OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実 (ルーク・ハーディング)

2014-06-29 23:26:30 | 本と雑誌

National_security_agency  レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。

 全世界のメールや通話情報など大量の情報がNSA(米国国家安全保障局)により監視・収集されていたという驚きの事実。その始まりは、やはりあの事件です。

(p87より引用) 世界のインターネットユーザーに対する無差別監視-その起源は正確に特定することができる。2001年9月11日、全米を震撼させ激高させた、あの残虐なテロの日である。その後の10年間で、個人のプライバシーを侵すのもやむなしという政治的な合意が英米両国で新しく築かれた。

 この実態が、エドワード・スノーデンの登場により白日の下にさらされたのです。

 ただ、スノーデン以前にも部分的には報道されたことがあります。
 2005年には「ニューヨーク・タイムズ」に「ブッシュ政権、裁判所の許可なく電話を盗聴」という記事が出ました。

(p95より引用) ブッシュは「ニューヨーク・タイムズ」を非難する一方、・・・さらに抜け目なく、プログラムのなかで同紙が報じた部分だけを認めるとともに、批判者たちを守勢に立たせる絶妙なネーミングを新たに考え出した。その名は「テロリスト監視プログラム」である。

 当時は「テロ対策」という理由が、以前の常識では実行できなかったようなアクションを実施にうつす上で、”水戸黄門の印籠”のような効果をもっていました。この口実のもと、9.11以降、ありとあらゆる人々を対象とした信じがたいような情報収集が、google、facebook、microsoftといった企業の協力の下で為されていました。

 そういった状況に対し超弩級の爆弾を落としたスノーデンは、しかし、彼なりの理想をもった愛国者でした。

(p110より引用) 彼は自分の身にはろくなことが起こらないだろうと覚悟していたが、決断は悔いてはいないし、「発言や行動のすべてが記録される」世界になど住みたくもないと言った。・・・
「アメリカは基本的によい国です」と彼は述べた。「すぐれた人々がいます。でも、いまの権力構造は自己目的化しています。全国民の自由を犠牲にして、みずからの権力を拡大しようとしています」

 方法については、もちろん様々な立場から様々な評価がなされています。また動機の面からも「理想が高潔であれば、何でも許される」というわけではありません。
 しかしながら、この事実が、全く人々の目から隠蔽されていてよいものではないでしょう。如何にスノーデンの明らかにした実態が極めて高度な政治的事項であったとしてもです。

 なかでも、ドイツのメルケル首相の携帯電話の情報入手は、ヨーロッパ諸国にとっては大変ショッキングは事件でした。

(p270より引用) ヨーロッパの議員はデータプライバシーに関する厳格なルール作りに賛成した。グーグルやヤフー、マイクロソフトなどの企業が集めたEUのデータがNSAのサーバーに送られないようにするのが狙いである。この提案はPRISMへのあからさまな抵抗であり、EUの情報をEU以外の国と共有することを制限しようとするものだった。

 そして、スノーデン後の世界は動き始めました。

(p271より引用) このEUの反応は、インターネットの「非アメリカ化」をめざすスノーデン後のトレンドの一つである。・・・
 新たなキーワードは「サイバー主権」。米国に不満を持つ同盟国の共通の目標は、NSAが国家データにアクセスしにくくすることだ。

 さて、本書を読んで、最も印象に残ったくだりです。

 「デア・シュピーゲル」とのインタビューで「なぜ米国スパイはメルケル首相を盗聴したのか」と問われた際、ジョン・マケイン上院議員はこう答えました。

(p294より引用) 「なぜそうしたかというと、そうすることができたからでしょう」

 この台詞は、ある種のスパイ共通のメンタリティを表わしている点でも興味深いものですし、また、多くの人々が極めて重要な保護されるべき権利だと考えている「プライバシー」を、マケイン氏自身どう捉えているかを推し量る意味でもなかなか深い?(あるいは、軽い?)言葉だと思います。
 

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レキシントンの幽霊 (村上 春樹)

2014-06-26 23:04:34 | 本と雑誌

Lexington_ma  私はほとんど小説は読みません。その滅多に読まない小説の中でも、食わず嫌いの代表格が村上春樹氏の作品でした。

 たまたま文庫本で読む本が切れた際、下の娘の本棚を見ていて目に付いたので借りてみたのが、本書です。私にとっての「初春樹」、中身は7編の短編です。

 物語なのでストーリーの要約や過度な引用は控えますが、村上氏の作品はこういった感じなのかと思った部分を少しだけ書きとめておきます。

 「トニー滝谷」という作品から、色とりどりの服で満たされた衣装室の中、戸惑ったような主人公を描写したくだりです。

(p140より引用) 彼はそれを見ているうちにだんだん息苦しくなってきた。様々な色がまるで花粉のように宙を舞い、彼の目や鼻腔に飛び込んできた。貪欲なフリルやボタンやエポレットや飾りポケットやレースやベルトが部屋の空気を奇妙に希薄なものにしていた。たっぷりと用意された防虫剤の匂いが、無数の微小な羽虫のように無音の音を立てていた。彼は自分が今ではそんな服を憎んでいることにふと気づいた。

 さて私は、本書をきっかけにして今後も村上作品を追いかけるでしょうか?

 物語全体が醸し出す雰囲気もそうですが、ところどころの微細な表現に、独特の「らしさ」は感じられました。私には文学的素養はまったくないので「評価」などできるレベルでは全然ないのですが、確かに上手な書き手だとは思います。ただ、厚みは伝わってこないですね、軽くてふわふわした印象です。それでいて、つまらないかと言えば、満更そうでもないのが不思議です。

 今回、「もうこれでいいや」と見切る気持ちにまではならなかったので、これからも、村上作品だとあまり意識しないで何冊か読んでみるかもしれませんね。
 

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JALのアメーバ (全員で稼ぐ組織 JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書(森田 直行))

2014-06-22 23:56:44 | 本と雑誌

Jal_logo  レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。

 本書の第2章は、稲盛氏が取り組んだ「JALの経営再建」における”アメーバ経営”の実践の紹介です。

 経営破綻したJALの経営は、稲盛氏から見ると(正直なところ、ここに書かれている状況が事実だとすると、極々普通の企業から見ても、)全くマネジメント不在の状況でした。

(p84より引用) 月次の損益計算書は2ヶ月遅れで出ていたし、100社ある関連会社では月次貸借対照表も作成されていなかったのです。また、経営幹部の誰が利益責任を負っているのかもまったくわからない状態でした。

 その中で、経費のみは「予算消化」的に確実な支出を続けていたといいます。

 稲盛氏が社長に就任して以来、JAL幹部による毎月の業績報告会は別世界のように厳しいものになりました。利益計画を達成していない場合はもちろん、利益計画を達成していても大きく計画から乖離されていると、責任者はそのマネジメントの不十分さを叱責されました。

 そういった会議でのJAL幹部の発言の中で、森田氏が違和感を感じたものです。

(p97より引用) それは彼らが「トレードオフ」という言葉をよく口にしていたということです。「Aをやるのはいいと思いますが、その代わりにBが犠牲になります」という意味で使うわけです。おそらく、以前のJALでは、何か新しいことをやろうという案が出ても、トレードオフという言葉を持ち出せばやらずに済む理由になるし、会議の出席者をそれで説得していたのだと思います。・・・
 もし、京セラグループの社員がトレードオフという言葉を口にしたら、周囲から「両方ともやるに決まっているだろ」と一蹴されて終わりです。AとBの両方を実現する方法を考え、実行に移す。これで改革が大きく前進するのです。

 事業を遂行していく上で「トレードオフ」の状況に直面するケースは極々普通にあります。決して京セラの反応が特殊なのではなく、JALの姿勢が余りにもプリミティブだと言わざるを得ないでしょう。

 たとえば、よくトレードオフの関係にあると言われる「品質とコスト」も、じっくり考えてみると決してトレードオフの関係ではないですね。プロセスを適正化することにより、従来より低コストで品質を高めることは可能ですし、そういう実現例は世の中に山ほどあります。

 私は、「選択と集中」という言葉はあまり好きではありません。
 もちろん戦略としては否定するものではありませんが、余りに使われ方が安易だとの印象を持っているからです。とことん「二兎」を追ったあと、最後の決断として、「ひとつを選択し、それに集中する」ということはあり得ます。

 そこまで突き詰めないと、選ばれなかった選択肢、これに関わっている人に対して「あなたの仕事はなくなりました」との非情な通告をすることなどできません。
 そして、捨てる事業を、上手く幕引きすることはとても難しく、それこそプロフェッショナルな仕事だと思います。
 

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アメーバとフィロソフィ (全員で稼ぐ組織 JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書(森田 直行))

2014-06-19 23:48:45 | 本と雑誌

Amoeba_movie  レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。

 ちょっと前に、稲盛和夫氏の「燃える闘魂」を読んで、その内容の精神性偏重にちょっとがっかりしていたところなので、ある意味タイムリーな著作です。

 本書の著者の森田直行氏は京セラで稲盛氏のもと“アメーバ経営”の仕組みとシステムを構築・推進した方で、JAL再建にも副社長として大いに手腕を発揮されました。
 本書は、稲盛氏の経営手法の根幹をなす“アメーバ経営”の教科書ともいうべき本です。

 まず、森田氏は、「全員経営」を志向する”アメーバ経営”の特徴をひと言でこう説明しています。

(p14より引用) この経営手法の最大の特徴は、採算部門の組織を5~10人という小さな単位(アメーバ)に細分化し、それぞれがまるでひとつの会社であるかのように独立採算で運営することです。

  ”アメーバ経営”を運用していく根幹の仕掛けは、独特の管理会計制度である「部門別採算制度」です。

 最小の採算(利益把握)単位である「アメーバ」は、前工程のグループや関係グループから、自らの価値生産のために必要な資源を擬似的な売買で入手します。また、自らの生産物やサービスを後工程や関係グループに提供し対価を受け取ります。
 この社内取引の仕組みの中で、自己の利益最大化がミッションであるそれぞれの「アメーバ(採算単位)」のグループリーダは、自グループの利益最大化のために、資源を少しでも安く調達し、生産物を少しでも高く売ろうとします。

 従って、関係グループ間では、その取引価格を巡って熾烈なネゴシエーションが行われます。ストレートにいえば、アメーバ間の揉め事が起こるのです。

 ”アメーバ経営”における「揉めたときの判断基準」はこうです。

(p66より引用) 京セラグループでは、この判断基準を、物事の損得で判断するのではなく、善悪で判断すること、つまり「人として正しいか」という道徳観と倫理観に置いています。

 しかし、想像するに難くないのですが、この「判断基準を”道徳・倫理”に拠る」というルールを適切に運用するのは極めて困難です。
 ”アメーバ経営”は、採算単位が生み出す時間当たり利益のΣの最大化を目指す経営手法ですが、この利益という客観的な数値が、道徳的・倫理的に正しい行為によって生み出されたものか否か、それを評価する納得できる仕掛けがないとアメーバ内に不平・不満が蔓延し、仕組み自体が機能しないことになります。

 この点において、”アメーバ経営”を機能させるためには、稲盛氏の説く「フィロソフィ」の全社員への浸透・共有が必要不可欠になるわけです。
 

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動的平衡ダイアローグ 世界観のパラダイムシフト (福岡 伸一)

2014-06-15 09:36:36 | 本と雑誌

Celtart  福岡伸一氏の著作は、「生物と無生物のあいだ」「25歳の補習授業」「フェルメール 光の王国」に続いて4冊目です。
 最初に読んだ「生物と無生物のあいだ」で紹介されていた「動的平衡」というコンセプトのインパクトは大きかったですね。さらに「フェルメール 光の王国」では、分子生物学者という肩書らしくない思想の柔軟さ、文筆力の確かさにも驚いた記憶があります。

 本書は、そんな福岡氏が、文学・芸術・建築・文明・宗教等々多彩なジャンルの論客と語り合った記録です。

 まず、福岡氏は、20世紀前半の生化学者ルドルフ・シェーンハイマーが説いた「生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である」という生命観を紹介し、それをもとに自らの「動的平衡」というコンセプトを復習しています。

(p9より引用) 私はここで、シェーンハイマーの発見した生命の動的な状態(dynamic state)という概念をさらに拡張し、とくに「秩序は守られるためにたえまなく壊されなければならない」ということ、つまり生命とは互いに相反する動きの上に成り立つ同時的な平衡=バランスである、という点を強調する意味で、「動的平衡」という言葉でこれを表わしたいと考えた。・・・生命とは動的平衡にある流れそのもののことである。

 福岡氏によれば、この「動的平衡」というコンセプトは生命観でもありますが世界観でもあるのです。本書で展開されるダイアローグは、この世界観をテーマとしています。

 以下に、様々なジャンルの方々との対話の中から、私が気になったフレーズを覚えとして書き残しておきます。

 まず、小説家平野啓一郎氏との対話の中から“因果律”を話題にしたくだりからです。

(p62より引用) 福岡 ・・・複雑系のような比較的新しい議論も、チョウが羽ばたくとはるか離れた場所で嵐が起こるというように、基本的には因果律を認めています。でも、実際そこにあるのは動的な平衡状態によるある種の同時性だけで、チョウが羽ばたいて嵐が起こることもあれば、起こらないこともある。・・・この世界のすべてがアルゴリズム的に記述できるという考え方は、そろそろ見直さないといけないと思うんです。
平野 因果律的な考え方は、間違いなく文学的な想像力にも染みついていますね。・・・
 本当に合理的に考えれば、この世界はすべて因果律でできているわけじゃないし、アイデンティティも一つでないとわかるはずです。でも、人間は必ずしも合理的にものを考えないんですね。

 このお二人の、因果律に縛られない「揺らぎ」を認めることが“合理的”だという考え方は面白いですね。

 そして、僧侶であり作家の玄侑宗久氏との対話。「仏教」と「科学」との対比です。

(p107より引用) 福岡 ・・・仏教では「色」という言葉を、「相互作用によって生まれる現象」という意味で使ってきましたよね。ものごとの本質を見通す、この洞察力はすごいと思います。それに対して、近代以降の科学は、人類が大昔から何らかの形で気づいていたことを、新しくて格好のいい言葉に置き換えてきたにすぎない。

 仏教は「無常」という概念で、福岡氏が説く「流れとしての生命」を言い当てているとも言えます。

(p108より引用) 玄侑 現代人にとって、自分が観察者となって移りゆく世の中を眺め、「世界は変化し続けている」と思うことは難しくないと思うんです。でも、「そう思う自分も、無常に変化しつつある」と知ることは決して簡単ではない。・・・そのときどきの状況に合わせて揺らぎ、変わっていけることが本当の強さだし、それにはまず無常を受け入れることが大事だと思うんです。

 「無常」は、「変化」を前提としたコンセプトですが、同じく「変わり行くこと」を前提とした会話が、建築家隈研吾氏との間でも交わされています。
 話題は、東北の被災地復興の進め方。マスタープラン作成に時間がかかっている現状について、こう語っています。

(p157より引用) 隈 ・・・「全員が満足するようなマスタープランはできない」という前提に立って、場所に応じてだましだまし復興する形にしたほうがいい。そこでつくるものには、新陳代謝ができる仕組みをあらかじめインプットしておく。そのほうが、はるかに時代に合っていると思います。
福岡 私もそう思います。「だましだまし」は、地上の生物が、38億年の進化の歴史のなかで採用してきた方法でもあります。・・・現代から過去をレトロスペクティブに振り返ると、まるで合目的に進化したように見えても、じつはそのときどきで行ける方向に行っただけ。生命の進化は、転用と代用、バックアップとバイパスの連続です。それこそ「負けた者」の、その場しのぎの歴史なんです。

 このあたりの隈氏の主張は、丹下健三氏に代表される都市計画・都市構想を重視する考え方とは一線を画するものであり、「動的平衡」という福岡氏の提唱する世界観と共鳴するところが多いのだと思います。

 さて、本書を読んでの感想です。
 福岡氏が本書で紹介されている、バラエティに富んだ方々との対話はとても刺激的で興味深いものでした。もう少し福岡氏の仕事を追いかけてみたい気がしますね。

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殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件 (清水 潔)

2014-06-11 22:01:30 | 本と雑誌

Ashikaga_jiken  話題になっている著作なので読んでみました。

 著者の清水潔氏は、現在日本テレビの事件記者です。
 本書は、清水氏が真相を追った5つの事件の実態、特に、捜査・公判の過程における警察・司法の隠蔽体質を世に問うたものです。

 中心は「足利事件」。最高裁で死刑判決を受けた菅家利和さんの再審開始と釈放を勝ち取った著者の取材活動の描写は、もちろん本人の筆であるが故の緊迫感が圧倒的です。

 被疑者の人権を蹂躙し、盲目的な逮捕・検挙至上主義に染められた警察・検察の実態は、本書を読むまでもなくある程度想像していたのですが、やはりこのドキュメンタリが示すリアリティの中では、その理不尽さは倍化されて迫ってきます。

 菅家さんよりも前、同じく冤罪で釈放された免田栄さんの言葉は途轍もなく重いものです。

(p102より引用) 免田さんは収監された福岡拘置所で、70名以上の死刑囚を見送ったと言った。・・・
「あん中には、無罪の人もおったとですよ。私と同じように法律なんて知らんばってん、騙されて自供させられた人もいたとです」やるせない顔でそうつぶやいた。

 本書は、まさにその蓋然性の追求でもあります。
 所轄警察・警察庁・検察庁・裁判所・科学警察研究所・・・、そしてマスコミ。もちろん、これらの組織に従事する人々すべてがそうだとは言いませんが、清水氏が接した関係者の姿は、私たちを悲観的観測に導く以外何ものでもありませんでした。

 そして最後に、本書を読んで一言。

 本文の引用を憚られるほどに深く私の心に突き刺さったのは、足利事件の被害者4歳の松田真美ちゃんの母ひとみさんと姉を知らない2人の妹弟が、事件が起こった渡良瀬川の現場を訪れた場面でした。

 清水氏ならずとも、このご遺族たちの姿と言葉に触れて心動かない人はいないでしょう。
 

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欧州のエネルギーシフト (脇阪 紀行)

2014-06-07 10:48:20 | 本と雑誌

Akws_weltkarte  ちょっと読む本が切れたので下の娘に相談したところ「これはどう?」と出してきてくれた本です。高校の先生から勧められたとのことですが、新品同様の外観からみると、どうも読んだわけではないようですが・・・。

 内容は、原子力発電への姿勢をはじめとして再生エネルギーへの取り組み等について、主要ヨーロッパ各国の対応を実際の現地取材により明らかにしたものです。東日本大震災とそれに続く福島第一原子力発電所事故後間もない時期の著作ですから、問題に対する真剣さは最大級です。

 ヨーロッパの中でも原子力発電に対する姿勢は国によって様々です。フランスのような推進派もいればドイツのように原発撤廃に動き始めた国もあります。

 「第一章 苦悩-原発を切り離せない構造」で紹介されている北欧フィンランドは、地勢がら風力や水力といった環境負荷の小さいエネルギーには期待できません。そのため、ある程度の原子力発電には頼らざるを得ない状況です。
 そのフィンランドでエネルギー行政に携わっている雇用経済省リク・フツネン氏は、福島第一原子力発電所事故に関して、非常用発電機の設置場所等、日本の安全技術の取り入れ姿勢等に言及したあと、日本が追随しているアメリカ流の原子力安全文化と欧州とのそれを比較してこう語っています。

(p6より引用) 「原発は政府の規制に違反していない。そういう法律論からアメリカは原発の安全性の論理を組み立てるが、それでは現実の原発の安全は保たれません。原発の安全性を高めるためには技術的な検討を重ね、現場での改善を続ける。欧州にはそんな「原子力安全の文化」があると自負しています。」

 ドイツは、従前より最も原子力撤廃に意欲的な政策をとっていましたが、メルケル政権下、脱原発路線の修正を図ろうとしました。その矢先、福島第一発電所の事故が発生しました。
 2011年5月30日、ドイツ国内各界の有識者らによる「安定したエネルギー供給のための倫理委員会」は「約10年以内に脱原発を行うのは可能であり、望ましい」とする勧告を示しました。その会のメンバであったベルリン自由大学M・シュラーズ氏は、こう語っています。

(p74より引用) 「ドイツは脱原発を、単に政策や技術の問題ではなく、倫理や科学のあり方の面からとらえようとしている。・・・倫理委では電力価格や技術的な問題に多くの時間を割きましたが、基本にあったのは倫理的な見方からの議論だったと思います。」

 この発言はとても興味深いものです。人々の将来の、それもかなりロングレンジの生活に関わる政策の議論において“倫理的”な観点で基本的な方向性が決せられるというのは、とても大事なことだと私は思います。

 エネルギー問題への対処は当然国家レベルの取り組みになります。国としての意識統一が極めて重要ですが、当然それは、国民一人ひとりがどのくらい当該問題を我が事と真剣に捉え行動するかにかかっています。
 このあたり、地勢的にも比較的小さな塊である北ヨーロッパの小国は、国としての進むべきベクトルがしっかり根付いているようです。

 その中の1国、自然エネルギー立国を目指すデンマーク
 中東戦争勃発に伴う第一次石油危機で原油価格が暴騰した1973年は、多くの国々にとってエネルギー政策の転換点であった(はずの)年でした。

(p160より引用) デンマークの当時の状況も日本と似ていた。石油危機の後、九割を超える原油の輸入依存度を下げようと政策転換へ踏み出した。しかしその方向は日本と大きく異なった。・・・
 経済大国として得た外貨を手に化石燃料やウラン燃料を買い求める日本。それに対してデンマークは、臆病なまでにこつこつとエネルギーの無駄を省き、再生可能エネルギーの利用拡大に力を振り向けてきたとの印象さえ受ける。

 また、環境共生都市の構築を進めているスウェーデンの取り組みも、日本の現状を鑑みると「あせり」さえ感じさせるものです。 

(p182より引用)環境との共生とは、古いシステムを守り続けることではない。むしろ非効率的なものを破壊し、未来の新たなシステムを創り出すことが必要だということを、スウェーデンの経験は教えてくれている。

 原子力発電の存続or廃止がどうであろうと、すなわち「エネルギー生産」の今後のポートフォリオがどうであろうと、今後の地球という生活環境を生存可能な状態に保ち続けるためには、「エネルギー消費」を抑えることは絶対条件です。

 本書を読んでの最大の気づきは、すでにヨーロッパの多くの国々では、地球的規模の課題であるエネルギー問題への具体的対応として「今の生活スタイル、すなわち価値観」そのものを根本的に変え始め、それを社会・都市政策として着々と具現化しているという事実でした。
 このヨーロッパの切迫感に対し、日本は決定的に出遅れているのです。

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チームの「やる気スイッチ」を入れる5つの方法 自ら動き出す自立型スタッフの育て方 (徳永 拓真)

2014-06-03 22:04:53 | 本と雑誌

Switch  レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。
 組織活性化を目指すマネージャ層を対象とした典型的なHow To本です。

 テーマは、まさに「タイトル」そのものです。
 著者は、組織のスタッフを「5つのステージ」に分類し、そのそれぞれのステージごとに、スタッフ自らが能動的に動き始めるトリガを示しています。

(p8より引用) やる気のスイッチを入れる方法を100個知っていたからといって、使いこなせなければ意味がないのです。
 重要なのは、次の2つ。
①それぞれのスタッフがどのステージにいるのかをきちんと把握すること
②それぞれのステージに合った「やる気スイッチ」の入れ方を知っていること

 この2つが揃っていないと、スタッフのやる気のスイッチを入れることはできないのです。

 こういう問題意識がベースにあるので、著者が本書で紹介している内容は、かなり実践的です。
 5つステージの人物イメージもリアルですね。こんな感じです。

 第1ステージ 「無責任な”デモ隊ステージ”」、
 第2ステージ 「愚痴仲間が多い”愚痴集団ステージ”」、
 第3ステージ 「会社に必要な”忠犬ハチ公ステージ”」、
 第4ステージ 「プロ意識にあふれた”大将ステージ”」、
 第5ステージ 「複数のチームを束ねる”大親分ステージ”」、

 そして、それぞれのステージに合わせて、自らが気づき行動を起こすヒントとして「具体的な質問」を紹介しています。この質問が、本書の肝です。
 質問により、考えるべき観点・切り口を明示し、自らの頭で考えさせる、さらに、その回答を書き出させることにより、その後の実行への義務感を植えつけるという方法です。

 しかし、この手法を徹底して導入するのは、かなり大変だろうというのが、私の第一印象です。いくつもの質問の回答を、それも複数書き出すというのは、(特に、低いステージのメンバにとっては)ハードルが高いと思います。
 ただ、その点は、著者も意識していて、メンターや指導者によるサポートの必要性も指摘していますし、最初から全ての質問に答え切るということを求めてもいません。
 要は、自分の現時点の立ち位置を自覚させ、今後目指すべきステージに昇るための具体的な行動を自らの頭で考えられるような「癖」をつけさせることです。

 しかしながら、多くのメンバは、本書を読んでも、自立的な行動を取るようにはならないでしょう。
 本書を読んで、本書で紹介されている方法を自ら実践し独力で自立できたとすると、その人は、すでに(本書を読む前から)十分な問題意識と自立心を持っているのです。本を読んでそこに書かれていることを実践するというのは、かなり高度な能動的姿勢です。そういう素地があるから、その人は自ら変われるのです。本は、その少しの手助けに過ぎません。

 やはり、本書は、そういった姿勢を持つメンバを育てるための「マネージャー」向けの本ですね。
 とすると、最終的には、マネージャーのメンバ育成に対する本気度が問われることになります。これが、また難物です。
 

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