OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

知をみがく言葉 (レオナルド・ダ・ヴィンチ)

2008-08-31 11:36:16 | 本と雑誌

Leonardo_da_vinci  レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci 1452~1519)は、盛期ルネサンスを代表する芸術家でもあり科学者でもあった「万能の才人」です。

 ダ・ヴィンチに関する本は、以前、「ダ・ヴィンチ天才の仕事―発明スケッチ32枚を完全復元」を読んだことがあります。
 今回読んだ「知をみがく言葉」という本は、彼が遺したノート(手稿)から芸術・科学・人生にまつわる言葉を抜粋したものです。

 本書に収録されているダ・ヴィンチの言葉のなかから、いくつかをご紹介します。

 まずは「絵画」について。
 ダ・ヴィンチにとっての絵画は、「科学」のひとつの表現形式だったのでしょうか。こういった言葉が連なります。

 
(p16より引用) 絵画を軽んじる者は、哲学も自然も愛することはない。
(p18より引用) 絵画‐やがては滅んでしまう存在の移ろいやすい美しさを留めておくことができる素晴らしい科学。
(p19より引用) 絵画には、文学のようにいくつもの言語に翻訳する必要がない。

 
 また、「芸術作品に対する判断」について。

 
(p62より引用) 作品に寄り添い過ぎると、判断を大きく誤る恐れがある。
(p63より引用) 他人の作品では、過ちをすぐに見つけられるのに、自分の作品ではなかなか見つけられない。
人の過ちは小さなものでも見咎めるのに、自分の過ちは大きなものでも無視してしまうことがある。

 
 このあたりのくだりは、私たちでは当然のことですが、「かのダ・ヴィンチですらそうか」という感じです。

 その他「科学」のジャンルに分類されているものから、「経験に根ざした真実」を重視するダ・ヴィンチの言葉です。

 
(p98より引用) 良い判断というのは、明確な理解から生じる。
 明確な理解は正しい法則から、
 正しい法則は、正しい経験から生じる。
 正しい経験は、すべての科学と芸術の共通の母である。

 
 ダ・ヴィンチは、「経験から真実に至る論理的プロセスの重要性」を語ります。
 ロジカル・シンキングの基本動作です。

 
(p104より引用) 手続きは体系的でなくてはならない。
命題にはいくつもの部分から成るものがあるので、部分と部分の区別が必要になる。
それができれば混乱は生じず、他人からも理解しやすくなる。

 
 最後は、「真実」を称えるダ・ヴィンチの言葉です。

 
(p250より引用) 真実は素晴らしい。
たとえ、取るに足らないものを褒める言葉でも、真実ならばそれは気高い。

 
 

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手塚治虫対談集‐続「虫られっ話」 (手塚 治虫)

2008-08-30 11:38:40 | 本と雑誌

Atom  1970年代から80年代にかけての手塚治虫氏の対談集です。

 その相手は、小松左京・種村季弘・萩尾望都・鶴見俊輔・立川談志・牧美也子・巌谷国士そして息子さんの手塚真の各氏です。

 対談の主な話題はやはり漫画論ですが、哲学者の鶴見俊輔氏や仏文学者の種村季弘氏・巌谷国士氏らとのやりとりには驚きを感じました。対談相手の方々は漫画についてそもそも造詣が深いのですが、それに対する手塚氏も負けず劣らず文学的・哲学的な議論を交わしていました。

 もちろん、多くの漫画家の方々についてのコメントも登場します。
 私はほとんど漫画は読まないので、話題になっている漫画家の方々の8割方は知らないのですが、中には、さいとう・たかを、白土三平、水木しげる・・・といった私でも知っている有名な漫画家の方々も顔を出します。

 その中からひとりご紹介します。
 赤塚不二夫さんについてです。

 
(p224より引用) 巌谷 でも、赤塚不二夫はどうなんですか?
手塚 あの人はねえ、惜しいんです。つまり彼の人生では、描くということは二次的でね。あれは発表の一つの場としてマンガを使ったけど、彼の本質はそうじゃなかったんじゃないかって気がするんです。つまり彼のメッセージの手段はもっと漠然としたもんだと思うんですね。つまり彼は、諷刺精神の鬼なのでね。・・・道化がたまたまマンガでシナリオを書いてみたんだけど、もうガマンならなくて自分で出てって、ステージの上で始めたという感じがするわけです。あれが彼の人生なんですね。

 
 今から20年以上前、1983年の巌谷国士氏との対談のなかでの手塚氏のコメントでした。
 
 

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カンタベリー物語 (チョーサー)

2008-08-28 09:31:02 | 本と雑誌

Chaucer  世界史の教科書にも必ず登場する「カンタベリー物語」。

 作者のチョーサー(Geoffrey Chaucer 1343?~1400)は中世イギリスを代表する詩人といわれています。
 手元の百科事典をみても、

 
14世紀イギリスの詩人ジェフリー・チョーサーの傑作「カンタベリー物語」(1387~1400執筆)は、聖地カンタベリーへの巡礼にむかう人々が旅のつれづれに順番に物語を披露するという形式をとった枠物語であり、物語と物語の合間の会話は、次の物語への橋渡しとなっている。・・・チョーサーの「カンタベリー物語」は、高貴な愛、寓話、教訓話など中世の文学ジャンルの集大成であり、中世物語文学の最高傑作といえる・・・

 
と紹介されていますし、本書の解説でも次のように称賛されています。

 
(p203より引用) 今日われわれがこれを読んで、その描写のあまりに精細で軽妙なのをみて、このような作品が今から五百年以上も前に出ているのを思うとき、まことに異様な感にうたれるのである。ましてこれが純粋な散文であるならまだしも、韻律でなんの苦もなく描かれたというにおいては、ただただ作者の非凡な才能に驚かざるを得ない。

 
 私が読んだ角川文庫版は、完訳ではなく主な部分を採録したダイジェスト版です。

 こういった古典文学を読むためには、その当時の社会状況についての理解や文学史に関する最低限の常識がないとダメですね。
 私の場合、当時の原語の知識は全くありませんから、残念ながら解説にあるような韻律についても、その素晴らしさを味わうことができません。

 また、当時のイギリス社会を構成する様々な階級・職業の人物が登場して、絡み合いながら物語っていくのですが、どの部分が風刺や社会批判なのか、どこがウィットやユーモアなのか・・・についてもなかなか判別がつきません。(スウィフトのガリバー旅行記あたりまで時代がくだってくると、風刺もある程度は理解できてくるのですが・・・)

 もちろん、ひとつひとつの物語は、それぞれの階層・立場の人々の生活観がリアルに感じられてそれなりには楽しめました。
 当時ならではというエピソードもあれば、いつの時代でも何処も同じという思いをいだくところもあります。個人的には「郷士の物語」とかは好みです。

 チョーサの時代は、日本ではちょうど足利義満の時代、北山文化華やかななりしころのようです。
 当時の日本の文学はといえば「五山文学」でした。京や鎌倉の五山派の禅僧によってつくられた「四六駢儷体」の漢文学。
 日本の文学ですら無案内なわけですから、英文学の古典が理解できないのは当然でしょうね。
 
 

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スパイラル・アップ (トヨタの知識創造経営(大薗恵美・清水紀彦・竹内弘高)

2008-08-26 10:00:22 | 本と雑誌

 トヨタの強さについては、最近出版された井上久男氏による「トヨタ 愚直なる人づくり‐知られざる究極の「強み」を探る」という本でも、「人づくり(人材育成)」の面が指摘されています。

 本書でも、そういったマネジメントのソフトウェア面の指摘が数多くありました。
 それらのいくつかをご紹介します。

 まずは、本書のサブタイトルにもある「矛盾と衝突の経営モデル」の肝である「矛盾の昇華」についてです。

 
(p34より引用) 人間関係のなかで起きる矛盾や対立を発展的に昇華させることができれば、そこから生まれる創造性を生産プロセスに落とし込むのも可能なのである。

 
 こういった矛盾や衝突は、強力なトップダウン式の明瞭なマネジメントスタイルの場合は発生しにくいものです。
 トヨタは、あえて目標に「あいまいさ」を残すことによって矛盾の発生・それを解決する社員の創造性を喚起させています。

 
(p100より引用) 安田善次元専務取締役は、トヨタの目標は、方向性を示すが限定的ではないので、社員は自分が正しいと思う方向に向かって創造的エネルギーを発揮することができると言う。

 
 著者たちは、こういったトヨタ流のマネジメントを6つの力の不安定な動的相関関係としてモデル化し、その総合力が「トヨタの進化」の源泉だと説いています。

 
(p55より引用) この六つの力は相互依存的に作用しあい、互いに強化しあう。その影響で、トヨタの組織は不均衡な状態に置かれる。そこには根本的な矛盾が並存し、組織内に健全な緊張と不安定な状況が生み出される。六つの力のいずれの優位性が変化してもこの状態はダイナミックに揺れ動き、組織を安定状態から新たな軌道へと向かわせる。軌道は六つの力のバランスにより時間とともに変化していく。このような変化はどの組織にも見られるものだが、トヨタが他社と異なるのは、継続的な変化が介在し、不安定が継続する状態を自ら推進していることだ。

 
 こういったトヨタの強みは、「カイゼンを支える危機意識」を指摘した浦西副社長のコメントの中にみられるように、トップマネジメントレベルで経営哲学として根づいている点にもあるように思います。

 
(p177より引用) カイゼンを支えるため、トヨタはある種の危機感を組織内に創り出す。浦西はこう説明する。
 現状に満足しない。満足したとたんにおかしくなる。それを防ぐには、危機意識を持たねばなりません。・・・だが、本当の危機に立ち至らないと、危機意識の共有は難しい。トヨタは危機意識が比較的うまく共有できています。それが、マネジメントの一番大事な仕事だと思っています。

 
 

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従業員の創造性 (トヨタの知識創造経営(大薗恵美・清水紀彦・竹内弘高)

2008-08-24 13:57:54 | 本と雑誌

 著者たちは、本書のタイトル(邦名)にもあるように、トヨタを「知識創造経営」企業と位置づけています。

 「知識創造」の根源的単位は従業員1人ひとりです。
 その意味からトヨタは、従業員の創造性を最重要視しています。

 その姿勢は、「顧客現地対応」に関する浦西徳一副社長のコメントにも表れています。

 
(p136より引用) まずは現地顧客対応です。・・・潜在的なマーケット・ニーズをすべて調査して、それに対して最適な解決策をひとつだけ選ぶようなグローバル企業は、たしかに効率はいいかもしれませんが、その方法ですと現地の従業員の創造性が犠牲になってしまいます。

 
 グローバル・スタンダードを振りかざしたトップダウン的なマネジメントよりも、現地に根ざした現場の知恵を大事にしているのです。

 
(p214より引用) 上の人にいかにビジョンがあっても、何ができて何ができないかの情報をもっているのは下の人たちです。重要な情報をもっていて処理するのは現場で、前線にいる社員が現地の状況やトップの意見などを考慮しつつ、決めるわけです。

 
 従業員重視の考え方は、トヨタの人的資源管理の価値観そのものです。

 
(p230より引用) アップ・アンド・インの人的資源管理は何に由来しているのだろうか。・・・これらの価値観は、「継続的改善」と「人間性尊重」というトヨタウェイの二本の柱に表現されている。その根底にあるのは、人間はチャンスを与えられればだれでも貢献できるという考え方である。「人間性尊重」という柱は、トヨタの人的資源管理が社員のどのような能力を育成しようとしているかに反映されている。

  • 広い心をもち、長期的視野に立って、多様な視点から自律的に考えることができる
  • 課題への取り組みを通じて自分の能力を発見する
  • 組織を動かす行動を起こすことができる

 
 こういった価値観にもとづく人事管理は、昨今のグローバル・スタンダードと言われている評価主義、アップ・オア・アウトの方向性とは逆のものです。

 また、トヨタ自身も急速な国際化・海外展開により、人材の多様化が進んでいます。
 こういう環境の大きな変化においても、トヨタの伝統的人的資源管理の価値観を堅持・継承できるのか。トヨタは、人材育成に多くの投資を振り向けていると言われますが、今後もそういう傾斜投資を継続し続けられるのか。

 本書では、トヨタの「人間的経営モデル」は普遍的であると結論づけています。 
 

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問題解決のソフトウェア (トヨタの知識創造経営(大薗恵美・清水紀彦・竹内弘高)

2008-08-23 18:29:37 | 本と雑誌

 著者たちは、本書で、トヨタの強みとしてプロセスのハードウェアの背景にある「ソフトウェア」に部分に着目しています。

 その源の多くは創業期の経営者たちが抱いていていた「価値観」に遡ります。

 
(p120より引用) 合理的な手順を支える価値観や信念は実験のソフトウェアであり、そのルーツはトヨタの創業者たちにある。・・・トヨタに根づいている五つの価値観・・・とは、①思い切って行動する、②失敗を許容する、③正直であれ、④良いことをする、⑤決してあきらめない、だ。

 
 そのなかで「正直であれ」についてもう少しご紹介します。
 「正直であれ」とは、人間の犯す過ちを当然のことと考え、それをプラスに転換するために顕在化させようとの姿勢だと思います。

 
(p123より引用) トヨタの仕事文化で独特なのは、問題の存在を認め、それを可視化し、それを改善のチャンスととらえ、根本原因を見極め、長い間に問題が再発するのを防ぐための対策を講じるよう、社員に促している点だ。この文化は同時に、あやまつは人の常という観念を受け入れている。人間は失敗もするし、弱点や限界もある。これらの限界に対する最も建設的な方法は、社員に間違いや弱点を正直に認めるように促すことだと、トヨタはみいだしたのだ。

 
 これら脈々と受け継がれる価値観は、トヨタの「企業文化」のひとつである「行動中心主義」を下支えしています。

 
(p248より引用) 行動重視は、トヨタの典型的な企業文化である。「トヨタウェイ2001」は、現地現物に関する部分で次のように説明している。「周到な実務家を自認し、環境変化に対しまずは試行(暫定版)を実施する。いたずらに『議論』に時間を空費したり、『戦略』という言葉を振りかざし、軽率に賭けに出たりすることはしない」・・・
 行動を起こすことの重要性は、「六割いいと思ったらやれ」「何もしないより何かやって失敗したほうがいい」というような言い方で、代々受け継がれている。

 
 「結果」よりも「プロセス」を重視する考え方です。
 そして、「プロセス」を定着化するためには、「人的な継続性」が重要な意味をもつとのスタンスです。「知識」は、人が創造し、人に蓄積されるからです。
 
 

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トヨタの拡張力 (トヨタの知識創造経営(大薗恵美・清水紀彦・竹内弘高)

2008-08-21 10:44:30 | 本と雑誌

 著者たちが指摘している2つのベクトルのうちのひとつが「拡張力」です。
 これは、「不可能な目標」「実験主義」「現地顧客対応」という3つの力に特徴づけられます。

 そのなかで、「実験主義」についての解説です。

 
(p98より引用) 実験は、正しいかどうか確証のない仮説を検証する方法であり、それを通じて成功だけでなく失敗からも学ぶことが可能だ。実験を通じてトヨタは何がうまくいき何がうまくいかないのかを学び、顧客や技術に関する知識を得て、新たなプロセスや仕事のやり方を創り出し、それが、トヨタが発見の旅を続ける助けとなる。

 
 ここでの特徴は、「まずやってみる」という姿勢、「やってみた結果、成功も失敗も同等に学びとして知識化していこう」とする姿勢にあります。

 実験は、トヨタの日常業務として根づいている改善プロセスの一環です。トヨタでは、社員一人ひとりの「問題解決能力」の習得・向上に非常な重きをおいています。

 問題解決の具体的なプロセスとしては「TBP」が紹介されています。

 
(p104より引用) トヨタ・ビジネス・プラクティス(TBP)といわれる八ステップのプロセスは、社員が必要な問題解決能力を身につけるうえで役立つ。・・・

  1. 問題を明確にする
  2. 問題をブレークダウン(細かく分解)する
  3. 達成目標を決める
  4. 真因を考え抜く
  5. 対策を立てる
  6. 対策をやり抜く
  7. 結果とプロセスを評価する
  8. 成功したプロセスを定着させる

 
 真因を「考え抜く」、対策を「やり抜く」といった表現にトヨタらしい真摯な愚直さ・粘り強さが表れています。

 
(p106より引用) 深く考え、でも、小さく行動し、慎重な一歩を踏み出し、決してあきらめないのが、不可能な任務いわば「ミッション・インポシブル」を実現する一番現実的な方法であるのをトヨタは突き止めたのだった。

 
 

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矛盾の経営 (トヨタの知識創造経営(大薗恵美・清水紀彦・竹内弘高)

2008-08-19 13:25:35 | 本と雑誌

Toyopet  本書は、「Extreme Toyota: Radical Contradictions That Drive Success at the World's Best Manufacturer」というタイトルで英文で出版されたものの邦訳版です。

 内容としては、野中郁次郎・竹内弘高両氏が「知識創造企業」で示した視点からトヨタの強さの源泉を読み解いたという印象を受けました。

 トヨタの強みを分析した書物はそれこそ山のようにありますが、著者たちは、本書でその成功の源として新たな指摘を試みています。

 
(p13より引用) 最大の発見は、トヨタの成功の源が「トヨタ生産方式」として知られる有名な生産プロセスのみならず、普通の企業では考えられないような矛盾や対立やパラドックスを組織内に創出・醸成していくというユニークな経営手法にみいだせたことだ。

 
 そのユニークな経営手法は、6つの相反する特徴に表れているというのです。

 
(p20より引用) 不思議かつ不可思議なトヨタ成功の謎を解く鍵となる、それぞれが矛盾を内包する六つの相反する特徴は次のようなものである。

  1. 少しずつ前進するが、時おり飛躍もする
  2. 倹約を徹底するが、大盤振る舞いもする
  3. 業務の効率性が高いが、重複も多い
  4. 安定を目指すが、同時に現状を疑ってかかる
  5. 官僚的な階層組織を尊重する一方で、反対意見を自由に述べさせる
  6. コミュニケーションを単純化しているが、コミュニケーション・ネットワークは複雑である

 
 そして、これらの現象を生起させつつトヨタを持続的な成長に導く源として、2つのベクトルの6つの力を挙げています。

 
(p41より引用) 六つの力は次の通りである。
「拡張力」
 ・不可能な目標 ・・・
 ・実験主義 ・・・
 ・現地顧客対応 ・・・
「結合力」
 ・創業者の哲学 ・・・
 ・神経システム ・・・
 ・アップ・アンド・イン ・・・

 
 著者たちは、これらの力を「トヨタを拡張し同時に繋ぎ止める六つの相反する力」としてモデル化し、本書にて詳説しています。
 
 

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「批評」という文学 (考えるヒント(小林 秀雄))

2008-08-17 11:36:44 | 本と雑誌

Kobayashi_hideo   「考えるヒント」からの最後のご紹介です。

 小林秀雄氏を百科事典で引いてみると、こういう説明がありました。

1929年(昭和4)の「様々な意匠」以来、「ドストエフスキイの生活」「私小説論」から「本居宣長」にいたるまで、小林秀雄は生涯にわたり文芸批評家としてめざましい仕事を展開した。彼の批評の対象は文学にとどまらず、音楽、絵画、思想にもおよんでおり、小林秀雄によって「批評」は文学の独立したジャンルとして確立されたということができる

 
 小林氏=「昭和期を代表する批評家」と言われることが多いですね。
 以前、小林氏の著作を採録した「人生の鍛錬」という本の感想を記した際にも触れましたが、「批評」についての小林氏自身の考えです。

 
(p163より引用) 自分の仕事の具体例を顧ると、批評文としてよく書かれているものは、皆他人への讃辞であって、他人への悪口で文を成したものはない事に、はっきりと気附く。そこから率直に発言してみると、批評とは人をほめる特殊の技術だ、と言えそうだ。人をけなすのは批評家の持つ一技術ですらなく、批評精神に全く反する精神的態度である、と言えそうだ。

 
 小林氏によると「正しい評価=積極的肯定」だといいます。
 まずは、分析による対象の理解・納得が基本になるのです。

 
(p164より引用) ある対象を批判するとは、それを正しく評価する事であり、正しく評価するとは、その在るがままの性質を、積極的に肯定する事であり、そのためには、対象の他のものとは違う特質を明瞭化しなければならず、また、そのためには、分析あるいは限定という手段は必至のものだ。カントの批判は、そういう働きをしている。

 
 批評・評論の先駆者からの箴言です。

 
(p164より引用) 文学界でも、論戦は相変らず盛んだが、大体において、非難的主張あるいは主張的非難の形を取っているのが普通である。そういうものが、みな無意味だと言うのではないが、論戦の盛行は、必ずしも批評精神の旺盛を証するものではない。むしろその混乱を証する、という点に注意したいまでだ。

 
 以前、小林秀雄氏の評論は、学生の共通言語のように位置づけられていたころもありました。入学試験等にも多く取り上げられ、その論旨については多くの場合「難解」との評判もありました。
 今回、約30年を経て久しぶりに小林氏の文章に接してみたわけですが、私自身の進歩のなさをまざまざと痛感した次第です。「考える」前提となる知識・教養が絶対的に不足しているのがよくわかりました。

 

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福沢の言う「僥倖」 (考えるヒント(小林 秀雄))

2008-08-15 09:59:28 | 本と雑誌

Kobayashi_hideo  「考えるヒント」から3つめのご紹介です。

 今回は「福沢諭吉」からの引用です。

 小林氏は、「福沢諭吉のすごさは、新学問の紹介にあったのではなく、新文明が流れ込む思想の変革期において、日本の思想家が強いられた特殊な意味合いを明確に理解していたことだ」と指摘しています。

 
(p124より引用) 西洋の学者は、既に体を成した文明のうちにあって、他国の有様を憶測推量する事しか出来ないが、我が学者は、そのような曖昧な事ではなく、異常な過渡期に生きている御蔭で、自己がなした旧文明の経験によって、学び知った新文明を照らす事が出来る。この「実験の一事」が、福沢に言わせれば「今の一世を過ぐれば、決して再び得べからざる」「僥倖」なのである。

 
 通常の考えであれば、新思想の流入は既存の思想体系に在る学者にとっては窮境だととらえます。
 しかし、福沢は、その状況をもって、旧態の思想と対比することにより新たな思想をよりよく理解判断することができる好機と考えるべきと指摘したというのです。

 福沢の名著「学問のすゝめ」は、新思想礼讃ではありませんでした。

 
(p124より引用) 彼の「学問のすゝめ」は、洋学のすすめではなかった。洋学はすすめるまでもない急激な流行であった。学塾三年間三百円の元手は、月給五、七十円の正味手取の利益となる、洋学が「高利貸と雖ども、これに三舎を譲る可き」官許の商売と化さんとするのを見たから、彼は、学問の「私立」を、「学者は学者にて私に事を行ふ可き」事を、すすめたのである。

 
 官許の商売としての漢学の悪習を否定したのであって、漢学自体を否定したわけではありません。
 福沢は、学者に「独立の丹心」を求めたのでした。
  

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秀雄の読書 (考えるヒント(小林 秀雄))

2008-08-13 10:28:14 | 本と雑誌

Kobayashi_hideo  前回に続いて小林秀雄氏の「考えるヒント」からのご紹介です。

 今回は、「プルターク英雄伝」の冒頭で語られている「読書」についてです。

 
(p111より引用) 相も変らぬ雑読漫読の習慣は、身について了ったが、読書の楽しみは変って来る。それも、その変り方には、年齢に深く結ばれた、何か本質的なものがあるように感じられる。

 
 1冊1冊、それぞれの本の性格によって、その付き合い方を変えていくのです。

 
(p112より引用) 私達がこういう古典的リアリズムを物足らなく思うのも、現代人の贅沢なリアリズムに慣れ切っている、いや、恐らくこれと馴れ合っているが為だ。精到なリアリズムを誇る現代文学も、少し読書の工夫をして読めば、刺戟的な挑発的な迎合的な一種のスタイルと映ずる事もある。

 
 読者に迎合するところのない古典的リアリズム作品もそうとして読めば、そういう作品と付き合う楽しみを感じることができると語ります。

 
(p113より引用) 読書の楽しみは、精神的な楽しみであるから、耳目の邪魔は這入らぬ方がよい。

 
 プルタルコスの記述は、飾り気のない理詰めのスタイルだったそうです。情景描写には不向きなその文体も、小林氏は、却って読者の想像力を動かすという意味でプラスの評価をくだしています。

 翻って、私の読書。典型的な乱読です。ジャンルにも作者にもこだわりはありません。
 強いて好みはというと「密度の濃いものが好き」ということになるでしょうか。徒に同じ内容が繰り返されるのは辟易しますし、同じことを伝えるならより短いフレーズが望ましいと感じます。
 このあたりは、正に自分にないものを求めているということでしょう。私の話はどうにも冗長でくどいのです。いつも直そうとしているのですが・・・。
 
 

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考えること (考えるヒント(小林 秀雄))

2008-08-11 10:20:29 | 本と雑誌

Kobayashi_hideo  「考えるヒント」。
 私たちの世代では、非常に有名な本だと思います。この本に限らず、小林秀雄氏の著作は学生の必読書のひとつに挙げられていました。

 今回読んだ本は、はるか昔、学生時代に買った文庫本です。最近のものに比較して活字が小さく、ページは乾いて茶色に変色しています。

 その中に収録された「良心」というエッセイからの引用です。

 
(p56より引用) 考えるとは、合理的に考える事だ。どうしてそんな馬鹿気た事が言いたいかというと、現代の合理主義的風潮に乗じて、物を考える人々の考え方を観察していると、どうやら、能率的に考える事が、合理的に考える事だと思い違いしているように思われるからだ。当人は考えている積りだが、実は考える手間を省いている。そんな光景が到る処に見える。物を考えるとは、物を摑んだら離さぬという事だ。・・・だから、考えれば考えるほどわからなくなるというのも、物を合理的に究めようとする人には、極めて正常な事である。だが、これは、能率的に考えている人には異常な事だろう。

 
 「物を考えるとは、物を摑んだら離さぬという事だ。」
 「考える」ということの真剣さが伝わります。ここで考え求めているものは、すでにどこかにある「正解」ではありません。その対象自体の本質を、自分の理解として全身全霊を賭けて究めようとしているのだと思います。

 情けないことですが、私の場合、それほど真摯にものごとを考え抜いたことはありませんし、そもそもそういう考える対象を意識して求めたことすらありません。
 とはいえ、自分の頭で考え抜くという厳しさや苦しさは(不謹慎ないいようですが、)何か楽しそうな感じがします。
 
 

考えるヒント (文春文庫) 考えるヒント (文春文庫)
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発売日:2004-08

 
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人間の関係 (五木 寛之)

2008-08-09 10:53:06 | 本と雑誌

 最近また、時々、五木寛之氏の本を手に取るようになりました。
 このBlogでも、「新・風に吹かれて」「知の休日」「蓮如」等をご紹介しています。
 今回の本「人間の関係」は、五木氏の最近の書き下ろしエッセイです。

 その中の「格差社会にどう生きるか」の章に記されたフレーズです。
 最近よく話題にのぼる「格差」と「文化遺産」「歴史遺産」との関係についての五木氏らしい考え方が窺えます。

 
(p67より引用) 権力の格差、そして富の格差、その二つの格差のなかから歴史に残る遺産は生まれたのです。・・・だからといって、文句をつける気はありません。
 ただ、文化といい、歴史の遺産といい、なにかいかにもありがたく、貴重なもののように思われる遺産が、富の偏在と、権力の集中からしか生れなかったという皮肉な事実を直視しようというだけです。

 
 そういった事実を踏まえ、「格差社会」の進展に対する立ち位置を、五木氏自らこう語ります。

 
(p73より引用) 格差はむかしからありました。いまもあるし、さらに大きくなっていく気配があります。
 格差に泣く人もでてくるでしょう。それによって苦しむ人たちもふえてくるにちがいありません。そんな人びとを平然と無視し、それを人間社会の原理だと冷たく突きはなすような立場には立ちたくない。単純にそう思うだけです。

 
 私事になりますが、この本を読み進んでいくなかで、ひとつの大きな驚きがありました。
 この本の中で五木氏が紹介しているエピソードのまさにその場に、私もいたのでした。私が初めて五木氏の講演を生で聞いたときのことです。

 
(p197より引用) この入学式の話のなかで、ぼくが言いたかったのは、たった一つのことでした。人間はいいかげんで、愚かしい存在だが、それでも信じられるところもあるよ、と、いうことです。

 
 30年という年月を経て、あのときの五木氏の話の意味を再確認したことになります。
 
 

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発売日:2007-11

 
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人生越境ゲーム (私の履歴書) (青木 昌彦)

2008-08-06 09:54:20 | 本と雑誌

 本書は、日本経済新聞連載の「私の履歴書」をベースに、青木氏による書評・対談等を加え、内容を充実させて出版されたものです。

 現在、世界レベルで活躍されている経済学者青木昌彦氏の足跡を、興味深く辿ることができます。

 以下に、いくつか私が関心をもったトピックを覚えも兼ねてご紹介します。

 まずは、河合隼雄氏による父性原理・母性原理から導かれる「中空構造」概念と、青木氏のコーポレート・ガバナンスの分析に共通する問題意識についてです。

 
(p158より引用) 私もハーバードで書いていたコーポレート・ガバナンスにかんする本の中で、河合さんの神話分析(私注:河合隼雄氏の「中空構造」)と同じような考えを展開していた。英米型の企業は、株式主権(利潤最大化)という単一原理のもとで、経営者が従業員を統合・管理する。河合さんのいう父性原理(ヒエラルキー)の貫徹する仕組みである。しかし、当時の日本では、経営者は会社の従業員の利益と(銀行を含めた)投資家の利益のバランスを取ることを機能としていた。その仕組みは中空構造そのものではないが、経営者の役割は能動的というより、場の調和を重んずるという点で、一定の類比は可能といえた。同じように日本の政治経済のシステムにおける官僚機構の役割にも、さまざまな利益集団のあいだの調和を保つという一面がある。それには、官僚による一方的な父性原理の貫徹では理解できない側面がある。こうして人文科学と社会科学という領域を越え、私たちは現代日本の社会構造にかんして問題意識を共有していることを発見したのだった。

 
 続いては、学問統合的・学際的テーマにチャレンジする著者の知的関心の表明のフレーズです。

 
(p184より引用) 私自身、80年代には日本経済をアメリカ経済の制度比較を研究したが、それらはかたちは一見異なってはいても機能的には同型だ、などといってはすまされない違いもあると考えた。社会と政治と経済とは互いに関連し合い、一つの首尾一貫した体系を作っているのではないか?そうした差異性は市場がますますグローバル化することにより、どう適応していくのだろうか?こうした問題を、単なるアメリカと日本の比較を超えて考えてみたいと思った。

 
 青木氏の問題意識は現在進行形です。
 その追求のスタイルは現代のインターネット環境で展開されているオープンな協業型です。

 
(p275より引用) 冒頭、市場がうまく働くためには情報の流通が重要だと言いましたが、学問の世界でも情報の流通が高速になりましたから、すでにある知的財産を独占することによって権威を高めるなんていうことはできなくなりました。むしろ情報技術を駆使しながら、インタラクションを強め、新たなものを一緒に作っていくという可能性のほうが価値を持ち出し始めている。改めて、インターネットの発達がもたらした影響はすごいなと思います。

 
 このコメントは、梅田望夫氏をはじめネットの世界をベースにビジネス活動を行なっている人たちから常々主張されている点です。が、国際的な経済学者である青木氏からの同様の指摘は、現在の最先端のアカデミックな知的生産活動においてもネット環境でのインタラクティブ化が浸透しつつあることをビビッドに示していると言えるでしょう。

 実際、青木氏は、「東京財団」の研究プロジェクトとして、人間の認知の構造と社会のルールとの関連性の解明等をテーマにした経済学・社会学・政治学・心理学等学際的な仮想研究所(VCASI:Virtual Center for Advanced Studies in Institution)を立ち上げ活動を始めています。

 

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価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2008-04

 
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懲りない失敗 (組織行動の「まずい!!」学(樋口晴彦))

2008-08-03 11:25:17 | 本と雑誌

 本書では、JR西日本・三菱重工・日本航空・雪印・関西電力・JCO・NASA等々、数多くのトラブル事例が紹介されています。
 それらの多くは「ほんのちょっとしたこと」が発端で、それが過信と惰性等により積み重ねられてクリティカルなプロセスに致命的な欠陥を生じてさせてしまったもののように思われます。

 以下に、本書で紹介されている危険予知・リスク管理等の観点がら日頃よく言われる指摘を参考までに列挙します。

 まずは、「危険とコストの非合理的な天秤」について。

 
(p156より引用) 一般に人間とは、「想定される重大な危険」よりも「現実のわずかなコスト」に気を取られてしまう生き物である。・・・
 初動措置に失敗する事情も、基本的にはこれと大同小異である。短期的なコスト計算に注意を奪われ、長期的な利害損得を計算する視点が欠落してしまうのだ。

 
 この実例としては、六本木ヒルズ回転扉事件や松下電器石油ファンヒーター事件での各企業の対応のまずさをあげています。このあたりは「長期・短期のバランスをとる経営の基本」と軌を一にする指摘です。

 次に、「認知されない情報」について。
 どんな情報も、それが「重要なもの」と気づかれなければ全く意味をなしません。

 
(p162より引用) どのような情報でも、その価値を最終的に判断するのは人間である。・・・
 誰しも自分が強い関心を持つ分野については、かなり正確に情報を評価することが可能である。それとは逆に、関心がない分野では、知識量や理解力の不足も加味されて、その情報の価値を過小評価する傾向が一般に認められる。

 
 たとえば、9.11事件以前からもアル・カーイダ等によるテロ事件は続発していましたし、スペースシャトル・コロンビア号の断熱材の剥落も打ち上げ直後から認識されていました。しかしながら、それらの情報は、関係者の中で「重要なもの」として認識されなかったのです。

 最後は、「危機判断における究極の歪曲」です。

 
(p164より引用) この「関心」と並んで情報を認知する上での障害となる要素が、情報を求める側の「懐具合」である。本来であれば、まず情報をきちんと評価した上で、その対策をどうするかを考えるという順序になる。しかし実際には、その対策のために当該組織が費やせる人員や経費はどの程度かを概算した上で、その範囲内に収まるように情報の評価が逆算されることがある。

 
 こうなると「危機管理」の崩壊です。
 
 

組織行動の「まずい!!」学―どうして失敗が繰り返されるのか (祥伝社新書) 組織行動の「まずい!!」学―どうして失敗が繰り返されるのか (祥伝社新書)
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