OMOI-KOMI - 我流の作法 -

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成功の実現 (中村 天風)

2014-09-28 09:34:52 | 本と雑誌


 久しぶりの中村天風師の著作です。

 別に天風師の教えに傾倒しているわけでないのですが、師の著作は、時折、読んでみようと思いますね。今までも「君に成功を贈る」「幸福なる人生」等を読んだのですが、本書もそれらと同じく、師の講演を書き起こしたものです。

 もちろん、師の教えは著作によって変わるものではありませんから、新たな本を読んでも、それは師の一貫した考え方を“復習”するということになります。

 ということで、改めて「前向きな言葉」の大切さについて。


(p45より引用) 結局、努力ですよ。常に明るく朗らかに、生き生きとして何事にも応接するという気持ちをつくることは。
 それにはですね、言葉を気をつけなさい、言葉を。
 多くの人は、言葉と気分というものが直接関係があるという大事なことに、正しい自覚を持っていないようです。絶対に消極的な言葉はつかわないこと。否定的な言葉は口から出さないこと。悲観的な言葉なんか、断然もう自分の言葉の中にはないんだと考えるぐらいな厳格さをもっていなければ駄目なんですよ。


 「積極的な精神」を作るための第一歩は「悲観的な言葉を決して口にしないこと」です。別な言い方をすると、どんな状況に陥ろうと「感謝」「喜び」に振り替えろ、不運や不幸は「自分の生き方の間違いを自覚させてくれた」のだと考えろという教えです。

 常に前向きな言葉を発するように心がけることは、よい結果をもたらすための「暗示の感受習性」を活かした方法でもあります。


(p129より引用) 人間の精神生命の中には、「暗示の感受習性」というのがある。だから、一言いうのでも、この暗示の感受習性が、自分じゃ気がつかなくとも、必ずすぐに感じて、感じると同時に潜在意識に対して、そのとおりの状態で働き出す。潜在意識の状態が実在意識の状態に同化してくる。・・・
 真剣に考えろ。人間の日々便利につかっている言葉ほど、実在意識の態度を決定する直接的な強烈な感化力をもっているものはないんだぜ。感化力というより、暗示力といおう。だから、それを完全に応用して生きてみろ。それだけでも、どれだけ健康や運命のうえに大きな良い結果をもたらすかわからない。


 その結果、思い続けていると実現する、口に出した言葉がその後の結果に現れてくるとの説です。


(p133より引用) だからねえ、つねに積極的な言葉をつかう習慣をつくりなさい。習い性となれば、もう大した努力をする必要はないもの。・・・人生に生きる場合、常にあとうかぎり善良な言葉、勇気ある言葉、お互いの気持ちを傷つけない言葉、お互いに喜びをよく与える言葉を実際つかう習慣をつくりなさい。


 次は、「観念要素の更改」について。
 天風師の代表的な言葉に「人生は心ひとつの置きどころ」というものがあります。


(p102より引用) 結局、心が人生を感じる感じ方でそのまま極楽にもなり、地獄にもなるわけだ。そこで、心に極楽を感じせしめて生きようとするには、心のなかを掃除しなければだめなんです。・・・それが、「観念要素の更改」というんです。


 その具体的な「心のクリーニングの方法」を天風師はこう語っています。


(p122より引用) 思えば思うほど楽しく、考えれば考えるほどうれしいことだけ思ったり、考えたりして寝るようにしてごらん。
 ・・・それだけを毎晩毎晩やっていると、どんどん心のなかがきれーいに洗われてくるんだ。


 この寝る前に楽しいこと・うれしいことを考えるのは、先に紹介した「暗示の感受習性」の応用でもありますね。

 さて、最後にもう一度、「人生は心ひとつの置きどころ」について。


(p375より引用) 目に触れるすべての物は一切合財、・・・もうどんなものでも、ちりっぱ一枚でも人間の心のなかの思い方、考え方から生み出されたものじゃないかい。それ以外の物があるはずないもの。
 それがそうだとわかったら、あなた方の一生も、またあなた方の心のなかの考え方、思い方で良くも悪しくもつくりあげられるもんだということがすぐわかってくるはずなんだ。
 ・・・あなた方の心のなかの考え方や思い方が、あなたたちを現在あるがごときあなた方にしているんだ。


 今までとは全く違った見方・考え方で、心の思い方・考え方を「取り扱う」ようになるというのが、天風師の教えの到達点なのでしょう。
 自分自身で自らの「考え方」を制御する。体のみならず心も客体化する思想です。

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ビジネスで使える 超一流 おもてなしの心・技・体 (里岡 美津奈)

2014-09-20 09:17:19 | 本と雑誌


 最近、出勤途上で聞いているpodcastの番組「The Lifestyle MUSEUM - Tokyo FM」で著者である里岡美津奈さんの話を聞きました。そのときの内容と彼女の話しぶりにちょっと興味を持ったので読んでみた本です。

 里岡さんは、搭乗歴約25年の元ANAのキャビンアテンダント(CA)で、トップCAとして皇室をはじめとした数多くの世界的VIPの接遇を経験された方です。
 彼女によれば「超一流の接遇」は以下のようなものだと言います。


(p6より引用) 超一流の接遇とは、短い時間の中でも、大勢のお客さま一人ひとりに対して、その方が必要とするサービスを、もっとも適切なタイミングで提供、提案できることです。


 これは「お客様一人ひとり」に対して各々異なった接し方を求めるものです。
 「VIPの方々は事前にそのプロファイルを頭に入れることができる分、ある意味、接しやすい」と里岡さんは語ります。むしろ、一般の不特定多数のお客様の方が、接したその瞬間にできるだけ多くの情報を読み取る必要があり、さらにそれに応じた対応を取らなくてはならないので、かえって難しいのだそうです。

 そういった対応を実現する気構えを里岡さんは、こう指摘しています。


(p7より引用) やわらかく、張りのある心の状態を、つねに(これが重要です)保っておくこと。
 それが、接遇者に望まれるマインドだと私は考えています。


 お客様のどんな微かなサインも見落とさない敏感な神経と、それを感じさせない所作との両立、そしてそういう状態を”いつも”保っておくことは並大抵のことではありませんね。
 「おもてなし」「接遇」は、最終的には(いい言い回しではありませんが)「自分の全人格」を”商品”としてお客様に提供するものです。里岡さんは、そのために、自分を「高める」ことを日々心掛け、自分自身を厳しく律し続けてきた方のようです。


(p188より引用) 続ける人はやはりひたむきです。あれもこれもと浮気をしません。自分自身を高めることには貪欲ですが、自分にないものをやみくもに求めることはありません。物事を損得で考えませんから、目先のお金や、地位や権威に執着することもないでしょう。・・・
 それを続けることが、自分にとって心地よいのだということをつかんだら、続けないではいられなくなるのです。


 里岡さんは、すべてのお客様に対して” 等しく”サービスを提供することを求めています。これは、すべてのお客様に”同じ(画一的な)”サービスを提供することとは対極にある姿勢です。


(p90より引用) 私が理想とするスタイルは、お客さまが、サービスされているということをことさらに意識しなくても、気づいたら心地よくすごせていたという接遇です。


 お客様の求めに(あるいは求めないことに)自然体で応える、日本的な”引き算の文化”の具現であり、また、仄かに”老荘”的な香りもする信念ですね。

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世界遺産にされて富士山は泣いている (野口 健)

2014-09-14 21:16:18 | 本と雑誌

 新聞の書評欄で紹介されていたので読んでみた本です。

 著者の野口健氏は、7大大陸最高峰世界最年少登頂記録を樹立する等で有名な日本の代表的なアルピニストです。最近は、エベレストや富士山の清掃登山等、環境問題への取り組みでも注目されています。

 本書は、その野口氏が、富士山の世界文化遺産登録をひとつのシンボリックな材料として、日本の環境保護問題の課題を浮き彫りにしたものです。そして、その課題解決には、行政・観光業者・山小屋関係者・環境保護NPO等々、複雑に絡み合った関係者間の利害調整という過程が不可避なのです。


(p62より引用) 環境問題というと、自然を相手に取り組む活動というイメージがあるかもしれないが、僕は富士山に関する活動をしていて、自然が相手だという気になったことがない。誰が相手なのか。
 その答えは「人間」だ。


 この「人間」相手に課題解決を進めるにあたっては、関係当事者間で「なんのために」という解決の「目的」の共有が最も重要になります。しかしながら、この点からして、日本の場合は「ボタンの掛け違い」が見られるのです。それは、「世界遺産」登録の目的の理解にあります。


(p73より引用) そもそも世界遺産とは、1972年にユネスコ総会で採択した「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」に基づいて、「顕著な普遍的価値」を有する遺産として登録されたもののことを指す。


 世界遺産条約成立の経緯を辿ると、1960年に始まったアスワン・ハイ・ダム建設事業に伴う古代エジプト遺跡群の保存キャンペーンがその発端でした。


(p89より引用) 世界遺産は、その誕生の経緯からして「遺産を顕彰する」ことではなく、「遺産を守る」ことが目的なのである。この点を多くの日本人は、はき違えている。世界遺産は遺産を「守るため」にある。なったら終わりではない。


 この「遺産を守る」という観点から、富士山の場合は、そもそも今回の登録にあたって「宿題」が課されています。それは、2016年2月16日までに世界遺産センタに対し、
 ①文化的景観の手法を反映した資産の総合的な構想(ヴィジョン)
 ②来訪者戦略
 ③登山道の保全手法
 ④情報提供戦略
 ⑤危機管理戦略の策定に関する進展状況
 ⑥管理計画の全体的な改定の進展状況
等を明らかにした保全状況報告書を提出するというものです。
 ここに、他の世界遺産に見られない「富士山」の難しさがあるのです。


(p92より引用) 富士山の難しさは多くの世界遺産とは違って「現状維持」を求められているのではなく、「現状からの改善」を求められているところにある。したがって「登録前の状況と大きく変化がなければ大丈夫」ではない。むしろ、どうやって保存状態をよくしていくか、抜本的改善策を出して”変えなければ”危ないのである。


 本書において著者が求めているのは、「富士山を世界文化遺産」として維持し続けるという点ではありません。それは、むしろ手段であり、究極の目的は「環境保護」にあります。

 世界遺産条約を日本が批准したのは1992年、先進国の中では異例の遅さだったとのことです。そして、1993年「文化遺産」として法隆寺と姫路城、「自然遺産」として屋久島と白神山地が登録されて以降、現在まで、文化遺産14、自然遺産4が登録されています。最近では「富岡製糸場と絹産業遺跡群」が追加されましたが、それらの過程の中で、日本の多くの関係者は、世界遺産を保護の対象としてみるのではなく、経済活性化の起爆剤としての観光資源とみなし続けてきました。

 結果として、自然や文化を尊重する人が増え、それに触れる人が増えることは必ずしも否定するものではありません。むしろ文化活動の啓発という点では大きなメリットがあるはずです。
 しかし、その根源たる文化遺産や自然遺産が破壊されてしまっては全くもって本末転倒、こうならないための取り組みには、関係者間の真の目的の共有と、確固たる信念に基づく強いリーダーシップが不可欠です・・・。

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知の武装 : 救国のインテリジェンス (手嶋 龍一/佐藤 優)

2014-09-04 23:01:08 | 本と雑誌

Ishimitsu_makiyo  手嶋龍一氏と佐藤優氏、面白い取り合わせの著者なので興味を持ちました。
  “インテリジェンス”という視点から、近年の日本を取り巻く多種多様な外交問題をテーマにしたお二人の会話が進みます。

 数多くの興味深いやりとりがあったのですが、まずは身近な「通訳」について。
 私たち素人は、外交官どおしの交渉は英語で進められていると思い込んでいたのですが、実際はそうではないようです。

(p58より引用) 佐藤 外交の世界では、およそ中立な立場の通訳などいないんです。・・・それは、お金を払っている側につく。お金を払っている側に、有利な通訳をするものです。・・・
手嶋 民間のかなり大事な交渉で、自社の社員に英語で折衝をやらせている経営者がいますが、危険極まりないですよね。外交の世界では決してそんなことはしません。・・・正式な折衝では通訳を使うのが鉄則です。
佐藤 いまどき英語で自ら交渉をやっている会社は、オキュパイド・ジャパン、つまり占領下日本の発想から抜け出していない。重要な会談は、民間でも日本語を使うべきです。

 このあたり、昨今の流行とは相反するものですが、お二人からのコメントならではのリアリティと説得力がありますね。

 もうひとつ、世界に大衝撃を与えた情報漏洩事件であるスノーデン事件に関連したお二人のやり取りです。

(p92より引用) 手嶋 二十一世紀のいま、安全保障の主戦場は二つの「スペース」に移りつつあります。サイバー・スペースとアウター・スペース、すなわちネット空間と宇宙空間です。この二つは、必然的に国家の枠組みを超えてしまう。若きハッカーとして、サイバー・スペースに魅入られていったエドワード・スノーデンは、その存在自体が優れて二十一世紀的なアナーキストなのでしょう。
佐藤 本人がそれと自覚しないまま、予想もしなかったような修羅場を作り出してしまうという人物というのが時折いるものです。

 スノーデンは、自らの動機において対象としていた世界とは全く別次元の空間にも途方もなく大きな衝撃を与えてしまったようです。スノーデン事件については、最近、それに関する本を読んだので、その内容を踏まえてお二人の話を読むと、また新たな気づきがありました。

 さて本書を読んでの感想ですが、流石に“インテリジェンス”の専門家の視点はとても刺激的で興味深いものでした。

 その人のもつ知識や経験値の多寡で、ある事象が示すメッセージを読み解く深さが天と地ほど異なってくるようです。他方、「安倍首相は『美しき誤解』で得をした」との指摘にもあるように、相手方の勝手な思い込みにより当事者が意図しない解釈がなされるということも現実には存在しています。

 コミュニケーションは相手の存在が前提であり、相手がどう解釈したかが「現実としての真の姿」である以上、最後は「他責」となります。
 そういう危うさの中で、いかにして誤解なきよう真意を明らかにし合う関係性を築けるか、“インテリジェンス”はその有益な一手段でもあるのでしょう。
 

知の武装: 救国のインテリジェンス (新潮新書 551) 知の武装: 救国のインテリジェンス (新潮新書 551)
価格:¥ 821(税込)
発売日:2013-12-14


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