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非線形科学 同期する世界 (蔵本 由紀)

2014-11-30 18:55:41 | 本と雑誌


 


 蔵本由紀氏の著作は2冊目です。

 先に同じ集英社新書から発刊された「非線形科学」という本も読んでみたのですが、これらの本で解説されている「同期現象」は、私が興味をもっているテーマのひとつです。

 マングローブの木にとまっている何万匹ものホタルが同じ周期で明滅している映像はかなり有名ですが、そういったマクロリズムも、多くの場合、無数のミクロリズムが同期したものだという考え方があります。このミクロリズムの最小単位は「細胞」です。


(p120より引用) 心拍ほど身近なリズムはありません。・・・いのちの中心にあるこのリズムは、細胞集団の同期がもたらすマクロリズムです。


 こういった細胞レベルでリズムを生じさせる仕組みには3種類あります。
 第一は、細胞膜を通して各種のイオンが出入りすることによる「膜電位の振動」、第二は、特定の蛋白質により遺伝子の発現が抑制されたり促進されたりする「遺伝子発現のリズム」、そして第三は、細胞内で起こる「化学反応の振動」です。

 本書では、こういった仕掛けで生じる生物界における「同期現象」だけではなく、振り子時計の同期やローソクの炎の同期、電力の送電ネットワークの同期等、さまざまなジャンルにおいて見られる現象をとりあげ、その発生メカニズム等を平易に解説しています。

 そして、著者の関心は、こういった「同期現象」が学際的な観点から深く研究されることによる新たな革新の可能性にあります。


(p44より引用) 「リズムは同期を好む」という自然に潜む自己組織化の能力は新しい技術の原理として大きな可能性をもっているように思います。


 全ての指令を司る制御中枢を持たず、複雑な作業を自律的に実行してくれるシステムへの期待です。


(p239より引用) 「分解し、総合する」一辺倒ではない科学のありかたが可能なことは、もっと広く知られてよいと思います。それは分解することによって見失われる貴重なものをいつくしむような科学です。・・・複雑世界を複雑世界としてそのまま認めた上で、そこに潜む構造の数々を発見し、それらをていねいに調べていくことで、世界はどんなに豊かに見えてくることでしょうか。


 昨今のビッグデータ解析は圧倒的なデータ処理能力を活用した「分析型」解明スタイルという側面があります。とはいえ大量高速処理によるシミュレーション機能の向上は、複雑系世界の研究に大きく貢献するものでしょう。

 本書における「同期」や著者の前著における「カオス」のような概念は、異分野を横断的に統合する力を持つもので、その研究の進展はとても楽しみなものです。そう感じるのは、集中制御と自律分散のどちらを好ましく思うかという私の思考の傾向によるのかもしれませんが。

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免疫力をあなどるな! (矢崎 雄一郎)

2014-11-15 10:00:22 | 本と雑誌

 

 普段はまず手にしないジャンルの本ですが、レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。

 “健康な体”を作るには身体の「基礎力」を高めなくてはなりません。その肝となるのが「免疫力」です。


(p47より引用) 「免疫」とは、・・・「私たちが生きていくうえで病気にならないように、自己と非自己(外敵)を見分けて、非自己を排除する機能」のこと。つまり、ウイルスや細菌、あるいはがん化した細胞といった「外敵」を攻撃して、私たちの身体を病から守ってくれる大切な機能なのです。


 本書は、免疫療法の専門家である著者が、細胞レベルでの健康法を具体的に紹介したものです。
 そのキーは「樹状細胞」、この細胞がNK細胞やT細胞といった免疫機能を持つ細胞を司っているとのことです。


(p6より引用) この細胞の働き次第で、私たちの免疫機能は低くも高くもなる-。この事実は、私たちが「細胞レベル」で健康になることができる、ということを示しているのです。


 この「樹状細胞(著者はこれを「ボス細胞」と呼んでいます)」を活性化すれば、生来持っている「自然免疫」の機能低下を防ぐことができ、生まれてから後に備わっていく「獲得免疫」の機能を向上させることができるのです。
 著者が説く「ボス細胞」を活性化する方法は3つです。


ア. (p6より引用)
①「ボス細胞」を活性化させる食事を摂る
運動は「汗をかく前」にやめる
③ 「ストレスフリー」な環境を整える


 この3番目の“「ストレスフリー」な環境”というのは、免疫システムのバランスをうまく保つための「リラックスしている状態」のことを言います。この状況の大切さは、古来より東洋思想の中でも説かれていました。


(p50より引用) 東洋医学でいう「中庸」をめざすことと、西洋医学でいう「自律神経のバランスと免疫機能のバランス」をとることとは、どちらも同じこと。


 さて、本書では、第4章で「免疫力が高まる生活習慣」として具体的なアドバイスを列挙しています。
 たとえば、納豆やヨーグルトに代表されるような“発酵食品”を摂ること、野菜は香の強いものを“皮ごと食べる”こと、疲労回復のためには“鶏肉”を選ぶこと・・・、あと、「寝る前のプラス思考」もそのひとつです。


(p172より引用) いい睡眠をとるために、私自身がよく実践しているのは、寝る前に「人生でいちばん楽しかったこと」「今まででいちばんうれしかったこと」を思い出すことです。


 これは、以前読んだ「成功の実現」という本のなかで、中村天風師も「心のクリーニングの方法」として薦めていましたね。

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ものの言いかた西東 (小林 隆/澤村 美幸)

2014-11-03 10:33:20 | 本と雑誌

 

 何かの書評を読んで気になったので手に取ってみました。

 従来からよく見られる「方言」の地域差ではなく、もっとベーシックなレベルである「ものの言い方」を切り口に、多くの事例を紹介しながら地域文化論を展開しています。


(p26より引用) どのように言うか以前の問題、つまり、言葉を発するか発しないかという基本的な部分が地域によって異なる。日本語は、まず、ものを言うこと自体に地域差が存在するのである。


 そして、その地域差には、関西圏・関東圏・東北圏・九州圏等の区分において一定の傾向があったとのことです。この指摘はとても興味深いですね。

 たとえば、京都の典型的な挨拶のやりとりとして、「あら、お出かけどすか」「へえ。ちょっとそこまで」というのがあります。京都では、道で出会ったとき最低限の言葉のふれあいはあるにしても、他人事に極力かまわないという姿勢が顕著です。しかしながら、東北地方では全く異なった会話のやり取りになるのです。


(p81より引用) こうした京都のやりとりに対して、東北では相手の私的な領域に立ち入る。しかも、前置きをしたり、ぼやかしたり、遠回しに言ったりすることなく、率直に相手のプライバシーに切り込む。こうした会話が東北ではそれほど不自然ではなく、日常的に交わされていることは興味深い。


 さらに、東北人の会話は短い言葉のキャッチボールになります。これは、慣れていない人から見ると、唐突でぶっきらぼうな言い様と映るのです。

 こういったものの言い方に関する志向や好みを著者は「言語的発想法」と名づけ、7つに類型化しています。


(p164より引用) 〈ものの言い方の発想法〉
①発言性 あることを口に出して言う、言葉で何かを伝えるという発想法。
②定型性 場面に応じて、一定の決まった言い方をするという発想法。
③分析性 場面を細かく分割し、それぞれの専用の形式を用意するという発想法。
④加工性 直接的な言い方を避け、手を加えた間接的な表現を使うという発想法。
⑤客観性 主観的に話さず、感情を抑制して客観的に話すという発想法。
⑥配慮性 相手への気遣い、つまり、配慮を言葉によって表現するという発想法。
⑦演出性 話の進行に気を配り、会話を演出しようという発想法。


 こういった類型は、多くの場合、関西地方と東北地方(ときに九州南部も含む)で両極端な差異が発現されるのです。

 著者は、その差異が発生した原因についても、多角的な観点から考察を進めています。ただ、この社会的・文化的背景の考察は、著者自身に認めているように、まだ緒に着いたばかりのようです。
 「ものの言い方」の変遷に一定の方向性があるのか、たとえば、関西圏を基点に変化の広がりが同心円状に進んだのか、あるいは、可逆的が動きもあるのか・・・、このあたりまだまだ興味は尽きないですね。
 さらなる深堀りした論考の登場が楽しみです。

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