北陸中日新聞(11月30日)
北國新聞(12月1日)・・・追加
社民党石川県連合と石川県平和運動センターは11月16日におこなわれた原子力防災訓練に対して実施した調査行動の報告書を公表した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「2013年石川県原子力防災訓練」
調査行動報告書
調査行動報告書
2013年11月16日、石川県と県内13市町は原子力防災訓練を実施した。これに対し、社民党石川県連合、社民党自治体議員団、石川県平和運動センター、そして原子力防災に関心をよせる多くの市民らが協力し、総勢約70人で調査行動をおこない、合わせて避難対象地区の住民を対象に原子力防災や志賀原発についてアンケート調査を実施した。
以下、調査内容を報告し、そこから見えてくる石川県原子力防災訓練の問題点や原子力防災計画の課題について提起したい。
1.調査行動の目的
(1)原子力規制委員会による原子力災害対策指針(以下「指針」)策定を受け、石川県地域防災計画原子力防災計画編(以下「防災計画」)が改訂(2013年3月、8月)されて以降、初めての訓練となる。EAL(緊急時活動レベル)、OIL(運用上の介入レベル)という新たな判断基準の導入など、改定された防災計画の実効性や計画自体に内包される問題点を検証する。
(2)3.11以降としては昨年6月の訓練に続く2回目の訓練である。昨年の訓練は福島の現実を踏まえず、志賀原発再稼働の実績づくりを狙った訓練であった。過酷事故という事故想定に見合った訓練内容であるかを検証する。
(3)今回はじめて富山県と氷見市が合同対策協議会に参加する。県境を越えた訓練の課題を検証する。
(4)福島第一原発事故から2年8か月が経過し、汚染水問題や除染、被災者支援などの課題が一層顕在化している中、住民の原子力防災や志賀原発に対する意識をアンケートによって把握する。
2.各調査班の報告から見えてくる問題点
(1)災害対策本部調査班
北陸電力から7時20分に第一報を受け、石川県庁6階の災害対策本部室に知事を本部長とする第一次災害対策本部が設置される。
①原子力防災全般にわたる国の統制を象徴
第一報以降、現地対策本部や関係機関から数分間隔で頻繁に報告が入る。しかし、これを受けて会議が開かれることはなく、何らかの意思決定がなされることもない。国が統括する原子力防災体制の下、県はオフサイトセンターで開催される合同対策協議会の決定を関係自治体や関係団体に伝える役割しか担わないことが訓練でも鮮明になった。
②県災害対策本部は情報伝達機関
国の統制はJCO臨界事故後に制定された原子力災害対策特別措置法(1999年制定、以下「原災法」)の基本的な枠組みであるが、JCO臨界事故や福島第一原発事故では、国は自治体より対応が遅く、また誤った判断を示し、被害を深刻化させたことは記憶に新しい。この法律や指針の枠内で策定された防災計画では、災害対策本部は知事を本部長としながらも国→県→市町という国の決定を市町に下す情報伝達機関でしかない。自治体が決定権を放棄して、果たして原子力災害から住民を守ることができるのか、計画全般を貫く検討課題である。
(2)オフサイトセンター調査班
オフサイトセンターには国の原子力災害対策現地本部である合同対策協議会が設置され、発電所内の情報、周辺環境のモニタリング情報、自治体など関係機関の対応など原子力防災に必要な情報が集中し、実務的な調整や協議がおこなわれていく。従来の防災計画以上に国の権限が強化されており、その中心的役割を担うのは昨年9月に発足した原子力規制委員会である。オフサイトセンターには頻繁に情報が入り、逐次会議が開催されていくが、一連の動きを仕切るのが原子力規制庁である。彼らが役割に見合う能力を有するのか、訓練用の台本を読みあげるだけなのか、私たちは注目せざるをえない。
①国の専門家の参集訓練を実施せよ
現行の防災計画では志賀町に常駐するのは原子力防災専門官だけである。地元自治体職員はもちろんのこと、中心的役割を担う原子力規制庁の職員、さらに日本原子力研究開発機構や原子力安全技術センターの職員も参集することになっているが、参集訓練は今回も行われない。地元関係者が全員待ち構える中、事故通報が入り、さらに「どこでもドア」があるかのように30分後には国の専門家も会議に参加し「万全」の体制下で訓練は展開されていく。国に判断を委ねる防災計画をつくったからには迅速な参集体制が確立していることをまず確認しなければ防災計画自体が砂上の楼閣となる。
②避難指示区域内に関係者を集める非常識
7時40分、オフサイトセンターに常駐する原子力防災専門官が災害対策現地本部
を開催する。さらに政府の原子力緊急事態宣言発出(8時24分)後、政府原子力災害対策現地本部が原子力災害合同対策協議会を開催する。今回の訓練では合同対策協議会に初めて富山県と氷見市が参加した。両自治体だけでなく、この会議には原発から30キロ圏の自治体職員らが参集する。地震発生による全交流電源喪失で避難指示が出された5キロ圏にあるオフサイトセンターに向かうという設定自体が非現実的であり、過酷事故と向き合ったシナリオとは思えない。オフサイトセンターは新築移転が予定されるが、それでも10キロ圏内であり、地震発生から1時間半後には避難指示が出された区域である。新施設の位置が妥当なのかも合わせて再検討が求められる。
③富山県および氷見市との連携強化を
今回の訓練では初めて30キロ圏に含まれる氷見市と富山県が合同対策協議会に参加した。会議に参加し、富山県内の対応状況の説明をし、各防災関係機関と情報を共有する意味はあるが、これだけならば現在はつながっていないテレビ会議でつなげれば十分ではないかというのが富山から参加した調査班の感想である。災害の状況や風向きなどによっては富山県への避難も想定され、協力関係をより密にする必要がある。
④ブラインド訓練はブラインドの中
今回の計画改定で緊急時モニタリングはUPZ圏内の住民避難を判断する重要な作業に位置づけられ、原子力規制庁の統制下におかれることになった。今回の訓練では緊急時モニタリングに関して初めてブラインド訓練が導入されることになり、原子力規制庁がどのような実践力を発揮するのか私たちは注視した。しかし、ブラインド訓練自体が参観者からはブラインドとなっており検証することがかなわなかった。訓練を公開しながら、核心部分を隠すのは残念と言わざるをえない。
⑤ベント開始、空間線量500μSv/hの危機が伝わらない危機的訓練
合同対策協議会で8時55分ベント開始。ブルーム放出されたとの報告がある。続いて空間線量が500μSv/hを超えたとのことで30キロ圏に順次避難指示が出される(ベント開始と空間線量500μSv/hの関連など事故の展開はここでは問わない)。台本通り淡々と会議は進行していくが、5キロ圏の避難が完了しているか確認もなく、住民への広報でも空間線量が異常に高くなっていることについて言及はない。参加している防災関係者や住民にはベント実施中という危機的状況がほとんど伝わっていない。
(3)広報・避難訓練調査班
避難対象地区、避難対象施設が30キロ圏という広域に点在しているため、すべての地区に調査班を配置することはできなかったが、以下の地区で調査をおこなうことができた。
<志賀町> 赤住地区、富来地区、中甘田地区、高浜地区、福浦港地区
<七尾市> 相馬地区、熊木地区
<中能登町> 鳥屋地区
<輪島市> 本郷地区、三井地区
<穴水町> 穴水地区
<羽咋市> 越路野地区
<宝達志水町> 樋川地区
①広報について
ア.基本がおろそか~聞こえない広報~
音が小さい、共鳴しているなどの理由で聞き取りにくいという指摘が多数あり。好天、しかも屋外でこのような状態であるならば、荒天時や家の中ではほとんど聞こえないと思われる。広報車による案内を耳にした調査班もごく一部であった。避難区域が拡大し、迅速な伝達が求められるとき、広報車による広報の限界も浮かび上がったのではないか。エリアメールは調査班の情報入手経路としては最も確実で受信本数も多い。しかし、高齢者の携帯所持率を考えると決して過大な期待を寄せてはいけない。原発事故に限らず、災害時に住民に必要な情報が伝わるのか、各自治体でよりきめ細かな対応が必要である。
イ.「いま伝えるべき情報」は何か直ちに避難しなければならないPAZ。500μSv/hという高線量下を避難しなければならないUPZ。それぞれに即した内容の広報が求められるが、従来の広報内容との違いを確認することはできなかった。
②避難行動について
ア.PAZ内全員避難訓練の実施を
県は避難訓練実施の目的について、自分の避難先を確認してもらい、防災意識の高揚につなげたいという。したがって輪番制のように避難対象地区を回していくともいう。過酷事故による避難を軽く考えていると言わざるをえない。防災計画に示されたEALに基づく避難行動で、PAZ内の住民の放射線による確定的影響を本当に回避できるのか、実際の避難行動を通じて計画の実効性を検証すべきである。
イ.訓練のための訓練から脱皮を
従来から散見されたことだが、避難指示の前から集合場所に待機している人がいる。地区によっては避難予定者全員が集合しているところもある。訓練のための訓練、あるいは出発時間に遅れると迷惑をかけるという意識があると思われる。タイムスケジュールありきの訓練からの脱皮が求められる。
ウ.避難バスの確保は容易ではない
避難指示前から避難所で待機している。バス会社への連絡からはじまり、運転手の確保、車庫から指定された集合場所への移動まで、現実には数時間を要することが普通だと思われる。観光シーズンなど車庫で待機している車両がほとんどない時期もある。実際には住民が避難場所に集合していてもバスが到着していないケースは十分ありうる。被ばく対策含め、より実践的な訓練が必要である。
エ.被ばく対策はマスクだけ
放射能を吸い込まないこと、体に付着させないことが基本。氷見市では一時避難所で雨カッパやマスク、手袋を用意し配布していた。マスクだけという石川県内の自治体より備えに対する意識は高い。ただし今回の訓練はUPZ圏内であっても屋内避難の指示がなく、いきなり避難指示が出されている。集合場所までの移動の間の被ばくも警戒が必要で、自宅を出る時点からの対策が必要である。
オ.防災業務従事者の被ばく対策の総点検を
羽咋市では市職員がポケット線量計を携帯、志賀町ではシンチレーションサーベ
イータ持参、七尾市、宝達志水町、穴水町はなし。自治体によって大きくばらつきがある。広報車を回す消防団員など被ばく対策が十分でない組織も多い。また、避難バスの運転手はまったく被ばく対策をしておらず、通常の運行業務をこなしているようにしか見えない。大量の放射能が漏れだすことはないという従前の防災計画の意識から脱していない。必要な資機材の準備を早急に進めるなど、防災業務従事者の被ばく対策の総点検が必要である。
(4)避難・医療訓練調査班
今回の訓練では避難先施設への移動ルートにスクリーニングポイントが2か所設けら
れ、スクリーニング、除染などがおこなわれた。被ばくの軽減、放射能の拡散防止という観点からの対応かと思われる。調査班はスクリーニングポイントとなった2施設と、指定された避難所のうち、下記施設で調査をおこなった。
・奥能登総合事務所(スクリーニングポイント)
・県立看護大(スクリーニングポイント)
・能登町:能都中学校
・輪島市:空港交流センター
・津幡町:津幡運動公園体育館
・金沢市:浅野川市民体育館、高岡中学校、鳴和台市民病院
・白山市:鶴来高校
①スクリーニングポイントは機能するか<奥能登行政庁舎>
スクリーニング:5班 簡易除染:1班 全身除染:1班
二次スクリーニング:1班 他、問診・救護 6チーム
穴水、富来、福浦、門前、七尾から330人着(予定人数)
うち110人がスクリーニングを受け、5人が簡易除染、5人が全身除染を受ける。
<看護大>
スクリーニング 7班 問診5班 救護2班 心の相談1班
簡易除染1班 (30~40ℓ/人)
全身除染 1班 陸上自衛隊(守山駐屯地)が担当
車の外部除染を実施 (100ℓ/台) トラック3台 ジープ1台
ア. 混乱必至のスクリーニングポイントスクリーニングに要する時間は1人当たり2~3分。2分30秒として1時間に24人しか対応できない。5班ならば120人である。奥能登方向への住民避難は最大2万9千人。約240時間が必要となる。金沢方向へ向かう看護大では最大12万人を超える。10班で対応しても500時間となる。バスだけでなく自家用車での避難の方が多数を占めると思われるので、仮に段階的避難なる手法が成立しても大変な渋滞は避けられない。万が一の事態では、より早く、より遠くが原発事故からの避難の原則であり、人間の心理でもある。スクリーニングポイントがどの程度機能するのか甚だ疑問と言わざるをえない。
イ.簡易除染、全身除染施設も不足は明らか
過酷事故を想定したとき、PAZでは仮に確定的影響を回避できたとしても確率的影響のリスクをどこまで軽減できるかわからない。UPZでも同様である。少なからぬ被ばくは避けられず、除染が必要な住民は今回の訓練の比ではない。対応できないことは明らかである。
ウ.車両の除染は破たん
今回初めて車両の除染訓練が看護大で導入された。訓練としては一歩前進であるが難題が鮮明になった。UPZ圏内からの避難車両は住民の被ばく以上に汚染が避けられず、放射能の広域拡散を防ぐには相当数の除染設備が不可欠である。一方で車両のスクリーニングと除染を徹底するならば大規模な渋滞発生も不可避である。加えて汚染水の保管が難題である。1台当たり100ℓが標準として最大数千トン単位の汚染水が出る可能性がある。汚染水タンクを速やかに準備し、貯水できるようにしなければ車両除染の意味がない。
エ.スペースの確保が困難
奥能登総合事務所では建屋内に多く避難者を受け入れてスクリーニング等を行うスペースが確保できない。今回の訓練では駐車場にテントを張り対応したが、仮に天候が荒れていたら訓練すらできなかった。
②避難所も課題あり
ア.3分の2の住民がスクリーニングなし
各避難所ともスクリーニングポイントで一度受付を通っているので、こちらは一括して対応。スクリーニング班は各1班が待機している。金沢方面の避難所はスクリーニングをおこなったが、奥能登地区ではスクリーニングはおこなわなかった。奥能登方面への避難者の3分の2がスクリーニングを受けなかったことになる。講習を受けたスクリーニング担当者の貴重な訓練の機会でもあり、なぜ実施しなかったのか理解できない。
イ.閉会式を利用した情報通信訓練は失敗
能都中の閉会式のライブ映像を各避難所に設置されたスクリーンに映し出したが、
どの会場も音声、映像共に乱れて役に立たない。
③スクリーニングポイントの是非、あり方について大きな議論を
志賀原発の南北各1か所のスクリーニングポイントでは、住民や車両のスクリーニングや除染に対応できないこと先にみた通りである。スクリーニングポイントを複数個所設置するか、避難所での受入態勢を強化するかの選択が迫られる。今回設置された各避難所では住民に対するスクリーニングと除染の態勢は整えたが、計画される全避難所での対応は可能か、また車両に対する除染は対応可能かどうか。人材の確保、機材の調達含め、受け入れ自治体は計画を明示すべきである。また車両の除染を避難先施設でおこなう場合、汚染の拡大への懸念もある。特に学校施設を避難施設とする場合は慎重な判断が求められる。
(5)その他
今回の訓練は珠洲から白山市、さらに富山県と広域にわたり、訓練項目も多岐にわたる。しかも詳細な訓練内容が直前まで公表されないため、すべての訓練地点に調査班を配置することはできなかった。しかし各調査班からの報告や実施要領を検討する中から見えてくる問題点はこれ以外にも数多くある。以下の2点について指摘したい。
①陸海空の各自衛隊の参加の拡大
以前の訓練では炊き出し班や特殊車両の展示、災害対策本部への参加にとどまったが、回を重ねるごとに活動の場面は拡大し、今回は下記の通り、訓練全般において、主要な役割を担っている。
ア. 陸上自衛隊ヘリOH-6による航空機モニタリング
イ. 海上自衛隊「ひうち」による奥能登から海上ルートでの避難
ウ. 陸上自衛隊による5キロ圏の警備
エ. 陸海空各自衛隊(ヘリ、艦船、トラック)による食糧等調達
オ. 陸上自衛隊(守山駐屯地)による避難車両の除染
カ. 陸上自衛隊ヘリUH-1による衛星通信装置の搬送
キ. 航空自衛隊哨戒機による30キロ圏上空の情報収集
国内には過酷事故下で活動できる組織が存在しないため、自衛隊を頼みの綱とする傾向が見受けられる。しかし、そもそも自衛隊の原子力災害に対する装備や訓練は決して万全ではないことは福島第一原発事故で明らかになっている。安易な自衛隊依存と過信は過酷事故対策に大きな穴をつくりかねない。隊員の被ばく対策にも十分な配慮が必要である。
また、今回の訓練では武器の携行は確認されていないが、原発のテロ対策を口実に、防災訓練を通じて市民社会の中に武器を持ち込む動きには大いに警戒が必要である。
なお、オフサイトセンターの中核となる合同対策協議会の議長を務める原子力規制庁の幹部も防衛庁からの出向である。
②海路、空路を使った避難や物資の輸送の拡大
緊急時に様々なオプションを確保しておくことは重要なことだが、海路、空路の活用は天候や時間帯に大きく左右されるものであり、あくまでプラスαという認識が必要である。特に搬送可能な避難者数は陸上輸送と比較してごく一部でしかない。基本はあくまで陸上であり、一見派手な海路、空路を活用した活動に過度な期待が生じることのないよう注意が必要である。
3.住民アンケートの結果および住民意識から見えてくるもの
広報・避難訓練調査班が、それぞれ避難対象地区の調査と並行して、住民の方々に原子力防災や志賀原発についてアンケートをおこなった。集計結果は別紙の通りであり、今回の調査結果の特徴は以下の通りである。
(1)「参加しない」という人と「参加したいが都合で参加できない」という人を比較し、分析していきたい。3.11前から基本的には「参加しない」と明確に防災訓練を拒否する人よりも「都合で参加できない」という人が上回っており、その傾向は今回も変わらない。
地区別でみると、宝達志水町の樋川地区や羽咋市柳田地区、七尾市の熊木地区で「参加しない」とする人が上回っている。樋川地区は志賀原発からちょうど30キロ圏となり、距離的な面から参加意欲が低いと考えられる。羽咋市は昨年の調査でも自治体別では唯一が「参加しない」が「都合により参加できない」を上回っている。問2とも関連するが、現在の防災計画に対する不信が強いと思われる。
「都合により参加できない」と回答した方の「都合」については確認できていないが、曜日や時間帯など訓練日時の設定の問題だけなのかどうか。たとえば足腰が弱って集合場所まで行きにくいなど、万が一の事態で災害弱者となる可能性がある人も一定数いるのではないか。
行政はより多くの人が訓練に参加できるよう工夫すると同時に、参加できない人の事情を把握していくことも大切ではないか。
(2)今回の調査で新しい傾向が表れている。訓練自体を否定的に捉えたり、内容に注文をつける人が減り、今後も続けてほしいと訓練を評価する人が初めて過半数を超えた。
「重大事故が起これば何をしても無駄」とする人は3.11前と比較し、昨年も減少したが、今年はさらに減少した。福島の事故を見て、原子力防災の重要性が確認されてきていると思われる。
避難先を30キロ圏外に拡大した昨年、訓練を評価し、今後も続けてほしいという人が初めて3割を超え、今年はさらに増加したことになる。裏を返せば、原発の是非や再稼働の是非はともかくとして、重大事故は起こりうる、それに対し防災訓練はしっかりやってほしいという認識が高まったと言える。
「訓練内容を検討してほしい」という意見も減少しているが、この点に大いに注目していかなければならない。訓練内容は「過酷事故が起こったが、30キロ圏外にすぐに避難し、一部除染を受けた人はいるが、みな無事だった」という展開である。さらに付け加えれば、お昼には参加者全員が自宅に帰れる日程である。この通りに本当にいくならば、まさに内容の再検討は不要であろう。計画自体を問い、あるいは訓練の実効性を厳しく問う動きがない限り、内容の検討を求める声は減少し、新たな安全神話へとつながりかねない。
志賀原発の北隣に位置する福浦地区だけは例外的な結果が表れている。重大事故が起これば何をしても無駄との回答が約7割を占めている。福浦地区は毎回、訓練参加者は少なく、今年もわずか12人にとどまる。しかも元気な高齢者が中心である。福浦地区は急こう配の坂道があり、集合場所まで行き、さらに帰りのことも考えると参加を躊躇する高齢者が多いことは容易に想像がつく。長年、訓練から切り捨てられてきたその住民たちはいざとなっても切り捨てらえると直感的に感じているのではないか。
(3)志賀原発の必要性を問う質問に対し「いらない」とする人が41%と最も多い。一方、必要性を積極的に認める人は13%とごく少数派で、3.11前とこの傾向は大きくは変わらない。質問項目は以前と若干異なってきているので単純比較はできないが、安全対策、防災対策の確立が再稼働の条件とする人が33%となっており、いわばこの中間派的な位置にいる人たちが安全対策、防災対策に納得し再稼働に賛成すれば、「志賀原発は必要」とする人と合わせ、「志賀原発はいらない」という人を超えることになる。逆に安全対策、防災対策に納得がいかなければ圧倒的多数が再稼働反対となる。安全対策、防災対策の議論が再稼働問題を左右していく構図が示されている。
問3のもう一つの特徴は地区ごとの結果に大きなばらつきがあるということである。多くの住民が避難できないとあきらめている福浦地区は、実に91%という圧倒的多数の住民が「志賀原発はいらない」との姿勢を鮮明にしている。七尾市の熊木地区(旧中島町)や羽咋市の千路地区も過半数を超える住民が志賀原発を拒否している。一方、志賀町の高浜地区は49%の住民が志賀原発は必要と回答している。住民間の意見の違いが鮮明になりつつあるのではないか。
4.今後に向けて
(1)改訂防災計画を検証できる訓練を実施すべき私たちは今回の訓練に先立ち、10月22日、県に対し改訂された計画を検証できる訓練内容とするように求めた。しかし調査行動から見えてきたのは、検証に値する訓練というには程遠い内容であった。
まず、今回の新たな指針の策定、そして防災計画の改定で、過酷事故が想定され、PAZ(5キロ圏)にはEALという意思決定基準が導入され、UPZ(30キロ圏)では500μSv/hというOIL1の避難基準が導入された。PAZでは確定的影響を回避する迅速な避難が可能か、またUPZでは確率的影響によるリスクを軽減することができるのかについて、何より検証しなければならない。そのためには実時間に基づく、より実態に近い状態での避難訓練を通じて検証していかなければならない。
関連してヨウ素剤の配布・服用に関する計画も改定され、PAZは事前配布し服用の指示ですぐに対応できるようにし、UPZは高線量下ではあるが、住民に滞りなく配布し、服用できるようにしなければならない。一時滞在者や丸剤を服用できない幼児もおり、ヨウ素剤を必要とする人に迅速・確実に届けられるのか、検証が求められる。
今回の計画改定で、緊急モニタリングと避難指示がリンクしたものになり、両者を統制するのは国となった。国の実践力が県民の安全に直結することになり、国の実践力を問う訓練でなければ、県は計画の実効性を確認することはできない。ところが今回の訓練では緊急モニタリングと避難指示は別個の動きとなり、避難指示は予定されていた地区に順次出されていく。緊急時モニタリング訓練に導入されたブラインド訓練は、参観者にもブラインドで、国の実践力を確認する訓練とはならなかった。
以上のように、改定された計画の根幹部分を検証する訓練はほとんど実施されなかった。なんのための訓練であったのか、評価に値しない訓練だったと言わざるをえない。
(2)手順確認の訓練から卒業し、実時間訓練の実施を 1992年の第一回の原子力防災訓練以来、訓練の目的として防災業務関係者の防災技術の向上が掲げられてきた。技術の習熟は大切だが、それだけで住民の生命、健康を守るという原子力防災計画の目的が達成されるわけではない。
原子力防災が機能するかどうかの最も重要な指標は、防災関係機関や住民が事故の進展に後れを取らず迅速かつ的確な行動を取れるかどうかにある。災害対策本部やオフサイトセンターの参集訓練はおこなわれず、あらかじめ用意された車両で避難がおこなわれている。準備を整えたところに事故が発生する訓練をどれだけ繰り返しても非常時に対応はできない。
過酷事故の可能性を否定しえなくなった今、PAZの住民が一斉に避難するとき、どのような問題が発生するのか。たとえば観光シーズンのピークに何台のバスが手配でき、自家用車は渋滞の中、何時間で避難できるのか。たとえば冬季の夜間、大雪という条件下では何時間で避難でき、どのような配慮が必要となるのか。スクリーニングや車両の除染を見ても、現在想定する態勢では対応できないことは今回の訓練でも明らかになった。
できる限り実時間訓練の実施で計画を検証していくべきだし、それ以外の諸条件も加味したシミュレーションも実施し、結果を公表すべきである。
(3)新たな安全神話づくりにつながる防災訓練は認めない防災訓練のもう一つの目的として住民等の防災意識の高揚があげられている。どのような原発事故を想定するのか、その中で住民はどのような準備をし、どのような行動をとるべきなのか。訓練を通じて心構えができ、また先の展開が予測されることでパニックを防止し、冷静な行動も可能となる。防災意識の向上が大切なことは言うまでもない。
しかし、過酷事故は起こらない、放射能が外部に大量に放出されることはあり得ないという形ばかりの防災訓練が全国の原発現地で繰り返され、誤った防災意識が住民や防災関係者の間に浸透していった。そして福島第一原発事故では原子力防災が全く機能しない中、多くの住民は避けられたはずの被ばく、減らせたはずの被ばくを強いられていった。まさに防災訓練が逆効果になったという教訓がそこにある。
改訂された防災計画は過酷事故の可能性を否定せず、不十分ながらも過酷事故を想定した内容が盛り込まれている。ところが今回の訓練では過酷事故を想定しながらも、過酷事故に見合ったシビアな想定が訓練のどこにも盛り込まれていない。このような訓練を繰り返していては「過酷事故が起こっても大丈夫」という錯覚を生み、新たな安全神話づくりにつながりかねない。これが志賀原発の再稼働を視野に入れた動きならばなおさら許すことはできない。過酷事故に真剣に向き合った訓練こそ実施すべきである。
(赤字は北野変換、写真は北野追加)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます