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日本文明の謎を解く―21世紀を考えるヒント (竹村 公太郎)

2013-12-29 09:54:33 | 本と雑誌

Italyromanroadsmap  フェイスブック上で知人が話題にしていたので読んでみました。

 竹村公太郎氏の著作は初めてです。
 竹村氏は建設官僚OBですが、本書で紹介している主張は「公共投資礼賛」といった役人然としたものではなく、多彩な観点から「公共事業」についての新たな視点を拓いてくれるなかなか興味深い内容でした。

 たとえば、、塩野七生氏の「ローマ人の物語X-すべての道はローマに通ず-」の内容を導入部に配した「ハードインフラとしての“道路整備”」と「日本人論(民族論)」との関わりを論じたところでは、こういった説を明らかにしています。

(p107より引用) 「日本人の動物に対する文化が『車の空白の1000年』を生じさせてしまった。現代のわれわれが悩まされている道路整備の遅れの原因は、日本人の文化性にあった」これが牛の去勢からくる道路整備遅延の仮説である。

 道路整備は、「車」の進化・普及に伴う要請に基づくものです。世界史的に見ても、古代の車は「牛」や「馬」が動力源でした。

(p102より引用) 日本人は牛や馬を道具として扱わなかった。・・・家族の一員として扱ってしまった。家族になれば当然、去勢を施すなどということはできない。

 このため、人が「牛」や「馬」を御する「車」は日本においては発達しなかったのです。日本の「道路整備」は大きく遅れた根底に、こういった「日本人の家畜観」があったというのは面白い指摘ですね。

(p107より引用) 文明を支えるハードインフラ技術は、世界共通の普遍性を持つように考えられている。しかし、予想以上にハードインフラは、その民族や国民の歴史や文化に影響されており、その個性を各国が主張し合っている。

 「上部構造としての文化」と「下部構造としてのインフラ」とは相互に影響しあいながら、スパイラル的に進化していくといった文明史観です。

 さて、そのほかにも本書面白い話題が盛りだくさんなのですが、ひとつの着目からその背景・原因を遡り辿るという著者の考察の中で、特に印象に残ったのは、「日本の安全な水の原点」をテーマにした「日本の水道」についてのくだりでした。

(p128より引用) 塩野女史に刺激を受けて、水道の水について述べてきた。
 日本の安全な水の原点は、シベリア出兵と後藤新平にたどり着いた。・・・
 「細菌学者」後藤新平は「シベリアで液体塩素」と出会った。彼は「東京市長」となり、東京水道の現状を目撃した。「政官界で力」を持っていた彼は、陸軍を抑えて軍事機密の液体塩素を民生へ転用することを図った。

 先の東日本大震災以来、“都市計画家”としての「後藤新平」は、私も特に気になっている人物の一人ですが、彼の“細菌学者”としての側面がこういった背景を経て「衛生的な水道水整備」に生きていたというのはとても興味深い驚きです。

 そして、もうひとつは海外の話題。「ピラミッドは堤防だった」との説です。
 「エジプトはナイルの賜物」との言葉どおり、ナイル川を計画的にカイロの下流部に導くことはエジプトにとっては死活問題でした。しかし、ナイル川の氾濫は西岸の砂漠地帯に拡散するようになりました。それを防ぐための奇抜な着想です。

(p147より引用) 答えは明白である。ナイル西岸に堤防を造ればよい。・・・
 古代エジプト人たちの頭脳はけた外れに優れていた。エジプト人は「自然の力」を利用する工法を知っていた。それは、ナイルの洪水が運んでくる土砂を利用する「からみ工法」である。

 そこで登場する建造物が「ピラミッド」です。事実、ピラミッドは適当な間隔をおいてナイル西岸に屹立しています。

(p148より引用) ピラミッドという「からみ」の周辺で洪水が澱み、そこで土砂は沈降し堆積していく。そして時間と共に堆積地形は連なり堤防になっていく

 何ともとんでもない壮大な構想にもとづく土木事業ですね。この説の真偽はともかく、想像しただけでもワクワクします。

 本書の最初に紹介されている徳川家康の「関東平野創造事業」にも驚きましたが、私にとっては馴染みのない分野で、新鮮かつ刺激的、そして楽しい気づきを数多く与えてくれた著作でした。


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中継されなかったバグダッド-唯一の日本人女性記者現地ルポ-イラク戦争の真実 (山本 美香)

2013-12-24 22:09:07 | 本と雑誌

Iraq_war  会社の近くの図書館の「返却棚」にあった本です。

 著者の山本美香さんは、世界の紛争地を中心に取材活動を行っていた女性ジャーナリストです。

 本書の舞台は今から10年あまり前のバクダッド、イラク戦争の取材ルポです。
 取材ルポといっても、彼女の本職は「映像ジャーナリスト」なので、文字として記録されている内容は、数多くの対象者に取材をし尽くして事実・真相を掘り起こしたといった類のものではありません。現地の有りのままの姿をストレートに書きとめたという印象です。
 それだけに、読んでいてシンプルに新たな気づきのインパクトが伝わってきます。

 たとえば、よく耳にする「最前線」の現場・現実に触れたくだりです。

(p32より引用) 最前線と聞くと境界線があって、こちら側とあちら側にはっきり分かれて戦っているようなイメージがあるが、戦場は常に移動し、一定の場所で戦っているわけではない。戦地で暮らす人々にとって日常生活の中に戦争が入り込んでいることを知ったのも、現地に行ってからだ。
 最前線の村でも戦闘の少ない日中には村人は外に出て畑仕事をしている。しかし、そののんびりした風景が夜になると一変する。・・・村を追われては生きていけない人々は、戦場という日常の中で日々暮らしているのだ。

 確かにそうなんですね。私としては、こういった暮らしの中の動的なものとして「最前線」をイメージすることは未だかつてなかったので、正直、ちょっとショックでした。

 もうひとつ、米軍の攻撃に晒されているバグダッドで1シーン。取材現場の様子です。

(p87より引用) この時期バグダッドに残っているジャーナリストの顔ぶれはほとんど変わらず、顔見知りも増えていた。中にはアフガニスタンで見かけた人もいて「また来てるな。頑張っているな」と名前も知らない相手にエールを送るような気分になる。世界中のある種いかれたジャーナリストばかりが集っているのだ。

 ここに登場する各国のジャーナリストは、ニュートラルな立場で戦争の真の姿を報道しようという強い意思をもった人々です。それ故彼らは、戦争当事者にとっては有難くない存在でもあります。

 米軍のバグダッド侵攻での攻防の中、著者をはじめとしたジャーナリストが拠点としていたパレスチナホテルが砲撃されました。イラク軍ではなく米軍によってです。

(p130より引用) 『米軍第3歩兵師団戦車が、パレスチナホテルを攻撃した。ホテルの1階から攻撃を受けたので、応戦した。ジャーナリストが巻き込まれたのは事故である
 米中央軍のブルックス准将が会見で発表した。

 パレスチナホテルの1階から攻撃した事実はなかったと著者は断言しています。自分たちはずっと部屋にいた、ホテル側からは何の音も聞こえなかったと。

(p132より引用) アメリカの提供した、管理した従軍取材以外のジャーナリスト活動は認めない。攻撃の対象になっても仕方がない。それが彼らの考えなのだ。
 戦場という特殊な状況では、人が人でなくなるような残虐な行為が行われたり、常識では考えられないような悲劇が起きる。それが戦争だ。誰かがそこに行って、目撃しなければならない。証拠を残していかなければならない。記録して外の世界に出さなければならない。孤立させ、密室にしてしまえば、蛮行は闇に葬り去られてしまうだろう。だから私は、戦場に向かう。ジャーナリストは危険を承知で戦争取材をする。

 2012年8月20日、山本さんは、シリア内戦の取材中、シリア政府軍の銃撃を受けて、搬送先の病院でお亡くなりになりました。


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不格好経営―チームDeNAの挑戦 (南場 智子)

2013-12-18 21:57:14 | 本と雑誌

Dena_logo  ちょっと前にかなり評判になった本です。

 マッキンゼーを退社してDeNAを立ち上げ一流企業にまで成長させたリアルなストーリーを、創業者である南場智子氏自身が語ります。

 よくある“優等生的ビジネス書”といったトーンでもないですね。ひとりの起業家とそのチームのメンバを主人公に、創業から今に至るまでのエピソードを綴ったエッセイという趣きすら感じる内容です。

 まずは、「まえがき」で語られる南場さんのプラス思考の姿勢が表れているくだりです。

(p5より引用) 私は、苦しいときにふたつのことを意識する。
 ひとつは、とんでもない苦境ほど、素晴らしい立ち直り方を魅せる格好のステージだと思って張り切ることにしている。そしてもうひとつは、必ず後から振り返って、あれがあってよかったね、と言える大きなプラスアルファの拾い物をしようと考える。

 超一流の戦略コンサルタントであった南場さんにとっても、自分で会社を切り盛りしていくことは想像以上に大変なことの連続だったようです。

(p93より引用) コンサルタント時代は、クライアント企業の弱点やできていないところばかりが目についてしまい、大事なことに気づかなかった。普通に物事が回る会社、普通にサービスや商品を提供し続ける会社というのが、いかに普通でない努力をしていることか。

 普通に日々の業務を取り運んでいると見える企業であっても、その実態の姿は、水面下で足をバタバタさせている「水面に浮かぶ水鳥」だということです。

 南場さんによると、DeNA成長の過程は、アクシデント・トラブル・失敗の連続だったとのこと。そういった中で、改めて気づくことが多々あったようです。

(p151より引用) 何かやらかした人たちに対する対応は、その会社の品格が如実に表れると感じる。甘さを求めているのではない。・・・が、私たちは、このときのように、お詫びをしなければならない事態になって、ますますファンになり、その会社のために頑張りたくなるようなパートナーに恵まれてきた。

 責任は問うが、フェアな対応。エキサイト、日本コカ・コーラ、サントリー等の姿勢に接して、南場さんは「社格」という単語でその見事さを表し、こう思いました。

(p152より引用) こうしたパートナーやクライアントかの対応から学び、当社も同じように、respect(敬意)とappreciation(感謝)の姿勢がすべてのスタッフの言動ににじみ出るような会社にしていきたい。

 さて、本書ですが、“ビジネス書”という視点でみると、南場さんの語るDeNA成長のプロセスそのものがリアルなケーススタディとしての役割を果たしているように思います。

 とはいえ、強いて、ビジネスにおけるアドバイスがより直截的に語られているところを紹介すると、まずは「意思決定と実行」について語っているくだり。

(p204より引用) ○、×、△はちょっと稚拙な例だが、意思決定のプロセスを論理的に行うのは悪いことではない。でもそのプロセスを皆とシェアして、決定の迷いを見せることがチームの突破力を極端に弱めることがあるのだ。・・・決定したプランを実行チーム全員に話すときは、これしかない、いける、という信念を前面に出したほうがよい。・・・迷いのないチームは迷いのあるチームよりも突破力がはるかに強い・・・

 いわゆる“背水の陣”ですね。打ち手に選択肢があることが頭の片隅に少しでもあると、取り組んでいるアクションが不調の場合の逃げ道になってしまうのです。

 もうひとつ、「意思決定のスピード」についてです。
 コンサルタント時代、南場氏は、これでもかと情報を収集しそれらを精緻に分析して判断していました。しかし、このやり方は経営現場の意思決定方法としては全く不適だったのです。

(p204より引用) 不完全な情報に基づく迅速な意思決定が、充実した情報に基づくゆっくりとした意思決定に数段勝るということも身をもって学んだ。・・・実際に実行する前に集めた情報など、たかが知れているということだ。・・・やりはじめる前にねちねちと情報の精度を上げるのは、あるレベルを超えると圧倒的に無意味となる。それでタイミングを逃してしまったら本末転倒、大罪だ。

 そして最後に、

(p205より引用) 事業リーダーにとって、「正しい選択肢を選ぶ」ことは当然重要だが、それと同等以上に「選んだ選択肢を正しくする」ということが重要となる。

 この意志力が、まさに実業を預かるリーダーの「胆力」なのです。

 本書を読み通しての感想ですが、評判どおり、良書だと思います。
 南場さんの自然体の姿がストレートに映された爽やか系の著作ですね。この一冊にこめられた強烈な想いがヴィヴィッドに伝わってきました。
 

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宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (吉田 たかよし)

2013-12-14 09:40:24 | 本と雑誌

Genshi_no_umi  「宇宙生物学」とは耳慣れない学問ジャンルですね。

 『宇宙生物』までをひとかたまりで捉えると、「宇宙生命体」や「宇宙人」とかを扱う学問のようにも思えますが、そうではありません。宇宙生物学とは、宇宙的視野で生命の成り立ちや起源を解明する学問で、アストロバイオロジーとも呼ばれているのだそうです。

 本書は、この宇宙生物学の観点からいくつかの主要元素を取り上げ、それらの役割から生命の本質について解説した興味深い内容の著作です。

 たとえば、第1章「人間は月とナトリウムの奇跡で誕生した」で語られる「海が海水である」理由
 ナトリウムイオンは、人体の神経細胞・筋肉細胞の制御に重要な役割を果たしています。原始の海で生命が生れたのは、海にナトリウムなどのミネラルが豊富だったという幸運によるものでした。つまり、地球の海が「塩水」であることが重要だったのです。

(p19より引用) そもそも地球に誕生した海が比較的早期にナトリウムを含む塩水になったのは、意外にも地球の周りに月が回っていたためであることが明らかになってきたのです。

 食塩は塩化ナトリウム。構成要素の塩化物イオンについては、火山ガスが供給源でしたが、ナトリウムイオンは地殻の岩石に含まれていたと考えられています。この岩石中のナトリウムを海に溶かし出すのに、月が大きな役割を果たしたというのです。

(p28より引用) 45億年前、できたばかりの月は、地球からみて現在の12分の1くらいの距離を回っていました。・・・当初の潮の満ち引きは壮絶なものでした。・・・こうして地殻は潮の流れで削られ、また大陸にまで海水が押し寄せた結果、ナトリウムが一気に海に溶け出すこととなったと考えられるのです。

 空には大きな月が浮かび、海は激しい渦潮で荒れ狂う。当時の風景を想像するとゾクゾクしますね。

 もうひとつ、第4章「地球外生命がいるかどうかは、リン次第」の解説から。
 ここでとりわけ面白いと思ったのは、「地球上の生命体は、たった1種類?」というテーマについて論じているくだりでした。

(p101より引用) 一見、地球上の生命は、じつにバラエティ豊かに感じます。生物学では、生命は大きく次の5つのグループに分類されます。バクテリア(細菌)、アメーバや藻類などの原生生物、キノコやカビなどの菌類、それに植物と動物の5種類です。

 この5種類を並べてみると、大きさも見た目もバラバラです。

(p102より引用) にもかかわらず、細胞が生きる基本的な仕組みについては、5種類ともすべて、驚くほど共通しているのです。
 地球上のすべての生命体は、例外なくセントラルドグマ(中心原理)という仕組みで成り立っています。・・・これによれば、生命の本質は本を正せばすべてDNAにあるといえるので、中心であるDNAが生命の大本だという意味で、セントラルドグマ(中心原理)と呼ばれるようになりました。・・・
 もちろん、人間と植物とバクテリアでは、DNAによって伝えられる情報の中身はまったく違います。しかし、情報を伝えるセントラルドグマという仕組み自体は、ほとんど同じなのです。

 このリン酸・糖・塩基からなるヌクレオチドの連鎖体であるDNAと全く別の仕掛けで生命構造が伝達されていく、そういった「もの」が発見されれば、それは、地球外からやって来た生物である可能性が高いというのです。

 一見別物のように見える事象を取り上げ、その中から根本的な意味での共通点を見出して概念整理していくという思考ステップはとても勉強になります。

 本書では、これら以外にも、「第5章 毒ガス「酸素」なしには生きられない 生物のジレンマ」 「第6章 癌細胞 vs.正常細胞 「酸素」をめぐる攻防」 「第7章 鉄をめぐる人体と病原菌との壮絶な闘い」と、章のタイトルを並べただけでも、どんなことが書かれているんだろうと興味深々、気になるテーマが次から次に掲げられていきます。

 中学・高校で学ぶ程度の化学・生物の基礎的知識でも、それなりに理解できるのがありがたいですね。久しぶりに、新鮮な刺激を受け取った著作でした。
 

宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書) 宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書)
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55歳からのハローライフ (村上 龍)

2013-12-08 10:06:17 | 本と雑誌

Cargo_main  人気のある本なんですね、かなり長い間待って、ようやく図書館の順番が回ってきました。
 ひょっとすると村上龍さんの小説を読むのは初めてかもしれません。

 タイトルは「55歳からのハローライフ」。私も、ほぼその歳になって、加えて、今年はひとつの区切りの年でもあったということもあり、ちょっと気になって読んでみました。

 ただ、最初からちょっとボタンの掛違いがありましたね。
 村上龍さんがビジネス関係番組のホストもされていることもあって、私としては、(全く勝手ではあったのですが、)“熟年ビジネスマンに向けた啓発書”的な内容なんだろうと思い込んでいました。(私の場合、読む本の大半は図書館で借りるのですが、ほとんどがインターネット予約なので中身は確認していないのです・・・)

 が、実は、5つの中編小説。落ち着いたトーンで物語は進んでいきます。
 たとえば、こんなシーン。

(p221より引用) 「・・・ぼくは、だからお茶っていうか、飲み物は、単に水分を補給するだけじゃなくて、もっと意味があるんだと思うんですね。悲しいことや苦しいことがあるときに、ゆっくりとお茶を飲んで救われることって、多いと思うなあ」
 ヨシダさんは、そんな話をして、肩に載った桜の花びらに気づき、軽く手で払った。

 それぞれに多彩なプロットで、短編小説的なラストの工夫も盛り込まれていたのですが、やはり、正直なところ満足感は今一つでしたね。残念です・・・。
 

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考えるよろこび (江藤 淳)

2013-12-04 23:28:06 | 本と雑誌

The_death_of_socrates  最近見た新聞の「書評欄」で紹介されていたので手にとってみました。

 1960年代末ごろの講演録ですからかなり前のものですね、しかしながら流石に江藤氏、小気味よい語り口でなかなか興味深い指摘が数多くありました。

 まずは、本書の表題にもなっている「考えるよろこび」とのタイトルの講演から。
 この中では、江藤氏は“ソクラテス”を取り上げて「フィロソフィア(知恵を愛する)」の姿勢の素晴らしさを語っています。

(p35より引用) 集団が一番暴力を発揮するのは、どういうときでしょうか。それは元来人間のいやしい心根を自由に解放させるような集団が、俗耳に入りやすい観念、それを正確に実現することが不可能であるような観念を、旗印に掲げたときです。だから戦争中、わたくしどもは「東洋永遠の平和」を実現するために戦う、とこう言ったものです。・・・「東洋永遠の平和」のためにといわれると、わたくしどもはみんなふるいたった。わたくしどもはそのときものになったんです。もっとも激烈に精神的になったつもりでいながら、その実ものになった。

 ソクラテスは、中傷から裁判にかけられ死刑判決を受けました。彼は自らの裁判も客観的にみていました。彼を陥れた人々も自分たちの正義を唱えるひとつの「党派」と考えました。そして、「党派」を超える「国家の精神」を尊重するために、ソクラテスは「国家の法」に従ったのです。彼は、自由な精神をもち、ひとつの「党派」に拠るものにはならなかったのです。

(p36より引用) 力には精神はない、力はものでしかないということを、ソクラテスは自分が完全に負けることによって示そうとした。これこそソクラテスにとってフィロソフィアということだったのです。考えるよろこびを尽くすということだったのです。

 その他に、本書で江藤氏が称えている人物としては“勝海舟”がいます。
 「転換期の指導者像―勝海舟について」と「二つのナショナリズム―国家理性と民族感情」というふたつの講演の中で、海舟の普遍的・鳥瞰的思考について言及しています。

 江戸末期から明治初期にかけての海舟は「国家理性」を代表する論客であり実務上の大立者でした。そして、海舟といえば、当然並び立って登場するのが西郷隆盛。彼は「民族感情」の代表者でした。この二人を材料に興味深いテーマで語ったのが「二つのナショナリズム―国家理性と民族感情」という講演です。

(p87より引用) 有名な西郷隆盛と勝海舟の江戸城明け渡しの談判などは、象徴的な意味を持っていたということができるでしょう。・・・一言にしていえば、それは勝によって象徴される国家理性と、西郷が象徴する民族感情とが、この話し合いを通じて融合したということです。

 この「民族感情」について、江藤氏は非常に重要で鋭い指摘をしています。

(p88より引用) 民族感情というものは、だいたいいつでもこういうものです。「反体制的」民族感情というものが、つねにそれ自体革新的な意義を持っているということはない。それは爆発すればたしかに体制をこわします。しかしこわしたあとにできあがるもののかたちを、かならずしも保証しているわけではないのです。

 幕末から明治初期にかけては、民族意識の高揚という大きなエネルギーが様々なベクトルをもって放射され、維新において、江戸幕府に代わるひとつの「政府」の成立に至りました。

(p89より引用) 歴史というものはまことに皮肉なもので、明治政府がひとたび日本の正統政府として国家理性を代表する立場におちつくと、今度はこれに対する民族感情の反撥が生れる。

 この民族感情の反発は、「佐賀の乱」に代表される廃藩置県以後の士族の叛乱であり、西郷を担いだ「征韓論」であり、「自由民権運動」といった反政府運動でした。

(p90より引用) それと同時に、条約改正という問題をめぐって、国家理性と民族感情の分裂が、典型的なかたちで展開されるようになるのであります。

 こういった「国家理性」と「民族感情」という“二つのナショナリズム”の存在とその交錯は、今の時代においても様々な政治シーンの背景として通底しています。しかし、いずれの“ナショナリズム”も一国の中に閉じ、その中のみでの影響力の行使に止まることは、もはやできません。

(p107より引用) 開国的なナショナリズム、窓を世界に開きながらあやまりなく自己実現をして行くということは、われわれがよほど多角的にものを見る修練を積み、またよほどの責任をとる覚悟で国際情勢や国内の状態を把握しないと、身につくものではない。外国からの圧力が、いつでもこの日本という国を取り囲んでいる。・・・そのことをわれわれはつねに自覚している必要があると思います。

 この講演は1968年に行われたものですが、氏の指摘はそれから半世紀近く経った現在においても生き続けています。

 さて、最後に、本書で紹介された江藤氏の6つの講演のなかで最も印象に残ったフレーズを書き留めておきます。

 「大学と近代―慶応義塾塾生のために」というタイトルの講演んから“革命家”について触れたくだりです。

(p175より引用) 革命家というのは革命を成就させた瞬間に権力者にならなければならない。この権力者は世の中を治めて行かなくてはならない。いままでの不平分子を全部引っ張っていって、なるほどと所を得さしめなければならない責務がある。それとひきかえに破壊活動を許されるというのが革命の最低の論理でもあり、倫理でもあるはずであります。

 「革命」「創造」の本質ですね。


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爆速経営―新生ヤフーの500日 (蛯谷 敏)

2013-12-01 08:57:06 | 本と雑誌

Yahoo_japan_logo  レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。

 カリスマ的存在感を示していた井上雅博社長から後任を任された執行役員宮坂学氏。
 本書は、2012年4月宮坂氏CEO就任以降の新生ヤフーの改革の実像をレポートしたものです。

 井上氏に率いられたヤフーは、1996年の設立から検索サービスをコアにした広告事業やネットオークション事業等を収益源に大きく成長し、未だに日本におけるポータルサイトの巨人企業として君臨しています。
 創業から成長期にかけての会社の舵取りは、一般的なベンチャー企業の通例の如くトップの圧倒的なリーダーシップの下でなされていました。まさに、前社長の井上雅博氏の経営スタイルは、典型的な「トップダウン型」でした。

(p97より引用) 自らが組織の細部にわたって目配りし、強い権限を持って事業を動かして戦略を遂行していくマイクロマネジメント型の経営者だった。

 しかしながら、現在のヤフーは提供サービス150以上、社員も5,000名を越え、大企業病的な兆候も見え始めてきました。そういったタイミングで社長に指名された宮坂氏は、井上氏とは全く別のアプローチを選択しました。
 それは「原理原則で動かす」という手法でした。

(p97より引用) 意思決定をする判断のよりどころとななるルールを公開し、社員に周知させたうえで事業を進めるというスタイルである。宮坂は管理型のマイクロマネジメントではなく、社員が自律的に動く、ルールに基づく権限移譲型のマネジメントを目指した。

 「権限委譲」と言っても、そのスタイルを機能させるためには、具体的な事業を任せられる人材の発掘・確保が必須条件になります。そして、適材を適所に配したところで、それらの人材に最大限の能力を思う存分発揮してもらうのです。

(p108より引用) 要は才能がある人とチームを組むことなんですよ。何でも自分が指示を出すのではなく、チームで結果を出していくことに意識を変えれば、もっと大きいことができる。
 結局、マネジメントというのは人に結果を出してもらうことが仕事です。自分ではない人が結果を出せるように、どうサポートするのかが本質的に重要じゃないですか。

 そして、最後に、新たなヤフーの経営戦略を徹底させる方法が「評価」です。宮坂氏はソフトバンク執行役員青野人事部長から、こんなアドバイスを受けていました。

(p194より引用) 人事評価制度の要諦は3つしかない。
 まず、頑張る人が報われるということを社内に周知させること
 そして、実際に頑張った人に報いること
 さらに、どうしたら報われるのか、その基準を明確にすること
 この条件が満たされていれば、組織は活性化する

 宮坂氏が引き継いだときのヤフーは、こういった評価の基準が不明確になっていました。宮坂氏は、評価の基本を「業績評価」と「貢献効果」の二本立てとし、「貢献効果」についての評価軸も明確化しました。

(p196より引用) 新生ヤフーの評価軸となる4つの「バリュー」が決まった。
「課題解決をしたか」
「やるべき業務にフォーカスしているか」
「既存の枠組みにとらわれない、ワイルドな判断をしているか」
「何よりも爆速で動いているか」

 貢献評価はこれらのヤフーのバリューを満たしているかで判断される。

 確かに「評価」において公平・公正という観点は最重要ポイントですし、それらを可視化する営みも望ましいものだと思います。宮坂社長の改革で、従前の状況よりも大きく改善したというのも事実でしょう。

 ただ、「評価」における最大の問題点は、「『絶対評価』が最終的には『相対評価』に転化される、そしてその時点で、被評価者の心情に不満感・不透明感が惹起される」ということだと、私は考えています。
 ほとんどの社員はそれなりの成果を出していますし、経営方針に沿った貢献を行っています。『絶対評価』では「及第点」なのです。が、しかしながら多くの企業の場合、「絶対評価」が最終評価になるのではなく、最後の最後は評価結果をグレード分けした「相対評価」に落とし込みます。昇格のポストや賞与の原資が有限である以上、これはやむを得ない制度上の限界でもあります。
 だからこそ、「評価」は極めて人間的な営みであり、評価者の総合的な人格も試される「管理者にとっての究極の中核業務」と位置づけられるのです。

 さて、最後に本書を読んでの感想です。
 タイトルは「爆速経営」ですが、その他にも、「経営は軍議長くすべからず」「組織は原理原則で動かす」「アサインよりもチョイスを増やす」といったキーフレーズで表現されたアドバイスも豊富。それらは、ネット系ベンチャーのみならず、ひろく一般の企業においても首肯できる内容です。

 もちろんメインテーマである社長交替後の宮坂新社長が取り組んだヤフー大改革の経緯や背景に関しても、とても分かりやすく描かれていると思います。
 ただ、読みやすい分、少々物足りなさも感じましたね。
 前井上社長のマネジメントスタイルと昨今のマーケットトレンドとの間で、どんな不整合が事実として具体的に生じ始めたのかとか、会社としての経営方針の大転換が、従来からいる社員にとって具体的にどんなインパクトを及ぼしたのかとか・・・、もう少しベタでドロドロした姿も紹介して欲しかった気がします。
 

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