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嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (鈴木 忠平)

2022-02-28 15:14:35 | 本と雑誌

 

 気になっていた本ですが、いつもの図書館の新着書リストで見つけたので早速予約して読んでみました。

 主人公落合博満さん、現役時代も監督時代もリアルタイムで知っていますが、当時からそのユニークなキャラクタには大きな興味と少しの共感を抱いていました。

 本書は、担当記者だった鈴木忠平さんが、8年間にわたり中日ドラゴンズ監督を務めた落合さんの実像を描こうと試みたノンフィクション作品です。

 本の作りは、落合さんとの関わりを通して大きな影響を受けた川崎憲次郎、森野将彦、福留孝介、宇野勝、岡本真也、中田宗男、吉見一起、和田一浩、小林正人、井手峻、トニ・ブランコ、荒木雅博の12人の方々の名前をタイトルにした章を立てて、彼らの証言や彼らにまつわるエピソードを通して落合さんの多面的な実像が顕かにされていくという仕掛けです。もちろん、著者が記者として落合さんへ直接取材して聞き知った特別なネタもしっかりと盛り込まれています。

 その中から、いくつか私の興味を惹いたところを書き留めておきます。

 まずは、落合監督の「投手起用」について。

(p186より引用) 「俺は投手のことはわかんねえから、お前に任せた」
 落合はいつも森にそう言った。そして本当に何も口を出さなかった。
 例えば、落合が先発ピッチャーを決めたのは、この四年間で一度だけだった。

(p188より引用) 「先発ピッチャーは、俺にも教えてくれなくていい。そうすりゃあ、外に漏れることもないだろう」
 落合は本当にその日のゲーム直前まで、先発投手が誰なのか知らなかった。訊いてくることもなかった。
 それは落合が、参謀であり右腕である森に寄せる信頼の証だった。

 ピッチャーのことは森繫和ピッチングコーチに任せていたとのことですが、ここまで徹底していたとは驚きです。

 そして、落合監督が選手時代から群れなかった理由
 和田選手が落合監督からの打撃指導で腑に落ちたことでした。

(p327より引用) そして落合の世界に踏み入って感じたのは、その理というのはほとんどの場合、常識の反対側にあるということだった。

(p330より引用) おそらく落合は常識を疑うことによって、ひとつひとつ理を手に入れてきた。そのためには全体にとらわれず、個であり続けなければならなかったのだ。

 最後に、私が最も印象に残ったくだり。遠征先のナイター終了後、宿泊ホテルの食堂に一人向かった荒木選手は落合監督と会話を交わしました。

(p433より引用) ある夜、荒木はずっと抱えてきた疑問をぶつけてみた。
「使う選手と使わない選手をどこで測っているんですか?」
落合の物差しが知りたかった。
すると、指揮官はじろりと荒木を見て、言った。
「心配するな。俺はお前が好きだから試合に使っているわけじゃない。俺は好き嫌いで選手を見ていない」
 荒木は一瞬、その言葉をどう解釈するべきか迷ったが、最終的には褒め言葉なのだろうと受け止めた。
「でもな……この世界、そうじゃない人間の方が多いんだ」
 落合は少し笑ってグラスを置くと、荒木の眼を見た。
「だからお前は、監督から嫌われても、使わざるを得ないような選手になれよ――」 
 その言葉はずっと荒木の胸から消えなかった。

 確かに、落合監督の生き様は、自問自答しつつも“自らの信念”“自ら拠って立つ価値観”に正直だったということです。

 そして本書、“落合監督の実像を追った硬質のドキュメンタリー”であると同時に、“著者鈴木忠平さんの記者としての成長を綴った自叙伝”でもありました。

 

 

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〔映画〕ジェイソン・ボーン

2022-02-27 10:36:26 | 映画

 
 数日前にボーン・アイデンティティーを観直したのがきっかけで、結局、シリーズ最終作(現時点)の「ジェイソン・ボーン」まで辿り着いてしまいました。
 
 この作品も、もう何度も観ています。
 さすがの人気シリーズも、5作目ともなると「マンネリの陥穽」を避けることができなかったようです。お決まりのカーチェイスのシーンも映像技術の進歩もあり迫力はアップしていましたが、かえって現実感が乏しくなった印象です。
 
 本作品の意味は「ラストシーン」にあるのでしょう。この終わり方ならば、また何らかの契機に「続編」をつくることができますね。

 

 

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〔映画〕ボーン・レガシー

2022-02-26 11:20:09 | 映画

 
 いままでのジェイソン・ボーンシリーズの監督の降板にともない、マット・デイモンも出演しないことになったとのこと。結果、シリーズのスピンオフ作品として、本作品が制作されました。
 
 そういった少々中途半端ないきさつの作品の割には、そこそこのレベルには落ち着かせていますね。もちろん、マット・デイモン主演の3作と比較するのは酷ではありますが・・・。
 
 さすがに、プロットも新奇性に欠けマンネリムードが漂いますが、そこは ジェレミー・レナーとレイチェル・ワイズという二人のビッグネームで最低限のカバーはできたようです。
 
 さて、シリーズもこの4作目まで辿り着いたので、一気にマット・デイモンに戻って5作目の「ジェイソン・ボーン」にトライしましょう。

 

 

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〔映画〕ボーン・アルティメイタム

2022-02-25 12:08:21 | 映画

 「ジェイソン・ボーン」シリーズを観始めると、やはりこの3作目までは一気に行ってしまいますね。
 
 今回、何回目かのシリーズを通した観直しの感想ですが、強いて私の好みの順番をつけるとすると、「第2作目」が一番でしょうか。ラストシーンの出来が決め手となりました。
 
 この作品も悪くはないんですよ。
 格闘やカーチェイスのシーンもリアリティがありますし、シリーズをまたがった伏線的な連続シーンを物語の中にうまく挿入したり、シリーズの幕開けシーンを思い出させるようなカットをエンディングに持って来たりと、作りの面でもなかなか “粋なセンス” が光っています。
 
 さて、シリーズもいったんここで一区切りですが、新たな気持ちで次作も観てみますかねぇ。

 

 

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最強脳 ―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業― (アンデシュ・ハンセン)

2022-02-24 16:31:23 | 本と雑誌

 いつも利用している図書館の新着書リストで見つけた本です。

 少し前に、ベストセラーになった「スマホ脳」を読んだのですが、私としては、それほど目新しい情報はなかったので、正直あまり興味を惹きませんでした。
 本書は、同じアンデシュ・ハンセン氏の著作です。典型的な“柳の下の泥鰌”狙いの本ですが、その点も気になったので手に取ってみました。

 で、結果はというと、さらにガッカリ。ともかく「運動せよ」「運動が脳の働きを高める」と言い続けるだけの本でした。
 章ごとに「まとめ」のようなページがあるのですが、そこでの記述もこういった感じです。

(p33より引用) 運動で幸せな気分になるには
ドクターの処方箋
週に3回、最低30分の運動。その間ずっと心臓がドキドキして、なるべく何度も息が上がるように。

 その理由は「運動によって、多くのドーパミンが出るから」というだけで、それ以上の(科学的な)解説があるわけではありません。別の個所には、こういった記述があるくらいです。

(p142より引用) 運動はこの灰白質と白質の両方を強めてくれます。・・・
 なぜ白質、つまり脳のケーブルが運動によって強められるのかは分かっていません。ですがとにかく、強くなることははっきりしています。ゲームでもそうですが、結果がすべてなのです。

 いくらスウェーデンでは「こども向けの本」だったといっても、あまりに“安直”で“雑”な出版物ですね。とても残念です。

 私自身、本書が主張している「脳の活動に対する運動の効能」を否定しているわけではありません。私が本書に期待していたところと本書の内容や体裁との間に大きなギャップがあったということでしょう。

 

 

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〔映画〕横道世之介

2022-02-23 12:28:56 | 映画

 
 1987年に大学1年生という舞台設定なので、私の時代感とは10年ほどのギャップがある(私の方が年上)のですが、映画で描かれたころの風景ははっきりと浮かびあがってきますね。
 
 原作は新聞連載小説で、文芸作品としてもとても好評だったようです。
 主人公はこれといった特徴もなく、また物語自体も奇抜なエピソードに富んでいるわけでもないのですが、それでも面白い映画に仕立て上げることができるんですね。
 
 もちろん、それが映画監督の技量なのでしょうが、役者さんの力量も大きなウェイトを占めているのだと思います。
 その点では、吉高由里子さんが演じた“天然キャラ”のヒロインはまさに適役でしたし、綾野剛さんもちょっとクセのある役まわりでいい味を出していました。
 
 あと、流石だったのは余貴美子さん。ラストを締めたナレーションも含め、寂しくもほのぼのとしたエンディングを見事に作り上げましたね。

 

 

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〔映画〕ボーン・スプレマシー

2022-02-22 10:11:30 | 映画

 
 数日前に久しぶりにシリーズ1作目の「ボーン・アイデンティティー」を観直したのですが、そうなるとやはりこの作品も観たくなります。
 
 こちらも、もう何度も観ていて、ほとんど思い出せますね。
 ともかくこのシリーズは、プロットが単純ではありますがしっかりしていて見応え十分ですし、作り自体も不自然なCGに過度に頼らず、カメラワークでスピード感や緊迫感を表現しているのが魅力です。

 ラストの2つのシーンも主人公の人柄が表れていて、私の好みなんですね。
 
 シリーズものの続編が陥るジンクスを見事に打ち破った佳作だと思います。

 

 

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〔映画〕ファースト・マン

2022-02-21 13:16:10 | 映画

 
 人類初の月面着陸を成功させたアポロ11号の船長ニール・アームストロングを主人公に、彼の宇宙飛行士としての足取りを実話をもとにして描いた作品です
 
 モチーフはとても華々しいのですが、月面着陸の瞬間やラストの月から帰還しての妻との再会等の節目のシーンをはじめ、彼にまつわるエピソードの描き方はかなり抑えめです。

 彼の意識の中で娘さんが占めるウェイトが大きかったのは確かだと思いますが、ブレスレットを月に持って行ったのは事実なのでしょうか。俄かには信じがたいのですが、もし演出だとしたら正直かえって興覚めしてしまいます。(仮に真実だったとしても、成し遂げたこととの対比では違和感を禁じえません)
 
 専門家の評価はとても高いようですが、私としては、正直かなりもの足りなさを感じる “並” の出来という印象でした。

 

 

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歴史というもの (井上 靖)

2022-02-20 12:38:09 | 本と雑誌

 

 いつもの図書館の新着本リストの中で目につきました。

 井上靖さんの講演録と随筆に加えて、司馬遼太郎さん松本清張さんとの“歴史”をテーマにした対談集が採録されています。

 しかし、井上・司馬・松本各氏の対談というのは“超重量級”ですね。ちなみに、松本清張さんも初期のころ、推理小説を書き始める前にはいくつもの歴史小説を発表しています。

 それぞれに得意とする歴史のバックボーンを持っているお三方の対談から、「戦国期、茶道の流行と利休」について語っているところの一部を書き留めておきましょう。

(p46より引用)
井上 それから利休の死を賜わったということは、戦国時代の一つの大きな事件だと思いますね。・・・わたしは漠然と、権力者と権力を持たない芸術家の戦いだと思うんです。そう割り切ると、簡単になるんだけれども。
松本 井上さんはそういう解釈で書かれているけれども、秀吉のきらびやかな武家好みと利休の町人的な好みとは合わない。趣味の相違です。秀吉からみると、利休はこさかしげで目障りだったんですね
・・・
司馬 それと、大名茶道のはやりというのは、織田信長は非常にモダニズムが好きですから、茶道という新しい芸術というものに非常に魅力があったと思います。
 もう一つは意地わるくいえば、かれは中世的な教養がありませんから、新興の茶道を好んだ。たとえば別にサロン的な遊びで連歌というものがありますが、かれは苦手だったでしょう、教養の質からも。 織田信長は造型美術には明るいけれども、文学的なものには暗い。・・・光秀は茶にはほとんど関係なくて、連歌ばかりの仲間をつくっていたと思います。連歌というものは公卿的ですね。
井上 だから光秀の問題が起こったんですね。
松本 光秀の問題と利休の問題は.....。
司馬 似ておりますね。
井上 ええ、似ておって、当世流の言い方をすれば文化人弾圧というか、文化弾圧というか、おそらくそういう性質を持った二つの事件ですね。
松本 光秀というのはたいへんな教養家ですからね。ああいうインテリは、やっぱり信長には目障りで堪えられなかったんでしょう。

 信長と光秀、秀吉と利休。この二つの関係を相似形と捉え、“茶道”“連歌”を媒介に澱みなく当時の為政者論を語り合う御三方。見事なものですねぇ。

 

 

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〔映画〕ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

2022-02-19 16:23:47 | 映画

 
 「若草物語」が原作ですが、以前、エリザベス・テイラーも出演していた「1949年版」の映画を観たことがあります。
 
 本作もすこぶる評判が高い作品だったので、大いに期待して観てみました。
 
 映像は綺麗で、シアーシャ・ローナンもエマ・ワトソンもローラ・ダーンも素晴らしかったですね。
 ただ、トータルとしてのキャスティング面では、4姉妹の「姉」「妹」の関係(見た目も含めてですが、具体的には「長女」と「次女」、「三女」と「四女」)が今ひとつしっくりきませんでした。

 あと、映画の作りに関して言えば、過去のシーンが頻繁に現在のエピソードに差し込まれてきて、結構観ていて煩わしかったですね。時系列を追う単純な展開を避けて工夫したのでしょうが、使い方にもう少しメリハリをつけた方が良かったと思います。場面が変わっても登場人物の年齢にはっきりした変化(時間の経過)が見られなかったのが、混乱の原因のひとつでしょう。
 
 で、結局、観終わった私の感想は、期待が大きかった分 “今ひとつの出来だった” というのが正直なところです。

 

 

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〔映画〕ボーン・アイデンティティー

2022-02-18 09:22:14 | 映画

 
 もう20年ほど前の映画になるんですね。何度となく観ていますが、今日も何となく久しぶりに観直してみたくなったので。
 
 このマット・デイモンの「ジェイソン・ボーン」シリーズは,、私の好きな作品群のひとつです。
 
 何か奇を衒ったような仕掛けがあるわけではありません。オーソドックスなストーリー展開で、主人公をはじめとしたプロットがシリーズを通してしっかりと通貫しているのがいいですね。
 
 マット・デイモンもいろいろな作品で多彩な役を演じていますが、私にはどうもこの「ジェイソン・ボーン」のキャラクタの印象が強烈で、一番しっくりきます。
 
 このシリーズは安心の出来映えなので、今後も時折取り出してみるでしょうね。

 

 

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〔映画〕小説の神様 君としか描けない物語

2022-02-17 10:48:03 | 映画

 
 かなりワザとらしいのですが、面白いプロットだと思います。

 「小説」をモチーフにしているだけあって、構成も小説のような章立てで、なかなかに工夫の跡を感じます。音楽もよかったです。特に場面場面の挿入歌が心地よく効果的でした。
 
 あと、予想外といっては申し訳ないのですが、橋本環奈さんを主人公に選んだキャスティングは正解でしたね。個性的でちょっとミステリアスな衣をまとっている主人公をとてもうまく演じていました。
 
 ただ、ラストの余韻の残し方が秀逸だった割には、そこに向かうシーンのシナリオと演出はちょっとベタで・・・、余りにシロウトッぽ過ぎませんか。

 

 

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センス・オブ・ワンダー (レイチェル・L. カーソン)

2022-02-16 09:05:21 | 本と雑誌

 

 いつもの図書館の新着書リストを覗いていて目に留まった本です。

 環境問題にいち早く警鐘を鳴らした書物として有名な「沈黙の春」の著者レイチェル・カーソンの遺作ということで手に取ってみました。

 幼いロジャーとともに自然溢れるメーン州の海岸と森を散策した様子を綴った小品です。エッセイのような体裁で、とても大切なレイチェルからのメッセージが穏やかな語り口で綴られています。

 そのいくつかを覚えに書き留めておきましょう。

 まずは、本書のタイトルでもある「センス・オブ・ワンダー」に触れているくだり。

(p33より引用) 子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。
 もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない「センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性」を授けてほしいとたのむでしょう。
 この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、わたしたちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。

 そして、レイチェルは“この感性(=センス・オブ・ワンダー)の大切さ”についてこう続けます。

(p36より引用) わたしは、子どもにとっても、どのようにして子どもを教育すべきか頭をなやませている親にとっても、「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。
 子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生みだす種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。・・・
 消化する能力がまだそなわっていない子どもに、事実をうのみにさせるよりも、むしろ子どもが知りたがるような道を切りひらいてやることのほうがどんなにたいせつであるかわかりません。

 こういったメッセージを綴ったレイチェルによる小文のあと、4人の方々が、それぞれに「センス・オブ・ワンダー」をテーマにしたエッセイを寄せています。

 その中から、まずは生物学者福岡伸一さんが語る「センス・オブ・ワンダー獲得仮説」。
 その母体は、「こどもの遊び」にありました。

(p91より引用) しかし、なかなか成熟せず、長い子ども時間を許された生物(つまりヒトの祖先のサル)が、たまたまあるとき出現した。彼はあるいは彼女は、・・・世界の美しさと精妙さについて、遊びを通して気づくことができたのだ。センス・オブ・ワンダーの獲得である。もともと環境からの情報に鋭敏に反応できるよう、子どもの五感は研ぎ澄まされている。これが人間の脳を鍛え、知恵を育み、文化や文明をつくることにつながった。こうして人間は人間たらしめられた。これが私の仮説である。遊びをせんとやうまれけん。人間以外にセンス・オブ・ワンダーの感受性はないはずだ。

 そして、もうひとり、東北大学教授で神経科学者の大隅典子さん
 「子どもの教育では“知ることより感じることが大切”」というレイチェルの考え方を受けて、こんなコメントを記しています。

(p125より引用) 子どもの「これは何?」という問いに、親が直接その答えを知っていなくてもよい。「何だろう?おもしろいね!あとでしらべようか」と共感し、応答することが大事だろう。「なぜ?」という質問に対して、「あなたはどうしてだと思う?」と 問い直しても良いし、「お母さんはお父さんはこう思う」と自分の意見として伝えるのでもよい。疑問を共有すること、認めることが大切だ。大人になってからも、本当に大事なのは、既存の問題に素早く答えを出すことではなく、「問い」を立てられることである。そのようなタレントこそが、将来のイノベーションや起業に大切であろう。

 最後は“正解信仰”の否定というちょっと現実的な言い様ではありますが、“豊かな感受性”を育むことの大切さをと説く姿勢は同根ですね。

 本書を読んで、早く「沈黙の春」にトライしなくてはと改めて思いました。

 

 

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〔映画〕ゴールデン・リバー

2022-02-15 11:19:01 | 映画

 
 久しぶりにちょっと“重め” の作品を観ました。
 
 主役の「兄弟」の対照的なキャラクターと二人の絆が物語の支柱となっています。

 ストーリーはシンプルで比較的淡々とエピソードが重ねられていくのですが、ラストの穏やかなシーンは、それまでの粗野なテイストとは対照的で、意外性があるうえにとても印象的です。このあたりの演出は見事でした。
 
 過度な派手な演出もなく、 ま さに“映画らしい映画” といった趣ですね。シナリオも映像も音楽もきちんとバランスが取れていて、とても見応えのある優れた作品だと思います。

 

 

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〔映画〕ふたりの女王 メアリーとエリザベス

2022-02-14 09:55:43 | 映画

 
 スコットランドのメアリー1世とイングランドのエリザベス1世が主人公の作品です。
 
 史実に則った物語なので、意図的に創作されたドラマチックなエピソードで飾り立てることはできません。その意味では、シアーシャ・ローナンとマーゴット・ロビーという二人を主役に配したキャスティングと、その二人の演技力がこの作品の出来を決めることになります。
 
 結果は、正解だったと私は思います。
 二人が置かれている対照的な立場と共通の苦悩は、二人の役者の視覚的な印象で十分表されていました。また、演技という点でも両人とも見事だったと思います。特に、ラスト近くのシーンでのマーゴット・ロビーは今までの印象を大きく変えるほどのインパクトがありました。
 
 ちなみに、この作品、邦題は「ふたりの女王」なのですが、原題は「Mary Queen of Scots」なんですね。確かに、エリザベス1世と対比されてはいますが、「メアリー1世」の姿を描いた作品でしょう。

 

 

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