七 p218より引用) 日本においては新聞は必ずしも叡智と良心を代表しない。むしろ流行を代表するものであり、新聞は満州における戦勝を野放図に報道しつづけて国民を煽っているうちに煽られた国民から逆に煽られるはめになり、日本が無敵であるという悲惨な錯覚をいだくようになった。・・・新聞がつくりあげたこのときのこの気分がのちには太平洋戦争にまで日本を持ちこんでゆくことになり、さらには持ちこんでゆくための原体質を、この戦勝報道のなかで新聞自身がつくりあげ、しかも新聞は自体の体質変化にすこしも気づかなかった。

 
 日露戦争後、ロシアは帝政が崩壊し、日本は帝国主義に向かって疾走していきました。
 
 

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日露戦争 (坂の上の雲(司馬遼太郎))

2010-07-10 19:50:24 | 本と雑誌

Nichiro_war_1  NHK大河ドラマの「竜馬がゆく」が大評判で、今またちょっとした司馬遼太郎氏のブームですね。私も以前から、司馬氏の作品はそこそこ読んでいたのですが明治期のものは「花神」ぐらいでした。

 ということで、今回は(今さらながらではありますが、)司馬氏の代表作のひとつでもある「坂の上の雲」を読んでみたというところです。
 私から、小説のストーリーのご紹介をしても意味がないので、通読してみて私の関心を惹いたくだりをいくつかご紹介します。

 まずは、司馬氏の「日露戦争」の意味づけです。

 
(一 p75より引用) 小さな。
 といえば、明治初年の日本ほど小さな国はなかったであろう。・・・この小さな、世界の片田舎のような国が、はじめてヨーロッパ文明と血みどろの対決をしたのが、日露戦争である。
 その対決に、辛うじて勝った。その勝った収穫を後世の日本人は食いちらかしたことになるが、とにかくこの当時の日本人たちは精一杯の智恵と勇気と、そして幸運をすかさずつかんで操作する外交能力のかぎりをつくしてそこまで漕ぎつけた。いまからおもえば、ひやりとするほどの奇蹟といっていい。

 
 これに対して、「日清戦争」についての性格については、こう語っています。

 
(二 p150より引用) 要するに日清戦争は、老朽しきった秩序(清国)と、新生したばかりの秩序(日本)とのあいだにおこなわれた大規模な実験というような性格をもっていた。

 
 司馬氏は、日清・日露戦争あたりまでの日本はそれなりの論理性をもった振る舞いをしていたと考えているようです。政府・軍部等戦争指導者の思考様式・精神状況について、司馬氏は、日露戦争期と第二次大戦期とでは全く異なっているとの評価を下しているのです。

 
(三 p185より引用) 日露戦争当時の政戦略の最高指導者群は、30数年後のその群れとは種族までちがうかとおもわれるほどに、合理主義的計算思想から一歩も踏みはずしてはいない。これは当時の40歳以上の日本人の普遍的教養であった朱子学が多少の役割をはたしていたともいえるかもしれない。朱子学は合理主義の立場に立ち、極度に神秘性を排する思考法をもち、それが江戸中期から明治中期までの日本人知識人の骨髄にまでしみこんでいた。

 
 とすると、わずか30年ほどの間で、その基本的思考法が急転回した要因とは何だったのかが次の関心事となります。合理的根拠のない神秘哲学の浸透もまた、当時の日本人の何からの素地が与したものなのでしょうが・・・。
 
 

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JAL崩壊 (日本航空・グループ2010)

2010-07-07 22:17:11 | 本と雑誌

 書評の評価が非常に低いので、かえって興味を抱いて手にとってみました。
 日本航空の客室乗務員の独り語りです。

 「崩壊」の要因の大半は「労働組合」にあるとの論。機長らによる「管理者組合」の存在等、確かに常識をはるかに超えた「特殊論理」がまかり通っている実態はあるようです。

 とはいえ、組合問題が発生していなかった、もしくは、解決されたとして、日本航空が企業として存続・成長し続けたかというと、残念ながら、本書からはその可能性は見出せませんでした。
 そもそも、「お客様に対してどう相対するのか」という「企業」としてのあまりにも基本的な軸がまったく感じられないのです。それは、本書で描かれている「日本航空」という会社からもそうですが、本書の著者からも同様でした。今回は、本書からの引用として、わざわざご紹介すべきくだりもありません。
 売れ行きはそこそこのようですが、内容は多くの書評が語っているとおりの本でした。

 ただ、本書に書き連ねられている様々な事象を「反面教師」として振り返ることには意味があります。
 日本航空ほど深刻ではないにしても、企業内に組織疲労が蓄積されつつあるかもしれません。日本航空を批判できるほど、自分たちの事業運営は問題なく行われているのか、本当に「お客様」の立場にたってすべての意思決定がなされているのか・・・、こういう機会を捉えて、改めて自省しなくてはなりません。
 
 

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成功をつかむ24時間の使い方 (小宮山 悟)

2010-07-04 11:36:42 | 本と雑誌

 早稲田大学からロッテオリオンズ(現マリーンズ)へ入団、大リーグのニューヨークメッツでもプレーした投手小宮山悟氏の著作です。

 24歳でプロ入り、44歳まで現役を続けた小宮山氏の野球に取り組む考え方や姿勢が、高校から大学、さらにはプロ生活における実体験を辿りながら素直な筆致で綴られていきます。

 野球に関する教訓にとどまらず、私たちの身近な場面におけるアドバイスにも普遍化できるような有益な指摘が数多く見られました。その中から1・2、ご紹介したいと思います。

 まずは、第6章「どのデータを捨てて、何を残すのか」から。
 最近の野球の世界では、野村克也監督を例に挙げるまでもなく「過去のデータ」の活用が非常に活発になっています。そういう「データ活用」に関する小宮山氏のコメントの中で、なかなか面白いものがありました。

 
(p114より引用) 150キロのボールを投げるピッチャーと、130キロを投げるピッチャーでは、バッターの狙い球は違ってくる。だから、自分のデータだけを使うようにしていた。

 
 確かにそうですね。データ活用においては、「対象の特性を十分に考慮した事前のフィルタリングが重要だ」ということです。
 こんなことも言えます。データで直球が弱いとされているバッターでも、それはデータ収集時の相手が一流の剛速球投手ばかりだったからかもしれません。並みの投手の直球が通用するかはまったく別問題なのです。

 もうひとつ、第7章「『なぜ』を持たない人間は伸びない」での小宮山氏の主張。
 「なぜ」の重要性は、どんな世界でも、あらゆるシチュエーションにおいてよく言われることです。小宮山氏も「なぜ」に注目して、こう語っています。

 
(p150より引用) アドバイスされた本人が、疑問を持つかどうかが最大のポイント。「なぜ」と思わないと進歩はない。「なぜ」がない人は何をやっても伸びない。
 ボールの投げ方は体で覚えることも必要だけど、体をどう使えばいいのかをある程度頭で理解していなければスムーズに習得できない。

 
 面白いのは、「なぜ」の探求の仕方であり、その答えの使い方です。

 小宮山氏が薦める「なぜ」には何種類かあります。
 ここでは、「アドバイスを受けたときの反応」としての「なぜ」。今まで問題だと思っていなかった点を指摘されて、「なぜ」と考える。そのとき生じた「なぜ」を追求するためには「ベース」となるものが必要だというのです。その「ベース」があれば、なぜの答えを見つけ出しやすくなりますし、答えを実践しやすくなるのです。
 なかなか気がつかないポイントですね。勉強になります。
 
 

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AHAでとどまらない (発想の視点力(三谷宏治))

2010-07-01 21:11:55 | 本と雑誌

 「比べる」ことに加えて、三谷氏が勧めるもうひとつの発見のための視点が「ハカる」ということです。計る・測る・量る・・・。

 実際に対象を「ハカる」ことによりいろいろな事実が見えてきます。が、多くの企業が知りたいと求めているのは、顧客である「ヒトの心や行動」です。

 
(p111より引用) ヒトは「こうする」と話した通りには行動しない。・・・何をどうハカればヒトの心を読めるのだろうか。
 それには、言葉(インタビューやアンケート)に頼らず、行動そのものに尋ねることだ。・・・
 そういった行動調査の方法論として近年注目されているのが、・・・エスノグラフィー(Ethnography)という手法だ。人類学(Anthropology)の用語だが、一般に「行動観察調査」と呼ばれたりする。

 
 ヒトの本心は表面に表れる言葉では捉えられないというのです。口で言うことではなく、実際の「意思決定の内容」すなわち「行動」にそのヒトの真の価値観が現出していると考えるのです。

 
(p121より引用) ヒトの価値観をハカるには、その人の過去の資源配分とトレードオフ経験を探っていくことだ。過去(=行動実績)に向かえば、ヒトの真実が見える。

 
 確かに、たとえば「購買行動」を例にとってみても、「欲しい」「買いたい」と思うものと「実際買った」ものとは必ずしも一致しません。「思う」ことは将来的なニーズの表出ですから、これはこれで重要なマーケティングデータではあります。が、「今の購買契機」とは異なることをキチンと意識して理解しておくことは確かに重要です。

 さて、三谷氏本書の後半で「発見」を「発想」に結びつける方法を開陳していきます。

 三谷氏は、よいアイデアを出すためのプロセスは、ブレーンストーミング等で企図しているような「発散と収束」ではなく「発見・選択・探求・組合せ」だと主張しています。そのための具体的方法が「JAH法」です。

 
(p174より引用) 本質を見抜き、展開するステップが「JAH(軸値巾。Jiku Atai Haba)」法だ。「軸」は属性と言い換えてもいい。「値」は対象物がその属性の中でどういった状態に当たるのかであり、「巾」はその属性が取り得る値のすべてを示す。

 
 たとえば、「関あじ」だと、軸は「魚種」、値は「アジ」、巾は「サバ・イサキ・カレイ・・・」となるのです。これにもうひとつの軸「水揚げ港」を加え「佐賀関」という値に「三崎漁港」等に巾を広げて組み合わせると、「関サバ」「三崎アジ」といったアイデアが生まれるとの発想法です。
 すなわち、ポイントはこういうことになります。

 
(p192より引用) 「JAH法」で本質=軸をつかんで分析。巾を組み合わせ新しいアイデアを創る

 
 私なりに解釈すると、三谷氏が説く「発想力」の要諦は「新たな組み合わせによる化学変化」にあるように思います。
 本書で紹介されている、その化学変化の可能性を拡大するためのヒントを最後に記しておきます。

 
(p202より引用) 他家受粉(自家受粉でなく)を促進するためにの組織行動として、ケリー氏は七つのやり方を挙げている。
①多様な経歴の人材を雇う②多様な文化を取り入れる③多様なプロジェクトを進める④客人と会い学ぶ⑤社内の発表会をする⑥一流の論客によるノウハウ講演会を週一でやる⑦議論が巻き起こる空間を作る
いずれももっともで、奇手ではない。実行あるのみだ。

 
 そうですね。すぐにでも、また自分だけでもできることがいくつもあります。
 まずは、そのうちのひとつでもいいので「実行」してみましょう。
 
 

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