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私を通りすぎた政治家たち (佐々 淳行)

2015-02-21 09:20:54 | 本と雑誌

 おそらく私が初めて耳にするような事実や想像とは大きく異なる評価が書かれているのだろうと、期待して手に取った本です。

 ご存知の通り著者の佐々淳行氏は警察官僚出身の評論家です。

 本書は佐々氏が今に至るキャリアの中で実際に接した数々の政治家の中から、これはという方々をそのエピソードとともに、佐々氏なりの評価を紹介しています。


(p8より引用) 政治家には「ポリティシャン」「ステーツマン」とがあるとよく言われる。・・・
 私の定義する政治家、ステーツマンとは、権力に付随する責任を自覚している人。権力に付随する利益や享楽を追い求めてしまう人は政治屋、ポリティシャンと呼ぶことにしている。


 もちろん、ここでの佐々氏の評価基準は、氏の価値観がベースになっていますから、治安・防衛・外交・危機管理等において成果を上げたか否かに基本的な軸足が置かれています。したがって、佐々氏が選ぶ「ステーツマン」の代表者には、まさにそういった面々が居並びます。

 その観点から採り上げられている日本の政治家の面々は、ちょっと私の価値観とはズレているので、ここで紹介するのは差し控えます。
 その代わりに外国の要人の中で、佐々氏が極めて高く評価している人物を二名書き留めておきましょう。

 一人は、中国の安全保障分野の大物、人民解放軍副総参謀長徐信元帥です。
 佐々氏が役人を退官した後中国国際戦略学会に請われて訪中した際、徐信元帥の会に招待されました。その席で、佐々氏は「天安門事件」における人民解放軍の行動を危機管理の大失敗だったと批判しました。


(p190より引用) じっと聞いていた元帥が口を開いた。
「この私に、そんな無礼なことを言った人間はあんたが初めてだ」
 さぁ、怒りだすのか。・・・と身構えた私に、彼はこんな言葉を発した。
「天安門事件の後、日本から大勢の政治家、学者、評論家が来たけれども、今の説明をすると、みんな『わかった』と言って理解してくれた。だが、あなたは違う。あなたは本当の友好分子だ。本当のことを言ってくれてありがとう」
 徐信元帥はまことに立派な人物だった。優れた「ステーツマン」だとも思った。


 こののち、中国は佐々氏の助言を受け入れ、治安維持目的の機動隊が組織されたといいます。

 そして、もう一人は、エドウィン・O・ライシャワー元駐日アメリカ大使です。
 1964年3月、ライシャワー大使はアメリカ大使館に侵入した暴漢に襲われ大怪我を負い、その手当のための輸血で血清肝炎に罹ってしまいました。警備の不手際の陳謝のため佐々氏がライシャワー大使を訪れたときのエピソードです。


(p204より引用) 「これで私は本当の駐日アメリカ大使になりました。なぜなら、私の体の中で日本人の血とアメリカ人の血が混じったからだ」と言葉をかけられて、私は震えるほど感動したのである。


 こういった方々は、政治家としての優秀さとは別次元の「人としての『器』の大きさ」を感じさせますね。

 

私を通りすぎた政治家たち
佐々 淳行
文藝春秋
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なぜ年収3000万円の男はセンスにこだわるのか? (臼井 由妃)

2015-02-14 00:14:28 | 本と雑誌

 正直なところ、あまり好きなタイトルではありません。が、食わず嫌いはよくないですね。
 今回もレビュープラスというブックレビューサイトから献本していただいたので読んでみました。こういう機会でもないと手に取らないと思います。

 私自身、“センス”という言葉とはものすごく縁遠く、ファッションや持ち物にはまったくこだわりのないタイプです。また、著者の言うもう少し広い意味での“センス”、例えばマナーや気配りといった類も得意な方ではありません。
 そういった点では、本書で紹介されるであろう「センスの良さ」と、自分がどれほどかけ離れているかを確かめてみようといった、妙に歪んだ期待感もありました。

 しかしながら、読んでみて、やはりこういったトーンの本は私には全く合わないなと感じましたね。
 著者が紹介している具体的なアドバイスやヒントを全否定するわけではないのですが、「世のエグゼクティブは●●している」という切り込み方自体に、生理的に受け入れ難い違和感を感じてしまうのです。

 とはいえ、参考になるところももちろんありました。これは首肯できるといった指摘を1つだけ覚えとして書き留めておきます。


(p87より引用) 何事も頑張るのは素晴らしいですが、自分はどうありたいか、考えることが一番大事。
 「エグゼクティブ」を目指すならば「To-Doリスト」を捨て「To-Beリスト」を大切にしましょう。


 このアドバイスは別にエグゼクティブになるorならないには関係なくとても大事な視点ですね。
 「どうありたいか」「どうなりたいか」という目指すべきものがあって、初めて「何をするか」「何をすべきか」が付いて来るくるということです。
 目前に迫っている「やらならなくてはならないこと」を要領よくこなし続けているだけでは「なりたい自分」にはたどり着かないという指摘は、しっかりと心に留めておくべきだと思います。

 

なぜ年収3000万円の男はセンスにこだわるのか?
臼井 由妃
かんき出版
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人を操る禁断の文章術 (メンタリストDaiGo)

2015-02-08 09:39:50 | 本と雑誌

 普段ならまず手にしないような扇動的タイトルの本ですが、レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。

 本書で著者が紹介しているのは、「自分にとって望ましい行動を人にとらせる『文章』の書き方」です。


(p38より引用) 読む→言葉に反応する→想像する→行動を起こす


 この一連のプロセスの中の“肝”は「想像する」です。対象に「状況を想像させる」ことが相手をして能動的に行動させるためのポイントだとの指摘です。

 その観点から、著者が薦める「相手に対して何らかの行動を促すための文章の書き方」のTopsが「『書かない』3原則」です。読み手に「想像させる」のですから、すべて説明尽くされた一分の隙もないような文章、理路整然とした完全無欠な文章ではダメなのです。


(p88より引用)
原則1
「あれこれ書かない」
あれこれと内容を詰め込み過ぎた長文はすぐに飽きられる。ねらう結果を1つに絞り込み、あえて短文にすることで読み手の想像力を利用する。
原則2
「きれいに書かない」
美しいだけの文章、理路整然とした表面的な文章では心を動かせない。感情を込めた文章で、読み手の想像力を刺激し、感情を引き出す。
原則3
「自分で書かない」
自分の頭の中に答えはない。書く前の準備で、相手の読みたい内容、求めている言葉を探ること。それを提示できれば自ずと動いてくれる。


 この中で難しいのは、やはり「原則3」ですね。
 “どう書けばいいのか”ではなく“何を書けばいいのか”を知らなくてはならないのですから。さらに知らなくてはならないのは“相手の本心”ですから、これは厄介です。

 相手の心の内を知ること、著者はその方法として「マインドリーディング」という手法を紹介しています。ただ、その具体的な方法はというと、インタビューで聞き出したり、facebookやtwitterの投稿から情報を得たりといった感じで、その説明はいきなりかなり粗くなってくるんですね。このあたり、ちょっと残念です。

 さて、本書を読み通してみての感想ですが、まず、意思伝達のための簡単な作文の“Tips集”という視点でみると、それなりに具体的で納得感のあるコツやヒントが記されていると思います。
 とはいえ、そこで実例として示されている個々の文章を、仮に私が受け取って読んだとすると、正直あまり良い印象は抱きませんね。もちろん個人的な好みに拠るところが大きいのですが、ちょっと馴れ馴れしくて相手に阿り過ぎているように感じます。
 相手に快く自発的に(自分にとって望ましい)行動を起してもらうために、相手の心の中を推察して、心地よく感じるような文章を届ける、そういう「相手の気持ちを第一に慮ることが大事」だという著者の基本的な姿勢は、もちろん首肯できるのですが・・・。

 

人を操る禁断の文章術
メンタリストDaiGo
かんき出版
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ビジネスマンへの歌舞伎案内 (成毛 眞)

2015-02-01 09:18:03 | 本と雑誌

 著者に指摘されるまでもなく、是非とも常識として知っておきたいジャンルのひとつが「歌舞伎」です。
 私も以前からとても気になっているのですが、今までに一度しか実際の上演は観たことがありません。

 本書は、まさにそういった私のような人にとっての歌舞伎入門書です。

 特に、著者が紹介している「歌舞伎の楽しみ方」には興味深いものがあります。ストーリーも重要ですが、オーディオ・ヴィジュアルな世界として歌舞伎を捉えるのも面白いですね。
 たとえば、ヴィジュアル。曾我物のひとつ「寿曾我対面」の著者評ですが、見所は唯ひとつだといいます。


(p110より引用) それは、幕が引かれる直前の出演者全員による見得だ。・・・20人あまりの役者がそれぞれの役柄と性格を表現した見得を同時に切る。まばゆい衣装に身を包み、一面金襖の前でピタッと静止するのだ。歌舞伎には正と邪はなく、美と醜だけだということがよくわかる、実に象徴的なワンシーンである。


 もうひとつはオーディオ。取り上げられたのは、歌舞伎十八番のひとつ「勧進帳」です。白紙の勧進帳を読み上げ、主である義経を打擲する弁慶の姿が見せ場のひとつですが、著者が挙げるのは、聞き取りにくい弁慶と関守の富樫とのやり取りでした。


(p120より引用) 弁慶と富樫の問答はまさにラップである、と考えてみてほしい。英語のラップの歌詞を正確に理解できる日本人は少ないだろう。しかし、それでもファンは多いはずだ。それと同じことで、「勧進帳」も言葉の意味はわからなくても、いわば音楽劇として聞いてもらえばいいと思うのだ。


 こういった変わった切り口からの歌舞伎の楽しみ方は、初心者にとっての初めの一歩を踏み出すハードルを大きく下げてくれますね。
 もちろん、歌舞伎ビギナー向けの事細かなアドバイス、たとえばチケットの取り方から上演前後の過ごし方、お弁当のお薦め等々にも触れられていますし、代表的演目の解説も豊富です。

 また、歌舞伎座の回り舞台の装置を手掛けたのは、はるか昔の人気クイズ番組「アップダウンクイズ」のゴンドラ昇降装置を手掛けた会社だといったような“トリビアねた”も随所に散りばめられているので、読んでいて楽しいですね。

 私も、今年は久しぶりに、歌舞伎座に足を運んでもみましょうか。
 

ビジネスマンへの歌舞伎案内 (NHK出版新書 446)
成毛 眞
NHK出版
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