OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

紳助さんのビジネスのヒント (ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する(島田紳助))

2008-01-31 23:10:06 | 本と雑誌

Photo  紳助さんが本書で紹介している自らの「商売の秘訣」は、いわゆるマーケティングの教科書的なセオリーから見たとき、どう評価できるでしょう。
 紳助さんならではの語り口で語られていますが、その内容は、結構オーソドックスなものです。

 それらの中で、私の関心を惹いたいくつかのフレーズをご紹介します。

 まずは、「紳助さん流の会員制」の着眼についてです。

 
(p52より引用) 僕は、お客さんにたくさん入ってほしいからこそ、厳格な会員制にして敷居を高くした。
 なぜなら、バーというものは、お客さんが作るものだからだ。
 どんなに店の内装に凝って、優秀なバーテンダーを置いて、いい酒を揃えたって、1人でも大声で騒ぐお客さんがいたらすべては台無しになる。・・・
 賑やかなのに、品がいい。誰もが心からくつろいで、サラリーマンが1日のストレスを発散できるバー。しかも毎日行っても、財布の負担にならないくらい安い。
 どうしたらそういうバーを作れるか、考えた結果が会員制だった。

 
 ここでのコンセプトは「優良顧客の囲い込み戦略」の一つのヒントになります。

 この「囲い込み」をさらに堅固なものにするために、差異化の要素を加えます。

 
(p54より引用) もちろんそうはいっても、会員制なんて面倒なシステムにするからには、それでもお客さんがウチのバーに来たいという付加価値がなければいけない。
 その付加価値がフォークソングだ。

 
 私も年代的には近いので、このあたりの着眼には、結構シンパシーを感じます。

 その他、思いつきから実際の起業にもっていくまでの、思いのほか?堅実な考え方について。

 
(p85より引用) 単なる思いつきでしかないものを、実現可能なアイデアに成長させるには、しっかりした情報が必要だ。
 300円でとびきり美味いラーメンを食べさせる店を見つけたら、その店がどうして300円でやっていけるのかを正確に分析すれば、それがアイデアにつながる。

 
 最後に、お客様が払う「値段」に、その「満足感」を収斂させる考え方について。
 これば、関西芸人の紳助さんらしいストレートなコメントとも言えますが、おそらく「商売における真実の瞬間」の本質的な姿かもしれません。

 
(p132より引用) 客というものは、いつも無意識のうちに、自分の感じた満足感と値段とが見合っているかどうか判断しているのだ。・・・
 客は料理だけを食べているわけじゃない。店の人の気持ちも一緒に食べているのだ。
 そしてどんなに頑張って美味しい料理を出そうとも、最後の勘定で納得させられなければ、すべては台無しになる。料理を売るのが料理屋の商売である以上、値段は店の良心そのものだからだ。

 
 お店が、「値段」で表わしているものが何なのか、「高い値段」とはお客にとって何なのか・・・

 
(p136より引用) 金を持っているやつほど偉く感じるというのと同じで、高い料理を出している料理人ほど偉いという錯覚がここにもある。
 それは料理屋に限らず、どんな商売でも同じだ。
 そして、商売人のそういう考え違いを、客は冷ややかな目で見ている。

 
 おそらく、ほとんどのお客はそうでしょう。

 しかしながら、「高い値段を払った」「高い値段の店に行った」ということ自体に何がしかの「価値」を感じているお客が存在していることも、また現実ではあります。

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紳助さんのビジネス哲学 (ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する(島田紳助))

2008-01-27 14:27:12 | 本と雑誌

Tomuru  いつも読書の参考にさせていただいている「ふとっちょパパ」さんも読まれたようです。

 タレント島田紳助さんの、自身のサイドビジネスを材料にしたエッセイ風の読み物です。
 商売成功の秘訣を語っていますが、それはそのまま紳助さんの人柄を映し出しているようです。

 紳助さんのビジネスにおいては、「仲間」が大きなウェイトを占めています。
 成功の順序は、仲間(=従業員)が一番です。

 
(p43より引用) 商売の成功と従業員の幸せになれば、商売はさらに上手くいく。商売がさらに上手くいけば、従業員はさらに幸せになる・・・。
 それならば経営者はまず最初に、一緒に働く仲間の幸せを考えるべきだ。
 みんなが幸せなら、経営者である自分も絶対に幸せになれるのだから。
 みんなが幸せにならなきゃ意味がない。

 
 さらに、「仲間のため」が「世のため人のため」といった方向に拡大して行きます。

 
(p143より引用) ビジネスに勝つためにも、自分の楽しみのために、仲間の幸せのためにビジネスをするのだ。さらにいえば、ちょっとでも世のため人のためになればいいと考えながらビジネスができたらもっといい。
 そうすれば視野が広くなる。ビジネスの落とし穴にはまる危険も回避できる。発想が自由になるから、自分の商売の欠点も見えやすいし、新しいアイデアも湧いてくる。そして世のため人のためになるということは、世の人から支持されるということだから、お客さんにたくさん来てもらうためにも、それは大切な心がけなのだ。

 
 紳助さんのビジネスの成功は「ゴール」ではありません。
 紳助さんのビジネスは、それにかかわった「仲間」にとって、自分自身の夢をかなえるための貴重な礎となるのです。

 
(p149より引用) 1つのビジネスが、一緒に働いているすべての仲間それぞれの夢をかなえるためのジャンピングボードであることができたら、そのビジネスは間違いなく成功する。

 
 もうひとつ、紳助さんは、ビジネスの成功の秘訣として、「素人のチャレンジ精神」をあげています。

 
(p107より引用) 経験者は何かと言うとすぐに常識を持ち出す。・・・
 今の世の中、商売で成功している人なんてほんの一握りなのだ。そんな同業者やプロの集まった失敗だらけの業界の常識がなんぼのもんや。
 僕に言わせれば、そんな常識はみんな失敗するための常識だ。
 常識にとらわれていたら、常識通りのことしかできない。みんなと同じような結果しか出せないに決まっているではないか。
 どうしてそんな簡単なことがわからないのだろうと、いつも不思議になる。

 
 もちろん、現実的には「先人の知恵に学ぶ」ことは無意味ではありません。その先人の経験を踏まえて、自分自身で判断すればいいのです。
 そのあたり、紳助さんももちろん分かっています。

 
(p71より引用) 真似をしてもいい。だけど、自分の発想でやれということだ。
 台本は自分で書かなきゃいけない。

 
 さらに、分かっていてなお、前進を勧めます。

 
(p159より引用) 他人の話を聞かない人間は壁に当たる。
 けれど、他人の話を聞く人間は前に進めないのだ。

 なにかをするときには、壁に当たることを恐れてはいけない。いや、恐れてもいいのだけれど、当たるからやめようではなくて、当たるから当たっても大丈夫なように準備をしておけばいいのだ。

 
 決して、無謀な突進ではありません。

ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する―絶対に失敗しないビジネス経営哲学 (幻冬舎新書 し 4-1) ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する―絶対に失敗しないビジネス経営哲学 (幻冬舎新書 し 4-1)
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プロセスのつくり込み (なぜ社員はやる気をなくしているのか(柴田昌治))

2008-01-26 18:34:16 | 本と雑誌

 環境は変化します。その変化に追随するためには、さらにその変化を先取りするためには、常に変わり続けなくてはなりません。
 企業に「変革」が求められる所以です。

 変化は動的なものです。したがって、企業のアクションは動的なもの、すなわち「プロセス」に結晶化されるべきです。

 著者は、その「プロセスのつくり込み」において、一人ひとりの「内発的動機」が絶対的に必要不可欠だと指摘します。

 
(p24より引用) 大切なのは、立派な方針がつくられているかどうかではなく、改革の「プロセスがつくり込まれていくかどうか」なのだ。このプロセスのつくり込みには、質の高い徹底的な議論が不可欠だから、かかわる人々の主体的な参加が求められる。つまり、内発的動機を伴った参加なしに、つくり込みが成立することはありえない。プロセスは儀式ではつくり込めない、ということだ。

 
 たとえば、種々議論されている「成果主義」の評価についても、そのめざすところの是非ではなく、その導入に至るプロセスの適否に重きを置くのです。

 
(p29より引用) 成果主義という考え方自体が問題なのではなく、その背景にある価値観がみんなに共有されていくプロセスを大切にして導入されたかどうかが問題なのである。

 
 著者は、本書の中で「内発的動機」を生み出すための具体的方法をいくつか提示しています。

 そのひとつが「セーフティネット」です。

 
(p138より引用) セーフティネットとは
 個人の一歩を踏み出す勇気を下支えする安心感を生み出す、「経営や上司への信頼感」「同僚への信頼感」のこと

 
 一人ひとりが安心して自分の考えを表明できるような場や雰囲気を作り上げるのです。
 キーコンセプトは「信頼」です。

 この「セーフティネット」を実際的に機能させる重要な要素として、「スポンサーシップ」があります。上司には、「社員一人ひとりが改革の主役になるための機会を演出する」という役割があります。

 
(p148より引用) スポンサーシップとは、このような「持続性のある改善力」をつくり上げていくリーダーシップのことなのだ。持続力のある改善力をつくり上げるには主体的な取り組みが不可欠であり、そのためには内発的な動機づけがどうしても必要になる。スポンサーシップというのはまさに、社員の内発的な動機を引き出してゆくリーダーシップのことなのだ。

 
 とはいえ、やはり変革するということは簡単なことではありません。

 
(p221より引用) 変革と言うと、「よくなっていくこと」だと単純に理解している向きがあるが、そう単純ではないのだ。確かに長期的に見るなら「よくなっていくこと」なのだが、だからといって、けっして一直線によくなっていくものではない。途中には必ずといってよいほど紆余曲折がある。

 
 「変える」ということは、今までのやり方を否定することでもあります。
 「変える」ためには「考え」なくてはなりません。

 
(p221より引用) 多くの場合、対話の機会が増えると、考える機会も増えてくる。しかし、考えることが習慣化してくると、最初に現れるのは、多くの場合、成果ではなく混乱である。なぜかと言えば、今まで隠されていた問題が顕在化してくるためである。「どうせ言っても仕方がない」とあきらめていた問題が「なんとかならないか」と表に出てくる。

 
 この混乱を、現状を乱す「破壊的混乱」として否定するか、改善の過程の「建設的混乱」として支援するか。

 関係者が「内発的動機」に基づき知恵を出し合ってつくり込んだプロセスであるならば、生みの苦しみは、必ず報われます。
 仮にそのプロセスに新たな問題が発生したとしても、継続的変革のサイクルが駆動されるはずです。

 

なぜ社員はやる気をなくしているのか なぜ社員はやる気をなくしているのか
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発売日:2007-05-16


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問題はあるのが当然 (なぜ社員はやる気をなくしているのか(柴田昌治))

2008-01-20 19:02:18 | 本と雑誌

 いつも読書の参考にさせていただいている「ふとっちょパパさん」も以前読まれています。

 著者の柴田昌治氏が以前著した「なぜ会社は変われないのか」という本は、私も読んで見ましたが、中央官僚の間でも大評判になった当時ベストセラーでした。気楽にまじめな議論をする「オフサイトミーティング」という発想は参考になりました。

 本書は、柴田氏にとって久しぶりの書下ろしとのことです。

 まず、柴田氏は、最近の企業の不祥事・学校のいじめといった事象をとりあげ、それらの問題の根本には、「問題がないことをよし」とする固定観念があると指摘します。

 
(p19より引用) 中身よりも形式を重んずる人々の考え方、すなわち問題を顕在化させ、問題があるという事実と向き合うのではなく、問題があっても表ざたにしないことで建前上は問題がないことにしてしまう姿勢の中に、組織を停滞、退化、腐敗させていく病原菌が潜んでいる。

 
 「問題がないのが問題」というわけです。

 最近流行の「見える化」は、問題があることを前提にして、その問題を顕在化し共有するための具体的手段だといえます。

 
(p66より引用) 見える化に取り組む際のポイントは、問題はなるべく初期段階で見つけ、それを応急処置で済ませるのではなく、問題の根本的な原因まで踏み込んで解決しようとするところにある。・・・
 問題があること自体を問題と考えてはいけない。どんな組織にも問題はあるのだから、問題があることが問題なのではない。問題が見えてくること自体はきわめて望ましいことなのだ。

 
 著者がめざす「変革」とは、「一時のもの」ではありません。
 「継続的なプロセス」です。

 
(p68より引用) 変革とは、ただ単に「今見えている問題を解決する」という単純なことではない。「問題がつねに発見され、解決され続けていく絶え間ないプロセスが組織に内包されている」状態をつくることなのである。こうした組織には組織を進化・発展させていく価値観が宿っている。

 
 この継続的プロセスを「つくり込む」のが難しいのです。
 これは、外からの働きかけだけでは絶対にできません。一人ひとりの「内発的動機」が最大のポイントとなります。
 

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絶望の精神史 (金子 光晴)

2008-01-19 16:19:41 | 本と雑誌

 金子光晴氏(1895~1975)は、愛知県生まれの昭和期の詩人です。

 本書は、以前、坂口安吾氏の「日本文化私観」を読んでから、似たような系統の本として、ちょっと気になっていたものでした。

 さて、本書のテーマ、金子氏の抱いている問題意識です。

 
(p32より引用) これからの日本人の生き方はむずかしい。一口に、東洋的神秘とよばれていた不可解な部分を、日本人もたしかにもっていた。・・・それに、なにかの実用価値か芸術価値があるにしても、それ以上に神秘な、深遠なものと解釈し、日本人の精神的優位を証明する道具に使われたりすることは、日本人自身としても警戒を要することだ。それは、日本人を世界からふたたび孤立させようとする意図にくみすることにほかならない。日本人の無気味な微笑とか、わからぬ沈黙とか、過度な謙譲とか、淫酒癖とか、酒のうえのことを寛大にみるへんな習慣とか、それがみな島国と水蒸気の多い風土から生まれた、はかない心象とすれば、日本人がしっかりした成人として生きてゆくために、自ら反省し、それらの足手まといを切り払い、振り捨てなければならないのだ。
 そのためにこそ、日本人の絶望の症状を、点検してみなければならない。

 
 本書は、明治から戦後期に至る日本に対する批判的エッセイです。

 同時代をエトランゼ的に生きた著者自身の経験から、鋭い切り口の痛烈な言葉が次々と発せられます。

 たとえば、明治期の教育環境が生んだ悲劇に関して。

 
(p75より引用) 階級制の社会では考えも及ばなかった新しい機会均等の自由競争が、明治の親たちの心に、子どもに対して高望みを期待するようになったなりゆきを、加算しなければならないのだ。

 
 また、関東大震災が顕かにした「日本人の原型」について。

 
(p122より引用) この災害によって、何かが大きくこわれた。その何かをはっきりさせることが、重大なことなのだ。
 わずか、無秩序混乱の幾十時間のあいだに、大正人のきれいなうわっつらがひんめくられ、昔ながらの日本人が、先方から待っていたとばかりに、のさばり出てきたのだ。それは、僕ら自身のなかから、拘束し、干渉するものがいないとわかって、無遠慮に、傲慢に、鎖をはずされたならず者のように、口笛をふきながら、あたりをしり目にかけて出てきた、ほんとうの日本人なのだ。

 
 著者は、明治から終戦後までの日本近代史を、ザックリとふたつの対照的なコンセプトで概括します。

 
(p188より引用) 明治維新から終戦までの、紆余曲折にみちた日本のありかたを、人びとは、ほぼ二つの相反する立場からながめている。
 列強のあいだにあって、その餌食とならないためには、先進国にならって、実力をもって列強と競争してゆくほかなかったので、勝ちぬいたあとの終盤で敗けたのは、本懐と言うべきであるという見方が一つ。つまり、「明治百年」をよしとする見方である。もう一つは、日本は、列国のあとにくっついて帝国主義をおしすすめ、朝鮮を併合し、満州やモンゴルから北中国を侵略しようとして泥沼に落ち、太平洋とビルマで惨敗して、城下の誓いをさせられ、百年の野望が破れた。それを幸いとして、その後は平和設計に切りかえた、それからの日本のありかたこそ、正しいものであるという、「戦後二十年」をよしとする説とである。
 僕としては、この明治百年説にも、戦後二十年説にも、手放しで賛成することはできない。そのどちらにも、警戒すべき点が多いからである。

 
 どちらの考え方にせよ「右向け右」で全員そろって一気に右に向いてはまずいのです。
 明治の富国強兵期、戦後の復興期といった一時の繁栄に過度に傾倒してはだめなのです。

 
(p190より引用) 日本人の誇りなど、たいしたことではない。・・・世界の国が、そんな誇りをめちゃめちゃにされたときでなければ、人間は平和を真剣に考えないのではないか。

 
 著者のいう「絶望」は、現実を受け止めた「大いなる反省」なのかもしれません。
 

絶望の精神史 絶望の精神史
価格:¥ 987(税込)
発売日:1996-07


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プロタゴラス‐ソフィストたち (プラトン)

2008-01-16 22:55:21 | 本と雑誌

Sokrates  プロタゴラス(Protagoras 前480?~前411?)は、「人間は万物の尺度である」との言葉で有名なギリシャの哲学者です。
 前445年ごろアテネにおもむき、政治家ペリクレスの友となって、教師および哲学者としての名声を得ました。彼はソフィストを自称し、教育を施す報酬として少なからぬ金銭を受け取った最初の思想家だと言われています。

 本書は、そのソフィストの長老プロタゴラスとソクラテスとの間で交わされた「徳」をテーマした対話編です。

 
(p183より引用) ここに描き出されているのは、直接的には、紀元前五世紀の後半‐前443/2年ころ‐のアテナイにおける、ソフィストたちをめぐる時代の一般的な空気であり、そしてそこにソクラテスが関わり合うことによってつくり出される、ある意味ぶかい状況である。

 
 プロタゴラスとソクラテスの議論の方法は全く異なっていました。

 プロタゴラスは長弁舌をふるい、ソクラテスは短い問いと答えを繰り返すやり方です。
 そこで、議論の仕方について、ヒッピアスが以下のような提案をしました。

 
(p91より引用) 審判官なり監督役なり議長なりを選んで、あなた方のために、あなた方がそれぞれ発言するにあたって、適切な長さを守るように監視してもらおう

 
 この提案に対して、ソクラテスはこう逆提案をします。

 
(p93より引用) もしプロタゴラスが答えたくないのなら、この人のほうから質問してもらうことにしよう。そしてぼくは答えるほうにまわり、そうすることによって同時に、答え手となる者はぼくの主張によるとどういうふうに答えるべきかを、彼にわかってもらうようにつとめよう。そして、この人が質問したいと思うだけのことに、全部ぼくが答えてしまったら、今度はこの人に、同じやり方で答を提供してもらうことにしよう。

 
 以降、このソクラテスのペースでの語論が進みます。

 二人の議論によって、本書のテーマである「徳」の本質は「知」であることが導かれていきます。
 ここにおいても、ソクラテスの「知」に対する厳しい姿勢が表れています。

 
(p200より引用) 「悪いとは知りながら・・・」という言い方には、「知る」ということについての甘えがある。ソクラテスのいわゆるパラドクスは、ほんとうに知っているのなら絶対に行なわないはずではないかと、この甘えをきびしく禁止するのである。

 
 さて、本書の中で、今に照らしても「そのとおり」と感じた点をひとつ。

 
(p23より引用) いろいろの知識を国から国へと持ち歩いて売りものにしながら、そのときそのときに求めに応じて小売りする人々、そういう人々もまた、売りものとなれば何もかもほめたたえるけれども、しかし中にはおそらく、君、自分で売ろうとするものについて、そのどれが魂に有益であり、有害であるかを、知りもしないような連中がいるかもしれない。・・・
 だから、君がもしもそういった彼らの売りもののうちで、どれが有益でどれが有害かをちゃんと知っているのだったら、いろいろな学識を買い入れるということは、それがプロタゴラスからであろうと、ほかの誰からであろうと、君にとって別に危険がないわけだ。だが、もしそうでないのなら、君、何よりも大切なものを危険な賭にさらすことのないように、よくよく気をつけたほうがいいよ。

 
 ソフィストは、最古の「国際コンサルタント」だったのです。
 多額の報酬を求める点でも・・・。
 

プロタゴラス―ソフィストたち (岩波文庫)
価格:¥ 588(税込)
発売日:1988-09


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実行のヒント (すごい「実行力」(石田 淳))

2008-01-14 14:29:43 | 本と雑誌

 本書は、「実行力」を高めるため、すぐに取りかかれる具体的な方法を紹介したTips集です。

 著者によると、本書の内容は、「行動科学マネジメント」というビジネスメソッドに基づいているとのことですが、その説明において堅苦しい学術論は登場しません。
 むしろ、本書で示された著者の、一貫して「精神論」を排除した考え方が、この手法の活用のし易さを高めているように思います。

 本書は、「行動」という切り口ですべての論旨が統一されています。
 その「行動」の駆動力として「インセンティブ」と「モニタリング」を活用しているという点では、全く新たな方法論の提示というよりは、立論のベクトルはむしろ王道に沿ったものだと言えます。

 さて、本書を通読して、1・2、私としても改めて再認識させられた指摘がありました。

 まずは、「言葉で表わすこと(言語化)の大事さ」について。

(p122より引用) 行動科学マネジメントでは、実行できない理由を次のように定義しています。
①やり方がわからない
②やり方は知っているが、続け方がわからない

 
 実行力を持続/継続させるためには、自らの行動が明確でなくてはなりません。明確かどうかは、第三者にも正確に伝えられるかどうかです。

(p125より引用) 自分で決めた目標を、いざ実行しようとするとき、効果的なのが「言語化」です。
 ここでいう言語化とは、やるべき行動を第三者にもわかる言葉で具体的に表現することです。

 
 もうひとつ、「チェックリストの使い方」について。

 チェックリストは、望ましい行動がとれているか、それが習慣化しているかを確認するためには極めて有効なツールです。

(p136より引用) チェックリストを利用する上でもうひとつ注意点があります。
 それは「できていないところを見つけて反省するツールではない」ということです。・・・
 「チェックの数がまた増えた」「この項目はもう完全に身についた」という具合に、常にプラス評価することを考えます。これがチェックリストの正しい使い方です。
 チェックリストのいいところは、小さな成果を積み重ねて達成感を得られることです。

 
 チェックリストは、「自分を肯定して日々の成長を確認するツール」だという指摘です。

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行動の習慣化 (すごい「実行力」(石田 淳))

2008-01-13 19:22:06 | 本と雑誌

 「実行力」を高めるためのHow To本ですが、How Toに特化して簡潔にポイントが紹介されています。

 基本としている手法は「行動科学マネジメント」です。

(p18より引用) 行動科学マネジメントにはいくつもの特長がありますが、最大の特長は「結果だけでなく行動(プロセス)にも焦点を当てていること」です。

 著者が薦める「行動科学マネジメント」は、行動の「習慣化」を目指します。

(p59より引用) 習慣化するまでは真の意味で「実行力」がついたことになりません。自分の目的を正しく理解し、無駄なく達成するために二つのルールを徹底してください。
 強化は「すぐに」「確実に」。これが鉄則です。

 著者は、あくまでも「行動」を対象として実行力を高める方法を紹介していきます。
 「やる気」とか「根性」といったいわゆる「精神論」は一切排除です。

(p64より引用) 改善すべき行動が明確になったら、それを「ターゲット行動」と位置づけます。・・・
 ターゲット行動を増やす(減らす)ために何をするか。これがセルフマネジメントの本質的なテーマです。・・・
 あなたにとってのターゲット行動がはっきりしたら、その行動ができていない理由を検証します。

 対象は「行動」に絞られていますが、ここで説かれている基本的な方法論は、数値目標をたて、それを毎日地道に実行していく、その日々の積み重ねで行動を習慣化し、効果を定着させるという極めてまともなやり方です。

 大事なことは、「行動」を起こさせること。そのための手法が、「インセンティブ(動機づけ)」と「成果の可視化」です。

 著者はその点を以下のように説いています。

(p145より引用) 「行動のあとにメリットが待っている」という因果関係のルール化と、行動データのビジュアル化。この両輪がそろったとき、行動反応率を維持し、さらに行動反応率を高める理想的な環境が整います。つまり「実行力」が高まるのです。

 ポイントは、ともかく「行動」です。行動を機械的に起こさせる環境を重視します。

(p151より引用) 自分を根本から変えるには、まず行動を変える必要があります。
 行動を変えるには、行動するための環境を整えること。すなわち自分を意図的に動機づけし、自発的意欲を高める環境を作ることです。

 そして、次には、その行動を行なったかという取り組み状況のモニタリングになるのですが、著者は、その成果把握を単なる数値で押さえるだけでなく「ビジュアルに表わす」ことを薦めています。

(p79より引用) 自分の行動をビジュアル化することは、自発的に行動する動機のひとつとなるのです。せっかく測定するのですから、得られたデータをグラフ化し、より有効に活用しましょう。

 常に目に入るようにしておくこと、そして、日々の成長を確認できるようにしておくことが重要だと言うのです。

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不都合な真実 ECO入門編 (アル・ゴア)

2008-01-09 00:10:20 | 本と雑誌

Kankyo  本書は、いつも読書の参考にさせていただいている「ふとっちょパパ」さんも紹介されています。

 環境問題については、私も、以前、武田邦彦氏の「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」という本を読んだりしていますが、本書は、地球環境の問題、とくに地球温暖化をテーマに、その現状を数多くの写真で視覚的・直裁的に紹介しています。
 科学的な根拠や因果関係の説明はほとんどなく、効果的な写真や図表で著者の主張を伝えていきます。

 著者は、元アメリカ副大統領。
 一般の読者への訴えは、お手の物です。

 事実を隠し、自らの都合に合わせて情報操作する力に対して。

(p158より引用) 「真実を否定してはならない」
マーク・トウェインのこの言葉は、私たち人間が自然との衝突コースに乗ったままでいるのはなぜなのか、そのもう1つの理由を説明しています。つまり、気候の危機が存在していることを認めたくない人々がいるのです。

 また、人々の行動を喚起させる訴えとして。

(p166より引用) 温暖化に関するもう1つの大きな問題は、「否認」から一挙に「絶望」へと、その中間地点で足を止めることなく飛んでいってしまう人々が、驚くほど多いことです。そう、確かに危機はあります。しかし私たちは、手を打つことができるのです。

 科学的に因果関係が証明された原因が何であるかを脇においたとしても、事実としての「環境破壊」は地球上のありとあらゆる地域で起こっています。
 これが将来にとってよい兆候であるはずはありません。

 よくないと思ったら、できることから行動しましょう。
 たとえば、「緑のgoo」

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毎日の検索で環境貢献

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不都合な真実 ECO入門編 地球温暖化の危機 不都合な真実 ECO入門編 地球温暖化の危機
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敗因と (金子 達仁 他)

2008-01-06 15:31:43 | 本と雑誌

 私自身サッカーは大好きなので(とはいっても、今は到底プレーはできませんが、)ちょっと気になって手に取った本です。

 サッカー関係のルポでは定評のある金子達仁氏をはじめ、3名のライターによる2006年ドイツワールドカップ日本代表をテーマにしたノンフィクションです。

 ワールドカップでの一次予選敗退の原因を、のべ50人の選手・関係者をインタビューから解き起こそうとしたものですが、概ね一般的に流布している内容に止まっているいうのが第一印象です。むしろ、この話題に詳しい人たちにとっては、具体的な新情報があったのかもしれません。

 まあ、私のような「素人サッカーコメンテータ」から言わせていただければ、ドイツ大会の敗因は、ともかく「個々の選手の『力』がワールドクラスではなかった」という当たり前の点に尽きると思っています。

 もちろん、ここでいう「力」の定義が問題です。技術面、体力面、精神面、人格面・・・。

 少なくとも技術面・体力面は、セリエA、リーガ・エスパニョーラ、プレミアリーグ等で常時出場している選手たちのプレーを見るだけで、日本の選手のレベルがどの程度なのかはどんな人にも見当がつくはずです。

 精神面や人格面で、本書にあるような実態であったとするとワールドカップ本選出場以前のレベルであると言わざるを得ないでしょう。

 ただ、本書の内容だけで、個々の選手を云々するのはフェアではありません。
 本書は、「全世界50人に及ぶ選手・関係者を徹底取材」を売りにしているようですが、残念ながら、当の日本代表であった選手からの肉声のコメントは極くわずかでしかありません。


敗因と 敗因と
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2006-12-15


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なぜ日本人は劣化したか (香山 リカ)

2008-01-05 17:33:49 | 本と雑誌

 著者の香山氏は、各種メディアへの露出の多い精神科医です。
 新書版を中心に数多くの著作があるようですが、今までは1冊も読んだことはありませんでした。
 本書は、たまたま図書館の「新着図書」の棚にあったので手にとってみたのです。

 内容は、最近の日本の社会的な傾向を「劣化」というコンセプトで括りだし、その背景や問題点等を論じたものです。
 「活字の劣化」「モラルの劣化」「若者の『生きる力』の劣化」等々・・・、いくつもの「劣化」が紹介されていますが、その中でも、著者は「寛容の劣化」に着目しています。

(p111より引用) 70年代、80年代に広がった社会的に弱い立場の人たち、少数者たちの自由や権利を認める考え方全体が、どんどん狭量化する社会では、受け入れがたいものとなっていったのだ。
 言ってみれば、「寛容の劣化」といった現象が起きている。・・・劣化は個人のレベルや文化産業のレベルではなく、社会全体の動きとして、いわば地殻変動のように起きていると言わざるをえないことがわかる。

 ただ、どうも著者の論拠や立論は、納得感が今一歩です。

(p124より引用)  どうやら、社会の衰退、劣化は日本に限った現象ではなく、アメリカでも類似の事態が起きているようだ。
 では、その本質的な原因は何なのだろう。

と問いかけ、著者としては、その原因を「新自由主義(≒小さい政府論)」に求めています。

 ストレートに要約すると、「勝者と敗者」「強者と弱者」の二分化を助長する「新自由主義的政策」の推進が「寛容の劣化」の主原因だとの論のようです。

 と言いながら、著者は、そういった「寛容の劣化」の防止のために以下のような対策を薦めています。

(p165より引用) 良心や道徳と直接かかわることでも、損得に基づいて話をし、得なほうを選ぶ契約をする、というやり方で解決できる問題もあるのだ。
 私は、劣化の防止も短期的にはこれと同じような考え方で行うのが最も有効なのではないか、と考えている。つまり、「劣化は損だから」と割り切ってその対策を行うのだ。

 本書の書きぶりから思うに、著者は、「勝ち負け」や「強弱」という二分化を助長する「新自由主義」には懐疑的な立場のようです。

 そうでありながら、「損得」という単純な価値観をもって社会心理的な課題を短絡的に解決しようをする著者の姿勢には、どうも共感できませんでした。

なぜ日本人は劣化したか なぜ日本人は劣化したか
価格:¥ 735(税込)
発売日:2007-04-19


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ミドル・マネジャーの役割 (知識創造企業(野中郁次郎/竹内弘高))

2008-01-03 19:25:55 | 本と雑誌

Honda_city  著者は、数多くの企業活動を実際に調査することにより、日本企業の成功の要因を「組織的知識創造」に見出しています。

(p15より引用) ホンダ・シティのケースは、日本のマネジャーがどうやって暗黙知を形式知に変換するかを示している。それはまた、知識創造の三つの特徴を示唆している。第一に、表現しがたいものを表現するために、比喩や象徴が多用される。第二に、知識を広めるためには、個人の知が他人にも共有されなければならない。第三に、新しい知識は曖昧さと冗長性のただなかで生まれる。

 そして、その一連の実地研究において明らかにされたのが、知識創造プロセスにおける「ミドル・マネジャー」の重要性でした。

(p21より引用) 知識創造プロセスにおけるミドル・マネジャーの役割は重要である。彼らは、第一線社員の暗黙知とトップの暗黙知を統合し、形式知に変換して、新しい製品や技術に組み入れるのである。日本企業で実際に知識創造プロセスを管理しているのは、ホンダの渡辺洋男のようなミドル・マネジャーなのである。

 企業における様々な意思決定/意思伝達の方法としては、従来、「トップダウン」と「ボトムアップ」という大きく2つのタイプがあると言われてきました。
 本書では、双方のいいとこ取りをした「ミドル・アップダウン・マネジメント」というスタイルを提唱しています。

(p189より引用) 知識は、チームやタスクフォースのリーダーを務めることの多いミドル・マネジャーによって、トップと第一線社員(すなわちボトム)を巻き込むスパイラル変換プロセスをつうじて創られるのである。このプロセスは、ミドル・マネジャーを知識マネジメントの中心、すなわち社内情報のタテとヨコの流れが交差する場所に位置づけるのである。

 「ミドル・アップダウン・マネジメント」という新たなコンセプトの中では、ミドル・マネジャーは、「理想と現実を結びつける専門職」と位置づけられるのです。

(p190より引用) ミドルは、トップと第一線マネジャーを結びつける戦略的「結節点」となり、トップが持っているビジョンとしての理想と第一線社員が直面することの多い錯綜したビジネスの現実をつなぐ「かけ橋」になるのである。・・・彼らは知識創造企業の真の「ナレッジ・エンジニア」なのである。

知識創造企業 知識創造企業
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:1996-03


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知識創造を生み出す組織 (知識創造企業(野中郁次郎/竹内弘高))

2008-01-02 17:29:43 | 本と雑誌

Canon_2  著者は、組織的知識創造の理論的枠組みを「2つの次元」から捉えようとしています。

 ひとつは「認識論的次元」で、「形式知」と「暗黙知」の区分が基本概念です。
 いまひとつは「存在論的次元」で、これは「知識創造の主体(個人・グループ・組織・複数組織)」を議論の対象としています。

 組織における知識創造は、この2つの次元からなる座標の中で営まれるをダイナミックなプロセスなのです。

 大きな方向性は、個人レベルの暗黙知を組織レベルの形式知に変換するスパイラルなのですが、具体的には、「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」という4つのモードが知識創造プロセス全体のエンジンとして働くのです。

 著者は、このような知識スパイラル(組織的知識創造)を促進するために「組織レベルで必要な要件」として、次の5つをあげています。「意図」「自律性」「ゆらぎと創造的なカオス」「冗長性」「最小有効多様性」です。

 この中で、私の関心を惹いたのは、「ゆらぎ・カオス」という用件です。
 知識創造のプロセスの中で、トップは時おり「意識して」不安定な状況を作り出すというのです。

(p117より引用) 意図的なカオスは、「創造的なカオス」と呼ばれ、組織内の緊張を高めて、危機的状況の問題定義とその解決に組織成員の注意を向けるのである。・・・トップは、しばしば曖昧なビジョン(いわゆる戦略的多義性)を使って、組織のなかに意識的にゆらぎを創り出す。

 通常、「曖昧なビジョン」は望ましくないものとされています。
 しかしながら、著者は、個人レベルの知識創造のためにも、「曖昧さ」に対して肯定的な意味づけを行っています。

(p236より引用) そのためには、曖昧で多様な解釈を許容しどこまでも発展できるように開いた知識ビジョンが望ましい。より曖昧なビジョンは、自己組織チームのメンバーに自分の目標は自分で決める自由と自律性を与え、トップの理想の本当の意味をいっそう身を入れて模索するように仕向けるのである。

 ただ、ここで注意しなくてはならない点があります。
 組織自体、この「ゆらぎ」に応える能力がなくてはならないということです。

(p117より引用) トップの経営哲学やビジョンがはっきりしないとき、その曖昧さは実行スタッフのレベルで「解釈の多義性」を生み出す。
 注意しなければならないのは、「創造的カオス」の恩恵は組織成員が自らの行動について考える能力があってはじめて実現される、ということである。そういう内省がなければ、ゆらぎは破壊的なカオスになりやすい。

 創造的な組織は、所与の情報を処理するだけではなく、自らの中から情報を創出し、与件自体を変化させるのだといいます。

(p83より引用) 主観と客観、あるいは知るものと知られるものというデカルトの分割は、「情報処理」メカニズムとしての組織という見方を生んだ。この組織観によると、組織は新しい環境状況に適応するために環境からの情報を処理する。この見方は、組織がいかに機能するかを説明するのに有効であったが、根本的な欠点が一つある。我々から見れば、イノベーションがどうやって起こるか、を説明できないのである。イノベーションを起こす組織は、単に既存の問題を解決し、環境変化に適応するために外部からの情報を処理するだけではない。問題やその解決方法を発見あるいは定義し直すために、組織内部から新しい知識や情報を創出しながら、環境を創り変えていくのである。

知識創造企業 知識創造企業
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:1996-03


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2007年の本

2008-01-01 21:57:33 | 本と雑誌

 2008年、新年あけましておめでとうございます。

 昨年1年間、通勤電車の中で読んだ本のうちから、これはという「3冊」を選んでみます。

 まずは、指揮者小澤征爾さんの若きころのエッセイ「ボクの音楽武者修行」
 常に前向きでチャレンジングだった若きオザワの姿には元気づけられます。中学生や高校生の方に是非ともお薦めしたい本です。

 つぎは、建築家安藤忠雄さん「連戦連敗」
 安藤さんは、高校卒業後、世界各地を旅行しながら独学で建築を学びました。数々の国際的コンペに参加し続けた末、世界的評価を得た安藤さんが、自身の建築に対する姿勢を学生に対して講義した講義録です。こちらは、やはり大学生向けでしょうか。

 最後は、ファラデー「ロウソクの科学」
 これも講義録ですが、講義の対象はこどもです。70歳になる科学界の重鎮が、クリスマスごとにこどもたちに対して実験を交えた楽しい科学の話をしたのですが、その内容をまとめたのがこの本です。この年になって初めて読んだのですが、長く読み継がれているだけある素晴らしい本だと思いました。「ロウソク」になぞらえたファラデーの「少年少女への優しき期待」が無理なく極々自然体で伝わってきます。

 さて、今年です。
 最近は「新書」がブームですが、これは当たり外れがありますね。ただ、私の読書は電車内が中心なので、ついつい邪魔にならない「文庫」や「新書」に偏りがちです。
 しっかりした装丁の本もまじえて、今年もあまりえり好みせず乱読に努めましょう。



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