OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

不運の方程式―あなたの「ついてない!」を科学する (P.ベントリー)

2010-09-26 11:49:35 | 本と雑誌

Kaminari  タイトル(不運の方程式)だけからはどんなジャンルの本か分りませんが、内容は「科学」の概説書です。

 ちなみに原書のタイトルは「The Undercover Scientist」、直訳すると「覆面科学者」です。著者によると「覆面科学者」とは、「日常生活のなかでちょっとした不運に見舞われたとき、どうしてそうなるかを調べてみる人」とのこと。主人公のある1日に起こった出来事を材料にして、それに関する「科学的な解説」を加えていきます。

 たとえば、「立つ・歩く・走る」を採り上げた「七転び八起き」の章ではこんな具合です。

 
(p100より引用) 私たちはふだん何げなく歩いたり走ったりしているが、ただ立っているだけでも、脳では驚くべき量の計算が行われている。頭のてっぺんから足の先までの間に関節がいくつあるかを考えてみれば、こうした動作の難しさがわかるだろう。転倒せずに体を動かすためには、足首、膝、股関節、首から腰にかけての20以上の関節はもちろん、・・・すべての間接が適切なタイミングで適切な角度に調整されていなければならない。・・・
 この問題を大幅に単純化したものは、工学、コンピューター科学、ロケット工学の分野では「倒立振子問題」として知られている。・・・誇張でもなんでもなく、私たちが立ち上がるたびに、脳はロケット工学よりも難しい問題を解いているのだ。

 
 本書で扱っているジャンルは、原子物理学・力学・天文学・化学・生物学・医学・脳科学・コンピュータ工学・・・と極めて多岐にわたります。が、一般の人々を読者として想定しているので、話題も身近なものを扱っていますし、その解説は平易で分りやすく工夫されています。

 
(p255より引用) トウガラシから抽出されるカプサイシンやこれに似た辛み成分は、油には溶けるが水には溶けない。・・・
 それでは、カレーを食べすぎたあとに少しでも早く口のヒリヒリ感を消すには、どうすればよいのだろうか?
 ・・・水で口をゆすいだ場合、ヒリヒリ感が消えるまでに11分かかるという。・・・圧倒的に早いのは牛乳だ。これは、牛乳に含まれるカゼインというタンパク質と脂肪分が、カプサイシンと口の中の細胞との結合を切り、カプサイシンを洗い流すのを促すからだと考えられている。

 
 著者の手にかかると、「瓶の口から指が抜けなくなった」ことから「解剖学」の話題へ、「鍵を溝に落とした」ことから「相対性理論」の話題へと発展していくのです。
 特に、「循環器系」「消化器系」「神経系」「筋肉系」「骨格系」等々の「人体の仕組み」に関する説明を読み進めると、改めて「生命の構造の精緻さ」と「生命の進化の神秘」に驚かされます。

 「科学」に対して「ちょっと興味がある」という方ならかなり楽しめると思います。読んでみる価値は十分にありますね。
 望むべくは、説明を援ける「図・イラスト」が載せられていれば、科学の初心者にとってもさらに分りやすいものとなったでしょう。
 
 

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マネジメントの方法 (マネジメント-基本と原則 (P.F.ドラッカー))

2010-09-23 21:16:15 | 本と雑誌

 マネジメントは通常日本語では「管理」と訳されますが、その「管理」についてドラッカー氏が語った章から、私が関心をもったフレーズを書き記しておきます。

 まずは、「管理手段」の特性についてです。

 
(p165より引用) 組織における管理手段には三つの特性がある。
 ①管理手段は純客観的でも純中立的でもありえない。・・・

 
 この第一の特性を踏まえてドラッカー氏はこう指摘しています。

 
(p166より引用) したがって管理に関わる根本の問題は、いかに管理するかではなく何を測定するかにある。

 
 「目的(対象)」の明確化が最も重要で、「いかに(手段)」はそれに従属するとの考えです。
 さらに、あと二つの特性はこれらです。

 
(p166より引用) ②管理手段は成果に焦点を合わせなければならない。・・・
 ③管理手段は、測定可能な事象のみならず、測定不能な事象に対しても適用しなければならない。・・・
 測定できるものは、すでに発生した事実、過去のものである。未来についての事実はない。しかも測定できるものは、ほとんどが外部ではなく内部の事象である。・・・
 そのうえ測定と定量化に成功するほど、それら定量化したものに注目してしまう。したがって、よく管理されていると見えれば見えるほど、それだけ管理していない危険がある。

 
 最近、「見える化」「可視化」の重要性がいわれています。もちろんその重要性を否定するものではありませんが、そもそも「何を」対象とするのかが重要である、定量化(可視化)外のところにも管理が必要な事象があるとのドラッカー氏の指摘は、なるほどと思わせるところであり、改めて心しなくてはならないと感じました。

 もうひとつ、「経営科学」をテーマにしたドラッカー氏の議論です。
 ドラッカー氏は「経営科学」はマネジャーにとって有効なツールであるにも関わらず、その活用方法に問題があると考えています。

 
(p175より引用) 経営科学がなぜまちがって使われているかを解くもう一つの鍵は、リスクに対する態度にある。経営科学は、・・・最終目標としてリスクをなくすことや最小にすることに力を入れている。・・・だがそのような試みは、最大のリスクすなわち硬直化のリスクを冒しているといわざるをえない。
 経営科学の主たる目的は、正しい種類のリスクを冒せるようにすることでなければならない。マネジメントのために、いかなるリスクがあり、それらのリスクを冒したとき何が起こりうるかを明らかにしなければならない。

 
 この指摘の根本にある「リスクに対する考え方」、すなわち、リスクは避けるものではなく取るものだという姿勢は、まさにドラッカー氏のマネジメント思想の根本に流れているものですね。
 
 

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マネジャー (マネジメント-基本と原則 (P.F.ドラッカー))

2010-09-22 23:13:49 | 本と雑誌

 ドラッカー氏によるマネジャーの定義は「組織の成果に責任を持つ者」です。そして、ドラッカー氏は「マネジャーの役割」を以下のように説明しています。

 
(p128より引用) マネジャーには、二つの役割がある。
 ①第一の役割は、部分の和よりも大きな全体、すなわち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することである。・・・
 マネジャーはマネジメントの一員として、事業のマネジメント、人と仕事のマネジメント、社会的責任の遂行という三つの役割も果たさなければならない。・・・あらゆる決定と行動は、三つの役割すべてにとって適切でなければならない。・・・
 ②第二の役割は、そのあらゆる決定と行動において、ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされるものとを調和させていくことである。・・・
 今日のために明日犠牲になるものについて、あるいは明日のために今日犠牲になるものについて計算する必要がある。それらの犠牲を最小にとどめなければならない。

 
 さらに続けて、その役割を踏まえたマネジャーが取り組むべき具体的な仕事も明示しています。

 
(p129より引用) あらゆるマネジャーに共通の仕事は五つである。①目標を設定する。②組織する。③動機づけとコミュニケーションを図る。④評価測定する。⑤人材を開発する。

 
 そしてこれらの役割を果たすべきマネジャーに必要な資質は「真摯さ」だと断言しています。

 
(p148より引用) いかに知識があり、聡明であって上手に仕事をこなしても、真摯さに欠けていては組織を破壊する。組織にとってもっとも重要な資源である人間を破壊する。組織の精神を損ない、業績を低下させる。

 
 このあたりの指摘は、いかにもドラッカー氏らしい語り口ですね。

 さてもうひとつ、「組織の精神」の章でのドラッカー氏の指摘の重要です。まず、組織の目的としてこう切り出します。

 
(p145より引用) 組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある。

 
 凡人からなる組織は「事なかれ主義の誘惑」にさらされます。この点についてのドラッカー氏のアドバイスです。

  
(p145より引用) 成果とは百発百中のことではない。・・・成果とは長期のものである。すなわち、まちがいや失敗をしない者を信用してはならないということである。それは、見せかけか、無難なこと、下らないことにしか手をつけない者である。成果とは打率である。弱みがないことを評価してはならない。・・・人は、優れているほど多くのまちがいをおかす。優れているほど新しいことを試みる。

 
 この点はドラッカー氏に限らず、多くの先達によって指摘されているところです。が、これほど言われ続けているということは、現実はなかなかこのとおりになっていないという証左でしょう。私も折にふれて心しなくてはなりません。
 
 

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マネジメントの使命 (マネジメント-基本と原則 (P.F.ドラッカー))

2010-09-20 13:27:53 | 本と雑誌

 ドラッカー氏の「マネジメント」の復習です。
 まず、本書の冒頭でドラッカー氏は「企業とは何か」を問い、「企業≠営利組織」と述べています。

 
(p15より引用) 企業とは何かを知るためには、企業の目的から考えなければならない。企業の目的は、それぞれの企業の外にある。・・・その目的は社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。

 
 顧客のみが市場を創造します。そこでドラッカー氏はこう続けます。

 
(p16より引用) したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。

 
 マーケティングの目標を考えるにあたって、ドラッカー氏は先立つべき二つの意思決定があると言います。「集中の目標」と「市場地位の目標」です。そのうち「市場地位の目標」に関するドラッカーの指摘は重要です。

 
(p31より引用) 市場において目指すべき地位は、最大ではなく最適である。

 
 ドラッカー氏は、独占による市場の停滞よりも、適度な競争状態による市場の拡大・活性化を重視しているのです。
 このあたりの考え方は、本書の最終章「マネジメントの戦略」でとりあげられている「必要な成長とは何か」との命題の議論でも示されています。

 
(p261より引用) マネジメントに携わるものは、第一に、必要とされる成長の最小点について検討しておく必要がある。・・・
 ・・・量そのものは成長とは関係ない。成果の面で成長して、初めて成長といえる。・・・
 したがって第二に、成長の最適点について検討しておく必要がある。それ以上成長しようとすると、資源の生産性が犠牲になる点はどこか。収益性を高めようとすると、リスクが急激に増大する点はどこか。成長の最高点ではなく最適点こそ成長の上限としなければならない。成長は最適点以下でなければならない。

 
 このドラッカー氏のアドバイスに従うのは非常に難しいですね。事業を推進する立場に就くと、「黒字であれば(赤字でさえなければ)、生産性が落ち始めていてもその施策はgo」という判断をしてしまいがちです。

 さて、最後に、ドラッカー氏の最重要テーゼのひとつ「イノベーション」に関する主張を記しておきます。

 
(p270より引用) 重要なことは、変化が例外でなく規範であり、脅威でなく機会であるという真に革新的な風土の醸成として、問題を定義することである。イノベーションとは姿勢であり行動である。・・・
 変化への抵抗の底にあるものは無知である。未知への不安である。しかし、変化は機会と見なすべきものである。変化を機会として捉えたとき、初めて不安は消える。

 
 「変化」に対するポジティヴ・シンキングです。
 
 

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日本人へ 国家と歴史篇 (塩野 七生)

2010-09-18 08:30:42 | 本と雑誌

Caesar  この前読んだ「日本人へ リーダー篇」の姉妹編です。
 本書でも塩野さんの歯切れのよい主張がふんだんに開陳されています。

 ひとつひとつの意見に対しては、私としては首肯できないところも結構あるのですが、他方「なるほど」と感じるところも数多くありました。

 たとえば、そのひとつ、代表作「ローマ人の物語」を書き終え、その行程を振り返ってみたときの塩野さんのことばです。
 「ローマ人の物語」の著作一本に集中したことにより、塩野氏は、それに関連する情報のみをすべて自分の頭の中に泳がせることができたそうです。その結果、さまざまな情報が、想定外な関係性もたどりながら「ローマ人」という軸に自然にまとまっていったというのです。

 
(p68より引用) 考える時間を充分にもてたからこそ一見ローマと無関係な事象でさえもローマ史と比較検討することもでき、それによって史書や研究書から得ただけでは平面的でしかなかった知識も、実感を伴うことで立体的に変わるのだということを伝えたかったのである。

 
 このあたり、もちろん私は類似体験をしたことはありませんが、さもありなんという感じはしますね。
 また、こんなフレーズもありました。

 
(p231より引用) 文明とは歴史が証明しているように、異分子が加わることによって生ずる幾分かの拒絶反応を経験して初めて、飛躍的に発展するものなのである。

 
 さて、本書は、「文藝春秋」の巻頭エッセイとして連載されたものを再録したものであるせいか、時事問題や政治に関する小文も数多く載せられています。

 その中のひとつ「安倍首相擁護論」の中での塩野さんの言葉は、「政治」のひとつの側面を的確に突いたもので、ストレートになるほどと思わせるものでした。

 
(p78より引用) 政治とは、感性に訴えて獲得した票数、つまり権力を、理性に基づいて行使していくものだからである

 
 もうひとつこの類の小文で、塩野さんらしさが発揮されているのが「夢の内閣・ローマ篇」と銘打たれた章です。ローマ帝国の皇帝の歴々を配した塩野的「夢の内閣」の紹介です。
 「内務(総務)」「外務」に続いて「防衛省」と来るのも塩野さんらしく、その防衛省のトップに配されたのは「ハドリアヌス」でした。その選定理由のくだりです。

 
(p128より引用) 外務省ではなく外政省と改めるべきと思う外交だが、これを国益を守りながら進めるには防衛分野が健全に機能することが必要だ。・・・
 それゆえ重要きわまりない防衛省のトップだが、最適任者はハドリアヌスだろう。彼こそが、戦争に訴えないで防衛責任も果すという、困難であっても国民にとって最もありがたい、安全保障制度を再構築した人だった。

 
 最後に、私としては、どうしても受け入れられないという典型的な塩野さんの主張のくだりを書きとめておきます。

 
(p220より引用) 私には、日本がしたのは侵略戦争であったとか、いやあれは侵略戦争ではなかったとかいう論争は不毛と思う。はっきりしているのは日本が敗れたという一事で、負けたから侵略戦争になってしまったのだった。
 となれば、毎年めぐってくる八月十五日に考えることも、方向がはっきり見えてくるのではないか。第二次大戦の反省なんてものは脇に押しやり、戦時中と戦後の日本と日本人を振り返って示す。・・・だがその後は、過去ではなく現在と未来に話を進める。そこで論じられるのはただ一つ。どうやれば日本は、二度と負け戦さをしないで済むか、である。

 
 

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先駆的コンセプトの振り返り (ロングテール―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (クリス・アンダ

2010-09-11 17:56:16 | 本と雑誌

 クリス・アンダーソンによる「ロングテール」。図書館の返却棚にあったので、今頃になって思いついたように手に取ったものです。

 話題になって数年後のこの手の書籍を読むと、その本の指摘が表層的であったのか時代の変化の本質を捉えていたのかがはっきり分かって興味深いものがありますね。
 もちろん、本質的には大きなトレンドを掴んでいたとしても、具体的な仕組みとして予測しきれていなかったケースもあります。
 たとえば、「オンデマンド印刷」についての著者のコメントです。

 
(p121より引用) 本はデジタル・ファイルという理想的な形で保管され、注文が来るとレーザープリンタで印刷され普通のペーパーバックになる。・・・
 ・・・オンデマンド印刷の経済効率はロングテールを伸ばすだけでなく、投資額の高いヘッドの経済効率まで改善する。・・・オンデマンド印刷技術の導入は加速するにちがいない。

 
 今、起こっていることはご存知の通り「電子書籍」に向かった激流です。アメリカでは、アマゾン自らがKindleを投入しiPadの登場で爆発しました。オンデマンド印刷の貢献は「電子書籍」の波に掻き消えてしまうのでしょう。

 もうひとつ、「ニッチな世界の拡大」について。こちらはまだ評価が定まっていない例です。
 膨大なロングテールの情報の中から自分の趣味嗜好にあったものだけを取り出すことが可能になると、ひとりひとり、細分化されたニッチな世界を持つことが容易になります。
 そこで起こる議論のひとつです。

 
(p241より引用) 文化が細分化されるのはいいことなのか悪いことなのか。・・・
 ローゼンによれば、こうしたテクノロジーがもたらすものは、個人的で狭隘な嗜好ばかり追いかける「エゴ配信」の普及だ。・・・
 自分で何もかも管理できるという幻想を抱かせるテクノロジーは、新鮮なものに驚く能力を私たちから奪う危険がある。趣味が洗練されるどころか、一つのことに固執して同じことを繰り返し、結果、感覚が麻痺してしまう。テクノロジーでつくりあげた小さな自分世界に閉じこもり、生まれ持った個性をいかすことは逆に難しくなっていく。

 
 この考え方に対して、著者はこう応えています。

 
(p242より引用) ローゼンの言うことは正しいのだろうか。僕は疑問だ。実際にはまったく逆のことが起こっているように思える。ニッチの世界は確かに選択肢の多い世界だが、レコメンデーション等のフィルタという強力な助っ人のおかげで、新しいものをどんどん開拓できる。閉ざされはしない。

 
 さて、この二つの意見、どうでしょう。

 以前のように一部のマスコミが情報の生成から流通までグリップしている世界は望ましいものではないと思います。が、ある種の基準で選別された情報が(自分が好むと好まないとにかかわらず)流れ込んでくるメリットもあったと思います。「受動的な気づきの機会」です。

 他方、すでに現代は、多くの人々が自由に発信する0次情報や1次情報がインターネット上に氾濫している世界です。その中で、人々は何らかの方法で自分が欲する情報を選別・入手しなくてはなりません。その有力な手段が「検索」であり「レコメンデーション」ということになります。この状況は、一見、「情報入手先の拡大・自由化」が実現されているように感じられます。しかしながら、自分自身の「検索」に重きを置きすぎても、刺激に富む飛躍的な情報に偶然出会う可能性はむしろ減少していくでしょう。自分の興味の「連想の範囲内」の情報しか引き出されてこないからです。

 この議論は、「AかBか」ではなくてよいと思います。
 中庸・バランスと言ってしまうと安易に聞こえるかもしれませんが、せっかくどちらの方法も享受できる世界にあるのですから、それこそ自分の好みに応じて、その二つの道をうまく両立させればいいだけですね。
 
 

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三つの風 (ロングテール―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (クリス・アンダーソン))

2010-09-08 21:23:57 | 本と雑誌

 C.アンダーソン氏の著作は「フリー」の方を先に読んでしまいましたが、こちらの「ロングテール」も大きなインパクトを残した本でしたね。

 こういう、先駆的な「コンセプト」をザックリと切り出して示した著作は、細部の議論の当否はともかくとして読んでみて大変刺激になります。
 以下、本書の中のいくつかの議論で私として興味を持った部分を覚えとして記しておきます。

 まずは、「ロングテール」の基本コンセプトを説明している箇所からです。
 「ロングテール」は、市場がニッチな領域に大幅に拡大することでもあります。著者は、このニッチ市場の開闢に「三つの追い風」が吹いていると指摘しています。

 
(p72より引用) 第一の追い風は生産手段の民主化だ。・・・
 第二の追い風は、流通を民主化して消費のコストを減らすことだ。・・・
 第三の追い風は需要と供給を結びつけることだ。
 以上の三つの追い風それぞれが、ロングテール市場における新たなビジネス・チャンスになると考えて欲しい。生産手段の民主化は星の数ほど生産者を増やすことにつながるし、効率性にたけたデジタル経済は新たな市場を生む。またばらばらに分散した無数の消費者の知的活動を追跡してもっとも適した商品を届ける能力は、さまざまなレコメンデーション手法へとつながり、事実上新しい流行発信源になっている。

 
 この三つの流れのなかで、現在のマーケットを支配しているのは、第二と第三の風をおさえたビジネスのようです。すなわち、ロングテールのアグリゲーターとして情報を集め、その集積した情報を検索によりフィルタリングをかけ、さらにレコメンデーション技術によりマッチング処理してエンドユーザーに届けるモデルです。

 とはいえ、その前提には、ロングテールを構成する大量なコンテンツの存在が必要不可欠です。そのフェーズを、著者は「生産手段の民主化」と名づけているわけです。
 「生産手段の民主化」は、生産者の圧倒的な増加をもたらします。そして、その背景には「ものづくりの動機」の変化・多様化があると著者は指摘しています。

 
(p96より引用) ヘッドとテールではものづくりの動機が違うという事実を知らなくてはならない。・・・ロングテールのヘッドは旧来の貨幣経済ではじまり、テールは非貨幣経済で終わると考えてもいい。・・・
 ヘッドでは営利が優先される。高くつくが影響力は強い大衆市場の流通媒体によって、商品から利益が生まれる。そこはプロの領域だ。・・・
 いっぽうテールでは、生産と流通のコストが(デジタル技術の民主的な力で)低く抑えられ、利益はしばしば二の次とされる。創造の目的は自己表現、楽しみ、実験などさまざまだ。経済的な動機があるとすれば、現金と同じくらい人を動かせる貨幣の存在だろう。「評判」という貨幣である。

 
 この「評判」という価値は、人に認められたいという根源的な欲求であるが故に、その程度の大小に関わらず、人を創造的な活動に導くものなのです。そしてインターネットの世界が「認められる機会」を飛躍的に増大させたわけです。

 さて、本書の最終章、第14章「ロングテールの法則-消費者天国をつくるには」では、ロングテール・ビジネスを発展させるコツが2点にまとめられています。

 ひとつは、「すべての商品が手に入るようにする」
 もうひとつは、「欲しい商品を見つける手助けをする」

 さらに、「ロングテールの集積者として成功するための9つの法則」も紹介されています。

 コストを削減する
  法則1:在庫は外注かデジタルに
  法則2:顧客に仕事をしてもらう
 ニッチに注目する
  法則3:流通経路を広げる
  法則4:消費形態を増やす
  法則5:価格を変動させる
 支配をやめる
  法則6:情報を公開する
  法則7:どんな商品も切り捨てない
  法則8:市場を観測する
  法則9:無料提供をおこなう

 この最後の法則9には、まさに、アンダーソン氏の近著「フリー」で展開した「フリーミアム」の萌芽が見られますね。
 
 

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昭和・戦争・失敗の本質 (半藤 一利)

2010-09-04 09:13:44 | 本と雑誌

World_war_2  最近は「昭和史」で有名な半藤氏ですが、本書は2009年に発刊された短文集です。
 採録されている文章は、書かれた時期が古いもので1973年、一番新しいもので2007年と30年以上の年月を跨いだものです。

 舞台となるのは第二次世界大戦。戦争末期の何ともやり場のない権力の独善・独歩を、半藤氏流の語り口で怒りの心情を籠めて綴っていきます。

 
(p145より引用) 6月22日、天皇は、政府と軍部六人の最高戦争指導会議のメンバーを召集すると、はじめて戦争終結への意思を明らかにした。
 この日からあと8月15日までの終戦史は、調べれば調べるほど腹立たしく、そして悲しい事実がつづくのである。平和がもう日本の門口にまで訪れてきていながら、指導層の大いなる錯誤と無為無策によって、そしてアメリカの無条件降伏以外の講和はないという強硬政戦略によって、大日本帝国の徹底的破滅の日が訪れるまで、戦争はやみくもにつづけられたのである。

 
 本書では、様々な戦争末期のエピソードが紹介されていますが、特に、「日本分割統治」をめぐる画策を描いた章「幻のソ連の『日本本土侵攻計画』」で明らかにされた終戦の月、8月に繰り広げられた米ソ間の交渉過程は息詰まるものがありました。

 ルーズベルトの死去によるトルーマン大統領の誕生が、そして当時のアメリカ駐ソ大使ハリマンの存在が、間一髪のところで日本の分割統治を回避させたのでした。

 
(p209より引用) その時代の日本人にとっては、この国体という感傷的価値とでもいうべきものを、せめて守り抜こうという決死の努力がそこにあったのである。
 このせめてもの論理をめぐって政府と軍部との大議論の間に、広島・長崎に原爆が落とされ、満州の広野にソ連が怒涛のように侵攻してきた。そして8月14日夜おそく万策つきて大日本帝国はついに降伏した。それにしても、どうせ・いっそ・せめての、なんと哀しき日本的心情であったことよ。

 
 この間、避けられるべくして苦難に遭われた人々は100万人を越えるでしょう。悲しくも愚かしいことです。あの時期にあの人がいたことが、あの決断をしたことが、あの不作為が・・・、人の歴史の不可逆性を考えさせられます。
 まさに65年前の今が舞台、8月、戦争と平和を考えるこの時期に相応しい本です。
 
 

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