OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

任務-松本清張未刊行短篇集 (松本 清張)

2023-08-31 08:17:11 | 本と雑誌

 いつも利用している図書館の新着本リストで目に付いた本です。

 松本清張さんは私の好きな作家のひとりですが、本書は、松本さんの没後三十年記念企画の1冊で、いままで未収録だった短編から10篇を選んで書籍化したものとのことです。

 小説なので、ネタバレになるような引用は控えますが、松本清張さんと言えば「点と線」「ゼロの焦点」等に代表される “社会派推理小説の巨匠” というイメージが大きく、せいぜい初期は歴史小説も手掛けていたということぐらいしか知らない私にとって、この10篇、それぞれに色合いが異なっていて、その筆の多彩さに素直に驚きました。

 そして、その作家としての開花までの道程の険しさを、本書の最後に収録されている自伝的小品「雑草の実」で読み知りました。

 日々の暮らしすら困難で文学とは距離を置いていた松本氏は昭和25年「週刊朝日」の懸賞小説に応募します。そのときも破格の賞金に魅せられた故とのことですが、そこで三席に入選。その後、木々高太郎氏とつながりから「三田文学」への掲載「芥川賞」受賞と少しずつ作家としての実績が積みあがっていった松本氏ですが、それでも不安は尽きません。

(p273より引用) わたしは職業作家となる自信はまったくなかった。七人の家族をかかえ、安全な会社勤めから海とも山とも知れぬ生活にいまさらどうしてきりかえられようか。

 その後も悩み抜いた松本氏は東京本社への転勤という形で、上京に踏み切りました。それから3年を経て朝日新聞社を退社、本格的な作家生活に移ったとのこと。

 松本氏のドラマティックな半生記。松本氏が描く小説の深度の源泉が感じられるとても興味深い作品でした。

 

 

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〔映画〕マイ・ニューヨーク・ダイアリー

2023-08-30 09:28:25 | 映画

 
 2020年に制作されたアイルランド・カナダ共作の映画です。
 タイトルからアメリカの映画のように思いましたが違うんですね。
 
 テイストとしては、主人公の成長を描いた “青春ドラマ” です。
 
 物語の流れや上司とのやり取りは「プラダを着た悪魔」を彷彿とさせるものがあります。メリル・ストリープの役まわりが シガニー・ウィーヴァーというわけです。
 この手のプロットには不可欠な “優しいおじさんサポーター” もしっかりついていて、ハートウォーミングな作品に仕上がっています。
 
 ステレオタイプ的で少々物足りないきらいもありますが、好感の持てる作品だと思います。

 

 

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〔映画〕ゲイト・オブ・ザ・サン~終わりなき聖戦~

2023-08-29 11:16:56 | 映画

 
 2014年に制作されたアルジェリア映画です。
 珍しいですね、アルジェリアの作品を観るのは初めてだと思います。
 
 ジャンルとしてはアクション作品ですが、“可もなく不可もなし” といった普通の作品です。
 ラストのサプライズはかなり無理筋の唐突感がありましたが、それも何の工夫もなく解決している大胆さはちょっと驚きです。
 
 あと、驚きといえば、何と言ってもマイク・タイソンの出演ですね。こちらも何の脈絡もなく “本人役” で登場して去っていきました。
 全く意味不明ですが、エンターテインメントとしての話題作りという点では何でもありということですね。

 

 

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〔ドラマ〕トム・クランシー/ CIA分析官 ジャック・ライアン(シーズン4)

2023-08-28 11:47:12 | 映画

 
 2023年に配信されたテレビドラマシリーズです。
 
 シーズン4の舞台は、アフリカ、メキシコ、ミャンマー、ヨーロッパと全世界にわたっていますが、ストーリーの基軸は、ジャック・ライアンのチームの活躍によるアメリカへのテロ行為の阻止です。
 
 物語自体、ある程度のところで見えてくる「悪役」がすべてお縄になる “勧善懲悪”ものなので、世界共通、老若男女に受け入れられますね。
 
 そして、このシリーズの魅力。ストーリー展開の鮮やかさは言うに及ばずですが、何よりジャック・ライアンを中心とした登場人物の多彩なキャラクターでしょう。
 シリーズ後半からのエリザベス・ライト、そしてこのシリーズ4には マイケル・ペーニャが演じるドミンゴ・シャベスが加わり、ますます強力な布陣になりました。
 
 ちなみに、私は、飄々としていながらプロフェッショナル・スピリットに溢れているマイク・ノーベンバーのキャラが好みですね。

 

 

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一旦、退社。~50歳からの独立日記 (堀井 美香)

2023-08-27 08:29:32 | 本と雑誌

 

 いつも利用している図書館の新着本リストで目についた本です。

 著者の堀井美香さんは、元TBSアナウンサー。2022年4月、50歳でTBSを退社しフリーとして歩を進めました。

 本書は、その節目を迎えてのさまざまな想いを綴った堀井さんのエッセイ集です。
 期待どおり私の興味を惹いたところは数多くありましたが、その中から特に印象に残った部分をいくつか書き留めておきます。

 まずは、最初の章「2月2日 とりあえず、箱を借りた」から。

(p17より引用) 覚悟は自分で作っていく。
 背水の陣かもしれない。でも図らずもいい方法を見つけたとも思っている。

 “実行” に裏打ちされたいい言葉です。この “腹の括り方” は見事ですね。

 こういった “悟り” の決意は、本書のあちらこちらでお目にかかります。

(p161より引用) 捨て駒になっても、いなくていい存在と言われても、「それが何か?」と言いながら、自分勝手に、やりたいことをやる。それがどんなに楽しいことかを、私たちは知ってしまったのだから。

 そう、それだけ堀井さんが “本気に目覚めた” 証です。
 ただ、本書で語られる堀井さんのエピソードを辿ってみると、以前から “一本芯の通った行動派” だったのは間違いないでしょう。そして、その「筋の通り方」に結構ユニークさがあって、そこが彼女にしか纏うことができない独特の魅力となっているんですね。

 さて、本書には、堀井さんとジェーン・スーさんによるpodcast番組(ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」の話題が登場します。
 私も、この番組のファンで、お二人のフリートークは毎回楽しみにしているのですが、番組での語り口と同じく、本書でも、堀井さんのその飾らない人柄がそのままに文章に溢れ出ていますね。とても気持ちのいい読み心地です。

 そして、堀井さんの言葉から最後に書き留めておくのは、「はじめに」の中の一節。

(p2より引用)
 新しい場所に出たら、初めて見る景色に驚いた。
 今まで抱いたこともない感情をもった。
 そして時間の流れも時間の価値も明らかに違った。

 とても素晴らしい決断だったようです。本書を読んで、最も私の心に響いたくだりでした。

 

 

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〔映画〕ケイコ 目を澄ませて

2023-08-26 14:04:02 | 映画

 
 2022年に公開された日本映画です。
 
 耳が聞こえない元プロボクサー小笠原恵子さんの自伝を原案とした作品です。
 
 物語というより、主人公の日々をそのままに映した作りで、ドラマチックな演出等は皆無ですが、自然と惹き込まれるような魅力がありました。
 主人公を取り巻く登場人物の描き方がとても丁寧だったのが、その大きな要因だと思います。
 
 併せて、キャスティングも秀逸。
 主人公の 岸井ゆきのさんを筆頭に、三浦友和さん、仙道敦子さん、三浦誠己さん、松浦慎一郎さん、佐藤緋美さんと、この作品のテイストに相応しいしっかりとした役者さんが揃っていましたね。

 

 

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〔映画〕ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結

2023-08-25 11:07:31 | 映画

 
 2021年に公開されたアメリカ映画です。
 
 DCコミックスの「スーサイド・スクワッド」をベースにしたスピンオフ的な作品です。
 
 全く私の好みではないのですが、こういった感じの映画がアメリカでは好まれるのでしょうか?
 登場するキャラクタがどれも濃くて、観ているだけでも結構疲れますし、登場する “怪獣?” も芸のない “どぎつい造型”で面白味がありません。
 
 ちょっと気になっていたハーレイ・クイン役のマーゴット・ロビーも今ひとつ役に冴えがなかったですね、残念です。

 

 

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〔映画〕バーン・アフター・リーディング

2023-08-24 09:37:17 | 映画

 
 2008年に公開されたアメリカのコメディ映画です。
 
 ジョージ・クルーニーとブラッド・ピットに加え、私は知らなかったのですが、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントンという二人のアカデミー賞を受賞した女優さんも出演しているというとても豪華なキャスティングです。
 
 ただ、作品は私にはまったく合いませんでした。
 ボタンの掛け違いがドタバタ劇を引き起こしていくのですが、正直、そのギャグ?のセンスに私の感性がついていけませんでした。こういうのが “面白い” のですかねぇ???

 

 

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からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界 (小鷹 研理)

2023-08-23 10:41:17 | 本と雑誌

 

 いつも利用している図書館の新着本リストで目についた本です。

 「ブルーバックス」は時折手を伸ばしたくなりますね。今回は「認知科学」関係の著作ですが、“錯覚” をテーマにした解説本ということで興味を持ちました。

 もちろん、私はこういった分野は全くのど素人なので、初めて知ることばかりでしたが、それらの中から特に私の関心を惹いた「第6章 幽体離脱を科学する」の章での解説を覚えとして書き留めておきます。

 そこでは、小鷹さんは、「体の錯覚(フルボディ錯覚)」の一種として “天井を見下ろす” という「寝転がる姿勢での視点反転(重力反転)」が生じることを示したうえで、こう続けています。

(p229より引用) 幽体離脱は、この寝転がりの特異性を、想像世界におけるスペクタクルな対面の演出のために、単に都合よく利用しているのです。

 しばしば超常現象として捉えられる幽体離脱も「脳内現象(=錯覚の一種)」ということですね。

 さて、このように本書では、数多くの興味深い「からだの錯覚」が紹介されています。
 ただ、それを体感しようとすると、ほとんどの例が「二人(体験者と実験者)」で行うものなので、残念ながら私は実際にトライすることができませんでした。やはり少しでも体験してみないと、小鷹さんの解説はなかなか理解しづらいところがありましたね。
 “感覚”を“文字”で表現し、それを他人の五感で体感させるのは難しいものなのです。

 あと、私の期待とズレていたところは、“錯覚”が生じるメカニズムの解説です。
 私としては、脳科学的な観点から、その発生メカニズムを素人にもわかるように解き明かしてくれるのではと(勝手に)思っていたのですが、“現象の紹介” が中心で、そういった観点での解説はほとんどありませんでした。あるいは、あったのかもしれないのですが、私には理解できなかったようです。

 そのあたり、オリジナリティのあるテーマを取り上げたとても興味深い挑戦作ではあったのですが、ちょっと消化不良が残る読後感でした。

 

 

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〔ドラマ〕シタデル

2023-08-22 16:14:58 | 映画

 
 2023年に配信されたアメリカのスパイ・アクションドラマです。
 
 第一印象はスマートな感じで期待度は高かったのですが、その期待の割には “今一歩” という印象ですね。
 
 ストーリー展開が現在と過去との往還によって進んでいくのですが、その場面転換が観ていてちょっと煩わしかったのと、二者対立の図式が基本であるがゆえに物語に拡がりがなかったように思います。
 
 とはいえ、出演していた俳優さんたちはみなさん個性的でなかなかよかったので、続編が配信されるようなら観たいですね。

 

 

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〔映画〕レイダース/失われたアーク《聖櫃》

2023-08-21 10:34:50 | 映画

 
 このところ配信サービスで観ている作品が今ひとつのものばかりなので、口直しに昔の定番シリーズを引っ張り出してきました。
 
 今ちょうど最新作が公開されているようですが、これは1981年に公開されたシリーズ第1作目の作品です。
 
 ジョージ・ルーカスの原案、スティーヴン・スピルバーグの監督という豪華な制作陣で始まり、このあと人気シリーズとして定着したこのシリーズ、何度見ても楽しめますね。
 まあ、正直なところ、今観直すと、この1作目の映像にはかなりショボいところが目につくのですが、それでも、これでもかとテンポよく次々にエピソードが展開する構成は流石にインパクト大ですね。
 
 このシリーズのあと、トゥームレイダー、ナショナル・トレジャーといった似たような宝探し的エンターテイメント作品が次々に登場して、ひとつの必勝パターンが作られていきました。
 その先駆けとしての本作の意義はとても大きなものがあると思います。

 

 

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高千穂伝説殺人事件 (内田 康夫)

2023-08-20 08:51:26 | 本と雑誌

 かなり以前に読んだ内田康夫さん“浅見光彦シリーズ” ですが、このところ、私の出張先が舞台となった作品を、あるものは初めて、あるものは再度読んでみています。

 ただ、私の出張先も以前勤務していた会社のころを含めるとそこそこの都道府県にわたるので、どうせなら “浅見光彦シリーズ”の制覇 にトライしてみようと思い始ました。

 この作品は「第9作目」です。舞台は “高千穂”。宮崎の方です。
 仕事関係では、以前勤めていた会社のお客様ご招待イベントで宮崎市は訪れていますし、熊本勤務時代は日南のあたりもドライブしました。また本作でも登場する“高千穂峡”は、遥か昔、高校時代に九州一人旅をしたのですが、そのときに訪れたことがあります。

 ネタバレになるとまずいので内容には触れませんが、この作品は書籍としてのボリュームの割には、ミステリー本体は淡白でしたね。というか、物語自体あまり手の込んだ構成ではないので、正直かなり物足りない出来でした。いつもはちょっとしたスパイスになる地元警察の捜査員も、本作ではほとんど効いていなかったですし、ヒロインの絡み方も今ひとつ雑な扱いといった感じです。

 ともかく、かなりのページが意味のない情景描写や背景説明で、いつになったら物語が始まるんだろうとダラダラ感maxの作品でした。内田さんにしては珍しいです。

 さて、取り掛かってみた“浅見光彦シリーズ制覇チャレンジ”、それほど強い意志をもって完遂しようとも思っていませんので、まあ、“どこまで続くことやら”です。

 次は「「首の女」殺人事件」ですね。

 

 

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〔映画〕バッテリー

2023-08-19 10:46:05 | 映画

 
 2007年に公開された日本映画です。
 
 あさのあつこさんの小説が原作で、コミックやアニメにもなっているようです。
 
 もともとが児童文学だったこともあり、ストーリーは無難な展開で、ラストも八方丸く収まる予定調和。
 主役の林遣都さんもこれが映画初出演とのことで、初々しい演技がこの作品の雰囲気にはよく合っていたように思います。
 
 あと、キャスティングで光っていたのは、主人公の弟役の鎗田晟裕くん。等身大の演技は爽やかでした。

 

 

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〔映画〕ウォーターワールド

2023-08-18 10:28:16 | 映画

 
 1995年に公開されたアメリカ映画です。
 
 海洋を舞台にしたアドベンチャー作品ですが、見応えのあるその雄大なスケールの割に興行的には厳しかったようです。
 
 確かに、ほとんどがCGで処理できる “スペース(宇宙)”ものと比較すると結構実写シーンも多く、撮影時の苦労は十分想像できますね。
 
 作品としてはどうでしょう。どういうマーケットをイメージしていたのか・・・。
 ストーリーは予定調和的ですし、リアリティは薄いので、観る人によっては物足りないと感じるでしょう。無難なファミリー向けエンターテイメント作品といったところだと思います。

 

 

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誰だって芸術家 (岡本 太郎)

2023-08-17 11:32:47 | 本と雑誌

 

 いつも利用している図書館の新着本リストで目に付いた本です。

 岡本太郎さんの著作は、かなり以前に「自分の中に毒を持て」を読んだことがありますが、予想どおり強烈なインパクトのある内容でした。

 本書は、岡本さんが “芸術” をテーマに新聞や雑誌等様々な媒体で語った原稿を再録したものとのこと。
 半世紀前のメッセージですが、私の興味を惹いたたくさんのフレーズがありました。それらの中からいくつかを書き留めておきます。

 まずは、岡本さんの若き日、18歳でパリに渡って、世界的抽象芸術家の集まりである「アプストラクシオン・クレアシオン協会」の運動に加わったころです。

(p32より引用) 私は確信していた。芸術表現は人間の存在、その運命全体を、無条件につき出すべきものであって、色と形の美を基準に安定する、いわゆる「美学」であってはならない。色を超えた色、形を超えた形、それが生命の実感であり、実在なのだと。

 エネルギッシュな言葉ですね。すでに岡本さんは、その協会の中でも独自の立場を築いていました。

 こういった岡本さんの “個性” は、“伝統” を否定するのかといえば、必ずしもそうではないようです。

(p142より引用) もちろん伝統というものは、われわれ今日の日本人全体のものである。現実に生きている日本人こそがひろく受けつぐものだし、現に受けつぎ、新しくそれを生かしつつあるのだ。

(p143より引用) 若い世代に正しく受けつがれないで、なんの伝統だろうか。いわゆる「伝統主義者」とはぜんぜん違った立場から、新鮮な価値として再発見しなければならない。

 “伝統” に対する意味付けが異なるのです。自分たちで自分たちの “新たな伝統を創っていく” という立場ですね。

 ちなみに、ちょっと前に「磯崎新さんの『都庁』」という本を読んだのですが、その中で、岡本太郎さんが「大阪万国博覧会(1970年開催)」の“テーマ・プロデューサー”として丹下健三さんや磯崎新さんと関わったくだりが紹介されていました。
 岡本さんの「太陽の塔」が丹下さんが設計した「お祭り広場の大屋根」をぶち抜いたエピソードは、まさに型破りの岡本さんの真骨頂でしたね。

 さて、最後に本書で最も印象に残ったくだりを書き留めておきます。
 岡本さんが若き日にパリに来ての苦悩の吐露です。

(p112より引用) 若くして世界芸術の本場、パリに修業に来られた幸運に対する責任感は、自分自身だけに噛みしめなければならない重圧感を持ったものであり、また芸術家として名を成した両親を持つ者が対世間的にも、自分自身にもつねに高いレベルを保持しなければならない宿命を苦々しく嘗めたのである。がんじがらめの苦悩は訴えることもできない。

 あの豪快に見える岡本さんがこれほどの重圧に苦しんでいたというのは驚きであったと同時に、その抱いていた気概の純粋さに感じ入りました。

 岡本太郎さんといえば、誰もが “芸術は爆発だ!” に象徴される豪放磊落なイメージを抱いているのではと思いますが、ここに紹介されている岡本さんの小文の印象は違っていました。
 お話の内容はとても分かりやすく、その語り口はとても優しく読みやすいものでした。自分の純粋な感性を素直に表現しているせいもありますが、しっかりと読み手の立場を意識して記されているんですね。

 細やかな心を持ったとても魅力的な人物です。

 

 

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