ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

とげ抜き新巣鴨地蔵縁起・ 伊藤比呂美

2010-03-27 15:20:57 | Poem
 初出は「群像」の2006年2月~2007年4月となっています。おそらくこの時期にリアルタイムで書かれたものではないか?と思います。カリフォルニア在住の伊藤比呂美が、熊本の老母の看護のために帰国と帰宅を繰り返す過程で、母上の容態はどんどん悪化して、カリフォルニアの夫の心臓バイパス手術にすら立ち会えない状況を迎えることになる。その時病室にいる夫へ電話をかけ、1つの約束をする。ここを読んでいて涙が止まらなかった。


将来、あなたがたとえ百や二百まで生きようとも、とわたしはいいました。
将来、おれが百や二百まで生きようとも、と夫がくりかえしました。
あなたとわたしが連れ添うかぎり。
おまえとおれとが連れ添うかぎり。
どんな口論や喧嘩を為したとしても。
どんな口論や喧嘩を為したとしても。
そしてそれは屹度するが。
そしてそれは多分するが。
ぜったいに。
ぜったいに。
今回の手術のときわたしがそばにいなかったことを、あなたは非難しないこと。
今回の手術のときおまえがおれのそばにいなかったことを、ぜったいに、おれは非難しない。


 この約束を即刻考えた伊藤比呂美の予測には脱帽する。わたくしは予測できなかったからです。郷里の老父母の家と自宅との往復生活は、次第に老父母との時間が優先される時期に入る。すべてを終えて(つまり父母の死。)、自宅生活のみとなった時期になってから「理解されている。」と信じていた者たちの非難を受けました。

 伊藤比呂美の娘の「あい子」は熊本の小学校に、9月から編入学させることにもなる。これはまだ初期のお話ですが、とりあえずここだけをメモしておきたい。

 (2007年・講談社刊)

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