福島第一原発事故からちょうど10年となる今日(3月11日)、原告団も構成組織として参加する「さよなら!志賀原発ネットワーク」は東電柏崎刈羽原発のIDカード不正使用事件に関連して、県に対して質問状を提出した。
まず柏崎刈羽原発IDカード不正使用事件の概要は下記の通りである。
昨年9月20日、柏崎刈羽原発で、社員Aが同僚BのIDカードを無断で持ち出し、このカードで中央制御室に入るという、少なくとも国内の原発では前代未聞の事件が起きた。防護区域に入る前の2か所の関門で、警備員から疑問をもたれ、認証システムの警報が鳴ったにも関わらず入れたのである。
社員Aは中央制御室勤務員であったから大事には至らなかったものの、柏崎刈羽原発のテロ対策があまりにお寒い状態であることが露呈したのである。
問題は東電の杜撰なテロ対策にとどまらない。
翌21日、東電からこの案件について報告を受けた原子力規制庁は原子力規制委員会に報告をせず、その2日後の23日、この件について全く知らない(と思われる)規制委は柏崎刈羽6号、7号の新規制基準「合格」の判断を下した。
東電福島第一原発事故を起こした東電に対して、原子炉の運転を的確に遂行するに足りる技術的能力(適格性)があると判断したのである。
規制委更田委員長によると、東電からの報告を受け取った担当者が事案を過小評価し、その上司も含め規制委には4半期ごとの報告で上げればいいと判断したとのこと。
あれだけの大惨事を起こし、廃炉の見通しは立たず、被害者への十分な補償も行わない東電に対して、規制委は再び原発の運転を許可するのか、審査最終盤のこの時期、世論の関心は高かった。規制庁職員が前代未聞の今回の事案の重大性を認識できず、「過小評価」したと言われても信じ難い。
さらに4半期の報告すら行われなかった。11月11日に規制委に上げられた第2四半期の報告にこの件は全く記載されていないのである。第3四半期となる10月に入って現地立ち入り検査を行ったので、第3四半期の報告に回す予定だったという言い訳は全くの詭弁である。起こった事実だけでも報告はできる。
このとき、地元柏崎市は市長選の最終盤(15日が投開票日)、規制委の「合格」判断を受け、柏崎刈羽原発再稼働の条件となる地元同意を左右する市長選挙である。規制庁の「政治判断」が働いたと疑わざるをえない。
結局、規制庁が更田委員長にこの件を報告したのは、事件から4か月後の1月19日。4半期報告を前に急きょ報告した理由は「どうも報道が出そうだから」(1月27日、更田委員長記者会見での発言)。他の規制委員会委員に報告されたのは報道後の26日であった。
仮に報道の動きがなかったら、本当に報告を上げていたかどうかも疑わしい。
問題はさらに続く。
この事案が明らかになったにも関わらず、更田委員長は東電の「適格性」の再審査を拒否した。
中央制御室にテロリストが入ることを阻止できない東電に原発を安全に運転する能力があると言えるわけがない。柏崎市長はじめ多くの新潟県民からも「適格性」が盛り込まれた保安規定の再審査を求める声が上がったが、更田委員長は固くないこの要求を拒否した。
直接は核物質防護規定の問題なので、この観点から事案の事態把握に努め、核物質防護規定の見直しも含め検討されていくだろうとのこと。事実上再稼働の動きにブレーキはかかるが、地元が納得する対応からは程遠い。
その後、2月18~19日に福島第二原発と柏崎刈羽原発でさらに核物質防護に関わる違反事案が発覚し、国会で追及された更田委員長は保安規定見直しの可能性に言及せざるをえなくなった。
以上が東電柏崎刈羽原発ID不正使用事件の大まかな経緯である。
きっかけとなった9月20日の事案も重大で深刻だが、政権の意向も受けて再稼働路線をバックアップする規制委に対しても、地元の怒りや不信は大きい。加えて、新たに発覚した2件の核物資防護規定の違反事案については、詳細がまだ明らかにされていない。
今後の動きを注視していかなければならないが、志賀原発を抱える石川県民としても決してよそ事ではない。
まず、志賀原発の核物質防護、テロ対策は大丈夫なんでしょうね?という問題が一つ。
さらに志賀2号機は新規制基準適合を巡って規制委の審査に段階にあるが、東電と一緒に(というか「主犯格は規制委」との指摘もあるが)、政権の方針を受けて再稼働路線を突き進む規制委が、果たして厳正な審査を行うのかという問題もある。
「規制委の判断を待つ」とか「規制委の審査を見守る」という金沢地裁の裁判長のような態度を県も真似しているようでは県民の安全など守れたものではない。
以上の経緯と問題意識からまとめたものが下記の質問状である。
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2021年3月11日
石川県知事 谷本正憲 様
さよなら!志賀原発ネットワーク
共同代表: 岩淵 正明
南 弘樹
中垣 たか子
共同代表: 岩淵 正明
南 弘樹
中垣 たか子
質 問 書
昨年9月20日、東京電力柏崎刈羽原発において、社員が他人のIDカードを不正に使用し中央制御室に入るという、国内原発では前代未聞の核物質防護規定違反事件が起きていました。この事件は、今年1月、事件発生からほぼ4か月後にようやく明らかになりました。
ID不正使用事件発生の翌21日、東京電力は原子力規制委員会の事務局である原子力規制庁に報告したものの、公表はしませんでした。報告を受けた担当者は規制庁幹部にまで報告を上げながら「軽微な事案」と判断し原子力規制委員会には報告せず、事件発覚後に「四半期ごとに行っている報告の中で委員に伝える方針だった」と事件発覚後に弁明しています。ところが実際には第2四半期のとりまとめ報告でも規制委には報告されず、更田委員長への報告は今年の1月19日、「マスコミが報道しそうだ」というのがその報告の理由でした。新聞報道があったのは1月23日、他の委員への報告はマスコミ報道と東電プレス発表後の1月26日となり、もしマスコミの動きがなければ今回のID不正使用事件は闇の中となるところでした。
今回の件で、地元自治体も住民も東京電力に対してだけでなく、規制庁および規制委の対応に大きな怒りと不信感を募らせています。規制庁が最初に報告を受けた2日後の昨年9月23日、IDカード不正使用事件を知らずに規制委は定例会合で柏崎刈羽の新規制基準適合性審査「合格」としていたのです。福島第一原発事故を起こした東京電力に再び原発の運転を認めるかどうか、東京電力の「適格性」について規制委がどう判断するか、地元住民のみならず国民の目が注がれていることは規制庁職員が知らないはずはありません。そのタイミングで報告された重大な規定違反を、規制庁が東京電力と一緒になって隠蔽したのではないかと疑わざるをえません。このような重大な規定違反を認めながら審査をやり直そうとしない規制委員会への信頼も、地に落ちました。
さらに2月18~19日にかけて、①柏崎刈羽原発で核物質防護設備の損傷・故障が相次いでいたこと、②福島第二原発でIDカード紛失事案が発生したこと、の2件が規制庁に報告され、これまでも核物質防護の名のもとに数々の規定違反が隠蔽されてきたのではないかという疑念が尽きません。1月の段階では事態を過小評価していた更田委員長も事ここに至り、「保安規定の審査の前提を覆す事案との結論に至れば、審査のやり直しも可能性として否定しない」と、3月3日の参議院予算委員会で答弁せざるをえなくなりました。
志賀原発がある石川県の住民としても、今回の一連の事案は決して看過できるものではありません。私たちは、この事件に対する規制庁および規制委の対応は、国の原子力規制への信頼を大きく揺るがす深刻な問題であると認識しています。
そもそも核物質防護とは、「原子力施設への妨害破壊行為及び使用、貯蔵、輸送中の核物質の盗取や妨害破壊行為から核物質や施設を守るための対策」です。この対策が破られる、あるいはほころびがあるならば、北陸電力が地元自治体と交わした「安全協定」第1条に掲げた「周辺環境の汚染の防止と地域住民の安全確保」いう目的を果たすことができません。今回次々と明らかになった東電の核物防護規定違反のような事案が果たして志賀原発で起こっていないのか、今後起こる心配はないのか。また、何かあっても核物質防護を理由に情報が隠蔽されることはないのか、県としても確認し、問題があれば早急に対応すべきであると考えます。
今回のIDカード不正使用事件に始まる一連の経緯によって『柏崎刈羽原発の1日も早い再稼働に向け焦る東京電力、原発の再稼働を増やしたい政権の意向を優先し独立性・中立性が崩壊寸前の原子力規制委員会・原子力規制庁』という、電力会社と規制庁・規制委の癒着関係が明らかになりました。このような規制委・規制庁の下で、現在、志賀原発2号機の新規制基準適合性審査が進められているところですが、果たして科学的知見を踏まえた厳正な審査となるのか、県民の視線は一段と厳しくなっています。
規制委・規制庁の今後の自己改革を注視していかなければなりませんが、今回の電力会社・規制庁の情報隠蔽疑惑を自治体側から防ぐ手立てとして安全協定があります。今回のID不正使用事件は新潟県や柏崎市、刈羽村に連絡されていませんでした。おそらくは核物質防護規定を理由とした非公開対応だと思われるますが、更田委員長も2月10日の原子力規制委員会記者会見で「公開できるものは公開するのが原則」と述べています。今回のような事案での自体体への連絡を、安全協定に明確に義務付け、電力・規制委・自治体が情報を共有することで情報の隠蔽を防止できるようにするべきです。
そこで以下質問いたします。
〈 質 問 項 目 〉
(1)IDカードを持たない者の中央制御室への侵入が志賀原発でも仮に可能だとすれば、安全協定が目的に掲げる「周辺住民の安全確保」に関わる重大な事案になると思うが県の認識を聞く。
(2)今回の事件を踏まえ、志賀原発の保安規定と核物質防護規定に不備はないか、北電や規制庁に確認すべきと思うが、今回の事案を把握した後の県の対応を聞く。
(3)核物質防護規定の策定や改定があった場合、県への報告はあるか。核物質防護規定違反などの事案はこれまでにあったか。その有無を把握しているか。また報告があった場合、その詳細について説明を受けたか。
(4)「安全協定」第9条第6項では核物質防護に関わる核燃料や廃棄物の盗取又は所在不明時の報告義務が規定されているが、今回明らかになったIDカード不正使用や監視機器の故障、IDカードの紛失など核物質防護に関わる事案について、覚書ではまったく記載がない。「公開できるものは公開するのが原則」との更田委員長の見解も踏まえ、「連絡基準に係る覚書」を早急に見直すべきと思うが、県の対応を聞く。
(以上)
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河合宏文原子力安全対策室長の回答
(1)については
・他電力の事とはいえ、あってはならない事案だが、コメントする立場にない。
・基本は東京電力の問題であり、今後、他電力にも何らかの対応が求められれば適切に対応していきたい。
(2)について
・新聞報道で知り、1月25日、北電に電話で問い合わせをし、このような問題はないと確認した。
(3)について
・志賀原発の核物質防護規定を県は受け取っておらず、内容を把握していない。規定の改定は規制庁のHPで把握している。
・これまでの核物質防護規定違反について確認したところ、ないとのこと。
(4)について
・協定にあるなしにかかわらず、必要な対応を求めていく。
・北電はより安全の方向で、自主的に対応していくべき。
これらの回答を受け、さらに1時間近く意見交換をした。
河合室長は私たちの諸々の懸念や主張には理解を示しつつも、残念ながら結論としては「規制委の動きを見守る」、「北電の良識的な対応に期待する」といった姿勢に終始した。
新潟県や柏崎市が規制委に対して疑問を呈し、積極的にモノ申す中、県も県民の安全を守る立場から積極的にこれらの自治体の姿勢から学び、連携する取り組みを今後とも求めていかなければならない。
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