OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

賢慮型リーダーシップ (美徳の経営(野中郁次郎・紺野登)

2008-11-30 15:43:24 | 本と雑誌

Churchill   「高質の暗黙知、実践的な合理性に基づく知性」と定義づけられる「賢慮」を体現するリーダー、すなわち「賢慮型リーダー」の要素として、著者は、6つの能力を挙げています。

 
(p103より引用) 「賢慮」型リーダーシップは、実践的推論を軸として行為を現実化する次の六つの賢慮の要素(能力)からなっている。
(1) 善悪の判断基準を持つ能力
(2) 他者とコンテクストを共有して共通感覚を醸成する能力
(3) コンテクスト(特殊)の特質を察知する能力
(4) コンテクスト(特殊)を言語・観念(普遍)で再構成する能力
(5) 概念を共通善(判断基準)に向かってあらゆる手段を巧みに使って実現する能力
(6) 賢慮を育成する能力

 
 この「賢慮型リーダー」の代表者として著者が紹介しているのが、20世紀を代表する英国の政治家ウィンストン・レオナード・スペンサー・チャーチルです。

 「賢慮型リーダー」は、従来の典型的リーダー像である「戦略的リーダー」とは異なる特性を有しています。

 
(p136より引用) PL(賢慮型リーダー)は「変革型」「牽引型」リーダーというより、①知識のインフラづくり、②後進の育成(コーチングや動機づけ)、③知の発信(知識資産価値、セミナー)を行っており、「社会関係資本」(ソーシャル・キャピタル)に働き掛ける「知のプロデューサー」の側面を持つのである。

 
 他方、「戦略的リーダー」は、米国のMBA出身者に見られるように、基本的には現状分析から戦略を導きだす「分析型リーダー」です。

 
(p140より引用) われわれの調査でも、分析型リーダーの資質が経営や業績にとくに貢献しているという姿は見えてこないのである。分析型リーダーとは、戦略計画などの技術・技能の側面に光をあてて生み出されたモデルである。こうした「理想モデル」の周辺や背後においては、現場での実践や人間的側面が軽視されてきたともいえる。賢慮のリーダーとは、資質、意識、経験を取り込んだ、より全人的リーダーシップへのアプローチでもある。

 
 ハーバードビジネススクールのR.オースティン教授も、「分析的方法」に疑問を呈しています。

 
(p175より引用) かれらもまた戦略計画の分析的なありかたを批判する。不確実な経営環境においては先を読む地図が必要だが、実際われわれは将来を知ることはできない。ところが分析的方法は最初に分析によって特定の方向を定めることからしか出発しないので、うまくいかない。ではどうするか。常に創り続ける姿勢が重要である。たとえばアーティストは何を創るか(仕様)は定めていないが、その場その場で何を創りたいか、創るべきかの意志によって、環境が変化しても成し遂げていく。これが知の時代の生産システムのありかただという。

 
 ここに、次の時代の企業観として、「知の時代の生産システム」を有する「芸術企業(artful firm)」というコンセプトが提示されています。
 美学にもとづく経営です。

 そういった新たな企業をリードするのが「賢慮」を有する「全人格的リーダ」です。
 「全人的リーダーシップ」は、基軸となる価値観として「真善美」を重視し、同時に、現実の矛盾した要素において「中庸」を知るという「実践型」のリーダーシップと言えます。
 
 

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賢慮のスパイラル (美徳の経営(野中郁次郎・紺野登)

2008-11-28 23:21:02 | 本と雑誌

 本書に登場する基本コンセプトのひとつである賢慮(フロネシス)は、著者によって以下のように定義づけられています。

 
(p68より引用) 賢慮は、個別具体の場において、その本質を把握しつつ、同時に全体の善のために最良の行為を選び実践できる知恵である。

 
 この賢慮について、特に「美徳の経営」との関わりに関する基本的な解説部分をノートしておます。

 まずは、社会学者ベント・フリウビジャによる「アリストテレスの知の形態」の整理から始まります。
 彼は、アリストテレスの知を3つのタイプに集約します。

 
(p70より引用)
・エピステーメー(episteme)
 科学的な知。
 すなわち、いわゆる「学」(学問知)。一般性を志向し、時間・空間によって左右されない、コンテクスト独立的(文脈非依存)な客観的知識(形式知)。理論的知性。分析的思考につながっていく。
・テクネー(techne)
 技術、芸術などの知。
 すなわち、制作の領域の知。テクニックやアートなど、実践的でコンテクスト(文脈)依存的な、モノをつくりだす知。技能、わざ(暗黙知)。経験科学の知。
・フロネシス(phronesis)
 価値・倫理についての思慮分別と、コンテクスト(文脈)依存の判断や行為を含む、実践の知、「智慧」。
 すなわち、高質の暗黙知、実践的な合理性に基づく知性。

 
 従来から、欧米企業はエピステーメーを追求し、日本企業はテクネーを追求したといわれてきました。
 それに加え、著者はこう指摘しています。

 
(p70より引用) 日本企業がかつて発揮した卓越性には、独自のテクネーの追求から生まれる、賢慮の要素があった。そしてそれによって、エピステーメーとテクネーを、実践をつうじて統合していった。その賢慮に知が、いま美徳の経営の時代にあって、日本企業はもとより、グローバルに企業に求められていると考えられるのである。

 
 キーワードは「実践」です。
 実践により、エピステーメーとテクネーという二つの知が融合し、より高度な暗黙知であるフロネシスに止揚しゆくダイナミックなスパイラルプロセスが動き出すということでしょう。
 
 

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絶対的価値 (美徳の経営(野中郁次郎・紺野登)

2008-11-26 20:59:37 | 本と雑誌

Aristoteles  「美徳の経営」という目新しいタイトルだけあって、多くの経営書・ビジネス書とは一線を画す思索的テイストの本です。

 本書において、「美徳」「絶対的価値」のメルクマールと位置づけられています。
 著者は、今後の企業は「絶対的価値」を提供する創造的経営を推し進めていくべきだ、と説いています。

 
(p5より引用) 競争に明け暮れる相対的価値の経営から、絶対的価値や独創性に基づく創造的経営への変化は、とくに日本企業にとって必須である。単にモノづくりに強いだけでない、コモディティ(標準品)化競争を超えた高付加価値の製品やサービスの提供、あるいは、経済原理や技術だけによらない人間的な価値や環境問題などに目を向けた社会的な事業、製品・サービスの提供は、その重要な成分である。

 
 また、よく言われる「イノベーション」についても「絶対的価値」創出を求めます。

 
(p9より引用) イノベーションとは、製品の観点からいえば相対的な価値比較優位ではなく、独自のコンセプトを持ち、並ぶところのない魅力をユーザーに伝えていることである。また事業という面からいえば、モノが売れた、売れないというだけでなく、持続的な価値創出の仕組みを呈示し構築していることである。何よりも、本来イノベーションの源には、フォーマルな組織とは別次元の、個人や集団の思い、ビジョンが存在する。・・・強力なビジョンが製品やビジネスの仕組みになっているのがイノベーションである。

 
 ここでの「強力なビジョン」も、「美徳」という価値観が背景にあることを想定しています。

 ビジネスの世界における「美徳」は、一企業の個別的価値観ではありません。
 「共通善」として、社会的な関係性のなかで醸成されるものです。

 
(p47より引用) ビジネスにおける価値の多くは、企業体の閉鎖的なメカニズムからは生まれてこない。それは組織、社会や地域共同体、組織内の成員、さらにはかれらの背後の家族などの人々の知識(社会関係資本、ソーシャルキャピタル)をもとに生み出されているのである。

 
 「美徳」という単語は、直感的には「ビジネス」に結びつきにくい語感をもっています。
 この点について、著者は、「美徳」に重きをおくような社会的意識の高い企業は、長期的な経営というリアルな世界においても発展してゆくものだと考えています。

 
(p51より引用) 社会的意識の高い企業であればあるほど、必然的に将来の世界や社会、市場や顧客の変化を展望して活動することになる。それは「社会知」の獲得や、顧客やパートナーとの共生的な知識創造につながっていく。こうした長期的な市場観やシナリオに基づいた顧客やパートナーとの関係性は、資産化され、同時にその企業に対する長期的な投資リスクを低減させるであろう。

 
 本書のあとがきにおいて、著者は以下のように語っています。

 
(p234より引用) 21世紀になっても、とくに大企業において、そして政治の世界でも、倫理的・理念的な面で目を疑うような不祥事、不正が行われている。・・・
 このように、もはやわれわれには美徳は縁遠い概念なのかもしれないが、果たしてそうだろうか。こういう時代にこそ、いかにうまく生きるテクニックを子どもたちに教えるのもひとつだが、何が美しいか、善いか、といった「判断力」や智慧について教えることも重要ではないだろうか。

 
 絶対的価値の認識とその伝承は、ビジネスの世界に限らず、今の時代とても大事なことだと思います。
 
 

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「十五少年漂流記」への旅 (椎名 誠)

2008-11-23 20:25:22 | 本と雑誌

Jules_verne  椎名誠氏の幼い頃からの愛読書のひとつが、ジュール・ヴェルヌ作の「十五少年漂流記」だそうです。

 その漂流記の舞台となった15人の少年たちが漂着した島、ハノーバー島。
 従来からの説では、そのモデルとなったのはマゼラン海峡付近にある「ハノーバー島」でした。

 そのいわば定説に疑義を唱えたのが、園田学園女子大学の田辺眞人教授でした。田辺教授は、氏の論文「ニュージーランド研究」において、モデルの島は、ニュージーランドの東、約800キロのところにある「チャタム島」ではないかと指摘したのです。

 椎名氏は、その正否を確かめるために、南米チリの南端の島「ハノーバー島」とニュージーランド沖合いの島「チャタム島」を実際に訪れました。
 その結果、椎名氏がたどり着いた結論は、「チャタム島」がモデルの島に違いないということでした。

 その確認の旅程の記録が本書ですが、本書の楽しみは旅行記としてのみではありませんでした。

 世界で最も東にある場所として「日付変更線」を歪めた「チャタム島」。
 そのことが、ヴェルヌが「チャタム島」を知ることのきっかけになったのだろうという田辺教授の推測。
 さらには、「十五少年漂流記」はその当時の世界事情を反映したキャスティングだったという説・・・。

 
(p93より引用) 英語圏の読者にとっては主人公がフランス人というのは乗りにくい。ましてやその主人公の仇役のドノバンはイギリス人なのである。
 そしてこの話を当時の世界事情にからみあわせると、フランスとイギリスの対立をアメリカ(ゴードン)が賢く仲介して全体の和をつくっている、という構図になる。
 こうした分析を見てぼくが「なるほど」と思ったのは、ぼくがなぜ工作好きの「バクスター」に心情をかたむけたか、ということだった。バクスターは「日本」なのではないか。
 バクスターは何か必要なものができると工夫して何でも作ってしまう「勤勉で手先の器用な少年」である。これはかつての日本の評価そのものではないか。

 
 謎解きとしても楽しめる話が次々と登場してきます。

 また、「さまよえる湖」を求めて、今回の旅の前に訪れたタクラマカン砂漠での椎名氏の経験も興味深いものです。

 
(p89より引用) 砂漠の旅で気がついたのは、砂ばかりの地をいくと、風が見える、ということだった。・・・
 多くの風はそこを行く者に「迷惑」である。・・・
 けれどそれによって初めてオアシスに入っていくときに、オアシスの意味がわかった。そこからは「水の匂いがする」のである。

 
 本書には、探検や冒険の楽しさが目一杯詰め込まれています。

 幼い頃抱いた探検や冒険に対する憧れは、「未知なるものへのワクワク感」でした。

 
(p200より引用) 『十五少年漂流記』を、子供の頃に読むことの幸せは、これから何がおきるのか、どうなっていくのか、という不安と期待が凝縮している、そしてそれらの全てを、十五人の子供たちだけで対応していかなければならない、という“未知”があることだった。・・・
 知らない世界を目の前にしたとき、価値観は変わり、それら未知のものに対応していくたびに思考がひろがり、深くなっていく。

 
 

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インテリジェンス人間論 (佐藤 優)

2008-11-22 15:48:00 | 本と雑誌

Godaigo  少し前に「国家の罠」を読んだので、佐藤優氏の著作は本書で2冊目です。

 佐藤氏の外交官キャリアの中で出会った国内外の政治関係の人々を中心に、その他、イエス・キリストやイスカリオテのユダといった彼の学問面の専門である神学の世界の人物も登場します。

 佐藤氏流の人間批評ですが、正直なところ、読む前のイメージとはちょっと違ったテイストの内容でした。

 たとえば、先の総理大臣小泉純一郎氏に言及した部分です。

 
(p114より引用) 「マフィアの技法」とは、一見、喧嘩好きのように見えても、いちばん強い者とは絶対に諍いを起こさないという処世術である。・・・このことをよくわかっていた小泉氏はアメリカとは決して喧嘩をしなかった。

 
 全体を通して、私が勝手に期待していたような「人間論」というよりも、マニアチックな人物評というトーンです。

 そういった中、私が気になったフレーズをご紹介します。

 本書内で引用されている金峯山修験本宗総本山金峯山寺の東南院住職の「修験道」に関する言葉です。

 
(p239より引用) 修験道は、神道、仏教のみならず道教や日本の土着信仰が合わさったもので、多元性を基本とする。吉野は古来より政争に敗れ、逃れてきた人々を匿い、再出発させる場だ。われわれ山伏は偏見にとらわれず、人々を人物本位、言説をその内的ロジックのみで捉える。・・・多元性と寛容の世界を維持する。なぜなら、それがなくなると日本は日本でなくなるからだ。

 
 ここでの「多元性」は、以前読んだ長部日出雄氏による「『古事記』の真実」という本に書かれていた「日本という国の特質は天武天皇に始まる『二元的社会』にある」といる論旨に相通ずるように感じました。

 金峯山寺のある吉野は、「二元論」の典型的表象である「南北朝期」、かの後醍醐天皇が移った地でもあります。
 
 

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第四法則:上兵無兵 (兵法三十六計の戦略思考(K・クリッペンドルフ)

2008-11-21 22:50:38 | 本と雑誌

Sengoku  本書で示された道教的思考の第四法則は、「上兵無兵」です。
 すなわち「間接的行動」を活用した戦術です。

 
(p243より引用) 東洋と西洋のいずれの軍事的アプローチでも、間接的な行動が考慮されてはいるものの、西洋では間接的行動は弱者がとるべきものとして位置づけられているのに対して、東洋では間接的行動こそが戦いにおいて最も重要なものとして捉えられている。・・・競争優位の獲得を目的とする間接的行動は、限られた労力で絶大な効果をもたらしてくれるものである。それは、決して弱者だけが用いるものではなく、市場で支配的な地位を築いている企業こそが得意としているものである。

 
 間接的な行動は、必ずしも直接的な行動の陰にかくれたものとは限りません。

 
(p272より引用) 備え周かば則ち意怠る、常に見れば則ち疑わず。陰は陽の内に在り、陽の対に在らず。太陽は太陰なり。
 守りが万全であると思えば、どうしても警戒心が弱くなる。ふだんから見慣れていることには、とかく疑問を感じなくなる。人の意表をつくような奇策は、人目につきにくい秘密の場所にしまわれているわけではなく、人目につきやすいところにこそ隠されているものである。誰にもそれとわかるような所に、しばしば重大な秘密が隠されているのだ。

 
 具体的に、著者が本書で「上兵無兵」の考え方にもとづく戦術として整理している9種を、覚えに記しておきます。
 

  • 戦術28:指桑罵槐 自らの行動を通じて隠れたメッセージを送り、相手の行動に影響力を及ぼす
  • 戦術29:声東撃西 見せかけの行動で相手をおびき出し、別の行動で相手を倒す
  • 戦術30:暗渡陳倉 通常とは異なる間接的な手段を用いて、敵の不意を突く
  • 戦術31:瞞天過海 相手の思い込みを利用して、日常的な行動のなかに真の行動を隠す
  • 戦術32:無中生有 ゲームのなかに新しいプレイヤーを導入して、優位に立つ
  • 戦術33:笑裏蔵刀 見た目は友好的な行動をとり、その裏で相手より優位に立つ
  • 戦術34:樹上開花 協調的なネットワークを形成して、より大きな力を行使する
  • 戦術35:擒賊擒王 相手のリーダーに働きかけて、影響力を行使する
  • 戦術36:連環計 複数の戦術を駆使して、競争優位を持続的なものとする

 
 「兵法三十六計」は、安直なHow Toではありません。
 36通りの戦術があるわけですから、その中のどの戦術をとるべきか、具体的なケースに応じて選択しなくてはなりません。適用されるパターンは、戦術家がおかれた環境・条件によって様々に異なります。

 
(p5より引用) 「兵法三十六計」は、読者に対して、「このような方法もある」という選択肢を提示するものであり、「こうしなければならない」という結論を与えるものではない。

 
 まさに、応用の巧拙が勝敗を分かつことになります。
 
 

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第三法則:無常 (兵法三十六計の戦略思考(K・クリッペンドルフ)

2008-11-19 22:54:21 | 本と雑誌

 本書で示された道教的思考の第三法則は、「無常」です。
 すなわち、「絶え間ない変化」を所与の前提とした考え方です。

 変化への対応といっても、多くの人は、自分自身に染み付いた定型的な「メンタルモデル」に基づき行動しがちです。

 
(p160より引用) 重要なのは、同じメンタル・モデル(精神的枠組み)を何度も繰り返し用いていると、われわれの行動は硬直化し、相手が予測しやすいものとなり、われわれの競争力を弱めてしまうということである。
・・・変化に対して従来とは異なる概念を取り入れれば、われわれ自身も独創的な発想をもち、競合にとってより手強い相手となって、より巧みに競争力を得ることができる。

 
 著者は、「メンタル・モデル」にも西洋と東洋とで根本的な差異があると指摘しています。

 まずは、西洋的視点です。

 
(p161より引用) 西洋社会の変化に対するメンタル・モデルの大きな仮定として最初に挙げられるのは、「過去が現在を決める」ということである。西洋人は、変化は因果関係にもとづいて生じると考える。つまり、過去の事象が原因となって、現在の変化を生み出すと考えるのである。・・・
 西洋人の変化に対するメンタル・モデルの二つ目の大きな仮定は、「変化はある静止点と他の静止点を結びつける間で生じる」ということである。この仮定が意味するところは、われわれはこの世界を「静と動」や「無変化と変化」といった、二つのはっきりと異なる状態に分けて捉えているということである。そして、ある静止点と他の静止点の間で生じるものを「変化」と呼んでいるのである。

 
 他方、道教に代表される東洋的視点の特徴は、以下のとおりです。

 
(p162より引用) 道教では、人生を静的瞬間と動的瞬間から成り立っていると捉えるのではなく、あらゆる瞬間は絶えず変化していると考える。・・・
 道教の信者は、われわれが見るべきは過去ではなく、現在、すなわち、今、目の前で起きていることであると信じており、西洋的思想とはまったく異なる視点で現在の状況を理解しようとする。これが意味しているのは、われわれは過去の事例から学ぶべきではないということではなく、過去の事例から得られる教訓によって、必ずしも将来が予測できるわけではないということである。

 
 東洋的視点では、「現在」を思考のスタートにしています。
 その点、過去から演繹的に考えて「今」を把握する西洋的な思考方法よりも、先を見通す姿勢が強いのです。

 
(p165より引用) 道教的思想では、どのような敗北や勝利も永久に続くものではない。したがって、「明日の勝利のために今日負ける」という考え方が、より受け入れやすいものとなる。・・・大きな成功を収めている企業は、当初は誤った意思決定を下したように相手に思わせながら、実際のところは、競合が目の前のことに必死になっているそのときに、彼ら自身はすでに次のゲームを行っていたということがわかる。

 
 最後に、著者が本書で「無常」の考え方にもとづく戦術として整理している9種を、覚えに記しておきます。
 

  • 戦術19:隔岸観火 何も行動を起こさないことが、最善の選択肢であることもある
  • 戦術20:李代桃僵 ある戦いではあえて負け、別の戦いでより大きな勝利を収める
  • 戦術21:空城計 あえて自分に関する情報(戦略・意図・能力)を見せて、相手の行動に影響を与える
  • 戦術22:以逸待労 競争領域の変化を予測し、新しい競争領域に先回りして先行優位を築く
  • 戦術23:反客為主 最初はあえて弱い立場に立ち、徐々に力を蓄積して、最終的には支配力を得る
  • 戦術24:仮道伐虢 提携関係は一時的なものにすぎないと考えて、あくまで利己的な目的を追求する
  • 戦術25:金蝉脱殻 おとりになるような見せかけの行動をとり、それとは異なる場所で真の行動を起こす
  • 戦術26:苦肉計 最初はあえて自らを弱い立場に置き、相手を油断させてから真の攻撃を仕掛ける
  • 戦術27:借屍還魂 古いアイデアを再び取り入れることで差別化を図り、競争優位を築く

 
 

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第二法則:無為 (兵法三十六計の戦略思考(K・クリッペンドルフ)

2008-11-17 22:40:49 | 本と雑誌

 本書で示された道教的思考の第二法則は、「無為」です。
 すなわち、自然の流れに逆らわない、万物は流転するという考え方です。

 西洋では、「力」は、対象に対し直接的に強引なものとして作用します。

 
(p96より引用) 西洋的思想の根底にあるのは、「万物は硬直的であり、われわれが自ら働きかけない限り、変化することはない」とする考え方である。つまり、何か大きな変化を起こそうとするときには、多大なる労力を要するというのが基本思想として存在する。

 
 他方、東洋の道教的立場では、力は、対象の性質に応じて無理なく作用させることが是とされます。
 自然の流れに従い、その流れのなかで活きる戦術を駆使するわけです。

 
(p96より引用) その一方で、道教の根底にあるのは、「万物は流動的であり、適切な方法で働きかければ、最小限の労力で変化の方向に影響を与えることができる」とする考え方である。道教の教えでは、自身に多大なる労力をともなわない形こそ、われわれは外界の事象に対して効果的に影響力を行使していると言える。

 
 さて今回も、著者が本書で「無為」の考え方にもとづく戦術として整理している9種を、覚えに記しておきます。
 

  • 戦術10:釜底抽薪 相手の力の源となっている地点(物資供給ライン等)を攻撃して、その勢いを弱める
  • 戦術11:関門捉賊 直接的な攻撃手段ではなく、間接的な行動を通じて、相手の動きを封じ込める
  • 戦術12:偸梁換柱 相手の拠り所を打ち崩して、統率力を失わせる
  • 戦術13:美人計 相手が欲しているもの、あるいは必要としているものをちらつかせて、相手の行動をコントロールする
  • 戦術14:打草驚蛇 小規模な仮の攻撃を通じて、あらかじめ相手の強みや意図、予想される反応を知る
  • 戦術15:趁火打劫 他社のトラブルを自社の好機と捉えて優位性を築く
  • 戦術16:走為上 現在の力が十分でないときは、いったん退却して力を蓄える
  • 戦術17:順手牽羊 相手の失敗にすかさず付け込み、支配力を築く
  • 戦術18:仮痴不癲 わざと狂気を装って相手を油断させ、成功を収める可能性を高める

 
 これらのなかで有名なのは「走為上(走ぐるを上と為す)」でしょう。

 著者は、この戦術の適用例として、ジャック・ウェルチの「ナンバーワン・ナンバーツー戦略」を挙げています。

 事業の撤退は確かに一面では「逃げる」ことですが、「逃げること=失敗」ではありません。それは、「選択と集中」のためのプロセスであり、将来の発展のための「有効な初動」なのです。
 
 

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第一法則:陰陽 (兵法三十六計の戦略思考(K・クリッペンドルフ)

2008-11-16 14:43:23 | 本と雑誌

 「兵法三十六計」の成立時期は不明ですが、古代中国の戦国時代を中心とした故事を基本に、17世紀明末清初の時代にまとめられたものだと言われています。

 本書は、「兵法三十六計」を、経営戦略・戦術の検討にあたって有益なパターン集として位置づけ、その一つひとつのパターンごとに戦術の解説と具体的事例を示したものです。

 特に興味深いのは、西洋と東洋の思想的差異を、具体的戦術の解説にあたっての基軸としている点です。

 
(p7より引用) 「兵法三十六計」は、西洋的思考とはまったく異なる道教的思考にもとづく戦術を示すことによって、われわれが暗黙の法則に立ち向かうための、単純で効果的な方法を提供してくれるのである。

 
 まずは、道教的思考の第一法則:陰陽、すなわち両極性の原則です。
 これは、「物事にはすべて陰と陽の両面が存在する」という考え方です。

 
(p16より引用) 文化的な背景により、西洋人は成長する過程において、「悪をともなわない善」・・・「弱みをともなわない強み」を追求するという考え方を頭の中に叩き込むようになる。ビジネスの世界でも、われわれは、「損失をともなわない利益」「衰退をともなわない成長」・・・といったものを求めるのである。

 
 西洋の考え方は、「A or B」的です。
 他方、道教に代表される東洋の考え方は、「A⇔B」という往還運動をイメージしています。

 
(p16より引用) このような西洋的思想の対極には、「悪いことが起きた後には、よいことが起きる」「衰退の後には、成長が訪れる」という「両極性の原則」を根底に置く東洋的思想が存在する。両極性の思考を取り入れている企業は、他の企業が思いつかないような戦略オプションや戦略目標を考案する。

 
 著者が、本書で「陰陽」の考え方にもとづく戦術として整理している9種を、覚えに記しておきます。
 

  • 戦術1:欲擒姑縦 競合を完全には打ち負かさず、「共存的な競争」を通じてともに発展する
  • 戦術2:抛磚引玉 「ギブ・アンド・テイク」の考え方を用いて、相手(顧客)との間に相互依存関係を築く
  • 戦術3:上屋抽梯 相手の逃げ道を断ち、自らに有利な場所で戦う
  • 戦術4:調虎離山 相手が強みをもつ領域の外に相手を誘い出し、その優位性を失わせる
  • 戦術5:遠交近攻 遠い関係にある相手と協調関係を結び、近くにいる敵を攻める
  • 戦術6:借刀殺人 自分以外の第三者に相手を攻撃させる
  • 戦術7:囲魏救趙 自分の仲間(提携先や複数の事業部門等)を利用して、相手を多方面から攻撃する
  • 戦術8:反間計 相手の仲介者にうまく働きかけて、相手が拠り所としている関係を無力化する
  • 戦術9:混水摸魚 商品・サービスを組み合わせたり、切り離したりすることによって、顧客の認識に影響を与える

 
 

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地図もウソをつく (竹内 正浩)

2008-11-15 19:46:27 | 本と雑誌

Chizu  本書は、「地図」をテーマに様々なエピソードを紹介した変わった切り口の本です。

 戦争や国境紛争等、当時の国際情勢を反映して歪められたり改ざんされたりと、「地図」が語る薀蓄には興味深いものがありました。

 時代を追って地図を並べると、その「土地」の歴史がリアルに表れてきます。

 本書では、「地図に刻まれた炭鉱町の盛衰」として北海道の夕張が紹介されています。
 昭和30年ごろの地図では建物が立ち並び2万人近くの人口があった炭鉱の町大夕張も、現在の地図でみると、一面の更地、往時の面影はかけらもなくなっているのです。

 
(p32より引用) 地形図は、町の移ろいゆくさまも克明に記録する。残された地形図は、大夕張が生まれ、栄え、衰え、消滅するまでの、うそいつわりない姿を見せてくれているのだ。

 
 本書を読んでいて懐かしかったのは、1970年に大阪で開催された万国博覧会の「万博会場図」でした。
 当時は、主なパビリオンの位置は暗記していましたね。

 最後に、おまけです。

 本書によると、自衛隊でも防衛省防衛政策局調査課を中心に、陸上自衛隊の場合には地理情報隊があり、実際に地図を作成しているとのことですが、NTTの電話工事部隊の流れをくむNTT-MEという会社でもゼンリンの住宅地図に匹敵するような精緻な市街地図を作っています。
 電柱敷設や電話ケーブル工事にも使うので、道路のカーブの具合とかはゼンリン地図よりも遥かに正確なのだそうです。

 地図といえば「国土地理院」が思い浮かびますが、必要に応じ様々な地図がつくられているようです。

 
 

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「8」を大切に (ビジネスプロフェッショナルの仕事力(日本経済新聞出版社))

2008-11-13 08:30:20 | 本と雑誌

 錚錚たるメンバの中からもうひとり、組織で成果を挙げるための「行動科学マネジメント」を提唱している石田淳氏のコメントをご紹介します。

 石田氏の著作としては、以前「すごい実行力」という本を読んだことがあります。

 石田氏は、「2:8の法則」の「8」の方に注目し、8割の人を活性化することによるチーム力の向上を勧めています。
 その具体的な方法が、「明確な行動目標の呈示」に代表される「行動科学マネジメント」という手法です。

 
(p79より引用) 行動科学マネジメントが目指しているのは、全ての社員が理解できるようにピンポイントで仕事のやり方を言語化して伝え、それを自発的に再現できる環境を作ること。つまり、情報を最適化することで、社員が喜んで仕事をするための環境を作るということなのです。

 
 「8割」に注目すると、評価方法も異なってきます。
 最大多数のやる気を向上させるためには、最終目標を達成した少数を褒めるのではなく、プロセスとしての行動目標を達成した多数を褒める方が望ましいとの主張です。

 
(p83より引用) 重要なのは、楽しく仕事をしてもらうこと。一番いけないのは、月間・年間のMVPを表彰するようなことです。・・・特定な人を評価するより、ある行動をした人全員を評価するほうが生産性は上がるというデータもあります。「自分も頑張ればできる」という情報の与え方を心がけるということです。

 
 「2:8の法則」については、どうも「選択と集中」といった呪文に囚われて「2」の方につい目がいってしまいます。
 が、「8」への注目は、そういう思い込み的マネジメントへの反省という意味でも大事な「バランス感覚」だと思います。

 「バランス感覚」といえば、最後に御立尚資氏の「ワーク・ライフ・バランス」についてのコメントをご紹介しておきます。

 
(p26より引用) ワーク・ライフ・バランスという言葉がありますけど、そもそもワークはライフの一部ですしね。ワークは嫌なもの、苦行、仕方なく売り渡している時間で、ライフはそれ以外の楽しむ時間だと考えてしまったら、仕事なんてやっていられないし、プロフェッショナルは苦行が一番うまい人ということになってしまいます。

 
 これも「A or B」という二者択一的な発想ではなく、より俯瞰的な立ち位置からの気づきのコメントです。
 
 

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劣後順位 (ビジネスプロフェッショナルの仕事力(日本経済新聞出版社))

2008-11-09 16:06:20 | 本と雑誌

 登場するメンバは、今日のビジネス書の世界では超豪華なラインナップです。

 御立尚資氏本田直之氏勝間和代氏石田淳氏・糸井重里氏・田坂広志氏・冨山和彦氏(糸井氏は、超有名人ではありますが、あまりビジネス書には登場しませんね)。
 私ですら、冨山氏以外の方々の著作は読んだことがあります。

 本書は、ヘッドハンターとして活躍中の岡島悦子氏が「情報活用力」をテーマに、「心・技・体」という切り口から上記の7名の方々にインタビューしたエッセンスをまとめたものです。
 ひとりあたり20~30ページのボリュームなので、正直なところ内容の深さについては物足りなさが残ります。

 とはいえ、各氏の著作での主張のリマインドを兼ねて、本書で紹介されているいくつかのコメントをノートしてみます。

 まずは、「レバレッジ・リーディング」等、一連の「レバレッジ・シリーズ」で有名な本田直之氏のアドバイスです。

 
(p34より引用) 「どの情報が大事か」という優先順位よりも、「どの情報が不要か」という劣後順位をクリアにしていかないといけないのです。そうやって仕分けして、どんどんカットして、その中で残ったものがキーとなる。そういう割り切った処理をしていかないと、情報を集めるだけ集めて結局使いこなせないということになります。

 
 私のように、本質的なものを選び出す力が未熟な場合には、明らかに重要でないものを消去していくやり方は、確かに現実的かつ有効だと思います。

 「レバレッジ・リーディング」という本での本田氏の主張はあまり私には合いませんでしたが、本書でのコメントには共感できるものがいくつかありました。

 
(p36より引用) 判断基準がないから必要な情報が見分けられないのではなく、必要な情報を見分けようとするうちに判断基準が次第に確固たるものになってくるのです。

 
(p46より引用) 応用で済ませられる部分は徹底的にライバルや他者のやり方を研究してレバレッジをかける一方で、独自の視点や戦略を練ることには十分に時間も手間もかけることが大切です。力の入れ方にメリハリをつけるわけですね。

 
 

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松平定知が選ぶ「その時歴史が動いた」名場面30 (NHK取材班)

2008-11-08 20:33:47 | 本と雑誌

Beethoven  「その時歴史が動いた」は、NHKで放送されている歴史教養番組です。
 現在放送開始から9年目にはいったとのことですが、本書は、過去にとり上げた数々のテーマのなかから、メインキャスタの松平定知氏が30のエピソードを選び紹介したものです。

 その中から、1・2、ご紹介します。

 ひとつめは、「家康の敗北」です。

 武田信玄を相手に、三方ヶ原で大敗北を喫した家康は、その屈辱を忘れないために自身の肖像を描かせたといいます。

 
(p70より引用) 家康は、絵師を呼びました。「三方ヶ原で負けた時の、その儂の姿、信玄に対する恐怖に震える体、歪んだ顔を絵に写しとっておけ」と命じたのです。
 〈しかみ像〉と呼ばれるその肖像画は、自分の思い上がりを戒め、二度と同じ失敗を繰かえさないよう省みるための戒めでした。

 
 もうひとつ、今度は幕末、長州の獄中での「松陰の言葉」です。

 
(p148より引用) 「人賢愚ありと雖も、各々一、二の才能なきはなし

 
 渡米を目論み失敗して囚われた獄中での経験が、松陰をして、「人びとの個性を生かした自由な教育」を目指させたのです。松下村塾がその実現の場でした。

 本書で取り上げられているエピソードは、そのほとんどがそれほど耳新しいものではありません。

 そういったなかで、私にとっては新たな知識であったのは、ベートーヴェンの「交響曲第9番ニ短調作品125」にまつわるエピソードでした。
 18世紀末フランス革命期、若きベートーヴェンはフリードリヒ・シラーの詩と出会います。

 
(p240より引用) 「よろしくの習わしの厳しく分け隔てたものを、汝の力は再び結び合わせる」

 
 その後、難聴が悪化したベートーヴェンは創作意欲を失い、交響曲第8番以降、長きにわたり彼の作品は途絶えていました。
 そんなベートーヴェンを再び立ち上がらせたのが、若き日に接したシラーの詩でした。

 
(p240より引用) ベートーヴェンは、・・・この詩を合唱という形で第九に取り入れることを決めたのです。
「人間は、身分や貧富の壁を乗り越え結束できる。地球上の全ての人々は同胞である」
これこそが、ベートーヴェンが第九に託したメッセージでした。

 
 自らの作品で「英雄」と讃えたナポレオンの変節、そういう激動の時代にベートーヴェンは自らの苦悩への戦いと重ね合わせるように、人間の尊厳と連帯を謳ったのでした。
 
 

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科学は不確かだ! (R.P.ファインマン)

2008-11-06 23:11:45 | 本と雑誌

Feynman  ファインマン(Richard Philips Feynman 1918~88)氏は、アメリカの理論物理学者です。

 1942年にプリンストン大学で原子爆弾開発のためのマンハッタン計画の最初の段階に加わり、翌年からはロスアラモス研究所で終戦までその仕事を続けました。
 1965年には、光子の電子と陽電子への変換に関する研究と変換で生じる電荷と質量の変化の測定法の開発により、アメリカのシュウィンガー、日本の朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を受賞した一流の物理学者でした。

 本書は、1963年4月ワシントン州立大学での講演を起こしたものです。

 なるほどと首肯できる点もあれば、果たしてそれでいいのかと疑問に思う点もありました。

 まずは、なるほどという点です。

 
(p11より引用) 研究は応用のためにやるものではありません。ついに真実を突き止めたときの興奮を味わうことこそがその目的なのです。

 
 理論物理学者としてはさもあらんとの感じがします。

 また、以下の言葉は、ノーベル賞をはじめとしていくつもの賞で評価された先駆的業績に至る険しさを表現しています。

 
(p29より引用) なにしろいままですでに観察されたものと、細かいところまで矛盾がなく、それでいていままで考えられたことのある何物とも異なっており、しかも見たこともないものを想像するのは、まったくもって難しい。おまけにその定義は漠然としたものではだめ、具体的でなくてはならないんですから、これぞまさしく至難の技です。

 
 さらにファインマン氏は、それらの研究成果を絶対的真実と考えてはいません。
 現時点で矛盾なく成立している理論も、将来にわたって確かなものであるとは限らないとの考えです。

 
(p36より引用) 僕は無知というたいへん有益な哲学と、そのような哲学をとおして達成され、思考の自由から実ったさまざまな進歩をよく知っている科学者として、ある責任を感じざるをえません。ですからこの自由の価値を言い広め、疑いは決して恐れるべきものでなく、むしろ人類に潜む新しい可能性として、歓迎すべきものだということを、教えていく責任を感じるのです。もし何か不確かなことがあれば、それを改善する機会があるというものでしょう。僕は未来の世代のために、この自由を要求していきたいと思います。

 
 不確かさの認識、言いかえれば、未だ真実にたどり着いていない無知の状態に、積極的な進歩の余地を認めているのです。

 
(p124より引用) 僕は心を開いていることの大切さ、不確かであることの価値を説き、いまでっちあげた解答など選ぶより、新しいことを発見する余地を残すことの重要さを、熱心に訴えました。

 
 他方、これでいいのかと感じた部分です。

 
(p8より引用) 何かができる力は価値あるものと、僕は考えます。結果の善し悪しはその使い方によるのであって、力それ自体は価値のあるものです。・・・科学はある意味で天国の門を開く鍵ですが、その同じ鍵で地獄の門も開けられるのです。・・・
 社会と科学の関係で大問題になるものといえば、きまってこの面です。

 
 この問題についてファインマン氏は、こう考えています。

 
(p9より引用) その力をどう使うかはわかっていても、それをどう抑制するかは、はっきりしないというこの事実は、科学の問題というより、むしろ科学者があまりよく知らない領域のことなのです。

 
 確かに「科学者の専門領域ではない」のでしょう。
 基礎理論がその後どういう応用技術に展開されていくのか、その行く末までの製造者責任を理論物理学者に負わせるのは酷だと思います。

 とはいえ、、あまりにも明け透けに言われてしまうと、正直なところ「科学者の無責任さ」を感じてしまいます。
 ファインマン氏は、マンハッタン計画の参画者のひとりだったのですから。 
 
 

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「昔話」と「民話」 (桃太郎はニートだった!(石井 正己))

2008-11-04 22:50:14 | 本と雑誌

Yanagida  「一寸法師」をはじめとして多くの「昔話」は、明治から大正期に活躍した児童文学者巌谷小波によって、子供向けに書き改められました。

 また、いくつかの話は、小学校の教科書にも載せられ定番化してゆきました。
 オリジナルの話の角が取れ、ストーリー自体も、ある種当時の社会状況を反映した教育的?内容に変質していったのです。

 絵本の流行も、内容の希釈化・穏健化にドライブをかけました。

 そういう動きを踏まえた著者の辛辣なコメントです。

 
(ア) (p142より引用) 昔話の本質は、やはり「悪いものは悪い」ときっぱりいい切るところにあります。・・・近代の昔話絵本はそうした論理をゆるがせにしてきたところがあります。そのようにした前提には、近代社会の作り上げた偽善性がはびこっているはずです。

 
 著者は、「昔話」と「民話」というそれぞれの言葉に込められた思想の違いを、柳田国男と木下順二の考え方を例に解説しています。

 民俗学的立場からの柳田国男氏の考えはこうです。

 
(p179より引用) 彼(柳田)にとって昔話は、あくまで民俗学の対象であり、日本人の歴史や信仰を知るための重要な資料でした。ところが、「民話」はそうではありません。

 
 他方、「夕鶴」等の代表作をもつ劇作家木下順二氏はこう考えていました。

 
(p180より引用) 木下は、民話から「民話劇」を創作しましたし、民話は現代でも生まれるものだと考えていました。そうした考えは「昔話」から日本人の歴史や信仰を分析しようとした柳田の意図とは、まったく相容れないものだったのです。

 
 「日本人のもとのかたちのもの」を究めるという柳田氏の学問的目的からすると、「再話」「再創造」による昔話の民話への変容は、その阻害行為だととらえていたようです。
 
 

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